君が嫌いです。
出来るだけ離れてて下さい。
私の視界になんて入らないように……
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昼下がりは図書館。
音楽室で一人ピアノ弾いたりするのも好きだけれど、43に微妙な気に入られ方をしたせいで逆に立ち寄りたくなくなった。
なぜって、ねえ?……まあテニス部にはもう近づきたくないわけよ。
出来るだけ。
日吉と滝で打ち切り!(がっくんは普通に友人だけど、そこまで近しくないしね)
でもって……。
私はその≪私的テニス部特例≫を探して、図書館を漁る。
「いないかな?」
今日の狙いは次の時間自習確定な日吉。
やつの五時間目の世界史担当は私のお気に入りなので、何なく自習状況を知れてたから、絶対いるはず。
かわいそうに、日吉は確か、六時間目の選択外語とってるから、部活のない休みの日にも関わらず一時間潰す羽目に陥っているのだ。
奇しくも今日の時間割は五時間。
そのうえ、五時間目はなんと免除な私。
理由は図書委員会議です。
私学連のね。
会場がうちに決定したので、放課後までに用意をしなきゃならないのですが……学校代表として一人!というのに、私が名乗りをあげたのだ。
委員長は元々いていないようなものだったから、晴れて公欠(公認欠席)GET。
つーわけで、探し回って……だだっ広い1フロアを歩いた。
本当のところ、カウンターにいれば向こうが嫌でも見つけてくれるとは思うが、「用がなきゃしゃべりかけませんよ」という可愛くない後輩のこと、昼休み中に話したいのなら行動あるのみ。
おしゃべりの内容なんて大したことないけどね。
この間は森鴎外?
その前はニーチェ?
でもって、次が蝿の交配実験で、それから宮崎駿と、舞踏と武道の差と類似点と……アラスカについて……
本当ろくでもないなぁ(遠い目)。
「けど、話したいんだから仕方ないじゃない……」
ぽつりと乙女モード(本当は愚痴りモードなんだが、物憂げに見えるため滝が命名)で呟いたときのことだった。
「図書委員さん、調べとるものがあんのやけど、PCフリーズしてもうたんや」
独特のこのイントネーションは……
「待ちや」
と、つい返してから、気づいたんだけど????
げ……。
忍足……。
フリーズすんのはこっちの頭です。
「ほう?あんた関西住んでたんか?ま、東京の人間はよお言葉真似するからわからんか」
「従妹が三重。幼馴染が京都。友人は名古屋。ミックスな発音で、すごく東京もん。実態は埼玉産。悪い?」
「や……」
忍足は言葉を止めた。
なんで邪険にすんだ?と顔に疑問符が付いている気もするが、これが「素」だということで。
迫力勝ち!よっしゃ!
……て、勝ってどうすんのよ。
まあ、ここはさっさと終わらせてしまおう。
「ええと」
カウンタ横のPCに進み出て、椅子に座る。
「ここがな、いじったらあかんくなった」
顔を近づけるな。
そばによらないで……。
悲鳴を上げそうになりながら、震える手でキーを叩いた。
なれてるだけあってミスのないあたり、我ながら可愛げに欠けるが、おかげでPCはすぐに起動を始めた。
「……セキュリティー云々っていっても、どうもこの型弱いからね」
「へえ、パソ詳しいんやな。意外や。委員長さん、アナログ派に見えたわ」
委員長じゃありませんが、訂正して話を弾ませたくもありません。
私はさっさと席をどき、「はい」と椅子を明け渡した。
失礼ね。デジタル派ゆえにここの救世主といわれてんのよ?
