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最近俺が滝先輩といるのは先輩がレギュラーのとき以上に長いかもしれない。
それは滝さんがレギュラー落ちしたからでも引退したからでもなくて、単に偶然の産物。
『原因』は今話題のあの人、という先輩だ。
不可解な有名人だが、知り合いにはおっかなくて頭のいい女という評価。一般には知る人ぞ知る知性派で、先生からは英語を除く文型の覇者。何故かやたら顔が広い。
俺が彼女と知り合ったのは図書館で、彼女は委員会でもないのにカウンターにいた。委員長よりも仕事を知っていて、図書委員の俺はいる意味がないなと思いながらも楽するわけにもいかず、彼女の仕事を手伝ってカウンタの隣の席に腰掛けた。
最初はそれ。
二回目も。
三回目、四回目……といくうちに何故か懐かれた。
見ているとどうやら一度慣れてしまうととことん打ち解ける性格だったから、普通に面白い人だと思って何となく一緒にいて違和感がなくなってしまったのは敗因だ。(汚染されてるとも言う)
段々、それだけじゃなくて、この人捻じ曲がってると気づくことになるが、最初の感想はそんな感じだったと思う。
ターニングポイントといえばあの日。
珍しく社会課の教師の研究会が重なって、一時間潰しに図書館に入ったら滝先輩と先輩を見つけた。
元々滝とは親友だよ?と笑っていう彼女を知っていたけれど、一瞬その親密さに、挨拶すらできなくなってしまった。
それでスルーしようとしたところ、泣きそうな先輩を見てしまい、仕方なく声をかけたんだ。
「何やってんですか?」
彼女は半ば本気でぼやいた。
滝さんの腕を掴んだままで緊張感も減ったくれもないが、一度在ってしまうと今でもあの目には耐えられなくなる。
「滝が苛める」
「何言ってんの?……日吉、黙ってて。こいつ馬鹿だから、ちょっと怒ってるところ。迷惑散々かけられてるだろ?」
「いえ、別に」
滝先輩があまりに自然に言うから、この組み合わせが初めてなのも忘れてつい巻き込まれた。
「ほら……」
と滝さんは大きく肩を落とし、
「まあ日吉なら好きにはならないだろうからいいか」
そう苦笑で付け足したな、確か……。
あの意味が今なら分かるが。
三月という人は厄介だ。
あの人が特別綺麗な容姿だったりしなくてよかったと俺は心底思う。
身長も高いし――大柄で真剣によかった。
小柄で可愛い姿で挙動不審でびくついたふりなぞされた日に、それを自分のせいだと誤解する人間がでないとも言い切れない。
うん平凡でよかった。(さりげに失礼か?)
あのとき、忍足先輩が通りかかったのは偶然だったと思う。
「おう、滝。ここにいたん?」
忍足先輩声がかかるより先に先輩達は離れていて、先輩はなんでもなかったようにカウンターに陣取った。
図書委員ではないが、彼女の定位置だ。
滝先輩の友達ならば……と向日先輩辺りとも仲良くしているらしいから、どこか違和感を感じた。
誰でも話しかける人がよっていかないなんておかしい。
不思議に思って理由をきいたら、「苦手なのだ」と言われた。
結局今思えばあの人は忍足先輩をむしろ好きだったわけで…当時は思わなかったがものすごい天邪鬼だが……。
それだけだったか?
いや。
その後、あの人は横でまし顔で趣味でもない本を広げ始めたんだ。
それで、滝さんの方をちらちら見てた。
捨てられた犬よりは、は飼い主を取られないようにさり気なく嫉妬する猫に近くて、これも驚かされた。(これが忍足先輩に対してじゃないあたりがよくわからない。先輩らしい)
そう、その後、滝さんが意味深に「捕まらないように」と言って、「付き合ってるんですか」と俺が聞く前に
「聞いてるだろ?親友だよ」
その後どうしたか?
