【SIDE裕太】
諦めが着いたのは憧れだったからかもしれない。
* * * *
昼休み、ミーティングが終わる頃、木更津先輩が部室で通話を始めた。
「」
呼び掛けられる一言にどきりとしたら最後。出て行く気配もない様子に、ついつい俺もその場に居残ってしまう。
部室の携帯使用は禁止されているけれど、今日みたいに観月さんが委員会や寮長会議でいないときは別だ。
文句どころかみんなむしろ歓迎して耳を大きくしてる。
ちなみに一年が色めき立つのはむさ苦しい男の集団にいかにもな女の影を見たからだろう。が二、三年は違う――。
相手が誰か、知っているのだ(一部はあったことはないが)
何せ、
「何?そんなことして平気?……本当?…ならいいけど。でも『ちょっとした反抗』はいいけど優等生風の癖にさぼらないでよ?……いや、急がなくていいから。バスに飛び乗ろうとしてこけたり、警察の人に押さえてもらったりしたのは誰だよ」
通話内容や木更津先輩の様子(呆れと心配)からもわかるとおり
「どういう子なんだ?」
赤澤部長すら首をかしげるポテンシャルの持ち主ときている(部長はあまり合ってない組だ)
木更津先輩の幼馴染みはうちじゃちょっとした有名人だ。
後輩の俺がこういっちゃなんだけど、少し抜けているものの普通の人なんだけど……。
ただことあるごとに発掘されるエピソードとか実際何回か来てる本人の印象とかから、みんななれ親しんだ昔馴染みのような感覚でいる。
――あんま話してないのに変かもしんねーけど。
考えてみれば、先輩は、高校に入ってから東京に来たから付き合いは短い。 しかもよりによって、学校は青学――接触も余りない。
「騙されちゃ駄目だーね。しっかりしてそうで抜けてるわりに、やっぱりしっかりしてるだーね」
「はあ?」
「は気安くて好印象だから質が悪いだーね。なれてくると中身のギャップに裏切られるぞ?」
柳沢先輩の熱弁は多分的を得ていて、俺もあんまり分かってないかもしれない(ギャップにびっくりさせられるかも……)。
はやまったか?、とふと思う。
実際会ってまだ二か月だ。
でも……
――でも俺、あの人に……いっちまったんだよなあ。
去る金曜日、俺はあの人に想いを伝えた。
木更津先輩の留守に来た彼女は一人で練習を見ていて……最初にあったときから、ちょっと気になる存在だったから勢いが勝った。
幼馴染みは保健委員の講習で他校にいると、伝言を届けに言ったはずが……「あの……好きなんです」と。口走っていた。
――仕方ないだろ。
優しいところとか意外に面倒見がよいところとか……何より待ってるとき素直に退屈そうなあたりがかわいかった。
じっと観察はしてるけど飽きると足をぶらぶらさせるし。
なのによく来てるし。
――そりゃ代わってるような気は俺もしてたけど……。
早く言えば一目ぼれなのだ。
「そんなにおかしいか……?」
思ったことが口をついていたのか。横から金田が覗きこんできた。
「仕方ないよ裕太、あの人あの木更津先輩の幼馴染みだし、それだけで十分気にかかるもんだろ」
「え?」
「付き合ってないってさ、あの二人。なら好きになっても文句ないと……」
「…って、金田、なんで……」
――知ってんだよ?
好きだとも可愛いとも言った記憶ない。ずっと注意深くしてきたつもりだ。
「え?あれで分からない人いないと思うよ」
がくっ。
言葉に軽い衝撃。
……と、ふと後ろからぬぼっと影が現れた。
「なんだ、裕太、そいつのこと好きなのか」
「ぶ、部長……ちが」
いつの間にか俺らの話に加わってきてたのは、部長だ。口は軽くはないから観月さんまでは回らないだろうが、自然に入り込んでて気づかなかったことがショックで思わず口ごもる。(観月さんに回るのだけは勘弁願いたい)
「まあまあ、淳の幼馴染みだから庇ってくれたんだろう?優しいだーね」
「柳沢先輩……」
――もろに「知ってます」って感じだよな……慰めてくれてんのはわかるんだけど。フォローになってないっていうか……。
とはいえ、その好意は痛いほどわかるので何とか苦笑いで返す。
……で……はっと慌てて木更津先輩の方を見ると、ひらひらと手をふられてしまった。
通話中とはいえ、騒ぎが完璧に分からないはずがない。
まさに、「知っててもいわないよ」の合図だ。
――参った。
こうなったらさっさと返事もらうか……。
ごり押しとか長期戦は考えたが無理だと分かっていたし。、周りが知ってるとなるとかえって駄目になりそうだ。
少なからず相手にプレッシャーを与えてしまう。
――てのも言い訳かもな……
なんとなくわかってしまったことがある。
例えば、「じゃああとで」と電話を切った余裕ある木更津先輩の言葉だったり、慰めるような(としか思えない)柳沢先輩の目だったりに……。
――幼馴染って最強だよな……しかも二人なんだろうし(なんてったって双子だ……)…
彼女から、自己申告された気になるタイプは観月さん。
でもそれより木更津先輩の方が強力で――本人は否定するだろうが彼女の好きなのはきっとああいう人。
――……そうでもなければやってられるか。
引き止めて粘りながらもなんのかんの断られることにはうっすら気付いていた。
あとで思えば、兄貴に質問したとき既に決心は出来ていたのだと思う。
告げることで、はっきりさせたかったつもりは、先輩の気持ちが読みたいがために長引かせてしまっただけで……
放課後一番で、木更津先輩に(むしろ先輩に)呼び出されるよりも先に……俺は恋の終わりを見た。
「でなんだって?」
「木更津淳の命を手中に納めたつもりみたいだよ。――来て欲しいか聞かれた」
「が言いそうだーね」
憧れてたのは彼らの空気――
弾みはあっても勝てるみこみもなかった。諦めないだけの強さも。
* * * *
憧れだったかもしれない。
――けど、好きだとおもったんだよ。
木更津先輩の隣の彼女が。
TO BE CONTINUED
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