「好きなんです」
と、彼女は言うので、
「そうですか」
私は答えた。(他にどう答えろと?)
* * * * * * *
「それでは俺に何を予測しろと?」
朝、教室の前で会うなり、柳に聞かれた。
いや、柳?
私何も話してませんて。
そりゃ、朝真田君と一緒に教室に来られたり、その途中後輩に会って、羨ましがられる以前に「仕事大変ですね」と真剣に心配されたり、――と若干へこんでますが……
「今更相談して、予想最高確率にショックをうけるつもりはないです」
「最高ラインでもたかが知れてるしね」と、真田君を一応見やって言ってみる。
もう柳には隠しても無駄だし――
……それどころか赤也にもばれてるんだから。
「『なんで本人は気づかないんだろうな?』とは相談ー」
「いや、しないから」
したいけど。
私は恨めしげに柳を睨んだ。
柳は平気そうな顔で(むしろ、この人の表情は読めません。私……)
「その後のことだ」
一言。端的に告げた。
「はぁ?」
あんた、エスパーですか?
そう、何度も言うが、私はそもそも柳に何も言おうと思ってないのだ。
「通りかかった」
ああ。だから見ていたと。
それで気にしたのね?
後輩思いですこと。
皮肉でなく感心していたら、ぽんと肩を叩かれた。
「何?」
「いや、何か聞きたいんじゃないか?」
「だから……」
ん?まて
一つだけあった。
誤解されるとまずいけれど、柳ならそれはないだろう。
私は意を決して聞いてみることにした。
「赤也のことなんだけど……」
「ほう」
珍しいと顔が語るのは悔しいが、仕方ない。
これで被害が減るのであれば、多少は肉を切らせて進ぜよう。
声を潜めて、ちょこっと背伸びをした。
柳は大人しいから目立たないがこれで結構背が高いので。
「告白、どう断ってんのよ?」
「……………」
あれ??
固まられてしまった。
何?何?
やはり問題あるのでしょうか。
柳は「すまん」と謝罪し、しれっと言った。
「好きだったのか、それは知らなかったな」
「あのね……」
この人、何考えてるんだろう。
意外とお茶目なのはいいですが、私相手にやられても可愛いとは思えませんて。
氷帝時代の友人、あたりになら、通用すると思うけど(あの人の友達、滝君とか二年のキノコ頭の人とか皆大人しくて、口悪い?タイプだし)
「冗談だ」
「うん」
さすがに分かる。
だから続きを待っていたら、
「なぜ知りたがる?」
聞かれたから答えようとしたのだが、タイミングが悪かった。
キンコーンカーンコーン
チャイムが鳴ったため、私たちは別れた。
急いで、席について荷物を取り出す。
取りあえず授業だ。(英語だ)
* * * * * * *
「さっき柳が来てたよ?」
授業前は至福の時。
私は真田君に話しかけた。
……きっかけを作って話すだけの気概はないので、どちらかというと、自然に伝達しなきゃならないのかなという委員長根性が出てしまっただけだが。
真田君は「うむ」と頷いて、
「そうか。だが今日はミーティングはないぞ」
教科書を開いた。(動きが既に早い。格好いい)
で、ふと思う。
「ん?」
「に用があったのだろう」
「はて。でも私何も言われなかったんですが……」
はっと真田君が目を見張った。
これは多分……
「ううん、違う違う。安心して、赤也は何もしてないから」
真田君は急速にほっとした顔をした。
――ああ、無駄なところで分かり合えるようになってきたよね?
取りあえず「赤也本人」は確かに何もしていないのだから、と、言い聞かせて、私も教科書を開いた。
そして思い浮かべる。
朝の体験を……。
* * * * * * * *
「先輩」
可愛い女の子が私の前に立っていた。
見たことあるような気がする。
あ、そうか、改訂された学校のパンフレットに乗ってた制服モデルやってる子だ。
へえ、下の学年だったのか。
編入してきたからこその発見の驚きに、私は「ふむふむ」と少女を観察。
立海のパンフレットではさすがに膝丈、ハイソックスだったけれど、実際は大分短めよね?スカート。
ハイソックスは紺色学校指定外だし。
思わず「たるんどる」という真田君の厳格な声が聞こえてきてしまいそうになる。
――いけない、いけない。
でも、こうみるとこの学校の方がやはりある程度校則がしっかりしていていいと思う。
うまく調整できる程度だし、スカートだって膝上五センチまでOKなんだからセンスいいって。
だって、この制服、これ以上あげるとバランス悪いし。
デザイン次第でしょ、こういうの、氷帝は自由すぎたのよ……。
などと適度な学級委員体質の私は感慨深く思っていて――。
だから唐突にいわれたとき、最早何がなんだか分からなかった。
「私、好きなんです」
「はい?」
* * * * * * * *
聞いてみれば何のことはない。
赤也のことが好きだとのこと。
某友人、(めちゃくちゃ名指しね)あたり、本人に言えばいいのにって言いそうだったが、私は当然黙って聞いていた。
正直何言ってるのかよく理解してなかったのだが、後で考えてみれば問題ない。
これが朝の体験談だ。
以上、終了。
でもね、少し面白くないのは私が何故にわざわざ【関係ない赤也】なぞのせいで、巻き込まれなきゃならないのかということ。
ああ、面白くない。
「」
「はい?」
何、真田君?
