「そろそろ授業だから……」
ねえ起きて?
何とか寝そべる彼を起そうと試みるが「むにゃ」とか「ねみぃ、おめぇもうちょっとねかせろぃ……ろぃ?……」とか謎の言葉を呟いて、また夢の世界に行ってしまう。
スースー……
気持ち良さそうな寝息。
BGMにチャイムの音さえなければ、このまま居たい位だ。
天気はいいし、窓から流れ込む風も快適。
屋上というベタなばしょは避けて、敢えて図書館のお昼寝――屋内だけれど、日差しが心地よい加減で最高のシチュエーションだった。
オマケに授業開始とあって、生徒も極端にいない。
まあ膝枕だったりすれば、カップルっぽさも増すかもしれないが、実際は隣の勉強机に伏せて寝ているだけだが。
「ねえ、ジロってば!」
――そろそろどうにかしないと……面倒だな……
何度もそう思って来たが、結局、今日も世話係なってる現状に、は肩を落とした。
好きだからついほだされちゃう、とまあ、そんな状況だったりするが、成績もかかっている。
しかも放課後はテニスで構ってもらえず、ジロといるのは宿題がらみだのこういうときだのだけなのだ。
それなりの仲良しさんではあるが、ジロがすきなのは飛び切り可愛い(おまけに結構計算高いがジロは分かってない!絶対そう思う!)あの子ときてる。うっすらは気づいてるからタチがわるい。ジロもジロで、恐らくの気持ちを半分は分かっているのだろうし。
――あーあ……本当面倒……。
泣きたい気持ちを無視して、本を棚に返しに立つ。――と、ジロが制服の裾を掴んでいた。
「んー……さぼる……」
―― 一人は嫌ってか?
それでも……
「あのね、私は単位が――」
「いいからサボって、も……眠いし……」
いいように使われても、わがまま言われ放題でも、この口調にどうにも弱いのだから仕方ない。男の子っぽくない可愛さだとか、よくよく見るとびっくりするくらい綺麗な寝顔に負けそうになる自分を、一番よく分かっているのだ。
「わかった……サボるから、その手、離して」
「んー……」
既に寝てるジロに言いようにされながら、やむをえずは諦めて椅子につき、教科書を広げた。
――せめて勉強しておこう。
優等生ではないかもしれないが、これで真面目なのだ。
ジロと違って。
しかし、それも今月で数回。
異変に気づくもの、理由の予想がつくものは放っておくことはなかった。
ひょんなことから状況を把握してしまったの、自称親友(@いつのまに?)は、盛大に図書館に飛び込んできた。
「!てかジロ!!寝てんだろ!」
ここだよ!と怒鳴りたくはあったが、眠そうな横の子を見て、咎める。
は困惑しながら、相手がこっちにつくのをまっていた。
勉強できるこのブースは死角である。
でも、岳人がただでは下がらない少年だということも分かっていた。
――身軽でいいなぁ。
ぴょんぴょん跳ねる姿と、ちょこっとだけ通常利用者にとって迷惑な爛漫な声に、妙な納得をして、横の少年を見比べる。
と……。
「………がく……と……」
眠りながらジロがその正体を言い当てていた。
「わかってんだったら起きたら?」
「いい。が守ってくれればいいじゃん……俺ねみぃC……」
「…………」
――これで何でいいんだろ?
分からずに、は曖昧な笑いさえも出せず、岳人に気づかれたいような、気づかれないで一生このままでいたいような気分で、息を潜めるかのようにそこに座っていた。
結局すぐに岳人に見つかって連れ戻されるのだが。
* * * * * *
そんなことが数度会って。そのたびごとに岳人にジロごと引っ張って戻られるうちに、気づけば向日岳人という、このクラスメートに事情が筒抜けになっていた。
そして――
「で?きっかけはあったのかよ?」
ジロが珍しくおきていた(イコール「一緒にいない」になってしまうのが哀しいけど、ジロとの付き合いはそういうもんだった)昼休み、偶然屋上で岳人に急に聞かれた。
「へ?何が?」
「だからジロ。、ジロのこと好きだろ?」
――否定できないけど、知られたくもないんだよな……どうしよ。
とはいえ、言わずにいるにはもうそろそろ限界……。
「認めちゃえよ。俺、誰にもいわねーって。侑士とかも言ってるけどさ、こういうのって一人で溜め込まない方がよくね?」
にこっと笑う表情は騒いでるわりに、信頼できるものにみえる。
よく考えれば、毎度律儀に自分とジロを連れ戻しに来てる辺りから考えても、彼は真面目な気質なのかもしれない。
――からかったりしないよね?
恐る恐る、口を開いた。
「……あー、何でだろ。……ジロだから、かな?」
その瞬間、はっとしたように岳人の顔が強張って見えたが、こっちの見過ごしかもしれない。
すぐに「何で好きなんだろうね」と自嘲的なことを言いたくなった自分の唇に手をあてて(といっても、セクハラにならないように「しっ」と人差し指で言葉を止めるだけなのだけれど)
「ジロだから許せちゃうっていうか……なんていうか……」
気づかなくてもいいのに気づいてくれちゃった親友(らしき)は「しかたねーのな」と口悪く笑った。
それはどうってことのないいつもの会話。
でも……
「、お前、マジに不器用な?」
――何……今……。
急な名前呼びにうろたえる。
ときおり、そういうことがなかったわけでもないが。
――大抵はジロに釣られてだったりしたし……。
にっこりした顔が妙に格好よく思えて、どきっとしている合間に、岳人は尚も心臓に悪い男らしい笑顔で、
「俺にしとけよ?」
さらりと述べた。
――なっ……。
「とか、な……」
――なんだ冗談か。
――……でも……。
「とかな」と、笑って言われてしまったのに、ヤバイかもしれない。
――どうしよう。これじゃ……
この焦燥は……。
岳人はくるりと踵を返し、特にリアクションをのぞんでいるふうでもなかった。
だが、こちらは一度覚えた鼓動がなかなか止んでくれず……
何かいわなきゃという妙な気分に、ざわつく胸を押さえてしまう。
「どうかしたのー」
タイミングよく(悪く?)寝ぼけたジロが屋上に寝に上ってきたのだけれど、それ以上に……「ジロには言うなよ」と耳元、大急ぎで付け加えられた言葉が残って仕方ない。
「お前、可愛いんだから、勿体ねーよ」
そのまま出て行く岳人を横目、
「(どきどきするなんて)冗談」
半分本気でぼやいた言葉すら
「俺は、嘘いわねーぜ」
律儀に、恐ろしいお門違いな答えできっかり返されてしまったのだ。
――それって反則じゃ……。
ジロよりもある意味で天然なのかもしれない。
たらしのような一言の衝撃に黙らされる。
「無理はすんなよ。……俺、いくけど困ったらまた来てやっから」
そういって、さり気なくジロを見た岳人に、ため息を一つ。
もしかしたらこの瞬間から運命は動き出していたのかもしれない。
どうにかしないと面倒、なものが、もう一つ増えてしまったのかもしれない、そんないつもの午後。
いち早く肌で事情を察していたジロが「なんかずるぃ」だなどとぼやいた事実を、そのときはまだ………知らなかった。
END
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