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理屈でない出会いとか理屈でない気持ちとかがある。
一緒にいることが当たり前だったのに急に気恥ずかしくなったり、その逆もまたしかり。
今のところはまだわからないから答えを出さないだけなんだけど……?
* * * * * * *
「ねえ、滝。滝のこと好きなんだけど」
「あ、そう。ありがとう」
反応早っ。しかも薄い……。
いつものこととは言え、切なくなってそこでその話は終了。
付け足す言葉は、一言。
「本当だよ?」
「知ってる」
苦笑しながらも了承してくれた意味は最初とは全く違うもので、友達としてだけれどそれが嬉しいなと感じた。
特にこんな日は――。
「どうしたの?」
「うーん……何ていえばいいのやら……」
滝に促されて、私は事情を説明しはじめた。
自分で分からないことは滝に聞いてみるに限るのだ。
* * * * * *
コートで待っていれば誰かがやっかんで変な噂を流す。
「人気者は辛いね」って笑いたいところだけれど、相手は滝だから信憑性も減ったくれもないし、別に誰かに何か言われても構わないのが本音。
ただ面倒なことは事実だし、迷惑になりたいわけじゃない。
だからといって滝に誰か別の女の子捕まえて欲しいとも思えないけれど……。
「――で、だから先輩は図書館に行くんですか」
コートを横目に方向転換を図ったら日吉に捕まってしまった。
彼とも誤解されがちだし、ちょうどいいかなと事情を説明したら、呆れた顔をされてしまった。
「仕事もあるから」
慌ててつけたしたのが逆効果だったのか?
「今更なのに何を気にするんです?」
痛い質問にこちらが怯む羽目に陥る。
あー、そうですよ。
今更だわな。
うん。分かってる。
ではなんで?
「コート……今日自主練に来てた」
「ああ、忍足先輩か」
わざと抜かした主語をこうも簡単に言い当てられてしまうと複雑だ。
正しく「YES」なのだが、別に滝を待ってるとも言い切れないんだな。コレが……。
だから、日吉は気づいてないが、滝はよく私を置いて帰る。
特に約束があるわけではないから、私がいないと判断したとき(すれ違ってたり、時には確かめるのが面倒だったりで)や、忍足がいるときはそのまま一人で帰宅するのだ。
時々切ないけど、基本的には私も分かってるし、なんとも思わない。
誰を待ってんだか?って自分でも思ったりするけど、ま、本気で会いたい時は(相手が日吉でもだが)コートならず校門付近で張るしね。
「じゃ、また後で会えたらね」
「俺は今日監督と打ち合わせあるんで――」
「ん。分かってる。まあ会えたらってこと」
「滝先輩には会って行かないんですか?」
「練習中でしょ?」
別にいいよと断って、私はそのまま校舎に戻る。
日吉はいいヤツだ。
『だから利用しちゃ駄目だよ?』
滝が再三言う理由ももっとも。
だから、大人しく別れておいた。
本当は、今日は委員会遅くなるし、滝は帰ってしまう気がする(お昼休み疲れてた様子だったから間違えない)から、待ってるって言えばよかったが、そうはしたくなかった。……なんとなく。
それでたっぷり一時間半後。
案の定滝は来ず、書棚の整理を終えて下駄箱に行ったら既に靴がなかった。
やっぱり帰られたようだ。
諦めてUターンし、そのまま靴を変えていたとき、日吉とばったり出くわした。
「まだ居たんですか。俺が終るまではいないと……って滝さんは――」
「帰った」
「でも、待ってたんじゃ……」
「別に約束してないから。日吉は?今日は自転車?」
「ええ。でも置いてきますよ。明日雨だからですが」
言うと呆れたようないつもの視線を向けてくるんだが……私のためじゃない、ってことですか? いや、いちいち念など押されなくても分かってるんだが。
大したことではなかったから、並んで歩き出してしまうとすぐ忘れた。
「忍足先輩、まだ居ますよ?」
知っている。
というか、知っててしかるべきだけれど、実はあんまり興味がなかった。
あえて言えば……
「会いたくない」
それだけ。
それにしても珍しいこともあるもんだ。
日吉はソウイウ話題は避けてきたと思う。
私が無理に聞かせてしまった一度をのぞいて滅多なことでは話さない。
多分そこが滝と違う唯一の点だから。
私が日吉で安心してて、ちょっぴり距離を持ってる一ヶ所だから。
「好きじゃないんじゃないですか?」
突然日吉は言った。
立て続けにまた……
「そうじゃないって言うなら、本気になったらどうです?」
本気って何だろう。
分からない私は泣きそうな顔をしたのだと思う。
「卑怯だ」と、日吉は珍しく毒を吐いて、それから目を逸らした。
文句を言いたいのはこっちだ。
そんなことされたら、無視できない。
ソレに何より日吉に離れていかれるのは痛いと、思った。
怒ってるか聞いたところでコイツは絶対頷かない。
私は仕方なく沈黙を保つ。
「まあ俺には関係ないですが」
言い方がまた、ぐさっとくるんですが?
