今時流行らない対決。 その1
【SIDE】
「」
「帰るぞ」と、手塚は歩き出す。
――でも……
いいのかな?と振り返ったのは、真田が――突然の人違いに驚いて、思わず私が罵倒したおした彼が、ぽつりと置き去りを喰らうことになるからだ。
手塚は、自業自得だろうと言ったが(別に冷たいんじゃなくて、正論なのだけれど)
「気にしないでいい」
そう、帽子を深く被りなおす彼の肩は下がっていて……
――後悔してるの?
確かめず、私を「誰か」と勘違いするほど……必死に肩をつかんで引き寄せるほど思っていた彼を、放っては置けない気がした。
会ったばかりで、しかも無性にむしゃくしゃするやつ。
手塚とは正反対だ。
――手塚は、真面目でいつも優しいし……。
ただ、ここで手塚が遠ざかろうとする理由に優しさが見えないような……違和感があったのも本当だ。
「ねえ」
「行くぞ」
「でも、真田君――」
「気にするな。誰と間違えたか分からないが、お前に気を使われると余計困るだろう」
そういうことか。
何となく――プライドに触ってしまうと暗につげる手塚の意図が読めてきた頃、ふとみれば真田はこちらに頭を下げて、その場で肩膝に手を着いていた。
「すまなかった……」
搾り出された言葉の弱さが「らしくない」
会ったばかりで言うのもなんだが調子が狂わされる。
手塚に不意に手を引かれたのもそんな折だが、どうしてだろう。
焦りは、別のところから出てきて……気持ち悪い……
どうしようもなく苛苛した。
――言いたいことがあるなら言えばいいじゃない!誰と間違えたにせよ、事情くらい……言ってくれてもいいのに。
……と立ち止まりかけた私の口からは、ふと「気にしないでよ」と言葉が漏れていた。
聞こえるか、きこえないか……瀬戸際の小さい響き。
けれども、真田は笑ったのだ。
堪えていたものを一度捨て置くように、力無く――少しだけ唇を上げて。
「ありがとう」
それは見るものによっては、決して笑みとは取れなかっただろうが……
――あ……。
「また関東で会おう」
「ああ」
二人の会話も、無意識にするりと手塚の手を抜け出していた指も、全てが希薄に思えるほどに……
「また……」
真っ直ぐな瞳がこちらに、すまなさそうに――でも、力強く向けられたとき、何か後ろ髪を引かれる想いがした。
怪訝に声をかけた手塚に続き、歩き出しながら、間違われた苛苛と……何か別の苛立ちを抱え始めている自分を意識した。
「ごめん、手塚。ぼーっとしてた」
「ああ」
でもそんなことは直ぐに忘れてしまえばいいんだ。
だってもう真田と会うことなどないのだから。
それでも気持ちははれなかった。
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