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「滝、サンキュ」
渡された雑誌に○をつけると、部活仲間は飛び跳ねて喜んでる。……と言う時点で誰だかまるわかりだが、一応断わっておくと岳人だ。
どうやら、休日彼女と初デートらしい。
他の連中は先を越されたショックからまともなアドバイスをしないようで、自分にお鉢が回ってきた。
一番男前なのは岳人だし、拗ねるのはお門違いなのにねー……などと考えながら、情報を付け加える。
「学校の近くで見ない方がいいよ」
「あ、からかわれんのは平気だぜ?俺、アイツのこと本当に好きだし。別に隠してねーもん」
言い切れてしまう辺りがさり気なくもてる(が、一途な)岳人らしいと苦笑しながら訂正を入れる。
「ちがうちがう。あそこの椅子は硬いから、女の子には酷なんだよ」
無論女性ではないからその感覚はよくわからなかったが、自称『女の子の端くれ』に言わせるとそういうことだ。
「へえ。お前、本当映画詳しいのな!」
明るく言われて、ふと違和感を覚えたが一般人レベルで見ればなるほどそうなのかもしれない。
「まあ……。その映画も試写会で見たから間違えないと思うよ」
「部活終ってから急いでたのってもしかしてそれか?」
事実なので頷いておく。
本当のことを訂正する理由もないだろう。
「ま、いいけどさ、また頼むぜ!」
説明するまでもなく岳人は跳ねていってしまった。
* * * * * *
何というかここのところ、クラスの人を始め、周囲に今月のオススメ映画をきかれることが多くなった気がする。
首をかしげるのは、「自分が本当にそれなりに詳しくなってしまった理由」を認識してのことだ。
――そんなに一緒にいるつもりなかったんだけど。
思い返せば早二年。
同じクラスだった一年の頃はそこまで仲良くなかった「彼女」と今はこうして一緒の食事をするまでの仲だ(今は彼女を食堂の出口で待っているところ)
不快ではないが、それは自分でも意外な展開だった。
偶然手伝った委員会の仕事で仲良くなり――文化祭の映画準備なんかに手をつっこんでしまったものだから、妙に気に入られてしまった。
実際、自分が持っているその手の情報は全て「彼女」が握っていたものだ。
。
自称、長年の親友――あるいは、昔自分を好きだった変わり者。
影響されやすい方とは思わないが、一緒にいるうちに移っているものもある。
無意識に弄ってた携帯のストラップも、そういえばのプレゼントだった。
影響されすぎてる気がする……。
――昼まで一緒に取る必要ないか?
「うーん……」
すこし離れた方がいいかもしれない。
何か気に入らなかったわけでもないが、教室に戻ろうと振り向いたところ、
「おう、滝。また彼女待っとんのか?」
後ろから忍足に肩を叩かれた。
その、誤解染みた台詞に、確信する。
――このままはの為にもならないか。
「ううん。別に約束してないから」
「へえ」
相手は含みある声で、面白そうに言ったが気にしないに限る。
「たまには一緒にどう?」
自分から誘うと、「ま、別にええんやけど」と肯定の返事が来て、そのまま先に学食に入る流れ。たまには悪くない。素直にそう思った。
* * * * * * * *
「本当のところどうなん?」
「何が?」
「のことや」
ああ、またその話か。
――好き嫌い以前の問題なんだよね……
食券を出しながらため息を零す。
彼女が好きなのは目の前の眼鏡男だ。
誤解をといてやるいい機会かな、と思う。
――……なんでここにきてまでに構わなきゃならないんだ?
面倒だなぁと口の中で呟いて横を見やれば、Bランチの列に並びながら、忍足が首をかしげていた。
「もうやめない?」
「何?ケンカでもしたん?」
「誤解されるの、うんざりなんだよねー……」
「本当に誤解やったんか」
「そう。は好きな人いるし」
「ああ、噂は本当やったんやな」
「は?」
――噂?
いや、そんな話は聞いたことがない。
そもそも噂には絶対ならないほど彼女は忍足を避けてるから。
「ほら」
忍足はそういって、右後方を指した。
そこには――
「日吉にとられてもうたか?」
「だからそういうんじゃ――って……日吉?」
確かによく一緒に食事はするが、二人きりなんて見たことがなかった。
なら、日吉を好きになった【ふり】であればやりかねない、とは思うが、どうしてか何かに違和感を覚える。
――……あ、機嫌悪そう……。
「自分、邪魔になるから気ぃ使ったんやろ?」
「…………」
訂正する気すら怒らないとはこのことだ。
――、悪循環招いてるよ?コイツ、気付かないから……このままじゃ日吉のものにされかねないよ?
