裕太は軽く肩をすくめて帰ってしまった。
 残ったのは二人だけだ。
 は「私はものじゃないよ」と嗜めるように言う。

「からかわな――」

 例の言葉を発しようとしたので、僕は開きかけた唇に手を当てて、

「言わないで」

 そのまま聞いてと、苦笑した。
 僕が緊張で、手がふるえるなんて、滅多なことじゃ見られない。
 何が何やらさっぱり分からなそうなは、ある意味で凄い。

 ――何で気づかないんだろう?

 悔しい気もする。
 こんなに、のことでいっぱいいっぱいでむかついてしょうがないんだけど、目の前の彼女は平然と「からかうな」と済ませてくれる。
 そうさせてしまった原因がこちらにあるから強くはいえないし、だからこそ、今から滑稽な告白劇を始めるのだが、少しだけ腹いせに……とばかりに、とっさにとった彼女の手首から指を離さない。
 そのままに、させて――前を向く。
 たぶん、ちょっと離れたところに、ルドルフの連中がいたり……たぶん、敷地ぎりぎりのコートの端で、目立たないところとはいえ他校の制服が二人というのは異様だったり……色々問題はあるのだろうが、もう気に留める余裕はなかった。
 涙目どころか、完全ににらまれはじめていたとしても気にしない。

 少しだけ場所をかえ、最初からずっと約束してきていたように指先を緩く包む。せめて何か伝わればいいと思った。

 *        *      *      *
「心配するふりと気紛れな好奇心で近付いた癖に、との会話は楽しくて、ゲームみたいにのめりこんでて……」

 たまに見せる衒いに深みにはまってたのに、気付かずにいた。


「敢えて試して――ひっかからないことに安心するばかりで、のことを考えなかった」

 嫌われて無い自身だけが妙に芽生えていたから……はっきりいって増長してたと思う。

 ――傷つけた自分の方が傷く身勝手から、目を逸らしてたんだ。

「気付いたときには裕太のこともばれてたし、どうせ嫌われるなら優しくしたいと思って木更津の真似ごとをすれば無自覚に可愛いうえ警戒されるしね」

 だから普通がわからなくなった。
 大切にしたくても出来そうにない。少なくとも木更津みたいにとは誓えない。

「普通にしたくても意識しちゃうし、最初に戻ろうにも最初が酷いから、どうにも出来なくて」

 ――だからもう全部まとめて言うしかないんだ。

  「好きなんだ、のことが」

 裕太にも、木更津にも渡せない。
 渡さないですむとしってる。
 
 《だから、頷いてよ。》
 ……と、傲慢に言い切る強さはないくせに、結論(ハッピーエンド)は読めたつもりでいる。
 それでいて、読めない残りの数パーセントを求めるのが趣味なのだ。
 天才は性質が悪いと、手塚や英二なら言うだろう。

 勝てるから執着せず……勝てないかもしれないから燃える。
 人の気持ちは分からない。
 勝敗を読ませない彼女だから惹かれたが、平気だ――飽きるとは思えない。
 距離を詰めるでもなく……あとは静かに、答えが出る最後の最後まで、目を見て逸らさないでいるほかなかった。
 の唇が、動く。
 くしゃりと……の顔がゆがんで、急激に真っ赤になっていく。




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