劇場サディズム  ――予感もなく――
【SIDE 】 

 初めて告白されただけでわりと普通の日、だったはずなんだけど……


 *        *  *      *      *

「一目ぼれ?」

「そう。勘違いというかありえないというか……」

 自分で言い出しながら、しどろもどろになってしまった。
 まだ信じがたいのはこちらも同じだ。

 ――まさか他校の後輩に一目ぼれされるなんて……(一度や二度は話したことあるけどね)

「あーでも、お姉さんに弱そうだからね」

「だーねー」

 件の君の先輩――幼馴染とその友達(今じゃこっちのが仲がいいくらいだ。あっちゃんは意地悪だから)がしきりに頷いてる。

「『お姉さん』ってタイプでもないとおもうよ?」

「まあ。……で何て?」

「それが……実はあっちゃんの言葉をお借りしちゃいまして」

 前に、この従妹殿が言って、大慌てしたルドのテニス部関連の話といったら……

「え?観月を」

「そう。タイプでいうとああいうのってことを進言させていただきました」

「嘘だーねー!観月はあわないだーねー」


「見た目がタイプなんだよ、の」

 だーねに、うわーと物凄くいやそうな顔された。
 そんなに性格悪いのか?
 曲者も、実はわりに嫌いじゃない。

 ――ますますタイプだったりして?

「あ、中身は合わないと思う。の適当さに、観月の神経がついてけないだろうから」

「あ、そう」

 あっちゃんが言うなら本当なんだろう。

 ――でも、ね?

「裕太君と付き合って仲良くなるとすると観月さんとも付き合いが出て来るし……そちらのが好きにならないとも限らない、し……て思ったのさ」

 そもそも、最初に「裕太君、可愛い」っていったときの、木更津氏の弁明なのだ。「観月のこと好きそうだよね」というのは。

「でさ、何が問題なの?僕らに言うってことは後悔してるとか?」

「違う。実は断り損ねて困ってんの」

「え?タイプじゃないって断ったんじゃ……」

「それが好きな人いなくて付き合ってもいないなら、考えてくれって返されてね……」

 丸め込まれる前にやむを得なく保留にさせてもらったのだ。

「裕太もやるだーね。相手に粘ったのか。俺らには無理だーねー。なあ淳?」

「確かに。は頑固だしすごく変わった趣向だから」

 む。と思わず唇をゆがませる。
 ――なんかそこはかとなく馬鹿にされてるような……

「白黒はっきりしすぎてるだーねー。よほど気に入らないと駄目っていうか……」

 こちらの顔色を伺ってかだーねのフォローが入る。
 さすがはダブルス。

の相手なんて想像も付かないだーね」

 ――……。
 どことなく馬鹿にしてるような辺りも似てたようだ。

「で?」

 ここで選手交代。
 こちらがこちらなりに真剣なのがわかったのだろう。あっちゃんがずばり切り込んで来た。

「困って『断り方』の相談?」

「……少しは悩んだんだよ?」

この辺の鋭さが、何のかんのと頼りたくなる理由だ。
 ――ばれてる……?
 いい子だし嫌いじゃないから受けてもいいとも考えた。
 でももう答えなんて困った時点で決まっていたのだろう。
 目の前の幼馴染みにはとっくに了解しているに違いない。

が観月に心奪われるかは別として、選択は正しいよ」

「恋は直感でするものだーねー」

「……じっくりしないと分からないタイプもいるけどね」

「揚げ足を取るな淳」

「まあとにかく」

 裕太君には可哀相だが、彼は私のタイプではない。
  ……と、木更津の淳氏は断定してくれた。
 そのうえどうやら説明べたな私がどう言えば伝わるか聞きたいことも察してくれたようだ。

「具体的にはなんて言った?」

「断ったとき?」

「そう、断り切れなかったとき」

あまりに突然で、しかも相手の方がものすごく照れていたものだから……面食らって、かなり間抜けな返事をした気がする。

「んとね」

 脳内でプレイバック。


「『強いて言えば観月君のがタイプだったりするんだよね
うーん……やめた方がいい、かな?ごめん、そう考えたことなくてちょっとシミュレーション出来ないというか何というか……。
ただ性格も自分でいうのなんだけどあんまりよろしくないし、何より年上っぽくないから、ご期待には到底添えないという不安が……』」


「「……」」

 男衆二人は顔を見合わせて肩を竦める。
 ――ふうやれやれ、とジェスチュアつきですか? 