急に……。
「消しゴム落としたぞ」
「あ、ごめん」
本命の前ではこんな恥ずかしいことになるし。
それもこれもあの馬鹿のせいだ。(八つ当たり上等)
* * * * * * *
昼は大抵仲のいい女の子たちと食べる。
転入以来不安だったが、よく考えれば前も結構女の子たちと一緒のグループに上手く混じっていたから簡単だった。
え?その例の友人はどうしたかって?
彼女は昼は男友達と一緒にいたし。
「どうよ?」と思わなくもないが、あの人を見てしまえば納得する。
基本的にあれは間違って女に生まれてきたのだよ。
周囲の連中も彼女を友達として大切にしているのが分かったから、時折一緒に食べもするがいつもはお邪魔しなかった。……と閑話休題。(=*リアドリ 氷帝の方の過去)
「ねえねえ、。朝、なんか一年のアイドルに呼び出されたんだって?」
「え?」
やっぱりアイドルなんだ。
ベタな……。
氷帝にはそんなのいなかったぞ?
跡部はすごい人気だったけど別の世界の人だし。
「そうそう。何があったの?やっぱ切原君がらみ?」
「………」
『女の噂好きには辟易するね。だから私、楽な方選んでんの』
――と、思わず友人の格言が頭によぎるけど……。
まあ、そこはそれ。
こういうのは苦手でも、本当のことを言うまでだ。
「いや、だって、私、赤也と付き合ってなんかないし」
「でも、切原君、のことすっごく好きじゃない?」
「反応を見て楽しんでる節があるにしても、かなりマジじゃない?」
「そうそう!」
「……」
反応を見て楽しんでるのは――悔しいけどあたりだと思われ。
でもそれ以上じゃないと断言したい。
うーん……やっぱりなんだかなぁ。
女の子のこういう話題は苦手です。
こういうの、無い方がいい。
火種は断ち切るべし。
というわけで、私は意を決して、赤也にいうことにした。
つまりあれだ。
女を私にけしかけるなと。
――あいつ、一体彼女たちになんていったんだ?
そう、実はこのランチタイム前(移動教室帰り)にも数件あったのだ。
同じようなことをいいに来る少女達。
中には同世代もいて、やりづらいことこの上なかった。
* * * * * * * *
クラスを尋ねようとも思ったが(昼、時間あったし)やはり出来るはずも無くて、結局放課後。
でもって、テニスコート。
「今日の応援もみなさんスゴイですね」
コートの周囲は人だらけだった氷帝ほどではないが、それなりに人手がいる。
みんな暇なのねと思わなくもない。
でも実際……
「「真田君、格好いいわ」とは言う」
「うえっ」
水のみ場だったんだ。
そりゃ来るわね。
「先輩、何変な声だしてんの?」
背の高いお釈迦様――に似てると今始めて気づいたわ、柳――の後ろ、ひょっこり顔を出したのは噂のアイツ。
弟そっくり切原赤也。(そういえば弟よりは年上?)
「いきなり出て来るんだもん」
「弦一郎なら残念ながらここには来ない。向こうの水場の方が好みでな。それに飲み物は持参している」
「そうなの?」
なーんだ。残念……。
「そう。残念でした!てか、先輩!!俺に会えたんだから喜んでもいーだろ?」
「よくねー」
取りあえず飛びついてきた赤也を避けながらさり気に腕を殴る。
言葉遣いが荒くなるな。
赤也といると……。
ジェントルマン狙いでないのでいいですが、出来るだけおしとやかにいたいです。
「仲がいいな」
「柳、勝手にまとめないでよ」
「でも今朝……」
はっ。
まずい。
冗談でも、赤也に私が赤也に気があるなんて言われた日には調子にのられる。
絶対調子にのって、コイツに付きまとわれる。
スキンシップ異常=セクハラだと思うけど、どうにも弟で慣れてるせいで(ここまで酷くないし、一番下の、ヤツより三つは下の弟なんだけど)抵抗が浅くなってるからな、私……。
「今朝どうかしたんすか?」
「いや、にお前がどうやって告白を断っているのかと聞かれて」
あー言ったよ、この人。
フォローはどうする?
ともかく最初に言う言葉は……
「そう。最近、ウルサイんだけど?なんとかしてくれない?」
……じゃなくって………(これじゃ彼女の言い分でしょうが?)
