神様、質問があります。
本命はあの人なんです。
何故こんなことになってるんでしょうか?
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第一に聞きたいことがある。
今更だが、なんで私はこの学校にきちゃったんだろうか。
ちょっと前までは確か氷帝学園で、跡部様やらミステリアス忍足氏(友人は毛嫌いしつつ、実は本気で好きだった)やらとは無縁ながら、隣の席の宍戸をからかいつつ、その後輩の長太郎君を嫌う友人(これも上に同じ人物だが、あの女が分からない、いい子なのになんで駄目なのかしら?生理的とまで言ってたわ)とからかいあう平穏な日々を過ごしていたのに。
まあ、頭のレベルでは私立とはいえ系統が違うので比べられないがそこそこ。
むしろ校風は私向きだと思う。
でも最近自信がなくなってきた。
理由は後で明らかになるだろうけど……対人関係というより……約一名のためだ。
あーあ…編入なんてするんじゃなかった。
そうそう。
でも、格好いい人は見つけた。
めちゃくちゃタイプで、宍戸に聞いた手塚さんと同じくらい憧れられる自信があるんですが……。
名前はチェックずみ。
「真田君、放課後、委員会の仕事なんだけど」
同じ学級委員もゲット済み(とはいえ、偶然。そんなに行動力ありませんから、私は)
なのですが……
「ああか」
名前も既に覚えられてるし。(そりゃそうか、同じクラスで同じ委員会じゃあねぇ)
でも、移動教室一緒に戻れる。らっき。
「テニス部があるなら何とかしておこうか?提出の書類あるよ」
「すまんが、量が少ないようなら頼む。多いなら今やるから貸してくれ」
礼儀正しいし、頭いい!
結構優しいわりに、迫力ある人だから周囲からは言い寄られていないみたいだし。(人気はあるけど)
「ビバ!青春よ〜!あんま向かなそうだけど頑張れ〜」と、一昨日電話してきた友人に状況を説明したら言われた。
相変わらずな彼女は、はっきりと失礼だった。
どうでもいいが、あの人のがよっぽど真田君やら手塚君やらとは話しそうだ。
必要以外で話しかけられない性格なので、影から見てるという青春は堪能できても、「毎日、ドキドキスペクタクルで手がつけられないっつーの!」とかいう状況には死んでもならないだろう。まああの人はあの人で、はっちゃけた口調にあわない外見なうえ、最近別の眼鏡にストーカーされたり、無理やり親友にした滝君に迷惑かけたり、後輩の日吉に言い寄って(うん、あれが言い寄るって言うのか?と見ていて始めて知ったが恋愛ともちがうらしい)にっこり罵倒された挙句マブダチになるという珍事を広げて大変みたいだが……。
閑話休題。
「うん、大したことないからやっておくよ。でも放課後は出てね。代理は認めない方針みたいだから」
「わかった。隣のクラスは、投票で柳に決まったらしいから、そちらにも出ろといっておこう」
まあ他のクラスはいいんだけど。
むしろ真田君がいれば私としては楽しいのだ。
真田君だけでいいんだって!!
いや、柳君もどこか落ち着いていて嫌いなタイプじゃないのですが……。(どちらかといえば好印象)
問題は……
「そうだ、今日は見に来るのか?」
これです。
他から見ればもしかしたらテニス部の見学にお誘いなのかもしれない(いや、見えないな。哀しいけど委員会の打ち合わせ以外には見えないだろう。分かってるって)
夢見られれば真田君が自分を見に来てくれといってると思えるかもしれない。
いや、真剣に求めてるってことは分かってるわ。
けどね……理由が理由だ……。
私にはその「理由」の方までしっかり理解できてしまっていた。
よって喜べません……。
理由とは……
「あいつが張り切っていたぞ」
「……そう」
「試合前に浮かれるなんて、まったくけしからん。……と言いたいところだが、お前相手じゃ、羽目の外しようもない」
真田君。
それ、いいんだか、悪いんだかよくわかんないよ?
どう反応しろと?
そして、なぜそんな哀しい目を向けるの?
