劇場サディズム   蛇足でなく……?
【SIDE 不二周助】

 好きだよ、多分……。
 悔しそうに俯いたまま言う

「なら――」

 付き合ってと口を開こうとして……すぐに遮られる。

「それは駄目。……信じられないから」

 まさか先手を打たれるとは思わなかった。
 改めて付き合って欲しいとも言えず苦笑してそのまま分かれた。

 *        *  心のままに  *      *

「口にする前に止められるのってどうなの?」

「どうかしたの」

「ううん何でもない。気にしないで、姉さん」

 裕太に聞かれたら「兄貴、うぜぇと」かいわれそうだ。
 それくらい自業自得な僕は……凹んでいた。
 好きと言われただけでかなり幸運なのに。頭が分かっていても心はついていかない。
 理不尽だと呟いたら、姉さんがまた振り向いたから、携帯をかけるふりで誤魔化した。(追求されても困る)
 とはいえ、この状態を報告したらきっと……
 
 ――佐伯辺りには……からかわれるな。

 愚痴るつもりもないのに思わず浮かぶものだから、ため息ばかり落ちる。
 英二にも……心配はかけたと分かるが、教えられるかというと別。
 しばらくは黙っていよう。
 彼女の気が変わるまでゆっくり……待てばいい。というか待つしかないんだから。

 ところが、周囲は放っておいてくれるほど優しくなかった。
 それは翌日の帰りにはもう実証される。

「一緒に帰らないの?」

 にまにまと朝からやたらテンションの高い英二は、早速爆弾を投げてくれる。

「約束してないし」

 冷静に答えられたとしたら、多分それは昨日のショックを引きずってるせいだ。
 恥ずかしくても実際の自分は、彼女と連れ立って帰ってみたり――べたべたして、周りに嫌がられたり……そういうことが嫌いではないらしい。(むしろ、周囲の反応の方が楽しそうだから、なんだけど。手塚とか……ね)
 とはいえ、相手は彼女でなきゃする気もないわけで……そんな彼女からは、お付き合いの承諾すらもらえていない。

「コートにいなかったの確認済みだよ。探しても無駄」

「嘘?不二、いいの?をルドにやっちゃって」

「やっちゃってって……別にたかが見学で……」

「なーに平気な顔しちゃってんのさ。不二〜……昨日はあんなに焦って走っていったくせ――」

「――英二」

 からかわれて嫌というより、焦りは同じなのに指摘されて苛苛してる感じだ。参ったことに、自分は思っていた以上に短気のようだ。
 だが、それも本の一瞬。
 英二はそのまま、ごめんごめんと後ろを指し、その先に――

「あ……」

 噂の人が立っていた。
 正直なところ、自分は、彼女がルドルフに行ったと気落ちしていたのかもしれない。

 ――待っててくれた…とか?

 嬉しい気持ちをどうしてだか隠さなくてはいけない気がして、

「どうかしたの?」

 気のない素振りで告げると、むっとするかと思われたの顔は戸惑うように歪み……俯いてしまう。

「つきあわないんじゃ……」

 なかった?
 聞きかけて、視線ごと顔を逸らした彼女の、耳が赤い事に気付く。
 ――これは……意外と……
 意地っ張りなのか。
 こみ上げてくる笑いに、ぽつりと本音が漏れる。

「振られたかと思った」

 素直な感想を言い終わるより先に、自分の手は勝手に彼女の腕を掴んでいた。

「え?ちょっと……」

 慌てたのは英二の方。
 ためしに、もう少し力をこめてひっぱっても、彼女の方からの抵抗はない。

「からかってないから」

「……本当?」

「信じない?」

 くすくす声が零れた(誰かさんみたいに)
 掴んだ腕はガチガチ……。
 緊張が伝染してしまいそうだ。
 
 ――それより、からかいたくなる……かな?

 どうも自分の意地悪は先天的らしい。
 素直に好かれるとつまらない。 
 けれど彼女はこれまでの不二周助という人間の行動のせいで、多分疑いを持つ。
 持ち続けるから、100%にはならない。
 信頼されないのもどうかと思うが、これはこれで……情けないかな心地がよかった。

 ――緊張感の分、そばにいてあげたくなるのなら……
 それはそれでいいだろう。
 嫌がらせ半分に

「付合わなくても……」

 好きなんだ?と聞いてみる。
 いつの間にか消えたギャラリーを確認する間もなく……キスをした。

「ちゃんとこういう意味で」

「……ぐ……」

 否定はされないが肯定もないから……

「もう一度」

 半ばからかうつもりだったがぬくもりの生々しさに驚くどころかひきよせられて、啄ばむようにしていた。
 すると
 ――なんで……。
 細い肩を引き寄せた自分の腕は、彼女からの伝染ではなく緊張に軽く震えてたことに気付く。
 
「……付き合ってよ」

 声が意図せず真面目になる。
 反対に声が出ないで、ただただ縦に頷く

「嘘はついてもこういうコトは……冗談半分にしたりしない。――誓えるよ」

 他(彼女の取り巻き)が怖いし。
 こそりと呟いて、制服ごしの落ち着く体温に身を委ねれば、今度こそ、答えが(小さい声でだけど)返ってきた。

 ――もっとも……介入されなきゃいいけど、まずいレベルの敵が多い。

 彼女は気付いていないのだと思う。



「帰ろうか」

 手を差し出すのは、ちょっと「作られた自分」っぽいので止めて、そっと掴んでた腕をひいた。
 歩き出しながら、出来るだけ自然に気になっていたことを尋ねる。

「参考までに聞きたいんだけど。は、ルドとうち……どっちを応援するの?」

「選ばないと駄目?」に続いた、「不二のことは応援するけど、個人戦とかで直接対決にならないんだったら、あっちゃんのことも応援する」という簡潔な答えに、頭が痛くなるけれど……

「……双子とは付き合いが長くなりそうだな」

 嘘のない回答も、多少がっかりした自分も、自分が予想以上にに溺れてる証拠なら、悪くはない……たぶん。
 試合の勝敗はもちろん、こうなってしまえば絶対あの双子には渡せないし、彼ら(というかその片割れ)の矛先もむしろ裕太にいくんだろうな、と漠然と考えた。
 ついでに、「今度、裕太のこともちゃんと紹介するよ」といえば、「今更というか、それ悪趣味じゃ……」との可愛い文句が聞こえた気もするが……

 ――将来の弟になるかもしれないしね。

 怒りそうだからいわない、ありえなくはないプラン(そこまで具体的に企んでるわけじゃないし、にあきないともわからないが)に、すくなくともそれも視野に入る「数年後」までは一緒にいるつもりらしい自分が覗いた。
 何となく、でずっと側にいるのも悪くないだろう。
 もうあんな風な嘘は付かないで済むのだから。


 END



 予告もなしに堕ちるのが恋なら、理由もなく堕したいあの苛立ちは、天邪鬼なその前哨戦。

あとがき



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