……そもそもどういう意図があって、そういう台詞を吐いたのかがいまいち理解できなかった。
心底不思議な顔をしてみせたが日吉はこちらを見ない。
でも、すぐにヒントをくれた。
日吉は分かりやすいところがありがたいと思う。悪いんだけどコレは本当。
私も仲良くなっちゃうと分かられやすいようだが、日吉も日吉で何だかんだポーカーフェイス出来ないたちだと思う。
もっとも、私たちの場合なまじ滝とかいう、人に表情を読ませない達人が控えてるせいであって、普通の人にはわからないのかもしれんが……。
ともあれ、むっとした顔で言うんだな。
「滝さんとの仲、疑われてんのにいいんですか?」
「あー……」
心配してくれたのか。
ありがたい……。
でもな……これはちょっとやそっとでは答えられそうになかった。
あのくらいで疑うならやっぱり上手く行かないと思うし、そもそもあの人とは上手く行かないことが前提としてある。なんていうか分かるんだからしょうがない。
君だったらよかったのに……。
「日吉とも仲良しだよ?」
ごまかし半分、本気半分で言ってそむけかけた顔をあげたら、日吉と目があった。
……滅茶苦茶機嫌悪そうだった。
* * * * * * *
「へえ、それで冷戦状態?」
「うん」
一通り話したけれど、一つだけ滝には言ってないことがある。
どうせばれてるんだし言ってもいいんだけど言いづらいことってあるもんだ。
「本当にそれだけ?」
ほら。
分かられてる。
「滝に彼女が出来たらどうするんだって聞かれた」
「やるねー。日吉に、じゃなくて、俺なんだ?」
「日吉に出来たら泣く」
「らしいね」
「その前に、なんとか落とそうとするかな……わかんないけど、嫌だ」
それは我侭だ。
縛り付ける気は本当はない。
だから言っては見ても、どんなにそのときは拗ねて見せても、きっと日吉なら〜と思う。
好きになって欲しいと思う反面、誰かと上手く言っても許せるのかもしれない。
日吉なら――。
――じゃあ滝は?
見透かしたように滝は言葉を続ける。
「答えなくていいよ。知ってるから」
「うん。絶対いや」
「聞いた」
仕方ないじゃん。
本当なんだし。
滝がいないのは嫌なんだよね。
こればかりはまだ暫く譲れなそうだ。
なんのかんのいって、滝は日吉より薄情だから好きな人が出来たら私を切り捨ててさっさとくっついちゃうんだろうなぁって思うし、そうなったら止められないと分かってるんで気は楽だけどね。
本気で好きになりたくないのが滝だ。
忍足に少しだけ似てる……
言ったら縁を切られちゃいそうなのでもう言わないが(つまり一度は言ったらしいよ、自分……。あんまり覚えていたくないけど)
「覚えてないの?言っただろ、『俺はそんな了見の狭い子選ばないよ』」
そうだった。
前に一度聞いたんだったっけ。
そのとき、そういわれたんだ。
彼女が出来たら寂しくなるといった私にあっさりと、滝は「ヤキモチで友達を遠ざけさせるようなヤツと付き合う気はないよ」って。
友人としてずっとそばに居たい気持ちを滝は分かってくれてる。
ちょっと女扱いされてなくてどうよ?と思うが、それ以上にありがたいと思ったんだ。
滝が好きなタイプなら私とも仲良くなれそうだよな。
むしろ、それでその子と共同戦線張って滝を困らせるのが密かな夢だとも言った。
それは半分だけ事実で、半分だけ嘘。
だってたぶん私は半分くらいは、滝が好きだ。ソウイウ意味で。
気づいてか気づかずか滝は――絶対知ってると思うんだよね?悔しいけど――笑って、「日吉は頭がかたいからあんまり無茶なことを言わないように」と忠告した。
「無茶は言ってない」
……会いたくないって思うのは本当だし…目が逸らせないのも嘘じゃない。
忍足はソウイウ感じ。
どこか似てて懐かしくて、苦手で、頭に来るくらいそばにいるとイライラするのに気にかかる。
好きだなんて認めたくないし認めない。
だからそのままでいて何が駄目なんだろう。
日吉もそんな私を知ってると思ってたから、今更の自体に首をかしげる。
「どうしてだろ――機嫌悪かったっぽいけど何か部活であった?」
「日吉も男の子だからね」
滝は綺麗に笑った。
さっぱり読めない滝の、それでも絶対「からかってます」と書いてある顔にむっとしたが、怒っても無駄なので諦めた。
「明日になったら忘れてるとおもう?」
「さあ。でも元に戻ってるだろ」
滝の言葉どおり、次の日には日吉はいつもどおりの日吉になってた。
* * * * * * *
理屈でないが、そばにいたい。
理屈はわからんが、好きかもしんない。
今のところはまだわからないから答えを出さない。
それで何が問題か分からないんだから仕方ない。
「滝さんのこと、どう思ってるんですか」
「好きだよ、日吉と同じくらい」
マジか分からないけど嘘にはならない。
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