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「ね、跡部。最近さ、誰かに見られてる気がすんだよね」
音楽の成績を口実に榊(43)にいわれ、テニス部の臨時マネージャーをやらされてるはすっかりマブダチと化した帝王、跡部景吾に打ち明けた。
なんだかんだいって、部員(含むマネ)に面倒見のいいやつだとわかっているので、話す方も気楽だ。
「あーん?気のせいじゃねぇーの?」
「いやー私の第六感が告げるわけですよ。きっとこれは誰かの陰謀だってね」
「馬鹿か?」
いつ、電波系になった?――くだらないと思うと切り捨てるのも早い部長さんである。
「シックスセンスあるってわけじゃないけど、ほんとに。ちょっとこわいんだよ」
「ああ、わかった。で?どうしろと?」
五月蝿くなる予感に、跡部もうんざりした顔ながら答える。
の性格をインサイトを使う必要もなく熟知してのことである。
ある意味、賢い。
何せは強く、跡部様相手に一時間愚痴り続けた記録の保持者なのである。
「あんたに頼むのも怖いから、部活後、樺地君あたりに送らせてもらえないかな?」
は聞いたが、ふと思い立ったように付け足す。
「……だめよね。じゃ誰でもいいわ。でも、忍足は駄目ね。危ないし」
「樺地は駄目ってよくわかったな」
少々関心したように――その前に否定はないのか?――跡部はきいた。
「あんたの行動なんてわかってるわよ。お気に入りはべらすな」
ぴしゃり。
この率直な物言いがマネージャーとしての数ヶ月培った最大の武器である。
「あーん?」
この跡部様の口調にもすっかりなれて、脅されない。
「……でもまじで頼むわ」
はうまく跡部様の癖を把握しながらさり気なく真剣さを増した表情で依頼し、跡部といえば
「考えてといてやってもいいぜ」
何だかんだいって、身内には甘かった。
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はてさて、練習後。
「おい、長太郎」
部長の任命は当然の帰結をたどる。
「何ですか、先輩」
「こいつ送ってけ」
大型犬さながらに寄ってきた後輩はの中で安全圏と銘打たれたベストチョイス。
責任感の強い跡部が平気だと太鼓判をおしたようなものだから、はこれに安心した。
指名された長太郎は、
「はいわかりました」
にっこり笑って、
「さ、いきましょう」
の荷物――明日の午後までに洗濯しなければならないタオルなどを何も言わず引き受けた。
幸い長太郎は一人暮らしで門限を気にせずにすむらしく、逆方向なのにも関わらず自腹で切符を買い、五駅も先にあるの家まで付いてきてくれた。
電車のホームを下りると、ラッシュの人並みに飲み込まれそうになるが、長太郎が手を引いてなんとかクリア。
(役得)
と、が思ったのは言うまでもない。
さて、案内するか――ここまででもいいけれど美味しいのでこのまま……そう思ったの前に、長太郎はすたすたと見慣れないはずの道を進みだしている。
(あれ?あれれ?)
不安になって、歩調を緩めようと思うが道は確かにあってる。
「先輩の家、こっちですよね」
その空気をよんでか、絶妙のタイミングで長太郎はきいた。
「あれーなんで知ってるの?」
「さあ」
さあってどうよ?――と宍戸あたりなら冷静につっこんでくれるだろうが、は「誰かにきいたんだろなあ」とふと不思議に思うだけ。
暢気に、つないだ手にひっぱられて歩き出した。
数分後、かどを曲がったところが自宅というところにきて、流石にすまなく思って、
「ここまででいいよ、もう眼と鼻のさきだし」
と切り出したのだが、
「いえいえ 危ないですよ!ちゃんと部屋まで送りますよ」
必死になってくれる形相に、甘えることにした。
ここで、ワンポイントアドバイス!
