◇  ◇


「あ……」「あ」

 「あ」って何?……と思わないでもなかったが、お互いの一声目はそれだった。
 凍るわな。
 夜にも珍しい光景だ。
 第一音楽準備室は鍵があいてるどころか、跡部がいるんだから。
 しかも冷蔵庫の目の前。

「先輩、こんなところで何を」

 これは日吉の跡部へのツッコミ。
 私はできるだけ関わらないように、距離を取って成り行きを見守る。

「そっちこそ珍しいじゃねーか?」

 これが噂の「アーン?」節ってやつ。
 何だか偉そうだったが、場所が場所だけに様にならない。
 跡部自体、皆が言うほど派手派手しくなかったため、私は付き合い方次第で言いお友達になれそうだと計算した。実際ここで知り合う気概も何もなければ、この先かかるだろう運命は一向に見えないのだから意味もないが(忍足と芥川にしたって、一過性なのだ。この先早々顔をあわせてなるものか。私は身の程はわきまえている)

「委員会の先輩につき合わされてる最中です」

 あたっているがそんな他人行儀な……。
 跡部につっこまれると、切り返すのが面倒というニュアンスが微妙に伝わってくるから黙っておくが……。

「委員会なんか入ってたのか?」

「生徒会との掛け持ちほどは大変じゃないんで」

 うわ、嫌味合戦だ。
 うちの生徒会は機能していそうでいまいち自治権乏しいからね。
 比べて委員会はボランティア参加でニアリイコール部活とまで言われるほど『激務』。
 だがそれどころじゃなく、私は偶然跡部の手に見えてしまったテディベアと瓶が気になって……

「ふうん、そっか、ホワイトデーだもんね(正式には昨日だけど)」

 口走ってしいまいましたとさ。
 終了。

 ……終了できれば万歳。強制終了したかったが、それを許さないのが帝王さま。

「これは単なる……先生あての」

「うんうん。たくさんもらってそうだけど、大人への義理だけは欠けないもんよね。……それにしては数が……」

「1つだけ?」

 あーナイス!日吉。
 後できっと君だけ絞め殺されるでしょうが、私もそれが言いたかった(そして口に出せなかった)
 へえ本命いたんじゃん。
 これってスクープだよね。
 滝は知ってるのかな?  
 後で教えてあげよっか。

「言うなよ」

「本命?」

「うっせー。黙れ。担任あてだ。家庭科教師なんだよ、うちは」

「ああ、お返しが成績に響くと噂の……クラス全員で毎年返すんだよね?」

 なるほど。
 跡部を祭り上げて、他が逃れるという連携か。
 なかなかいい作戦だな。(若干一名悲劇でも)
 本当は引っかかる部分が無きにしも非ず(例えば一つ、といいつつ、実はそれが二つあったことは私の位置からだけ確認できてる)だったのだけれど、言い訳した跡部は何だか可愛くて、これ以上追求をやめておいた。


 お昼休みは一曲軽く弾いて、日吉に拍手を貰い、そこで今度こそ幕を閉じた。
 だが演奏どころじゃなかったって……
 だって跡部よ?あの跡部の秘密がこの手に……

 言わないから誰にもばれないんだけどね(つまんないことに)。

 *    *  *  *  *  *  *  *  *
 はてさて結局私の其の後の収穫は……といいますと、放課後クラスの男子一人が代表してばかでかいキャンディー(恐らくネズミーランドの品物。たぶん、近くに住んでるやつがかい出しに行ったに違いない期間限定品)を、他クラスの数名がこれまたグループを作って、代表者よりクッキーとマシュマロをいくつか。(これで六箱?)
 それから放課後……

「待った?」

 靴箱の横で滝が言う。
 すぐにこちらに向かっての言葉だと納得。

「ちょっと。でも、どういう心境変化?」

 誘われればのるわよ。
 相手が滝なら。
 珍しいこともあるなぁと横を見ていると、滝は

「いや、日吉に面白いことを教えてもらったんでねー」

 私の反応が知りたくてわざわざ呼び止めたのだと、悪魔的に綺麗な顔で笑った。

 ――なんじゃそりゃ?

 話というのは以下の出来事。
 大したことではなかったが、うんうんこれなら納得いくよ。
 私が隠してた跡部の「本命」情報以上。(そもそもそれですら、滝の持ってきた話の前では単なるネタ振りになる)
 *    *  *  *  *  *  *  *
 その日(2月15日)跡部はやたら荒れていた。
 休みの日の次の日だから部活で何かあったに違いないと、クラスメートも話しかけなかったらしい。
 そして昼休み。
 何故だか今更お菓子の袋を抱えている男を発見し、跡部様はこう尋ねたらしい。

「なんで持ってるんだ?」

 その質問こそ「なんでそんなこと聞くんだ?」だと思うが、周囲は珍しい跡部の突っ込みに、
「ああ、数たりなくて貰い損ねたチョコをさ、義理の名手から貰ったんだよ。今更でもこれで妹に自慢できる」

 と情けない答え。
 ――そういえば、あの日、私は義理がテニス部のせいで足りなくなりすぎた為、可哀想なので去年のクラスメートには補充で持ってったっけか?