……ま、編入組だし、知られてなくて当然だけどねといいたい気持ちを抑えて。
「無口やな」
君のせいでしょうが。
思うけれど言わない。
「仕事中。私語厳禁」
事実なので、簡潔に述べておく。
「せやかて、皆しゃべっとるやん」
「本当はいけないの」
「委員長、模範なんやもんな」
大変だとか何とか言ってる忍足に、引き返すはずの足が動かない。
ちょっとの掛け合いで、すぐに忘れられるのにこの会話が悔しいくらい嬉しい。
そんな自分が最悪に嫌い。
「……のわりに、この間は日吉と話しとったで?」
「………え」
日吉としゃべってるとこ見られてたのか。
いや、図書館にいる以上、そしてこの図書館というやつが決して優等生用ではなく、むしろサボり間にも部活関連の人間にも温床となっている以上予期されてしかるべきことだけど……。
浮気でもなんでもないのに焦る。
そこでは忍足への複雑怪奇な感情よりも、むしろ日吉と仲いいって思われたことへの喜ばしさがあって、何だか可笑しい。
「あ、ああ。委員だから」
若干口調が優しくなるのが分かる。
自分のことだけれど、日吉とか滝とか……好きな友達のことを話すと声が柔らかくなってしまう。彼らと友達でよかったなぁって、馬鹿みたいにホノボノ。
「なるほどなぁ。仕事やったらしゃべってもええんか」
「そういうこと。注意守らない跡部の取り巻きなんかは即刻排除」
今は君を排除したいとノリでいえそうだ。
「日吉、口数少ないから優秀やろ?」
「失礼。日吉は結構しゃべるよ。いいやつだし」
気づいたら、私は口数が多くなっていた。
注意する側なのに……(どうせいつもは日吉と思いっきり話してるが、あれは書庫での話)
相手が忍足なのに関わらず。
「へえ。……そういえば学食でよく騒いどるやつがおるな。日吉と」
「ひ、日吉と?」
ソレ私です。
ッてか私、だよ。
見られてたのか……いや別にありえることだけど。
「そうや……ん?」
どうせ気づかないことは分かってる。
でもそういうの、耐えられない。
私はさり気なく、「もう用はないでしょ?」視線を送って、カウンターの方に向かおうとして、
「日吉やん!おう、日吉!」
叫ぶ忍足の声に思わず振り向いた。
忍足が苦手なのは好きと紙一重なのだと分かっているので、私は徹底的に避けてきた。
誰か助けてって……思ってたわよ。
でもこのタイミングは多分……
BADだ。
日吉は私と忍足の組み合わせを認めて、顔をしかめた。
複雑そうに。
そりゃそうだ。
忍足が苦手で苦手で……めちゃくちゃ気になるくせに遠ざけるべく、自分や滝に頼ってきてるような人間が、その奇行に向かわせる元凶の忍足と共にいるのだから。
むしろ日吉は忍足の目さえなければ頭を抱えていたに違いない。
いつも以上のむっつりした顔。
ごめんよ。
心の中で祈りながら、やむをえなく私もその場に留まった(足が動かないっていうの!)
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「なんですか」
と、日吉は言った。
忍足は「そないな顔しないでくれへん?」と茶化したが、日吉は「用がないなら行きますよ」と十八番の台詞を吐いた。
さすが日吉!
ついでに私も連れてってと目で懇願されたら、しかめ面に困惑のテイストを混ぜて、その場に留まってくれた。
ほら、やっぱり優しい。
「ほお」
忍足が珍しそうにしているが、知らない。
早くこいつをどけて欲しい。
どんなに誤解されてもいい。
……ごめん、日吉。むしろ誤解されていたい。
「委員長、日吉の知り合いなんやてな?」
「は?」
日吉は吃驚した。
知り合いって言い出すわけないでしょ?と心の中で唱えるが、伝わってなかったらどうしよう。
私は忍足と話すために日吉を使ったりしないよ!!