「部屋」といったが、彼女の家は一戸建て。
今日家族いない。
で、家。
いいのか?と思われるが、結局、家の中まで、後輩に荷物のデリバリーをさせてしまった。
長太郎は本当にいい人である。
「戸締りとか不安じゃないですか」といって入ってくる長太郎に、は「まあお茶のいっぱいもやらなきゃね」とごく単純にもてなしの準備を始めた。
やかんを火にかけ、ティーポッドの準備をしながら、今日は一体なんでこんなことになったのかを長太郎に説明しだす。
(よくよく考えれば跡部のやつ、説明してなかったし……。それできてくれるなんて後輩も大変よね)
大変にさせてんのはどいつだ!と跡部様に怒られるので言わないが。
と、考えながら茶のはっぱを放り込み、お湯を注いだ。
「まあつまりは最近、監視されてるような気がするんだよね」
おもむろに話し出しながら、「はい」とコップをおいた。
「いただきます」と礼儀正しく、ソファにかけてた長太郎は紅茶を受け取る。
その後唐突に言った。
「へえ。でもきっと今日でそれも終わると思いますよ」
「え?」
「だって俺ここにいますし」
(ああ、男がいるとおもわれればあきらめるってことか)
最近ストーカー被害って多いし。
そういうことなのかなぁと納得しながら、も長太郎の横に座って自分のコップに口をつける。
「そういえば先輩高校から一人ぐらしですよね」
「来月からね。もう家は借りてるわ」
氷帝学園は中高一貫校、敷地もすぐ横なので通う距離に差はないが、実のところの家は引っ越しが決まっている。
通学時間二時間くらいの子はざらにいたが、そこは腐っても氷帝の生徒。
そうなるくらいなら……と親がマンションの契約をしてくれていた。
(そっちは平気なのかなぁ)
一人暮らしになると、もっと危険なのかもしれない。
は途端に不安に襲われた。
「安心してくださいよ。そっちはきっと、もっと安全ですよ」
「ん?」
「俺が住み込みますから」
「え???」
突然すぎて頭がついていかなかった。
(すむ?誰が?どこに????)
「何いってんのよ」
取りあえず困ったら「つっこみ」――忍足の関西講座がこんなところで役に立つとは思わなかった、と感謝しながら、何とか軽く茶々をいれるが、
「ふふ……気づいてなかったんですか?」
なにやら怪しげな長太郎の様子に悪寒が走る。
【確認事項 : 今どういう状態ですか?】
【A、 家に男と二人】
流石に「まずー」と思う。
延びてくる長太郎の手は大きくて、そのままソファになし崩し的に倒されてしまう。
(コップをおいていてよかった……て違う!!!)
耳元でありえない自体が起こっている。
「好きだったんですよ」
実のところ「私も」といえるほど準備もなければ、本当にいい後輩扱いしていただが、いざ言われると嬉しい言葉に真っ赤になった。
「……だから……俺、せんぱいのこと見張ってましたから」
(きゃー!!!恥ずかしいって……鳳君……きみ、手……手が……)
しっかりホールドしている腕の力が強くて戸惑う。
真っ直ぐ飛び込む瞳はきらきらしていて、跡部(=美形)に見慣れた○○でも鼓動の高まりは消えない。造形でなく、その男の視線には凍り付いていた。
「いいですよね?」
後はもう……何がなんだか……。
断ることも忘れて、そのままなだれ込んでしまったわけで……。
「……っぁ……」
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(…………なんで……)
家に帰ってこないとわかっていただけよかったのだけれど、少し解せないながらも嫌いでないし、まーいっかと軽く(実際そんな軽い女だというわけではないのだが、は変なところがクールだった)言って、脱がされた制服を直そうとすると……
「やっぱりつかっておいてよかった。これで今のも録音できましたよ」
横から伸びた手がその制服のポケットから何かを取り出した。
それは小型の――
(…………盗聴器!!!!!)
ようやく思考が繋がるが、もはや自分でも何が起こっているのかいまいち「理解」までは至らない。
「ああ、ついでにこれも……。これで可愛いさんが見られますね。まあ見なくてもまたしますが」
長太郎の手にはミニカメラがある。
いつだか跡部が自慢した最小のカメラ。
あいつっこんな用途にっ!――とか思って、ごまかそうとするが、目の前の現実はそう過ぎ去ってはくれないし、跡部はむしろそんなことせず堂堂と目の前のでかいカメラで撮影するだろう(羞恥プレイやるなら予告ありでやるだろ……)と結構失礼にも分かってしまうので、はますます凍りつく。
「当然さんの色っぽい声もたくさん入ってますからね」
と、ONのスイッチを入れだした似非くさい笑顔の長太郎(にしかもう見えない)に、
「……きかなくていい!!」
叫んでやめさせる。
「そうですね。せっかく本人を前にしてるのに……それじゃ、もう少し長めにとっておきましょうか?」
「やっ……ちょっ……とっ……ん!!……」
結局そのまま器用に腕をあげられて、美味しくいただかれてしまうであった。
第二ラウンドは深夜〜早朝まで続く。
次の日の会話
「跡部……あんたしってたでしょ?」
「………あーん?何の話だ」
区別つかないが多分に、本気で分かっていないと感じたは先輩にすら本性のばれていない長太郎に感動を覚えて、ため息をつく。
跡部の肩をぽんぽんっと叩いて、
「なんなんだ?」
怪訝に眉根を潜める部長に警告を送った。
「後輩には気をつけることね。下剋上の荒波は別の場所からおしよせてくるものよ」
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