(だから、わけは分かってるけど)
「……(心から)同情する」
しなくていいって……。
いや、真剣にそういわれると凹むわ。
「ハハハ……真田君のせいじゃないし」
「いや、俺が気まぐれでお前を誘ったばかりに……」
気まぐれ……ぐさっとくるなぁ。
「まああの時は委員会の打ち合わせついでだったからね」
そう、委員会を決めて直ぐの日のこと。
私は仕事の打ち合わせをその日のうちにやろうと思って真田君に言ったのだ。
しかし彼は当然テニスが忙しい。
じゃあ、という妥協案で、部活後、テニスコートまで行く約束をとりつけたのだ。
(ちなみに、部活中私は代表者会議。こちらはクラス一人で構わない。)
彼の方からありがたくも「早く終わったら、よかったら見にこないか?」と誘ってもくれた。
まあ【気まぐれ】だったみたいですが。(確定だよ・涙)
そして間違えはそこから始まったのだ。
……と。
不意に向こう側(生物室)から飛んできた影がある。
身長はそこそこ、体格のすらっとした……
「あっ!先輩!!……副部長も!!科学の帰りっすか?」
来たよ。来た来た。
しっしっ……
「……うっとおしい」
横で「うむ」と真田君が唸っていたのは見なかったことにしよう。
そして、何故こいつはいつも私にとびかかってくんのよ?
「先輩、今日も来るんだろ?俺、待ってっから」
よりによって真田君の前で……。
つーか後輩でしょ?
なれなれしいっての……。
「邪魔邪魔。どいて」
「ツレナイ」
といって、やつはアハハと笑った。
名前は切原赤也。
真田君の後輩。新人エース。人気者。
ポイントはここ。
分かってることはソレくらい。
あと、何故か私が懐かれていること。
「ほんとに重いから飛びつかないで、赤也」
「切原……」
ほぼ同じに嗜めたのは真田君。
副部長というよりききわけの悪い部下とその上司だ。
すっと、赤也は身を引く。
「珍しい」
と、真田君。
そうね、いっつもこの攻防戦は休み時間を削って行われるのだ。
セクハラだってば……。(疲弊)
大抵の先生がこの問題児の肩を持っている(すぐに好かれる体質は得だわ)ので、こいつは図に乗って髪綺麗だなとか、いい匂いだとか……べたべたするし。
「ほんっと、珍しい。てかいつもそれくらい大人しくしていられないの?」
真田君みたいに。
声に出さずに言う。
でも赤也は分かってるのだと思う。
「いられねーって。俺、のこと好きなんだぜ?」
「おい、先輩に向かって呼び捨てはないだろう?」
真田君がかばってくれるが、赤也は懲りてない。
たぶん、私を挑発してるのだ。
真田君と同じように同学年みたいに「お前」なんて言って、「いい加減真剣になれば?」ってこの間みたいに笑うのだ。
「へい。すみません」
真田君も、
「お手上げだ。悪いが、こいつの躾はお前に任せるぞ、神田」
「えっ……いっちゃうの」
「悪いな、放課後はしっかり言いつけておくから安心していいぞ。今から顧問とミーティングだ」
「そっか。ごめん。じゃ、また後でね」
「ああ」
静かに頷いて真田君は歩き出した。
いつのまにか決定してたけど、真田君も見られるからいいかな。
放課後は、テニス部見て帰ろう。
「……で?」
残された私は問題児と向かい合う。
「あんた、どうやったら私から離れるの?」
「離れてんじゃん?」
「それ、距離の話。じゃなくて……!何度も言ってるでしょうが、私は……」
「好きな人がいるから?てか真田さんだろ?往生際悪いな。俺にしとけよ」
「ばっ……」
この自信過剰男をどうにかしてください。
乙女の夢を壊さないで下さい。
「でも先輩、真田副部長のこと好きだろ?」
「……いや違うって」
違わないと……思いますが。
まあ友人のようななんかすごーく怖い感情でもないので憧れというような……。
それはいいとして!