確か……
* * * * *
「なあ日吉、あの先輩とつきあってるのか?」
鳳の声にはっと我にかえる。
「何言ってんだよ。なわけねーだろ……」
「滝さんの彼女だしな」
「それも勘違い」
ちょうど同じ間違いを犯していた部分を回想していただけにいただけない。
横で鳳は宍戸さん辺りに聞けばわかるかなとか言ってる。ゴシップ好きというより、コイツの場合宍戸さんがらみなせいもあるだろうが、一番わかってないのは、先輩がこいつが死ぬほど苦手だという事実だ。
知らない方がいいかもしれない。
天然ならばそれに越したこともないだろう。
「ミーティングか」
俺は部室に向かった。
またさっきの続きを思い返しながら……。
きっかけは些細なこと。
滝先輩の台詞に興味を覚えたからだ。
* * * * *
「親友だよ、聞いてるだろ?」
本人には聞かれないように、滝さんだけにひっそりと、その割りに大切に思ってるみたいだといおうとしたら、
「三月もそう思ってるよ。俺相手じゃ、考えを見透かされるうえ、こちらからのアクションは皆無になるだろ?合わないよ」
と先読みされて……。
合わないと言い切れる程度に付き合いが長くなっていないと黙り込んだ俺に重ねて、
「こっちもお断り」
と言った。 それは満面の笑み。
「いいヤツだとは思うよ」
「…………」
なおも不審に思った俺に、滝さんははっきり告げた。
「それに、三月は俺に一度告白してるし」
そう、この台詞。
「断ったんですか?」
「さあ?」
* * * * *
絶対にあの台詞の、この返答のせいだ。
結局俺が若かったのかもしれないけど……今でも滝さんは先輩こと結構好きなのだと疑わしいふしがあるから無理もないと思う。
これがターニングポイント。
ついつい観察するようになって、そのままなし崩しに引きずりこまれた。
もっとも聞かなくてもどの道引き込まれたという話もある。
先輩は俺と滝先輩を似ているというが、あの人の方が気でどうでもいいと思ったら無視していけるタイプだから。
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部活のミーティングは結局大したことなくて、それが終わると古文の授業。
全ての授業が終了して、靴箱に下りたところを、先輩に捕まった。
「図書館来る?」
可愛くいってくれたが、わざとやってるとわかるから流す。 流石にその程度の知恵はついてきた。ただ半分無意識だったり、そのつもりもなく……まあなんていうか女の子してたりするから見分けに苦労するんだよな。
「……行きます。雨でウチの部、中も場所とれなかったみたいなんで……」
「あ、でも、ごめん。今日はちょっとこれから社会課研究室行って来るんだった。十五分で帰るから、待ってて」
「待ちませんよ」
「平気。日吉は待つよ」
「待ちません……って……もういねーし……」
時折思う。
あの人は自分のことをどのくらいすきなのだろうかと。
まんざらでもないとか、うざいとか…もはやそういう時限ではなく……
ああ、これなのか?
滝さんのあのときの心情は?
だから告白されたら…?
俺は図書館に向かった。
確かめ算だ。
まあ、答えあわせしても今更離れられない予感はあるのだけれど。
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「あの人は、なんで俺に構うんですか?」
さっきのお礼を言ってから、捕まえた滝さんに聞く。
この先輩なら答えを知ってるだろうし、あのときの返答の続きに関係ある。
付き合ってないことは分かったが告白を受け入れたかについては微妙なものがあると分かってきた。
例え、心情はある程度読めても、滝先輩の考えは突拍子もないからな。
「俺も前はよくそう思ってたけど……あれは単に友情だろ?ぎりぎりが好きだけどね、日吉。三月は「女」じゃなくて「人間」として、変わらずに一緒にいてくれる人が好きなんだよ。変わるのが不安だから試すように、可愛いことするしね。分かりにくいけど、あれでも色々本気だから」
本気だから、か。
実際、直球で、どうしようもなくて……アホな人だが、そうじゃなかったらあんな馬鹿で無駄な片思いなんてしてないに違いない。
まずいことに、尊敬の域に達しそうだ。
彼女は真面目なんだろう。だから片思いでいることで自分を戒めてるのかもしれない……
そんなことを思ったら、
「駄目だよ、にひっかかっちゃ。我侭で滅茶苦茶なんだから甘い目みせるとつけあがる」
「……そうですね」
それにしても本当に可愛いところがあるって滝先輩は思わないのだろうか?
にっこり。
微笑の食えない先輩の方が輩より怖いとは流石に言えず俺は同意しておいた。
だまされてるなぁと滝先輩が思っているとは露にも思わず。
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そして、最初の会話に戻る。
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「(いいところあるし)本気出したら付き合えるんじゃないですか?」
俺は聞き、
「そりゃ、忍足に彼女がいないときなら」
滝さんは答える。
自分のことは回避して。
「ほら、もそこまで知られてないしね、それなりの付き合いだったら出来ると思うよ」
「…………」
知ってるから自分は付き合えないのか。
忍足先輩なら……OKしそうだ。
続きそうでもある。
それなりに、だけど。(あの人分かりにくすぎるから)
「それに日吉は想像できる?が天邪鬼やめるたところ」
「出来ません」
つまりアレか?
運命に見放されていると同時にあの人は他人のことをあの人独自の運命とやらに巻き込んでるのか?
「ところで先輩……先輩は本気で好きなら言いませんよね、好きとは……」
意を決して聞いた俺の言葉に、
「さあ?」
滝先輩が悔しさからはぐらかしたのか、本気で分からなかったのか?
何にせよ、滝さん相手に下克上というつもりはなかったが、先輩には何となく下克上したくなった。
何回かすでに言われているにしても……真剣に告白くさいシチュエーションになればなるほど、あの人にとっては嘘になる。
この先そんなことに巻き込まれる気はないが。
「……ご愁傷さまです」
「でも、あれでは素直だからね」
そのうち、見てて分かると笑うレベルになるのか?
だが、そうなれないのも癪なのは事実で……。
何か頑張るつもりはないが(好きじゃないから当然だ。よかった。)、どうやらこれでまた、先輩に巻き添えを食らうことは決定したらしい。
あの人が素直になるなんてありえない。
例えそのせいで、誰かがあの人を好きになってしまったとしても。
俺は違う。
絶対に……。
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