【SIDE YOU】
問い詰めて嗜めようと思っていたのに何でこうなる?
* * * *
あっちゃんの忠告どおり不二のことは無視しようと思ったが、釘はしっかりとさす予定だった。
にもかかわらず、ついつい避けて通ってしまうのは、からかわれてた事実を認めたくなかったのか――あるいは、単純に卑怯な不二にいらだってたのか分からない。
ただ、何となく、放課後まで真っ当に会話をすることはなかった。
珍しく挨拶も抜きだ。
――で……?
何故こうなる?
時間……放課後
場所……教室
またも、偶然とは言いがたい「二人きり」
さっきまで田中君がいたのに、目の前の男がさり気なく追っ払ってくれた。主将が呼んでるとかいいやがった……嘘に決まってる(……田中君はちなみに柔道部)
「」
「……」
何がしたいんだろう?
この様子だと、こちらが裕太君のことに気付いたと分かったに違いないのに。
不二は、少しだけ、怒ったように(見えるだけで、実際笑ってる。……むしろ、笑顔が迫力だったりする)こちらを見据えた。
「僕を避けてる理由……いえない?」
――何ていえと?『裕太君をふってごめんなさい?』
それはちがうか……。
罪悪感も減ったくれも、弟君とのことは爽やかな感じでお互いけりがついてる。
だからこそ、こういう言い方されると、正直なところ困る。
「さあ。心当たりでもあるの?それとも……?」
――言いたいことがあったならはっきり言えばいいのに……
そもそも、避けてる理由なんて一つしかない。
穏便とはいえふった相手の兄貴がやたら話しかけてくるなんて……怖いと思って当然だ。
――嫌がらせ、か……。
当の本人はにこやかなまま(これがまた白々しい)こちらを見ている。
悪意にならない、好奇の強い視線からは、細い瞳がきらりと覗く。
やがて、言い訳のかわりに彼はまた嘯いた。
「好きだから」
――嘘なのはわかってる……
「――ていったらどうする?」
「……やっぱり」
妙な安心感に、呆れた調子で返すと
「どうかな」
食えない笑みが戻った。完全な作りものとも思わないが、何かを遠ざける表情――自分も(主に面倒臭くなったときに)よくやるあれだ。
「からかうのには向かない人もいるよ?」
例えば私。あるいは不二自身もそうだろう。
「うん」
――わかってるじゃんか。
「でも本気かもしれない。――もわりと性格悪いよね」
知らなかった?、と不二は笑う。
――何が知らなかった、だ。
本当に質がわるいのはそちらの方だろう。触るのは許さない、が遠すぎもしない、この微妙な距離が嫌に心地悪かった。
「目立つことしないなら気にしないんでしょ?」
一歩ずつ距離を詰める間、何を考えてるのかは分からない。
ただ、何かをしたいわけではないということは分かる。
――からかっている。
それだけのこと。
思わず避けてしまった私は、何を警戒してるんだろう。
――興味がないんだから、安心なのにねぇ。
それでもふっと不安になるのは、やたらと接触の多い不二と、そのとき不二が嫌悪感を覚えてない事実のせいだ。
――潔癖症だと思ったのに。
あっちゃんどころでなく、不二はさり気なく女を下に見てると思う。
それは自分がもてるという意識のせいなのか。無意識かわからないし、実際、本当に下にみてるかだって怪しいけど。
――でも、少なくとも私は馬鹿にされてるよなぁ。
苛立たしいことこのうえないのはその一点だった。
その癖、躊躇いもなく触れられるのが腹立たしい。
こちらの気持ちなんて無視もいいところだ。
――裕太君のことがあったから?
そんなに傲慢な女だと取られたのだろうか。
分からない。
ただ不二は、私を厭うてる。
その事実だけが凍みた。
――結構きてるのかも……
それだけ、「ただからかわれてた」のは悪くなかったってことか。
「好きだったのかも……」
「は?」
本人が去っていないことを確認し忘れ、思わず呟いてしまった言葉を……
「って言ったらどうする?」
何とか、からかい返す形にして――何事もなかったように鞄を手にした。
『 もうこれ以上関わらない方がいい。 』
あっちゃんの言うことはやっぱり正しくて……
――でももう遅いかも……。
意地が悪かろうが性格が最悪だろうが、どうしよもない不二のどうしようもなさに惹かれてしまったかもしれないなんて……認められなくとも……
否定の言葉がなかったのだ。
がっかり、の度合いがあまりに深すぎる自分の心に対して。
|