私はこんどは勝手に腕をとって歩き出したこいつの頭を殴った。
「げっ。まじに殴んなよ」
弟だ。
こいつは弟ののりなんだ。
下に二人も弟がいるから、ついついこのペースに巻き込まれる。
彼らとは違うが、こうも馬鹿な年下が集まってくるのはそのせいにちがいない。
人は言う。私は「姉」属性なのだと。
「調子にのんないの」
「にしては、さっきもすぐやめた」
うまく奴の腕から逃れる。
「だってさ」
でもって、やつの声にすっころんだ。
「やっと、俺の名前呼んでくれたじゃん?嬉しかったから」
神様、弟どころではありません。
天然の詐欺師がいます。
つーか……
そういうの反則……
気障。
それも無意識半分。意識半分。
赤也はそれはそれはヒネタ顔で要望を告げてくれる。
「だから俺も呼びたい。って」
「………調子にのりすぎ」
無理やりよんじゃうよ?と落書きがされてるみたいで、私はため息をついた。
こいつ、馬鹿だ。
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放課後、なんだかんだいって、真田君との幸せなひと時(委員会)の合間にもその赤也の生意気顔が浮かんで私は自分にげんなりした。
そのうえ……
「すまんな、毎回」
「副部長、メニュー増やしてくれてるでしょ?部活してるときはおとなしいから」
助かるというべきか、わざわざ部活の休憩中まで様子見に来てくれる彼にきゃ〜と思うべきか。
「本当にお前も大変だな」
無駄に同情票を集めて、ぽんっと肩を叩かれた柳くんも本来隣のクラスとはいえ関われもできやしない人気者なんだけど。
喜んでいいものか……。
「先輩!」
「うざい」
「駄目っすよ。先輩方といちゃ。噂たって怖い目合うだろ?」
「いや、と俺らに噂は立たないと思うが?」
これは柳。
正しいけど、悔しいので黙っておこう。
「こんな真面目な性格の女子に必死になるとは意外ですね」
紳士まで横から口を出してきた。
そのとおりよ。
分かってるなら、データよりも前に助けて欲しいデス。
「先輩、清純そうだからって俺から奪おうなんてしないでくださいよ」
って、目真っ赤で怖いし。
紳士は「お前がいる限りいずれ……」とか口ごもってるし。
何思ったんでしょうか、貴方は……。
結局そんなこんなで赤也にはりつかれたまま休憩も終わり……
やがて……
練習も終了。
「暗くなったから送っていこう」
「真田君」
やった!
それは嬉しい。
あ。でも話す内容がない?
あるけどたぶんそれは赤也の話で……。
でも嬉しいので
「お言葉に……」
甘えて――ということはできなかった。
「副部長。俺がやりますよ、その役目」
「まだいたのか……」
そういうこと。
赤也が名乗り出てくれた。
嬉しくもないことに。
「う、うむ」
真田君は少し言葉につまった。
そりゃそうだ。
私も感じるもの、身の危険。
すかさず、隣の柳が直球をなげる。
「送り狼になんなって、真田は言いたいらしいよ?」
「断じて違う。たるんどる」
「ちがうの?でも神田、本当に危ないと思うけど?」
「………」
やっぱりそんなに信頼ないんだね、赤也。
私は信じるよ、その正当な評価を。
だから私も……
「あんた危険だから無理」
きっぱり。
「駄目。俺があんたを送ることは決定済みなんだから」
ええそうでしょうよ。
ここで数時間粘られる事実より、更にこのまま集まりだしたギャラリー(とくに赤也ファン)になぶり殺されることよりはマシ。
ここで帰れば真田君の命令って思うだろうから問題ないが、長引けば色々まずいのだ。
私は白旗を振る。
「ソウデスネ」
タモさんに答えるのと同じ口調で言って、
「……気をつけて帰れよ」
「何かあったら連絡しろ」
温かくも儚い励ましに涙をのんで、私は赤也の横に立った。
ああ、真田君(涙)。
道が違うから、校門でたらすぐさようならなのよね。
「……さ、練習中俺のこと見てた?」
二人きりになると赤也は意外にも紳士で、一定の距離を保って(でもしっかり手のかわりに私のかばんを持っていたが)話しかけてきた。
実はそうですよ。
ええ、だっていつさぼるんじゃないか不安で不安で……
私のせいでさぼったら真田君が困るから、見てましたよ。
言えるはずもなく私は
「……自信過剰」
「照れてんの?」
「馬鹿。うざい」
可愛げもない会話を繰り返すのだ。
これが最近の《好ましくない》日常。
多少おかしな人種がいても、騒がれる人種とかかわりをもてなくとも、まともな神経の宍戸がいて、長太郎君が笑ってて(友人が嫌がって壊れてるが)そんな氷帝が懐かしい……。
こちらはまともだが、一人だけついていけない人間が、私の日常を乱している。
家に駆け込んで、私は神様に祈る。
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ああ神様お願いです。
間違ってもこいつとだけは……こいつとだけはくっつきませんように。
私はあくまで真田君が好きなんです。
ええ、あくまで!!
この後とんでもない日常が繰り返された挙句、結論が悪寒どおりこいつに行くなんて、この頃は思いもしなかった。
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