ふと、そちらを凝視したら、案の定、彼女と目があった。でも、視線はすぐに逸らされてしまう。
――……俺が居なかったからぴりぴりしてるのか。
「は日吉よりは俺の方が好きだと思うけど?」
遠めでも、拗ねてるとわかる彼女をみた途端、答えは半分無意識に口から出ていた。もちろん、残りの半分は、これで忍足の(あの二人への)誤解もとけるかもな、と思ってのこと。
忍足は妙な顔をしたけど。
「……滝、それ滅茶苦茶やで?」
「だって本当のことだし」
そうでもなければ、あっちからチラチラ覗いたり、空気が悪かったりしないだろうし。
「せやったら何でここにおんの?いいんか?放っておいて」
「たまには離れないと教育にならないだろ?」
「?」
――忍足に真っ直ぐ向かってくれれば、凄く楽だし、わざわざ阿呆な教育など必要ないけど、絶対素直には行かないからな、は。
自業自得だ。
けれど……。
――忍足と一緒に居て下手にやきもち焼かれるのもゴメンだね。
「やむを得ない」と自分に言い聞かせて、俺は忍足の腕を引っ張った。
注文したメニューがトレイにのって出てくるとすぐそちらに向かう。
「……結局一緒に食うんやん」
「悪い?」
「いや……滝って時おり、ようわからんわ。うちのぼっちゃん顔負けに強引やしね」
「後輩に迷惑かけさせるわけにいかないだろ?――ああ、確かに、跡部もそう言うかもな」
そう、もう一つの理由はそれ。
――誰彼構わず頼らせるわけにはいかないだろ?
頼るべきは忍足で、まっすぐ向き合うようになるまでは俺だと彼女は笑った。
だから……
「滝、ほんまのこと好きなんちゃう?」
「ちがう。ただの教育係だよ」
好んで引き受ける気も引き受けた気もしないが、これ以上誤解が大きくなってに泣きつかれるのはもっと面倒なのだ。
「せやって、何で焦ったん?」
「誰が?」
「滝」
「何に?」
「日吉にや」
――こっちで誤解を招いてどうするんだ?
自分に疑問符を投げつつも、「これくらい嫌がらせで許される」なんて変な納得をしてさっさとのもとに向かう。忍足は勝手についてくるだろうから誘導はしない。
それより前に彼女の方に、
「生物、長引いてた?」
声をかけ、
「「滝」先輩……」
さも当たり前に前の席に滑り込む。
日吉も驚いていたようだけど、のイライラを緩和してあげるのだから感謝されてしかるべき。何か言いたそうな顔を無視して話を続ける。
「特別棟の電波が悪いの、知ってるだろ?メール、来なかったけど?」
「え?先行っててってメールしたのに!」
案の定、は馬鹿だからこっちがかったるくなって逃げようとしてたことになんて気付かない。
「……だろうと思った。だから、諦めて先に忍足捕まえてたってわけ」
「あのな……」
呆れる忍足を尻目に、ますますむっとした日吉を牽制して――コイツも大概恋愛とも言えないと思うんだけど、面倒を一人で引き受けさせられていらついてたのと嫉妬、半々かな?――オムライスをチョイスした彼女にこっち側に置かれたスプーンを渡す。 ついでに、つれてきた責任を考えて、緊張させないよう得意の話題をふっておく。(コイツときたら【忍足】って言葉だけで、既に反応してるし)
「今朝あの映画、岳人に薦めといたよ」
「デート向けって、敢えて恋愛だの社会派だのじゃない方がいいもんね」
「ツーカーかいな……何の話や?」
「え、えっと……」
どもるが助けてほしそうな顔でみるから、
「一昨日試写会で見たヤツ。『シークレット・ウィンドウ』だっけ?」
適度にヘルプして。
「ああ、一昨日帰宅急いでたんはそのせいか?」
「そ。悪くなかったよ?」
ねえと、彼女にふれば、映画好き同士会話もしやすいし。
「そうそう、やっぱりジョニデは曲者役が似合ってるし、原作がキングなのに外すわけがないわよね。欲を言えば……(以下ENDLESS)」
「せやけど、それいうたら同時期にやっとったアッチのが気になんねん」
「俺、それなら見ました」
うまい具合で日吉も混ざった。
「おう、日吉もか」
「あっ、私が二回目行きたくて無理やりひきずってたの」
「へえ。一度目は滝といったんか……」
そうして食べ終わるまで可笑しな組み合わせながら、それなりに盛り上がったような気がする。
ま、こっちとしてはどうでもいいんだけど。
その後、昼休みは例によって図書室に行き、仕事する日吉と(二人は図書委員だ)を尻目に、忍足と宿題の答え合わせ。
もう日吉疑惑はなくなっただろうし、たまのお節介を終えてのんびりしていたが……。
日吉のやつ、「アンタ何やってんですか?」だって。
「あれじゃ忍足さん、ますます誤解しますよ?」
――それはないだろ。
珍しく誤解が広がらないように務めてみたわけで、忍足ともそれなりに会話させられたし、サービスしすぎなくらいだ。
だけれど、チャイムがなって分かれる間際、忍足に「意外やったわ」と笑われた。
「何が?」
「自覚しとらんのか」
「それって微妙に誤解をはらんでないかな?」
「ちゃうで。世話焼いとる滝って珍しい思っただけや」
きっとあのお節介体質にまで、感染したんだろう(暫定的とはいえ)。確かにいつもなら放っておくところで取り持つようなことをした記憶がある。
誤解は解こうと一言、
「ただ我がままの限界値(リミット)を試してみたくなったんだよ」
適当にお茶を濁しては見たが……。
――あのコメントはどうとるべきだろうね。
クラスに入るまで、からかわれるでもなく納得したように頷く忍足に、異様なまでの居心地の悪さを感じていて……
「やっぱり少し距離を置いておきたいかな」
言った途端、
「それは無理そうやで」
なんてしたり顔で笑われた。
――やっぱり少し離れた方が……
(以下ENDLESS)
END
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