◇ 理由もないのに好敵手 ◇

今日も楽しく一日がすぎました。

適当に学校に来て適当に授業を聞いて、昼飯と称して菓子パンを食しつつ昼休みを満喫して、適当に午後を過ごして。
なんて一日平穏ライフ!
つまらないなんて思うのは誰ですか。そんな貴方がまったくつまらない。
人間が行動してる限り昨日と同じことなんてしてるわけがない。
授業も違えば自分のやる気だって違う。昨日やったテレビが違えば友達との会話だって違う。
十分でしょう今日一日。たっぷり満足してました。

なのに。

なんでですか。なんでホームルームってのはラストにやるんですか。
なんでホームルームで「今日の放課後に急遽、委員会召集あるみたいだから」なんてことを伝えられなくてはならないのですか。
なんで私は今日午後早退してしまわなかったのですか。いや、早退することなんてめったにないけど。
誰ですか、私を学級委員にしたのは。いや、決めたその日に盛大に遅刻して重役登校したからだけど。
いいじゃないですか、遅刻はするけど早退はしない。つまりは朝が嫌いなんです。そんなことはどうでもいいんです。
私は好き好んで学校に長居するタイプじゃないんです。放課後になったら一目散に帰りたい人間なんです。
インドアなんです。っていうか早く帰ってゲームの続きやりたいんです。
なのになんで……なんで……

しかもよりにもよって、委員会かよ!




「そこで、今日集まってもらったのは……」

意気揚々と(少なくとも私にはそう見える)語っているのは、生徒会委員長の手塚国光。
分かっている、分かっている。中学も生徒会委員長をやってた上に、これまでの中高5年間でかなりの高確率で同じクラスになってる。
今更フルネームを言わなくてはならないほど知らない人間じゃない。
だが、ダメなんだ。とにかく、もう限界だ私を家に帰らせてくれ。今すぐ。

「何か意見がある者は手をあげてくれ」

『っだーーーーーーーーーーーーーー!!!!!』

……と叫びたい気持ちを、手元のシャーペンに込める。芯がポキポキと折れ、ノートには壮絶な筆圧が並んでいく。
誰かあの手塚を止めてくれ。いやもう「止めていいよ」と誰かが今私に言ってくれるならば、私が止めよう。止まりやがれ手塚。
言いたい。叫びたい。心の底から叫びたい。
『こんなどうでもいい議題で意見があるヤツいるわけねぇだろ!!?やる気満々なのはお前だけだ!』
そもそもからして、根本的にダメなんだ。


中学校で同じクラスになったとき、最初のホームルームで発言したのは彼だった。
いきなり手をあげ、発した言葉がこれだ。
「先生、黒板の文字が間違っています」
瞬間、自分の顔がひきつるのを感じたね。マジメに。
こいつは何だ。こいつは誰だ。アホか。アホだな?アホなんだな?
黒板の文字が間違っていることぐらい誰だって気付いている。気付いていてあえて言わないのは、いちいちそんなことでホームルームを延ばしたくないからだ。
っていうか、そんな指摘がどうでもいいことだからだ。
こんな私立の教職に就いてる人間が、その漢字を間違って覚えていて今まで気付かなかった、なんてわけがない。ただ一時間違えただけだ。
それなのに。ああそれなのに。それなのに。
いちいち言ったよ!言ったよコイツ!!お前アホだな?アホなんだな?
「あ、ホントだわ。ごめんなさいね」
ホラ見た事か!いちいち教師も直すんだよ。こうやって小さく小さく、私たちの時間が奪われてくんだよ。
お前の誤りを正すという自己満のために、このクラス40人の時間を浪費するんだ。

こいつ最悪。絶対むり。むりむりむり。きついきつい。なんだこれなんだこれ。
っあーーーーー!!!本当にダメだ、こういうタイプ。


「なんだ、誰も意見がないのか?新しい係の発足は全員の学園生活に関わることなんだぞ」

何言ってんだ。食堂係なんてあってもなくてもどうでもいいんだよ。
っていうか今でも十分食堂は機能してるし、係ができても十分機能するだろう。
どうでもいいんだ、気づけこの各クラスの委員の気持ち。
っていうか読めよ空気。お前ぶっちゃけ頭弱いだろ?

ますますますます、シャーペンの芯が折れていく。
ああ、そろそろ芯が短くなって書けなくなってきたよ。芯がひっこむんだよ。残りあと5mmか……もう一折いけるかな。

「……さん、手塚嫌い?」

「はっ!?」

思いっきり声が裏返った。いや、久々に聞いたよ自分の裏返った声。
話しかけてきたのはどうやら隣のクラスの不二。こいつクラス委員だったんだ。今気付いたよ。
中学で確かに同じクラスだったが……よく覚えてたな私の名前。こっちはどこぞのファミレスのインパクトで名前覚えたんだが。
というか、今思いきり嫌いだってバレてたよな。

「……え、なんで」

とりあえずスルー。流せ流せ。

「さっきからストレスのかたまりになってたから」

まぁそのとーーーり!ストレスゲージが現実にあったら、3発ぐらい超必だしてるよもう。
にしても、なんだ?なんか物腰も別に普通なんだけど、なんか攻撃されてる気がする?
いや、でも私が穿ちすぎかもしんないし……

「……そんなに私を観察してるぐらい不二くんも暇なんだね、この会議」

さりげなく自分を肯定しておく。保身は大切にね。

「やっぱり手塚嫌いなんだね」

笑顔のままでさらりと言われました。ええ、こちらも思わず笑顔になりましたよ。
ぜんっぜん会話成り立ってねーじゃんよ今私たち。

「そうね、ぶっちゃけて」

笑顔のまま、さらりと言い切ってみた。へえ、と相手も相変わらず同じ顔で笑う。

「それで何がどうってこともないと思ってたけど、もしかして今私ものすごく問題だった?」

なわけがない。シャーペンの芯を折ってたぐらいでいちいち気にしてたら神経質すぎて日常生活まっとうにおくれてないよそいつ。

「いや、ちょっと気になっただけだからさ」

だろう?
にしてもどうしてこんなに滞りなく予定調和みたいな会話なんだろう。しっくりきてるぞ、怖いぞなんか。
いや、でもここまで予定調和なら言わずにはいられない。っていうかここまでくれば達成感の領域か?

「やっぱり不二くんも暇なんだね、この会議」

笑顔のまま二人して停止。

「では、各クラスで次のホームルーム時に意見を聞いておくように。以上」

ガタガタと皆が立ち上がる中、やっと互いの停止も解ける。
張り付いたような笑顔は相変わらずだが。

「不二くん、もしかしていつもこんな風にそこらじゅうにケンカ売ってんの?」

「買ったのさんぐらいだよ」

あははは、と二人向かい合って笑った。
そこに不二の友人だか何だかがやってきて、何お前ら仲良かったんだ?なんて話している。
どこが仲いいんだ。っていうか仲いいってもはや基準はどこだ。
私は荷物をまとめて早々に教室へ戻った。
不二くんに挨拶?
するわけがない。
だって挨拶するほど仲良くないから。


BACK