付け足す。付け足す。
私は焦りながら一気に告げた。
「あんた、一体、彼女たちになんて言ってるの?私のところに告白報告がくるんですけど」
「告白報告?」
柳の眉がぴくりと動いた。
「そう」
そうなのだ。
最初の子もしかり、次の子も。
ここに来る直前の子も。
みんな口をそろえて言うのだ。
「『赤也君のこと好きなんです』って、わざわざ私に言いに来るのよ」
赤也はニヤリとした。
やっぱり何か知ってるわね。
もうどうでもいいけど。
「で?なんてかえしたの?」
「それは俺もデータとして興味があるな」
はいはい。
どうせ答えなきゃ聞き続けるんだよなぁ。この二人。
最近私の中ではしつこさには定評があるお二方はさり気なく私の退路を塞いでいた。
手を洗いがてらとはいえ、どの道赤也には質問するつもりで来たし……これで答えが知れるのならばいいか。
私はあっさり答えを言った。
「そうですか」
「で?なんていったんだよ?」
「だから『そうですか』とだけ」
だってそうじゃない?
別に好きな人でもないし、赤也とは付き合ってないし(付き合いたいとも思わない!!)、他人がどう思おうが人の好き好きだし(そりゃ趣味が悪いとは思うけれど)。
「柳?」
柳が肩を震わせていた。
ん?
まてよ?
笑ってるのか?
不本意なので私は頬をむくらせた。
多分、微妙な表情になっていると思う。
でも赤也はそれもお構い無しに
「アッハハハハッ」
笑い出した。
「やっべ、可笑しすぎるって!さっすが先輩」
爆笑されなくても。
別の解答を考えてみればはっきりするのに。
「はりあいないだろうな」
柳は少しだけ顔をゆがませて言う。
多分、この人笑いを堪えてるのだろう。
そう思うとすごくむかつくんですけど?
「それで赤也は一体なんて答えたのよ?」
むっとしたまま聞くと、「あのな、それ、もう俺に振られた後だよ」と赤也は答えた。
「え?」
ワケがわかりません。
だって、そしたらわざわざ私に言う理由がますますないじゃないか。
「そうなのよね、どうにも宣戦布告という感じではないような気が――」
「いや立派な布告だろうが」
とは柳の弁。
「だって自分から来るやつなんておもしろくねーじゃん」
「だからさっさとふったの?」
「そ」
それって結構酷いとおもうんだけど……。
どうなんだろう?
まあ面白い、面白くないで恋愛するようなこの馬鹿に惚れた女の子たちに同情しつつ、君たちは見る目がなかったねと正直に言うけれど。
「酷いが真理だな」
柳が言うと妙に重みを持つのが嫌だ。
「モテる男限定でしょう?」
それに真田君は違うんだから!
そう思ったらすぐさま横から、
「弦一郎は鈍いから気づかないだけだ」
同じなんかい!
聞いたら「ああ」とか言われそうだから、口答えはやめておくことにする。
「そう、そう。真田さんは先輩の気持ちにもきづかねーじゃん?」
「一言多すぎ」
思うんだけどこいつ、私のこと嫌いだよね、実は。
ああ、そうか……。
私がこいつのこと好きじゃないから(自分からよっていかないから)好きなのか。
うわっ、最悪。
でも、そんな話、すごく近しい友人から聞いたことがあるような気がしなくもないけど……。(赤也とは仲悪そうだな、あの人)
「何、考えてんの?」
「あんたのこと以外」
「先輩って意外に馬鹿だよな」
「ああ」
失礼なやつ。
言い返そうとしたら、
「避けられるともえるデショ?」
すぐさま言われ硬直する。
避けちゃ駄目ってことは……
ここは無視すべきなのか?
じゃ避けなかったら――と、聞こうと思って赤也の方をむいたら聞くより先に読まれてた。
「こうする」
くっつくと逃げると知ってるからか、空間からのいきなりのキス。
さすがに唇は逃れたけど(多分真面目に絶好するのはそこだけだと知ってるんだ、こいつ……)
――やられた……。
反射で殴ろうとした腕を取って、柳が言う。
「ここまで分かりやすいとつまらなくはないのか?」
私のコントロールが悪いんじゃなくて、赤也の逃げ足が早かったのだ。
とばっちりをうけて、柳がくらうのは忍びない(強力だと自覚する程度の力をこめてたし)から、いいのだが。
「意外性ねらうのなんて柳先輩くらいっすよ。それに俺は先輩のマジな反応が好きだしね」
真剣に頭にきた私はバッグを遠心力でそちらに軽く流した。
「マジに怒った反応ね。それなら遠慮せずみせてあげるわよ」
避けなくても同じなら、結局私らしくしてるほかないわけだから。
赤也はムカつく顔で、嬉しそうに笑って避けてから、調子に乗りすぎてあたって「ひでー」とちょっとだけ拗ねた顔をした。
ガキか?お前は――。
柳を見たら、呆れたようなほっとしたような妙なため息をつかれた。
あっ………私のレベルも低下してるのか?
* * * * *
「好きです」っていう女の子。
「自分で言えば?」と某友達は(自由主義主張して)あっさりいうだろう。
私は次からこういいたい。
「頑張ってください」
とばっちりはもうたくさんです。
自由主義でなく、赤也押し付け主義に移行決定。
*なんだか柳、可笑しな人に……しかも出張りすぎ・汗
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