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自分のためのつもりだったり、本当にそうだったりしても……
慣れってやつは恐ろしい。
理由なんて本当にないのに……
* * * * * * *
電話が鳴ったときから嫌な予感はしてた。
行列に並んだまま、慌てて携帯を探す。
ぴっ
「――………分かった。仕方ないね。ん……まあ楽しかったら二回は見るし……今度ね……」
ドタキャン
――というやつですか?
そうですか……
試写会は二人で一組。選んだ相手は来られないといってきた。
「うーむ……」
向こう口、滝の声が「お見通し」と示しているようで悔しいから、明るく締めくくってからため息。
――滝のことだ。
かえって、強がりだと思ってるんだろうな。
確かにちょっとは……ううん、大分寂しい。
試写会(映画)は勿論楽しみだったけど、それ以上に久々に一緒に出かけられることの方のが楽しみだったりして――まあ、そんなこというと爆笑されるから言わないけど、そういうこと。
ここのところ練習、長引いているし、実際仕方ないんだよね。
滝は今が頑張り時だ。
それを見誤らないから私も滝が好きなんだから(どういう種類の愛情かはひとまず避けておくにしろ)
「はて……」
どうしたものか。
実際、拗ねてる可愛い性格ではない。
頭の切り替えは自分でも驚くほど早い。既に計算は出来ていた。
今日は練習が早く終わるらしい二年生組……ここから家までの距離がごくごく近いとくれば……。もう分かりきってるが、あっちが駄目ならこっちというのも何だか気が引ける。
……って私はそんな可愛いキャラでもないか……。
ええい、ままよ!
それでも少しだけ遠慮して(あるいは傷つかないように配慮して)電話はかけず、メールにしておいた。
文面は至急呼び出し=お誘いで、相手は当然のごとく――
* * * * * * * *
「それで?……何泣きそうな顔してるんですか、先輩は」
「別に」
「どうせ大方、誰も捕まらなかったんでしょう。この映画じゃ」
俯き気味のこちらに淡々と述べるのは後輩、日吉若殿(殿が付けたいほど偉そうなのは気のせいでないはずなのに、この間クラスメイトに大人しい下僕を飼ってるんだねなどとにこやかに笑われた)
ところで――滝は話してないのか?
今日の先約が誰だか分かっていない様子の日吉に戸惑う。
気分よくいてもらいたいし、ピンチヒッターより最初からと思わせておいた方が戸思わなくもないが、それはそれ。多少複雑だ。
今からでも一応話しておくべきかなとも思う。でも、日吉を見たらやめておいた方がいい気がして、私は慌てて口を噤んだ。
何ていうか……
「もしかして日吉、この映画好き?」
「いや、B級映画だからまさか滝さんを誘うわけにも……と思っただけです」
なんだ違うのか。
それよりも、むしろ、その馬鹿映画の前作を滝が腹を抱えて笑っていたと知ったらどうなるんだろう。
凍りつきそう……?
やっぱり言うのは止めておいた方がいいかもしれない。
ついでに言っちゃうと、ああいう滝を知っているのはやっぱり特別なんだと思い知らされる反面……なんか秘密にしておきたくもなるのだ。
言わないのもばれたときが……とまるで浮気のようなことを考えてもみたが、別につきあっていないわけで、さらに言えば私のズルさなどトックに知ってていいはずだ。スルーすることにする
が…………。
「………」
「………」
黙っていたら不自然な沈黙が落ちた。
これは最初にいっておくべきだった?
「あの人は映画のえり好みはしないみたいですね」
「……ごめん」
素直に吐きますか。
折角いい映画見るのにこれ以上不機嫌になられても困る。
特にこれ、ギャグだしね。
最近気付いたが日吉は自分だけが知らないことが大嫌いみたいなのだ。
「本当は滝を誘っただけど、補強練習があるって急遽蹴られちゃったの」
呆れられてる?
横をみやると、日吉は、何やら考え込んでいる模様だ。
それから徐にこちらを見た。
無表情の中に、ちょっとだけ呆れがまざるこの視線……
怖くはないが、むしろそれに段々慣れてきてる自分が痛いわ。
だって、なんだかんだで日吉は……
「仕方ないですね」
ほら、付き合ってるくれるのだ。
「ありがとう。さすがはヒヨ」
人がいい。
彼は懐いたものを放っておけないところがある。
滝もそう。
でも滝はいい意味でも悪い意味でも薄情だから、ちょっと違うんだけど。
「別にいいですけど、忍足先輩も映画はす――」
「こういうんじゃないでしょ?」
あの人が好きなのは確かラブロマンス。小さい劇場のなら好きだが私はあんまり得意じゃない類なのだ。こういう馬鹿映画の対極にあるし。
「確かに」
日吉が力強く頷く。
正しい。正しいけど……ここで持ち出すべきものでないと思うのは何でだろう。それに別に当たったのがラブロマンスでも、多分あの人の顔は浮かばないと思う。
「こんなのばっかり選んでいると滝さんにも呆れられますよ」
「……いや、それはないから」
だから好きなんだって、滝は。
主張するべきかな。
そうこう別のことにまた気をとられるうちに列が進み始めてしまった。
* * * * * * *
ロビーを通り、列は大きなホールに入る。
今日の会場はこの手のイベントでは最大級だ。最高収容人数4000人と書いてあったし、マスコミのプレミアも入っているから規模はかなりデカイ。
「それにしても何時間前から並んでたんですか?」
「貸してください」
そう言って私から入場整理券を受け取った日吉は、掠めた指の冷たさにビックリしていた。
ちょっと呆れられた……?
