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センチメンタルな季節があって。
時折思い出したり、行き詰ったりして。
泣きたくなるほど求める人と、違う人を、差が分からない程度にメランコリックに求めたり……
それってズルイと思う?
――そんなことを、滝に聞いたら、「嘘つき」って笑われたけど。
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「なんや?滝、待っとんの?」
後ろから声をかけられたとき、心臓が飛び出るかと思った。
耳慣れた独特の言い回し。
忍足以外、いない。
この学校のテニスコートで見学してる子に声をかける関西人なんて。
ましてや練習見学に来てるほかの女子郡なら未だしも選手内ともなれば、私もさすがにプロフィール覚えてきたし(ちょっと前まで芥川とか数人知らないのもいたけど)、断言できる。他にいない、と……。
――って、話しかけられたはいいが、そこまで仲良くなった記憶もないんだけどなぁ。
迷惑じゃないけど、迷惑な話だ。
「まあ、そんなところ」
複雑な気分で声を返し、
振り向いたら案の定彼で、しかもにやっと笑った顔があって、どうしていいのか分からなくなる。
喜ぶべきかもしれないけど、避けてきた長年の感覚がそれを許さない。
傍目には絶対気づかれないが、『困った顔』をしてそうだ。
……滝なら一発で見破るのに。
「もうじき上がるから、待ってるとええで」
曖昧に「そうしとく」と頷くと、忍足は嬉しそうにうんうんと頷いた。
しばし二人して沈黙。
コートでは日吉と誰かが軽い試合をしてる
下の学年は日吉以外知らないから分からないが、「誰だろう」と呟けば、きちんと名前が返って来て、覚える気もないのに頭の中は既にそれをインプットしようとしていた。
忍足の声付き――というか、忍足のその発音を。
「滝、まだかな……」
なのに、一方で考えてるのは別の人間のことで……
気になって仕方ない相手と一緒に盛り上がるのは、親友のはずの彼のことだったりする。
待ち遠しそうに、何度も部室の方を伺ってる自分。
『今更ながらそれに気づくのもどうよ?』
……思わないでもないが、仕方ない。
そして忍足といえば――
「ええなぁ滝」
思いっきり拗ねたふりをしていた。
謎な反応はいつものことだし、適当に返す。
ちょこっと日吉の真似。
「はぁ」
気もなく頷いたら、
「そない、気にしてもらえるってええわ」
いわゆる【訳知り顔】でこちらを覗かれた。
滝と私が一緒にいるのは毎度のことだし、そろそろ誤解も何もないとは思う。
うーん。でも、複雑?
実のところ、ショックを受けなかった自分が一番分からない。
ちょっとムッとはしたけど、それも『滝と私の何がわかるんだ?』というワケのわからん論旨。
でも、少しだけ悔しいのは、当人を目の前にいえないながら『君もしっかり気にかけてるのに』っていう気持ちがあること。
それにしても何で平気なんだろ、私。
泣きそうなくらいドキドキする反面、滝を思うと落ち着けてしまう自分が嫌だ。
ああ、マズイ。
また繰り返しそう……あのときみたいに。
* * * * * * * *
しばらくすると忍足は呼ばれてコートに戻り、やつの言うとおり代わりに滝が戻ってきた。
制服に着替えた滝は部室の裏手から出てきた。
なんで、それを知ってるかというと、私が待ちきれず動いたからです。
……忍足と話したせいで女の子の目痛かったしね。
そのあとで日吉にエール送ったら、珍しく「馬鹿ですか?」とか声を返されて、またも噂が広がるしね(確かめるまでもない。まあカモフラージュついでに、日吉と話せて嬉しかったから、これも自業自得)
とかく他の女の子らと見学に出向いたわけでないから、常に自由がきくのよ。
滝の行動なんてお見通し。
私から逃げるなぞ百年早い!
(今更逃亡なんて面倒なこと、思いつく滝じゃないけど。――……ヤツは時折タイミングよく先に帰るんだ……偶然って分かってても切ない)
必死に追おうと思っていたら、滝に先手を打たれた。
「、来てたの?」
「うん」
――……というか、滝君。
君がわざわざ話しかけてくるってことはさっきの会話見てたんじゃないかね?
