劇場サディズム   ラストエピソード
【SIDE 】 

「――好きなんだ、のことが」

 急展開に着いていきかねたけど、この言葉は疑わなくていいかなと思った。
 不二ならこんなわかりやすいからかい方をしない。
 走って来たことが一目で分かる乱れ気味な髪。表情だっていつもみたいに済ましてなんかなくて……

 ――だから、多分今のは本当……

 不二に巻き込まれる免疫はついてるんだ。それだけ質の悪いジョークに付き合わされてきたし、目が真剣だからって理由だけでOK出せるほどお人好しではなくなった自分がいる。
 それでもこんな不二が見られるのなら、騙されたっていい。

 ――最初から性格がひねてそうなあたりに惹かれたんだから……当然かな。

 それでいて、そのまま「好きだよ」なんてハッピーエンドはほしくないのだ。
 あっさり認めればきっとまた同じようにからかわれる――そんな未来を感じてしまうから。
 らしくないと思っても、素直には喜べない。
 不二にちゃんと返事するどころか、『今までの分含めて多少引っ張るくらい許してもらわなきゃ』なんて思ってしまったりもする。

 ――でも……。
 今の不二は、反則だ。
 斜めにうわ滑るような会話ばかりしてきたせいか。初めて向き直った彼は予想より男の子だった。
 掴まれた手も今までと違って――手加減がない。

 ――……て、……顔熱い……

 まともに目がかちあって、ゆっくり苦笑がもらされた。
 緊張にたえかねたような仕草と、少し余裕を取り戻したかの表情にこちらの方が俯かされてしまう。
 だって好きなのだ。

、顔赤いよ」

「そっちこそ……――さらっというわりに…必死……。本気にみえちゃうよ」

 誤解なら期待させないで。
 本当なら罪悪感を抱かないで。
 どちらも心底からの気持ちだから、ごまかしたくなくて……少しぶっきらぼうになってしまう。
 なのに――

「いいよ」

 不二はてらいなく言い切ってくれた。
 もどかしそうに指先はぎゅっときつく握るのに、

「余裕ないのも、飽きっぽいからよくのこと諦めてないなあとか思ってるのもどっちも本当だし――こんな滅茶苦茶言ってても嫌われたくなかったり……青春臭くて恥ずかしいのにずっとこうしたかったり……」

 「自分でも何言ってんだか」と鼻をすすって(多分走って来たせいだ)また困ったように笑う。
 「好きなのは本当」だなんて、まるで悪戯がばれた子供みたいだ。

 ――悔しいなぁ。

 私なんかより断然可愛い。
 演技だと分かっていたとしても騙されるのだから、嘘でないならなおのこと――
 ――もう分かったって……

「……」

 それでも、応えられないから黙りこむ。
 ここで応じても、多分『飽きっぽい不二』を怖がるだけになってしまう。
 しばしの沈黙の後、不二は、一言唐突に、

「いつまでこうしててもいいんだけど――」

 そういって、くいっと向こうをさした。
 その先には、コート端でいつの間にか出刃亀と化しているルドの面子。

「あ……」

  だーねと目があって速攻で逸らされる。
 横で観月君に頭を抱えられ、裕太君にいたっては背中をむけてる。

 ――あっちゃんは……?

 この状況下でも恥ずかしさより、つい知り合いを探してしまうのはどうなんだろう?
 自分でも思ったけれど、もしかしたら反対に結構、錯乱してたのかもしれない。
 だからこそ馴染みの顔をみることで、自分を落ち着けようとしてた気もする。
 でも――

「ギャラリーは気にしないでいいよ。あそこからじゃそんなに見えない」

 あっちゃんを見つけるより先に、視界を大きな手が遮ってくれる。
 不機嫌手前の声と、胡散臭い笑顔がふってきた。
 
「えと……」

「答えるまでせめてこちらに集中してよ」

 微妙に圧力を感じるような表情に、たじろぐ。
 ――やっぱり答えがほしいんだ……。
 不二もそういう気持ちあるんだ、などと思ってる自分を知ったら彼はどうおもうだろう。
 それ以上に……わからないのかな?と小首をかしげた。

 ――私は分かりやすいんだよ。

 すきって決め付けて、側にいるくらいさせてもいい人なのに。
 それほど、信じてもらえない状況を作ったこと、悔いているのだろうか。あるいは心配してるのだろうか。
 ――そんな心配なんてなくたって、分かりきってるのに。
 けれども、返事はしたくないのだからヤヤコシイ。

 ――だって言葉にしたら嘘になりそう。

 それでも、「見ないで欲しいのはヤキモチだね」などと肯定されたら……。

「幼馴染み以上にならないって知ってるのに余裕がない」

 そんな風に弁明されたら……。

 ――どうしよう……。

 余裕を取り戻した方不二は「らしい」
 多分憎らしくて、魅力的で、気にかかるのはこっちの方の不二だ。
 こんな矛盾だらけだから私は、そんなふうに天邪鬼な不二の方が安心する。

 今更ながら、好きだなぁと実感してしまう。
 急かすでもなく忍耐強く待つのなら、これだけは教えてあげようか。

「信じられないし信じてなんかあげない」

 相手は答えない。
 驚く素振りもなくて……多分覚悟してたんだと思う。

「でもね」

 不二だって本当はとっくに知ってるはずなんだ。
 ――私はわかりやすいんだから。

 なおも聞きたい『答え合わせの答え』なら、教えてあげてもいい。
 口を開く。
 待ち望む彼に、「どうしようもないところがなんかいいんだよね」と先手を打って……それから――

 「好きだよ、たぶん……」

『嘘つきな君がいつ「やっぱり嘘」と言い出したとしても』
 憎まれ口を添えながら伝えた。
 囁くような、その距離で。
 直ぐに照れくさくなって、掴まれた腕をはずすことすら忘れ、歩き出してしまったけど――不二は、追いかけてくる。
 振り返れば、照れてるのかビックリしているのか……どっちか分からない硬直した表情を隠すかに、ぶっきらぼうに顔を背けたけれど。

  The END



 END……But……

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