◇ 昼下がりのジジョー ◇
 どうしてでしょうか?
 光景にびっくりした。  いや、この状況招いたのが自分だってことは分かってる。
 間接的とはいえ……

 でもな……

 …………。
 ………。
 ……。

「まあ仕方ないか……」

 テンション低いな自分。
 ここで誰かに助けを求めたいところではあるが、私は性格上、巻き込まれたら最後巻き込まれっぱなしだったりするタイプ。
 携帯苦手だし。
 今日に限っておせっかいな友人やら、頼れる知人IN氷帝やらはいない。
 ついでに、ここ自宅。
 むしろ氷帝での友人宅に近いので、助けに来いといえば来るだろうが……。
 役得もあるから誘えないです。……というより……出張られると被害拡大が目に見えるような知人ばかりなので。

 そして、私はおかしな食卓に戻る。

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 昼間で遠征で、こちらに来ていたらしい。
 更にいくつかの学校で練習試合だったらしい。
 だから、か……。
 よく理由はわかった。

「で?なんであんたがここにいんの?」

「来たかったから。先輩達も呼んで来たし、いいっすよね?」

 耳元で元凶、切原赤也は「真田副部長もいるし。おまけに手塚さんもゲットっすよ?」とにんまり。
 いいのか?あんた。
 私を落とす宣言しておきながら……とか軽く思いながらももう赤也のやり口には慣れているので、しっしっと片手で追い払った。(ついでに冗談くさいくどき文句にもなれてる)

「すまんな」

 気まずそうに言うのは真田君。  私の好きな人。
 というか、目標で、憧れ。
 相変わらず同じクラスで同じ委員会だったりする。

  「……よく事情がのみこめないのだが?」

 真田君に向かって首をかしげた眼鏡の彼は手塚国光。
 少し系統が似ているが、赤也に言ったところ「先輩って年増ごのみなの?」と笑われた。(確かに彼らは高校生にしても、かなりふけて見える。でも先輩にむかってその言い方どうよ?仮にも真田君はあんたの部活の副部長でしょうが?)
 ……手塚君は氷帝(中学)時代から憧れの選手だったのだが、彼の疑問には私も同意。

「ああ」

 真田君は困惑している。
 状況は飲み込めないが、事情は分かった私は、取り合えず手塚氏がどういう経緯でここに来たかは無視して代理に答えた。

「はじめまして。ええと……真田君のクラスメートで、です。たぶん、これ(赤也を指差し)が原因でして……」

「つまり、彼女にほれ込んでるうちのエースが俺ら(というかお前と真田)をダシに彼女の家まで近所だという理由で押しかけた結果、ということだ」

 ありがとう、柳。言葉を引継いでくれて。
 柳は横の席でフォローしてくれた。
 彼は唯一の常識人で、たぶん巻き込まれっぱなしになりかねない真田君を気遣って面白半分に(ここも重要なポイントだがこの際感謝だ)ついてきたのだろう。
 私は作りたてのパスタをとりわけながら、周囲を見回し再び光景の異様さに寝込みたくなってきた。
 右に赤也(うざい)。
 左に柳(真田君だったらいいのに。でも安心)。
 柳の隣が手塚氏で、その横が真田君。
 私の前が欠番。(あら、お誕生日席だわ)

「いつもこうなのか?」
と、手塚氏。

 真田君はエースの恥に頭を抱え唸っている。
 気持ちは分かるが。
 かわりに柳が暴露した。

「そのとおりだ」

「大変だな。うちも二学年下には中等部から散々手こずらされているが……」

「そうか。実は彼女が編入してきてからこの方、ずっとこのとおりでな」

 たるんどる、と真田君が言う。
 私も同意。激しく同意。
 赤也が横で「そんなこと言わないでくださいよ。俺、頑張ってるじゃないっすか?」とかおどけてるけど無視。

「で、手塚君は一体なぜここに?」

 赤也にまきこまれたって?
 思わず話しかけてしまい、気が動転。
 あー、これってファーストコンタクトになるのよね?
 いやだな、こんな赤也がらみの出会い。
 真田君は違う!と強調しておきたいが、真田君が今こうしてうちにいるのだって結局は赤也のおかげだったりする。
 しかし、そのせいでどんどん赤也と泥沼化しているという説はある。
 柳が「お世話になってる上司に彼女を紹介する、の図だろ?」と突っ込んだのは痛手だ。
 正しいわよ。
 うん。
 もうこうなったら、普通に手塚氏と話せたことを喜ぼう。
 手塚氏改め手塚君は気楽に?答えてくれたし。

「気がついたらこうなっていた。……まるで不二のようだ」

「ああ、魔王か。噂はかねがね」

「知ってるのか?」

「友人が青学なんだ。知ってる?川本秋って言うんだけど?」

「あ……不二と仲がよかったな。なんでも弟をジャニーズに勧誘すると張り切っているらしい。海堂にきいた。俺もよくわからないが不二に彼女といるところを呼ばれる。なんでも付き合ってるわけじゃなくて、完璧な喧嘩友達で俺は不二の切り札らしい」

「はあ」

 流石にいえないなぁ。
 彼女は手塚君を死ぬほど嫌っていて(なんでも優秀ぶった張り切り野郎は嫌いだとのこと)不二はそれを面白がってるんだとは……。
 それにしても、どういう生活送ってんだ?あの人。
 正確には友人IN氷帝の友人なので、集めようと思えば情報は集まるが、これ以上はきかないことにしよう。
 怖いし。

「なに、和んでるんすか?ずりぃよ」

って、赤也が飛びついてきたのでパスタごと避ける。

「お皿の替えはここね。ソースは四種類。自前とレトルト両方あるけど、突然だったから勘弁して。じゃ、どうぞ」

「「「いただきます」」」

 こうしてお昼ご飯が始まった。
 なじぇ?