そうも思うが悔しいので言わない。
単に、ここまで来た友人に声かけず通り過ぎるという選択肢がない、と思って、話しかけてきたのかもしれないし。
結論。
……ま、滝がいればいいや。
気持ちを切り替える。
「どうかした?」
「ううん。私は誰が好きなのかなぁと思って」
「俺に聞かれてもねぇ」
滝はのんびり言って、笑った。
それから小さい声でこっそり、
「なんで、忍足なんかにしちゃったんだろうな」
こっちが言いたい台詞を取って、肩を軽く叩いた。
「ずるっ。ソレ、反則。私まだ答えだしてない」
言ってみて止まったのは滝が困った顔をしたからだと思う。
ほんの、一瞬なんだけど、眉宇が潜められた。
いつもみたいに「滝も好きだから」って言えばいいのに、言えなくなった私は
「滝に言われたくない」
と、辛うじて一言。
何故だろう。
うまくいえないけど、今日は言い訳したくない気持ちだったのだ。
冷やかされたのが滝のことだったから、忍足相手でも許せたのだ――そう思う。
鞄を持ち替えている隙に、
「そうだね」
声がふって、見上げたら大人びた笑みを浮かべる滝がいた。
少しだけ忍足に似てる雰囲気の顔。
目を奪われてたら、そこからいたずらっ子みたいな目が覗く。
「言い訳にしてもいいから、あんまり誘わないように」
時々日吉と被るのはこの辺の表情で――でも滝の場合滅多に見られないから結構好きだったりする。
「馬鹿」
誘われたのはどちら?
分からないけれど、刹那、小突く滝の腕を取って、無性にキスしたくなった(羽が触れるような、軽いのを)
でも、我慢。
この距離にいる滝が大切なんだ、と今なら分かる。
「好き」と本気で繰り返して、でも手に入れたいとは思えなかった何度目かの告白を思い出す。
「日吉にはしても滝にはしないって」
……ううん、したいと思う相手というなら、きっと滝のが上だ。
日吉にはするかもしれないし、実際そうしそうに何度もなってるんだど――早い話、出来てしまえそうな辺りが嘘っぽい。
【あのとき】のことはいいっこナシで通ってるから、知らんふりでいるけれどちょこっと芽生えた気持ちはまだ燻ってる。
気のない振りで私は、滝のラケットを取り上げるけど、その重さ――滝は軽々と持ってる――に異性を感じてドキッとしたり、反対に荷物が重い時軽く引き受ける様子にやられたりしてることはトップシークレットなのだ。
「日吉にする方が性質悪いだろ?どうせなら本人にしなよ」
「無理」
思うに、私が欲しい表情をくれるのは滝だけなんだよね?
忍足はそんな顔してくれないし(哀しいかな分かる)、日吉は稀少価値っちゃ稀少価値だけどそれならイッソその顔だけさせようって気になる(それじゃマズイと分かってる)。
「難易度が高い方がいいだなんて悪女の台詞?」
そう聞いたら、すぐに、
「隠し事に向かないから、は平気」
言い切られた。
きっぱりと。
何だか気が抜けて、私は軽く言い直す。
いつもどおりの台詞(ってのも変だけど)
「私は滝が好きだよ?」
今度は切なくならなかった。
うーん……どういうことだ?
「はいはい」
滝は今度こそ本当に呆れたように笑った。
これまたいつもどおり(って、やっぱり可笑しいけど)
直ぐに、横を忍足がからかい半分通りすぎて、二人して気まずくなるんだけど、それもまた運命かとこの日に限って何だか笑えてしまった。
うーん……?
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嘘つきでもいいから、そばにいたいなんて、まるで恋みたいだけど……
ちがうんだから仕方ないじゃん。
恋も友情もギリギリのバランスで、それでもどちらとも本当。
センチメンタルな季節があって。
時折思い出したり、行き詰ったりして……
泣きたくなるほど求める人と、違う人を、差が分からない程度にメランコリックに求めたり……
――ノーリーズン。これもまた現実なのです。
……理論派の君には分かり難いだろうけど。
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