◇ 本当のところ、マジになれてる   ◇  WD遅れSS 【赤也編】

「先輩!」と俺は笑ってとびついて、
 あの人が殴るのが嬉しくてそのまま攻撃を食らう。
 (本気で痛そうなら避けるのはお約束だけど)
  
 ――こういうのもマゾっていうの?

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 先輩は真田副部長のクラスのクラス委員で、なかなかいい拳の持ちぬ――じゃなかった、きちんとした姿勢の綺麗な女。
 女くさくないサバサバした性格がなんでか真田さんの前だと純情可憐乙女(死語?)なあたりムカつくけど、先輩の場合可愛い子ぶってんじゃなくて単純に照れてるってわかるし、そんなところも実は好感度高い。(ぜってー他の連中には見せたくない)
 つまるところ、俺(切原赤也)的にはグレイトな人材ってわけっス。

「それで?……よく耐えたな」

 柳先輩が言う。
 今日はホワイトデーというやつで、先輩はバレンタインに部員達にチョコレート(がわりのおせんべ)をまいた。
 其のお礼にいく役目を、珍しく俺は譲ったわけだ。
 だってさ仕方ねーじゃん?

が真田さんのこと好きなのは事実なんだし」

「譲るなんて珍しいな」

「……ちがうっす。部活のくらいこだわってたら負けるッショ?」

 俺はそんくらい返させてやんで。
 強がりを言いたくても、
 柳先輩は意地悪そうに見透かして

「自信があるんだな」

 と先回りした。
 この人、ぜってーしってるに決まってんだぜ?
 浮かぶ微笑が挑発的に見えたが、俺は出来るだけ落ち着いてみせた(ん?見えるよな?)

「そうした方が喜ぶし。ほくほくしてるヤツのが落としやすいんすよ」

「確率的には逆だが?」

「ダーっ!もうっ!けど仕方ないじゃないっすか」

 あの人は真田さんのこと憧れてんだから。
 あの女はムカつくくらい純粋に……。

 俺のむくれた表情に、先輩は付け足す。

「でも憧れと恋は別だろう」

 知ってんにきまってる。
 俺は偉そうな言葉で精一杯告げるだけ。

「だからその差くらい俺が教えてやるって」

「なるほど」

 ああ、相変わらず見透かした笑い。
 嫌いじゃないっすけどね。

「まあ頑張れ」

「いわれなくとも」

 余計なお世話。
 余裕ないから俺はすぐにイライラして、柳先輩相手だから何もできねー(するきもしねー)けど、大人しく退散するつもりも元々なくて……。

「まあ、見てて下さいよ」

 言ってから痛烈に後悔した。
 期限つけてないからよかったけど。

 喜んでる今日、あの女が俺に何かしてくれるとは思えない。
 先月のココアのこと自体きっと忘れてるんだろうね(てか、「人生の汚点」とか後悔の余りに誰もいない部屋でののしってそうなイメージだな、あの女……)
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 当然のように時間はすぎて、俺は放課後までと遭遇しなかった。
 先輩以外にはあんま知られてない存在だから、クラスの話題やら友人の話には名前すら出てきてない。
 あーなんかタルい。

 で、ようやく捕まえたあの女は予想通りすっげー嬉しそうでやんの。

「あ、赤也、いたの?」

「……つか、その手のもの、真田さんっすか?」

 知ってるんだけどな。
 選んだのは俺だから。
 オーソドックスだけど包みが可愛いホワイトチョコ。
 先月、本当はお返しってクッキーのがうまいじゃない?とか言ってた癖に絶対喜んでるはず。
 この女、こういう【行事】っぽいの潜在的に、好きなはず。
 そらへん、思考が女の子だから。

「うん」

 と、彼女は素直に答えた。

 ――うわ ムカつく。
 
 いつもなら「関係ないでしょ」とかさっさと素通りする女がなんでこんなに簡単に笑ってんだよ。
 俺はイライラした。

「何おこってんのよ?」

「怒ってなんかないっす」

「嘘つき。顔が怖い。……目はれてる……充血してんじゃない?」

 ああ。わかってんだって。
 ンなの俺にも。

「おこってねーっていってんだろ?」

 声を荒げたら先輩はびびって、口を閉じた。
 不本意そうに表情をゆがめて顔を背けたが、すぐに視線を感じた。

 ――まだなんかあんのかよ?

 俺はそっちを見て、絶句。

 ――それ、ズルイって。
 確信犯じゃねーの?
 すげぇ心配されてんの。
 うわ、単純。
 さっきまでの腹立たしさが一気に削れてく。
 しかもこの女(と書いてアマと読ませたい)、むっとした顔のまま、とんでもないことを言い出した。

「何よ、これ赤也の分も入ってるんでしょ?そんなに渡すのいやだったの?」

 おい……
 まてよ。

「だから【お返し】。真田君が言ってたの、赤也の提案だって。」

「……あの人は……」

「もうガキの癖に気をつかってんじゃないわよ」

 先輩は何も知らず、今度はむくれた「ふり」をした。
 違いは明白。
 少しだけ赤い頬が可愛い。

「……でも……もらえて嬉しかったのよ。ありがとう」

「可愛いこといわないでもらえないっすか?」

「は?」

 ――奪いたくなるから。
 けれど、今日は暴走しない自信がある。
 先ほどまでのイライラの反動で、何だか素直に喜んでいい気もする。
 嫌われてねーじゃん、俺。
 調子に乗ったら、やっぱり殴られた。
 (いいパンチだな先輩。俺ボクシングする気ないっすよ?)

「でも先輩。俺が言わなくてもきっと真田先輩は義理堅いから『たるんどる』とかいいつつもホワイトデーのお返しくれると思うんすけど?部代表として」

 こないだって幸村さんいなかったし、あの人俺からみても怖いくらい冷たい(抜けてるだけなのか?アレ?)からお返しなんて考えないから。
 なんだかんだでそうなったはずだ。
 俺さえ立候補しなきゃ結局真田副部長の役割なんだ。
 俺に感謝するいわれなんてねーんだよ、先輩。

「さあ?」

 どっちにしろもらえたんだから結果オーライとは笑った。

「なら――」

 俺は少しだけマジになって言ってみた。

「俺のも貰ってよ」

 持ってた飴を手に押し込んで、

「邪魔なの押し付けただけでしょ?」

 訝しげに言うに「さあ?どうっすかね」とやり返した。
(すぐに殴られるけど)
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 ばーかマジになってるなんて誰が言えるかっつーの。
 格好悪ぃだろ、今は。
 本当んとこ、結構マジなんすけどね。



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