 そして更に情けないことに、「交換だ」と跡部のチョコ(風邪で休んでた女に押し付けられ、逃げ損ねたみたいでらっしゃる)と引き換えに奪われたのが手作りの義理チョコ(という名のクッキー詰め合わせ)

「旨いじゃねーか」
 と跡部様が思ったかどうかはわからない。
 だが始めての「義理手作り」は相当お気に召したらしく、ついで部室での皆の会話。

「なあなあ、お返しどうするー?俺あげるー」(ジロ)
「まとめて一つってわけにはいかねーだろ?テニス部名義じゃねーしな」(宍戸)
「あんま、きにしなそーじゃん?」(ガックン)
「ばらばらで返してええやろ?なあ滝?」(忍足)
「そうだね(まあ忍足がそうすれば喜ぶだろうし)」(滝)
「…………重ならないように一応聞きますが、ホワイトチョコ派ですか?」(日吉)
「宍戸さん、俺の分も含めてくださいよ」(鳳)
「お、おう」(宍戸)
「…………」(しない方がいいんじゃと思う日吉)

 これで跡部は関係なくとも(?)お返しを……と思い立ったらしい。
 周囲に触発されてというか、あとくされのない義理に憧れてというか、よくわからないがこの辺が跡部先輩らしいと聴衆その1日吉は思ったそうだ。
そう、この話は何をかくそう、あの後またしても遭遇してしまった日吉に、跡部がさりげなくうちあけた?話なのだ。
 さてお返しをと考えたまではよかった。
だが、跡部には大問題が一つあった。
 皆と違って、跡部はの顔を知らなかった。(名前は前回インプット済み)
 と、これがまあ滝の、私の反応をみてみたいと思った話の顛末らしい。

「ある意味本命は先輩でした、って日吉が報告くれたよ」

「……ある意味ね」

「実は朝跡部がひそひそしたの見ててね……巻き込まれなくてよかったよ。半端に知られていたら、きっと俺とのつながりもばれてたろうからねー…」

 そうしたら、きっと色々させられてたと滝は笑った。
 己の幸運に感謝していると。
 ――……そんな酷い。(さすがは滝。私の押しかけられ親友……)

「それはさておき、。どうする?昨日(休み)は無理だったからお返し来週になっちゃうけど?」

「んー仕方ないし。あんま気にしてないって」

 滝も本当は忘れてたくせに。
 昨日、遊べないかなぁと(雨だったし)電話したときものほほんと半寝のまま電話口に出て、「明日学校で」とか切ったくせに。
 ちょっと恨みがましくそっちを見つつ、靴を履き替える。
 お返しよりは一緒にいたいのに、そんなこともわかんないし(意図的に避けてた?ってことはないよね。……忍足のいる状況だからありえるけど……うーん……)
 滝とはどういう関係なのよ?と問われそうな感想の中で、私は滝の鞄を掴んで、

「なんで日吉が跡部に会ったか聞いた?」

「昼休みだろ?」

 ヤキモチも焼かない滝がもどかしくて、

「今日は日吉自主練だって」

「日吉を待ってたわけじゃなさそうだけど?」

「待ってなんてないよ。待ってたのは滝」

「だから……どうする?」

 鞄を引き離されて、なんとなく子供扱いされてて――これ以上やると鬱陶しく思われそうだから、さっと私も距離をとる。
 少しくらいなら我侭を許してやろうと書いてある滝の偉そうな表情に私はのることにした。

「今日だけ付き合って?」

「いいよ。雨降ってるし。塾もない」

「制服で入りづらい店以外で、一緒にいて目立たないとこ……うーん……」

 本当は一つ知ってるけど。
 言わないでいた方が楽しいから、我慢。
 ギリギリの視線に滝は飄々と提案。

「うち、来る?」

 ――負けた。
 それ、誘い文句と勘違いするよ?
 有りえないから安心して、私は、

「……お邪魔でなければ。この時間なら遊びに行っても帰れるし……あ!手土産がない」

「何を今更」

 逆に笑われた。
 それこそこの間のクッキーで間に合ってるって。
 休日にはまだまだ早いが、ホワイトデー。
 最終目的?の分もゲット。
 本命なんて、知らない。
 今はまだ跡部と同じでいいや。
 義理の中の特別に今年は感謝した。
 トータル数なんて、瞬間ふっとんだね。

 END