そう思われるかも……と考えてちょこっと怖くなった。
日吉にはびくびくしてるのもばれてるんだろうな。
コンピュータの前に集まった三人がおかしな目で見られないように、手持ち無沙汰に、隣のPCをいじっていた。
「委員長じゃありませんよ?」
「そこなの、訂正するとこ……」
いつもの調子がついつい出る。
「先輩は委員であって、委員長でないんですよ。更に言えば俺がいたから無理やり委員に入ってきただけで本来委員でもありませんね」
そうなのだ。
うちは委員会は代表委員以外全てボランティアでまかなわれてるので、各クラス最低一人であって、最高人数の特定はない。
というわけで、実際私は後から委員になった。
友達目当てで……。
本当は日吉じゃないんだけどさ。
時期的に確かに日吉おっかけてた時期と重なるから、本気で誤解されてんだろうな。
まあいいけど。
自惚れててもらってかまわない。
日吉のこと好きだし。
「ほな、日吉の彼女なん?」
まあ当たり前のように聞きたくなる気持ちも分かるし、誤解されたいからちょうどいいんだけど。
「いえ」
そこはさすがに日吉。
びしっと真実を言ってくれるわ。(……冷たい)
「滝さんの親友で、文型科目の覇者らしいんで、時折見てもらうくらいで」
「ギブアンドテイクでよ?」
「そう。ギブアンドテイクで」
ばらすなよ、滝のこと……。
滝は忍足と同じクラスなんだよ?
日吉をみたら、にやっと笑った。
わざとだ。
悔しいので、けしかけてみた。
「私は日吉が好きだから別にテイクなくてもいいんだけど?」
顔を思いっきりしかめられた。
言ったそばから胸が痛む。
忍足はほうと素直に納得している。
そりゃ、そうだよね。
自己申告したら気づくわけない。
本当の気持ちが誰にむいてるかなんて。
……自分でも認められないわけで……更にこんなに本人前にすると「むかつく」だけなんだから、これを恋だというのなら私は恋などしたくない。
都合がいい。
思ったのに苦しくなって、察した日吉が頭を小突いた。
「馬鹿だろ?」
「タメ語?」
「当然」
そのやり取りすらどうとったのか、忍足は楽しそうに眺めていた。
「幼馴染みたいやな」
禁句……。
君がソレを言うか。
いや君はあの人とは違うかもしれないけれど。
でも……。
「付き合いは忍足より短いんだよ……」
ほな、またな。邪魔したわ。珍しいもんみさせてもろたわ……などといいながら去っていく彼を私は薄ら笑いで見ていた。(時折滝が怖いときやってる表情ね)
声は届かない。
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「たち悪ぃ……」
泣いてはいない(絶対泣かない)のに、日吉はいつも私がするように書庫にさっさと押し込んで、
「滝さん呼んでくるから待ってて下さいよ」
出て行こうとするので……
「滝には言わないで。もう侮蔑されたくない」
私は静かに引き止めた。
「しないでしょ?あの人は」
分かってるよ。
でも情けなくて……。
むしろこうして君にまで見られてることが辛い。
見透かされていたいから選んだのに、内心の皮が一枚一枚はがれるごとにプライドの高い私は追い詰められていくから。
「泣ければ可愛げもあるのにね?」
「泣かれたらウザイ」
「そっか」
「空笑いはもっとうざいんで、止めてください」
「ゴメン」
でも笑えるんだもん。
仕方ないじゃん。
言わずにまた笑ったら、日吉は真剣に頭にきているようだったので、今度こそ黙っておいた(表情ごと)。
「こういう役回りは滝さんでしょうが?」
諦めて書庫の小さな椅子に腰掛ける日吉に、私は一歩踏み出す。
「ん。だから……」
今だけお願いね?
私はそれ以上可愛いこともできないので、泣くかわりにちょこっと日吉のそでをひっぱって、俯いた。
ぎりぎりの境界線で、さらにぎりぎりな「好きだよ」を呟いて。
「知ってますよ」
呆れ顔の日吉が言うのを無視して「本当なの」と何度も。
それから
「大切だから、それだけは分かってて」
なのに、なぜ私は彼の顔がちらつくんだろう。
落ち着いてるのに……いらつくほど。
あの声の低さとか、当たり障りなく話すわりに面倒そうにしてるところとか、さばさばした人間とは結構話せるところとか……見透かされる人間を私と同じく嫌ってる忍足に感じるのは……届かないものへの憧れじゃなくて、純然たる同類嫌悪と、一筋の違いへの……。
五時間目、関係ない話で盛り上がった日吉と、帰宅後、「またやったの?」と携帯に出てくれた滝と、友情に感謝するから私は願った。
君が嫌いです。
出来るだけ離れてて下さい。
私の視界になんて入らないように……
君と私の差が見えなくなるように。 |