「考えながら、もしや自分の世界に入ってなかった?」

の癖だーねー。それだから誤解を招くんだ。気付くべきだーね」

「さすがに同じパターンで、を僕の彼女と勘違いした人がいうと信憑性があるね」

「なっ、あれは仕方ないだーね。俺には幼馴染みもいないしがこんなおかしな子とは思いもしなかったし……。大体!は中身と外見が裏切りすぎだーね」

 ――やっぱりさりげなくどころか、きっちり馬鹿にされてるな、これは。
 ところでそれ、初耳だよ?(勘違いしてたのか……)
 今考えてみれば、まあ、初めて紹介されたとき(千葉から引っ越しで都内に編入するまで)彼女だとからかわれた後やたら慌てられた覚えがないこともないのだけれど。

「大体聞かれて否定する前に真剣に考えこまれたら何か深い事情でもあると思うだーね」

「それは……」

 一理ある。
 訂正しないところをみるとあっちゃんも同じ考えに違いない。
 ――まあ、悔しいけど……。
 そのとおりだと思うから、口をつぐんでおいた。
 思考の迷路に入ってると会話にならない自覚はあるのだ。
 ちなみに、あっちゃんと亮ちゃん――つまり木更津ツインズは別。あと多分観月君もたぶん。(だから名前出したんだよ。あのひとはきっと人に気付ける人だ。そういう意味で頭がよさそうだから)
 ついでにいえば、亮ちゃん曰く、私は「単純な癖に思わせぶり、ない裏があるように見える」ヤツ、なんだそうだ。

「裕太も悲惨だな。まあ今回のことはきかなかったことにしておくから、は素直に『ごめんなさい』だね。まずは一言そう言ってから説明しておいで。裕太は人畜無害だから、分かってくれるよ。押し切るほどがむしゃらに好きっていうより憧れみたいな感じだろうし」

の中身を知らないだーね」

「ひどいなぁ」

 ……と、一応は断りながらも本当のところ、そうなんだろうと思った。
 別に幼いなあと笑うつもりはないし、ちゃんと見てくれと主張する気もない。

 ――なんていうか、こっちもあまり彼のことを知らないから、知らなくて当然だし。

 ただ、 私は誰かを気にするより今ある分かりやすい関係が大切だし、それ以上がほしいと思っていないんだ。
 この二人だったり他の友達だったり……みたいになれればいいんだけど、自分のペースを乱されるような、ややこしいのは困る。
 裕太君とは、数度練習みにいったときにあったり話したりしてるけど、その程度の関係なのだ。知ってみたいと思われたのは嬉しくても、意識されるのは苦手だから……
 ――…ーん……仕方ないよね?これ。
 分からないなら分からないままの関係が望ましいんじゃないかなって思ってる。
 ならばやっぱり答えは一つなのだ。

は分かりにくくみえて単純なんだよ。ただ、裕太の直球な真っ直ぐさとも違う部類だから……」

「あ、それ、亮ちゃんにも言われた」

「それ?」

「分かりにくく見えてて単純」

「「ああ」」

「……声をそろえなくたっていいのに」

 何にせよはっきりしてるのは、つきあうんなら、せめてこの二人程度にはわかっててもらわないと、ってことだ。(それが我侭って、あっちゃんには言われるけど。でも、だーねだってちゃんと分かってくれてる。好きとか。付き合うとかなくっても)

「うん。ちゃんと『ごめんなさい』って言うことにする。……それで平気なら」

「ま、平気だろ。……それからさっき言ってたけど『恋は直感だから』。そう気に病むことでもないよ」

「そうだーねー」

 *        *      *      *      *
 そして数日後、ちゃんと裕太君にはわかってもらったのだ。
 そう、彼は平気だったのだ(どことなくやりとりで性格がよめたのか、あっけにとられてはいたが)
 だから、まさか他にそれじゃ「許さないよ」なんて笑うやつが出るとは思いもしなかった。

 平凡な学生のちょっとした日常……の事件?な告白……
 まさか、垂直に堕ちる日々の幕開けになってるなんて……

「誰も考えなかったんだって」

                   


悪い子ではなく、天然でもなく。

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