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「なんだか悪いな」

「ううん、真田君。お母さん出かけてていないし、弟二人も部活でね。一人寂しく食べるよりはずっと楽しかったから」

 いえいえ、滅相もございません!
 貴方がいればOK。
 というか手塚君もいるし、ある意味ハーレム。

先輩の手料理、ウマイッス!」

「調子にのんな!」

 これさえなければね。

 赤也のタックルをかわして……でも避けきれずズルズル引きずりながら笑顔に戻る。

「……本当にうまいな」

 しみじみとありがとう。
 手塚君の言葉が胸にしみた。
   やっぱり赤也とは違うわ。

「ごちそうさま。いい奥さんになれそうだな」

 とは柳の言。
 テレますよ。それ……。

「顔真っ赤。俺、今すぐでも先輩奥さんにしたいんすけど?」

「赤也!」

 思いっきりくっつくな!……。
 柳、さてはたきつけるために言ったわね?
 もうなんだかんだで長い付き合い。
 だんだんこのお方の性格も読めてきた。
 私は食器を片付けながら、抱きついてきた赤也にラリアットをかました。
 ……慣れてきたけど、恥ずかしいのはやっぱりなれてないってことなのかもしれない。

「……すまんな。こんな後輩で。……でもまあ、なら大丈夫だろう。頑張ってくれ」

 さ、真田君?

「真田、切原の彼女なのか?」

 誤解だって手塚君!

「そうなる予定っす」

 と、赤也。

「まだ、か……初々しいな」

 って柳、あんたは知ってるだろうが!!
 食器を置いて、お茶をいれにもどったらすぐこの会話だ。
 あーん……私は真田君が好きなのに。

「(小声)いい加減諦めれば?」

「(小声)赤也、あんたがソレを言う?」

「言うね。俺、真田副部長にだっては譲らないから」

 はっきり言うな。
 真田が困るじゃない?
 ばれるじゃ……

「そうだな。その気持ちはよくわかった。からもいってやってくれ。俺らはただのクラスメートだから安心しろと」

「………(涙)」

 思いっきりぐさっときたわ。
 でもまあ、お茶をすすって「うまい」って言ってくれるのが嬉しいので曖昧に頷く。

「今のところはね」

と、赤也にだけ聞こえるように付け足して。

「手塚、何ほうけてるんだ?」

 柳がきいたので、ふと皆が手塚君の方を見た。
 手塚君は確かにお茶をすすりながら、なにやらほーっとしていた。
 やがて、話が自分に向けられていると理解すると、

「いや、そういう関係も悪くないものだと微笑ましくてな」

「え?」

 真田君もさすがに吃驚したらしい。
 柳と赤也も動きを止めた。
 急に注目された手塚君は自分のキャラクターがどう理解されているか分かっていないらしく、ごく普通のことを言ったまでだといわんばかりに、怪訝そうに顔をしかめた。

「部活の後輩から彼女を紹介されている部長(含・代理)という構図は何となくいいんじゃないか?……と、この間、不二が言い出してな」

 それ、この構図違う!!
 言いたかったがいえる雰囲気でもないので、言葉を待つ。

「ついでに跡部に連絡ついでにきいたら、向こうはむしろレギュラーの中で、同級生に嫌いに嫌われたやつがいるらしくて何をしたのか分からないから対処のしようもないが、それが後輩と他のレギュラーには懐いているとか……色々大変らしい。あいつは部員の部活外での相談にのる気はないみたいだが、こんな風にアットホームに紹介しあうというのもいいなと思っただけだ」

 ……アットホームって。
 確かにAT家だけどさ。

「……あの、手塚君……だから私は赤也とつきあってなくて、単なる真田君のクラスメート(哀しいけど)で、巻き込まれてるだけなんだって……」

 ああ夢見てるよこの人。
 ついでに、跡部様(仮にも氷帝通ってたから知ってるさ、あのお人は)がぼやいてた内容は私の友人で……あっちはたぶん無視してても、全く問題なくて……。相談なんていらないんだって。
 相談がいるのはむしろ私!!
 この現状を何とかしてよ。

 思ったがあんまりに手塚君の顔が羨ましそうだったので、私は仕方なくため息をついて、赤也に一言

「あんたのせいだからね」

 真田君は同情の目を向けたが、そこはかとなく息子と彼女を応援する父入っていて切なかった。
 赤也にはお似合いだと暗に語りかける眼差しに涙ぐみながら、柳を見たら、こっちには本気で同情され始めててそれも辛い。

「泣かないでくださいよ。……ったく、口ベタだなぁ、先輩は……」

 赤也に抱きしめられながら、私はもう全く抵抗する気力を失い、「そろそろ」と帰ろうとする手塚君やら「お邪魔だから」と逃げる柳と、「無体なことはするな。たるんどる」と脅しながらもこれまた帰宅しようとする真田君を横目に見つめることしかできなかった。

「赤也、うざい」

 ようやく引き剥がして、こいつの帰る支度を手伝い出した頃には、

「なんか新婚さんみたいっすね」

とか、この馬鹿は笑ってて。
 本気で頭にきながらも、でもまあいっかとか納得してて……。
 ふと、あーあこんな日が来そうでいやだなぁと悪寒を覚えた。

 まあ赤也のおかげでまた一人知り合いは増えたけどね。
 しかも好みな……。

 ん?
 ちょっとまって!!

 赤也がいるとカレシできないじゃん私……

「じゃーね」

 別れ際、キス(ほっぺただけど)した赤也を殴り飛ばしながら、ああ手塚を紹介したのは≪牽制≫なのだと気がついて、私は呆然とした。

「はめられた……。このままじゃ飼い殺される……」

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