「立海(ここ)に編入出来たってことは頭いいんでしよ!?」
テスト前、自習に煮詰まってたは斜め前の席に身を乗り出した。
面倒だ――顔に書いてる同級生は外国人編入枠で去年同じクラスに入ってきたジャッカル桑原(14)である。
ちなみに手元にはよく纏められていそうなノート。
ここからもびっしり文字が埋まっているところを見ると、意外と細かい性格なのかもしれない。
「おい、。お前も受験に受かってここに入ったんだろ?」
そのノートを防御しながら、ジャッカルはクールに答えた。
――いつもならもう少し優しいのに。ちぇっ。
は思うが、ここで引き下がる性格でもない。
「ケチくさいこと言わないでよ!テストのヤマくらい教えてくれてもいいじゃん!」
バシバシとジャッカルを叩く。
――うーん。すべすべ……。
言うまでもなくスキンヘッドへの感想だ。
見かけほどいい音がしないのは(*注意*連想されるのは太鼓というかポンゴというか……ともかく南米の打楽器)、ちょっと残念だがそれでも抵抗がないのは嬉しい。
実態は単に慣れられてしまってるせいなのだが、まあいっかと受け流すである。
「柳とか真田に聞けばいいだろ」
「聞けるもんなら聞き出してるわよ、あんたなんざに頼らずに」
当然評価は其方の方が上だが、設定も何もなかった。
柳とは委員会が一緒だったこともあるが気やすさにかける。
その点はジャッカルが最良だと認めてもいい。
――ビジュアル的には落ちるけどね。
面食いなはそう思いながら、別の面子を思い浮かべ、ジャッカルはジャッカルで、
「柳生…」
次の候補(とかいて生贄と読む)を上げた。
「『いい問題集なら教えてさしあげましょう』ってその後勉強というものの定理について説教くらうっつの」
「仁王」
「土佐弁がいけすかん」
にべもなく却下。
「俺も少しは訛ってるぜ?」と彼は申告するが、は「私が叩き込んだ日本語に文句あるか!」と渇を入れた。
訛りなんぞ一年の時にとっくに調教済み――もとい、修正済みだ。
「ブン太でいいだろ?」
クラス近けーんだし……
付け足されるとそうかもしれないが、は即答。
「自分より出来ない奴に聞いてどうするよ、大体金かかる」
「はぁ?金?」
「食い物をやらんとあかん」
――可愛いものは好きだけど、わたしゃ金が好きだ。
そして、ジャッカルほどの気安さはやっぱりブン太にはもてていない。
そんなに、「なんで関西弁なんだ!?」と、腑に落ちない様子を見せながらも、ジャッカルは抵抗する。
……無駄だと知りながら。
「つかいい加減、ヤマとか言ってないで真面目に勉強しろ!!毎回毎回」
「面倒臭いことと無駄なことはしない質なの」
言いきって、ジャッカルより上手を行く彼女は彼の目の前に手を出した。
懲りてない様子で、にぱっと笑う。
「いいからヤマを書いて、ちょーだい♪」
「自分で書きとる気もないのかよっ!!」
怒鳴りっぱなしだったせいか、疲れきったジャッカルは諦めたように何かを書き出した。
念入りにかきとった秘蔵のノートを見ながら、丁寧にさささっと数行の項目を作って……
「さすがは私のジャッカル!役にたつなぁ」
「俺は下僕か!?」
叫んでるジャッカルを気にせずは手元の漫画を読み出している。
ジャッカル…あぁ虚しきかな人生…
数分後、ふとは顔を上げた。
「カルカルはテニスプレイヤーになるのかえ?」
「喧嘩売ってるのか、ヤマがいらないってことを言いたいのか?」
「可愛くない君にせめて可愛い名前をと思ったのに…じゃぁジャルジャルがいい?日本航空のまわしもんか広告塔みたいだけど」
「つけんでいい、つけんで」
ジャッカルは心の中で呟いた。
――……こんな奴が赤点取らずにやっていけてるんだもんな……赤点の奴はどんな馬鹿だ?
