◇ マジに考えると恋愛よりは幻想 ◇
「それで結局」

 と滝は言った

「誰がすきなの?」

 まるでヒロインじゃん?(そうなんだけど)

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 今日は自習がなかった。
 さぼる趣味はそもそもなかった。
 だから部活の前に少し……珍しく滝は私を訪ねた。

 忍足のことが好きだとばればれな私に、滝がこうして(↑)顔を歪める理由は分かる。
 そりゃ、毎度のことながら、辛くなるごとに日吉を頼ったり、日吉に飛びついたり、日吉と誤解されそうなこと(一方的だけど)してたら……ね?

 けれど私には、それ以上に分かってるのだ。
 滝はその理由なんぞ、お見通しだって。
 だから、その言葉は私を諌めてのことなんだって。

「知ってるんでしょ?」

「開き直るねー」

「開き直ってなんてない。……私がすきなのは幼馴染」

 といいつつも知ってる。
 未練は既に薄れてて……。
 私は彼に似てるという理由を振りかざしては忍足を追っていた。
 気づけば泥沼。
 忍足を見ては彼を想い、彼を想っては忍足を憎む。
 どっち?と聞きたいのは私。
 答えを知ってるのも私。
 そもそもね、結構前に会ってるんだよ、私と忍足は。
 最初見たときから忍足を避けていたのは、予感じゃなくて悪寒。
 会ったときから、たぶん、好きになりかけていた(まだ好きだとは認めたくない)。

 当然滝はこれくらい知ってる。
 全部を話してなくても、何となくは感づいている。
 こうやって私がかわすことまで、またもお見通し。

「建設的に話さないなら、俺帰るよ?」

 暇じゃないし。
 ……と、テニス道具を強調しながら、滝は靴箱目指した私を追い、一緒の階段を下りてきた。

 冷たく言われると怖いです。
 その辺、そういうタイプ好きな自分だけに、心得てます。

「ごめんなさい」

 私はすぐに謝った。

「俺は日吉ほど使いやすくないねー。そもそもあいつとは同じクラスだから、問題にもなる。その点、日吉は誤解されて困る子いないみたいだしねー……」

「……自分が非道に思えてきた」

 要するに、日吉を使うな、と滝は説教している。
 うん、めちゃくちゃ分かる。

「でも、私、日吉のこと好きだよ?」

 恐る恐る返したら、むっとされた(珍しい)。

「滝と同じって言ったでしょ?そういう意味で」

「………へえ」

 やっぱり滝は怖い。
 私は素直に付け足した。

「……でも、違うかも……」

 ――実は、ちょっと危惧してた。

 滝の前じゃ、甘えてると日吉は言う。
 でも事実は逆。
 日吉には甘えてて、私は滝には寄りかかったり甘えたりしない。
 分かりにくいが、きちんと線を引いてる。
 滝は寄りかかりづらい。
 こちらの気持ちなんぞ殆ど読まれていて……だからこそ、私が自分でも計算かどうか分からない部分に対して、滝がどう動くか私には分からないから。

 自分でわざと甘えたふりするにはいいんだけど、
 自覚して、荷物をちょっと預けるにはいいんだけど、
 よっぽどのことがない限り、滝前にして真剣に泣き出すことなんてないと思う。仮にあったとしても理由はいわないだろうな。
 私と滝の関係はシンプルかつ複雑だ。(だからこその『友情』なんだって。)

 ――なら、日吉は?

 視線に耐えかねて、私は下を向く。
 滝を見なくても大体どんな表情をしてるか想像できた。

「曖昧だねー。にしては珍しい。だからこそ危なっかしいと思ってる」

「……忍足は泣きそうになるから……」

「それが好きだとしたら日吉は違うだろ?」

「それが好きだとしたら、ね」

 と私は繰り返す。

 忍足を見ると苦しい。
 可愛らしい感情なんてない。
 ただ気持ち悪い。
 憎悪。
 別の人が好きだったのよ!!なんでこんなやつが気になるの?……って頭にくる。
 そんな自分の不条理な気持ちに嫌気が刺す。
 そういえば幼馴染と別れたとき、「なんで別れたの?」と滝は聞かなかった。
 ずっと付き合ってた人と上手くいかなくなった理由を、別れる前から友人し始めてた滝は今も聞かない。
 決め付けている。
 そして滝の推測は正しい。
 忍足は敵だ。
 私は彼に目を奪われる。

 これが『好き』だとしたら、私は恋を認めない。

 ――だから、日吉なの?

「甘えちゃ駄目だよ?」

 滝は言う。

「甘えても、彼なら堕ちないよ?」

 私は返す。

 日吉は私を好きにならない。
 好きになってと、叫んでも好きにならない。
 だから私は日吉が「好き」でいられるのだと思う。

 滝は笑う。

「どうかな?」

 そういう滝だって、私に堕ちなかった。
 だからこうして一緒にいるんじゃん。

「知ってるよ。だからこそ……」

「日吉は、私を好きになってくれると思う?」

「俺には分からないよ。……で、は好きになってほしい?」

 欲しい。
 泣きたい。
 日吉の前ならまだ泣ける。
 今なら少しは泣ける。
 ……かもしれない、と願う。
 だから……。

 滝は靴箱までついてきて、テニスシューズを取った。
 クラス順で向い側なので、近いからついでがあってだけれど、私の答えを待ってるのだと思った。

「なって欲しいよ」

「だから駄目」

 滝は続けた。

「日吉はを好きにならない。それには日吉が好きじゃない。ただ甘えたいだけなら止めた方がいい」

 それがなんでいけないの?
 忍足は手に入らない。
 私は忍足に甘えを求めない。
 恋じゃなくて、そういう友情が欲しい。

「今の私達みたいにぎすぎすした関係は疲れるよ」

「望んだのはそっち。俺は泣き付かれても――そりゃ困るけど――……振り払わないよ?」

 鬼だ。
 それは最凶の誘惑。
 絶対堕ちてはくれないくせに、「友達」でいる彼が「俺にしろ」と暗に言う。
 後輩のために。
 あるいは後で泣く私のために。
 そこから火の粉がくる将来の自分のために。(これが一番の理由。滝ってそういうやつだ)

「そういう優しくてずるいとこが滝は失格」

 にやりとした滝の目が憎らしいほど「男」してて、私は不覚にもつんと痛んだ鼻の奥を無理やり無視して笑った。

「滝が好きだよ?」

 たまには滝もぐっと来て。
 来ないのは分かってても、言うんだ。

 この間、日吉に「好きだ」と告げたのと同じだけの強さで。
 決して忍足には言わない言葉を。
 前に好きだった人にも、ずっと好きな人にも言わない台詞を。

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 ――それで結局、誰がすきなの?

 答えて溜まるか。

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