【佐伯SIDE】
聞きたくないことを聞かされるのは大抵夜中の携帯から。
滅多にないが、パターンだけは同じだったから、俺は身構えた。
* * * *
「すごい弟想いってわけでもないんだけどね」
ただなんか気に食わないんだよなぁと幼馴染みは呟く。
対象は、話をきくに、裕太をふった子らしい。
思わせぶりにした挙句、理由は「観月みたいな方が好きだから」だとか。
――裕太も災難だな。
兄貴がこれで先輩があれときている。
両者共性格はあれだが外づら魔王だ。
故にもてる。とにかくもてる。付き合う相手としてでなく憧れの対象としてだが、それがまた悪い。
裕太の好きなのはなんのかんの大人しいそういうタイプの子だったからだ。
横からかっさわれることはなくとも、ごめんなさいの理由の大半を締めることは必須だったのだ。
――ま、そう考えれば今回は珍しいか。
取り繕わずに女の子自身がこのみを暴露してる辺り、なかなかはっきりした子らしい。
……だからこそ、兄貴の方はひっかかっているのだろうが。
「なんでだろう」
不二(兄)は本当に不可思議そうに首をかしげて「佐伯はどう思う?」なんて言ってくる。
尋ねながらもそんな自分に心底納得できない様子だ。
――単純に、観月(気に食わない野郎)が絡んでるからだけじゃないのか?
きけば、それはそれであっさり認められてしまいそうな怖さがあって、口を噤んだ。
不二が例え嫌悪であれど感情を積極的に伺わせるのは珍しい。
弟裕太を傷つけられて(あれほど自分が適当に扱っていた癖に)切れたことがあるのは事実だが、こいつは周りに思われるほど家族想いでも情に厚い方でもない。
見た目の印象で標準以上に取られている感があるが、ややこしいのは大嫌いだし、基本的に気分屋だ。本気になれないと言えば聞こえがよいがようするにすぐに「どうでもよく」なってしまう。
――あきっぽいんだよ。
例外はテニスくらいだ。
そんなやつがたかが裕太のふられた相手を気にするか?会ったこともないような?
よりによって「良くない意味で」ときた。
――答えはノーだよ。
「確かに裕太にしては珍しいけど、不二には関係ないだろ」
釘をさしておく。
何がなんだかわからない。
ただ関わらせては裕太に取って歓迎せざる事態を招くだろう(俺の方がよっぽど弟分想いだ)
「恋愛沙汰は他人が口をつっこむことじゃない」
続けてやれば[兄貴]は肩を竦めた。
「まあね」
わかってはいてもなお釈然としない、といったところだろう。
どうにも関心はうせていないようだ。
厄介だ――素直にそう思う。
こうなるとなんのかんの探求し始めるのが不二だ。
おまけに相手は推測するに、裕太よりは兄貴の方に興味が行くだろうタイプだ。
観月みたいな「中性的な外見」でいえば、周助の方が歩がある(何となく納得できるのが嫌だが分からなくもない。裕太が愚痴ってた具合からしても間違えない)
「これ以上裕太に恨まれたくないなら関わるなよ」
「感謝はされなくとも恨まれもしないよ。だって僕は彼女に対してなんの感慨も持ってない」
――分かるさ。
激情にかられるにはお前は冷めてるんだよ。
聞こえないよう心の中で返した。
そして、
「それでも、だ。相手に好かれたら面倒なんだろ」
彼の好む言い方で、やんわりと遠ざける。
「第一敢えて知り合いになるなんて、らしくもない」
が……。
そんな努力などはなから意味を持たず――
「あ、それ」
不二は「待った」をかけて、
「なんだ?」
訝しげに言うこちらに、とんでもない事実をばらしてくれた。
「実は既に知り合いだから」
この時点で賽は投げられていたのかもしれない。
皮肉にも、この先俺が傍観者ともいえないポジションで関わる、この長くくだらない――でも当事者にとってはシャレにならない話の……。
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