滝ならまた?と苦笑しながら、もう注意もしないんだけど。
「風邪ひきますよ」
そういった日吉の視線は少し優しくて、珍しいものを見させてもらったような感じ。
一年も前なら、滝も同じだったかもしれないが、もう覚えてない。
今いるのは日吉で、不満どころかそれはそれでワクワクしてるのに、そういう気遣いはこそばゆい気分になるからな……なんだか苦手。居心地が悪い。
「学校終わってすぐだよ」
答えつつ、なんとなく目を逸らす。
半分怒られてるというか、責められてる気分なのだ。
「二時間も前じゃないですか」
ほら、何だか声が冷たいし。
「人気があるから仕方ないの。いい席で見せてあげたいから」
「ああ、そういうことで……」
「あ、別に滝のためってわけじゃないよ?」
好きだからみたいだけで、それは滝も私も同じだと思って、だけど、別に滝のためじゃない。私がやってるだけ。
日吉はじーっとコッチを見てたが、どうやら周囲がするような可笑しな誤解はしていないようだ。
まあ強ち誤解でもなくて、私はそれなりにソウイウ意味になってもいいかと思うくらい滝が好きなんだけど、それにしろ日吉には知られたくない。
まあ知られる心配は……
「忍足先輩もそういうのこだわりそうですね」
「映画、好きだから、ね……。映画好きなら、みんなそうする」
「なるほど……」
ほぼゼロー%。杞憂ってやつだ。
数分後、中に入り、狙いどおりにいい席を取って腰掛けながらついでのように思い出す人が決して忍足でないのも……きっと慣れただけ……。
予告編はないから、すぐに本編が始まった。ちらっと除けた真っ直ぐな黒い日吉の目はスクリーンを反射して、綺麗だ。慌てて目を逸らし、すぐさま映画に集中する。
ただ、ね……。
チョクチョク集中が途切れたのは気のせいではない。
なんとなく微妙な違和感。
うーん……。
それに、珍しく、甘えたくないと思う自分もいたり……。
滝にいったら「雨が降るね」って笑われるに決まってるけど。
* * * * * * * *
「あー面白かった」
「意外とありきたりな感想吐きますね」
「そりゃ、監督のマニアックさとかあのアングルがちょっとあの映画に似てるとか語っちゃうとちょっと恥ずかしい人みたいだし」
「思ってる時点で十分マニアですよ」
「……そのうち、マニアになるよ?滝だって最初は分からなかったはずが気付けば相当詳しくなっちゃってるもん」
なんて最後に軽く会話をして、ついでに付近のファーストフードによっても良かったけど(滝なら絶対そうする)そんな気にもならず、デートはお預け。
せっかく監視人(滝)がいないのに、逆に近づく気がしないのは何でだろう。
思っていたら日吉がハンと笑った。(ちょっとだけ跡部様みたいだ)
「俺はそうなる気はありませんが」
「もう付き合ってくれないの?」
そのまま日吉は「いいんですか?」と肩を上下させて聞く。
覗きこまれてようやく気付いた違和感に首を傾げていたら、
「俺を誘うと滝さんとは行けませんけど」
決定打が投げられて……
「うーん……そうか、じゃ、二倍の量はがき出しておくね」
我ながらナイスアイディアだと思ったが、日吉は何だかむっとしていた。
珍しい。
対抗意識だろうか?
敢えて触れないに限るから、静かにスルーしたけれど、
「勝手にしてください。……でも、無意識に視線を合わせようとコッチ見るの止めてくださいね、恥ずかしいし集中できないんで……」
ぎくっとする答えを一つ。
何って、その癖は滝がこっちをみて面白い場面で笑うから出来たんであって、私の癖じゃなかった……。
* * * * * * *
自分のためのつもりが相手のためになってたり。
相手の癖のつもりが、気付けば自分の癖になってたり。
気付けば誰かを見てたり……誰かを考えたり……
慣れってやつは恐ろしい。
理由なんて本当になくて…… 少なくとも今、隣に誰がいようがいいと本気で思ってはいても。
END
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