「で、テニスプレイヤーになるの?」
「何だよ急に」
「進路希望調査書が挟まっといたがな」
「締め切りは先々週だぞ」
ジャッカルは無意識に手を止めて溜め息をついた。
「そう書いてあるね、今更出しても仕方ないからいいや…」
「書けよ、素直に」
「何書けばいい?」
……沈黙(Not 羊たち's)
なんとなく気まずさと阿呆らしさが漂った。
「自分で考えろ」
ここでジャッカルが心から欲しいと思った物。
@ハリセン
Aハリセン
B馬鹿に付ける薬
全てだが、ソレを持っていたところで無駄だとも知ってる哀しき性格である。
ジャッカルの最大の弱点はイイ人だということだ。
「あー!」
物凄い勢いで指されたジャッカルは動揺して、
「なっ何だよ」
と、返すが、
「ヤマを書く手が止まってるよ日本航空!!」
注意され、定着しつつあるネタにがっくりと首を落とした。
……ブラジル空港のほうが性質がいいと思うぜ?
言うと変名されそうだから、決して口にはしないのだけれど。
「あぁはいはい書きますよ」
いつもどおりの光景だ。
進路希望調査書なんぞなかったように、は再び漫画を読みはじめている。
クラスメートは何となく声をかけづらい漫才コンビを静かに眺めている。
乱入者は「食べ物くれろ人間@ブン太」くらいのものだが、今は自習時間、隣のクラスは授業中である。
「決めた!!」
突然の声かけにもそろそろなじんでいるジャッカルは手を動かしながら(止めると真田並みのパンチが飛んでくると予測済み)
「あぁ?漫画家にでもなんのか?」
「ジャッカル!!」
大真面目にシャウトする――どんなんだよと思うがそうとしか表現しようもない――にジャッカルは首をかしげた。
目が座っている。
正直なところ、怖かったのだが、そうとも言えず、びくびくしながら聞き返す。
「何だよ」
「お嫁さんにしろっ!」
「…なっ!?」
……何で命令形なんだよ!……と思うも、声が出ないのはその言葉の意味が理解できてしまったからだったりする。
目と目で一瞬、通じあってしまっていた。
ジャッカルはすぐさま「いや、こいつが俺を好きだってのはありえねーし」と冷静に思ったわけで、はで、
――勘違いなんてしないだろ?今更……。
そう頭の中で計算しているのだからいい勝負というか、似たもの同士というか……。
「その漫画をどう読んだらそうなるんだよ!せいぜい海賊かコック止まりだろ!!」
――海賊っていわれても困ると思うぞ?
は妙に冷めたが、それでも決心は変わらない。
「決めたのよ!!『石油王に俺はなる!!』」
沈黙―……
「…大丈夫か?頭」
むしろ、国が間違ってる――とジャッカルは嘆いている。
――というか、俺の故郷しってるのか?コイツ?……一応それなりに日本の血もまざってんだぜ?
切なくなるジャッカルである。
「赤也が言ってたのよ!ジャッカル家は石油王で金持ちなんでしょ?だから金持ちに永久就職決定!」
「金持ちになのかよ!!」
いいや、オヤジは無職だが、確かに金がなきゃこんな学校は入れないわけだ。
あながち間違えでもないが、基本的に中学生なんぞ自宅の状況を半分程度しか理解していない。
ことに中産階級のジャッカルはそうだった。
……この時点で既に大金持ち路線からは外れているのだが、否定する暇もなく、そこまで詳しく実家の財政――ひいてはあっちにいる一族の財政までは知れない。
「養女にしてくれるように頼んでくれてもいいよ?」
ジャッカルは肩をおとした。
「俺、こいつとは離れられないような気がする」
そう呟いたのはナイショである。
は気づかないが、なんとなく「それでもいっかなぁ」と思ってたりする。
――ジャッカル楽だし。
どこかずれてるから、やっぱり「そうはならない」気持ちもあるのだが。
「ところで君、書き終ったの?ヤマ」
「は?」
「早く書いてよー。この続き家に置いてきちゃったんだから」
「あぁはいはい書かせていただきますよ」
こうしてジャッカル桑原の楽しい(?)一日は過ぎていく。
多分ずっと……
数年、数十年ずっと……
は
「真田とか柳とかの格好いいのに、なんでジャッカルに頼むんだろーね?」
とか本人に聞いて、
「俺がききてーよ」
とか呆れられてるのだが……
ノーリーズン
運命ってやつは、望んだ方にはいかないものなのだ。
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