◇ 理由もないのに山・山・山 ◇

ごめんなさい、と脳内で謝ること30回くらい。
居心地のあまりの悪さに、何か意味不明なことを叫びながら廊下を走りたいのですが、どうしても理性が押し留めます。ここで学内の自分の評価を地に落とす必要があるのか?いや、ない。かもしれない。

つーかなんで。
なんで私は、手塚と教室に二人きりなんかに……

ってクラス委員の所為だこのやろーーーーーーーーー!!!!!

放課後居残りって、かるーいイジメだよねー。
んで、よりによって手塚も残ってたなんて、更なるイジメだよねー。
しかも夕立が来ちゃったんで、仕事も終わったのにぼーっとしてないといけないなんで、ジゴクだよねー。
あはは。もう拗ねちゃうよ、まったく。

…………
ごめんなさい、もう一回謝るので、もういい加減帰してくれませんか。雨ん中で構わないんで。
傘ないけど。

「だいぶ雷も遠ざかったようだな」

「……んだねー」

張り切って、会話やる気ゼロ。
加えて居心地の悪さを増長しているのが、この中途半端に話しかけてくるって辺りだと、何故気付かない手塚国光。
思い切って会話ナシならないで会話しない姿勢で無視るのに……気つかってるのか、ちょこちょこ話しかけてくるからもうどうしたらいいのやら。
会話が悪いわけじゃなくってさ。ただ、盛り上がらないし「うん」とか「そうだね」としか答えられないようなことばっか話してくるんだ。間違いなく、盛り上がる会話のツボがまったく被ってないんだろうな、これは。
……やべぇ、マジつまんねー。

とりあえず居心地の悪いのだけを我慢すれば、あとはどうにか時間がたつのを待てばいいんだよね。
時間が経つのが嫌いな授業並に遅いけど。
つまりは、つらーい。いやっほーう!
もはや顔は憮然としてても心中妙にハイテンション。
元々日が落ちた学校ってのは妙にテンションが上がるもんだと思う。今ちょっとそれを分かち合える友がいないだけで……

「知ってるか?雷は下から来ることもあるんだ」

「はい?」

瞬間、素で答える。
語尾がめちゃくちゃ上がってしまった。いわゆる、呆れツッコミ口調。
なんですか、いきなりクイズコーナー始めたよ。意味わかんね!すっげ意味わかんね!なんだこの人!
思わずツッコミいれるところだったよ。あっぶねー!絶対ツッコミ通じないってこの人!!
っていうか、話しかけて勝手にクイズ(?)出しておきながら、この人目あさって見てるし。
ナンデスカ?俺は知ってるんだ、とか得意げ?

「山とかじゃなくて?」

物知り顔がなんか腹たつので、思わず答えてしまう。
答えなければよかった、と気付くのに時間はいらなかった。

は山へ行くのか?」

初めて目が合った気がします。
陽の落ちかけた教室に二人きり。ふと真剣にこっちを見る手塚の、その眼鏡越しの目が……

見たこともないほどに、輝いている。
スルーすべき空気の会話に、興味を持たせてしまった模様。
………………やっちまったよ…………

「……いや、別にそんな行かないけど」

途端に落胆が見て取れる。
こいつって表情変わらないどころか、言葉が足りないだけに表情からやたらと色々読み取れるんじゃ?
誰だよ、手塚は何考えてるか分からないとか言ってたヤツ。そいつの思慮が浅すぎるだけだチクショウ。

「そうか……まぁそうだな。たしかに女子が行くにはあまり適していないしな」

ってことは手塚は山行くのか。

「……似合わねー」

しまった!思わず口にしちゃったよ!!

「何がだ?」

うわああああ拾われた!やっぱスルーしてくれないんだよな!!ちきしょうそういうヤツだよ!!
……別に言えない理由ってわけじゃなくて、会話が膨らんでどうする!自分から膨らましてどうする!!

「……いや……手塚くんが山の格好してるの、似合わないなーと」

言うと、困惑した雰囲気。ほら、分かりやすい、分かりやすいじゃないか!
っていうか墓穴掘っててもう何が何だかわからない!わからないがとりあえず焦りでテンション高いぞ自分!
だってそもそも、テンション高くなきゃ手塚にこんなに話しかけてないよ、間違いなく。
ああしまった、テンションのバカ。

「以前に部員には似合うと笑われたが……」

「それ単に山の格好が、変な帽子かぶって変なチェックシャツにハイキングレベルのザックと水筒、変な丈のズボンに靴下で登山靴とピッケルとかいうイメージされたんじゃないの?」

自分でいいながら、ひどい言い草だと思った。
つまり『手塚にはそれが似合う』と言ってるようなモンなわけで……
面と向かってはさすがにゴメン、手塚。

「やはりそう思うか?まったく何故山のイメージが勘違いされているのか。腹立たしい」

いや、撤回。無駄に謝っちゃったよ。全然気付いてないよ、私の暴言。
しかもなんか一人で腹立ててるし。いや確かに勘違いはされてると思うけどね。
つーか似合う似合わないでいったら、勘違いのままの方がよっぽどあなたに似合ってるって。似合わないもん、実質の山は。
っていうか、むしろ今私はものすごく手塚に興味を持った。一点において、すごく聞きたい。聞きたい。今なら聞ける。
よし!いける!!

「あのさ……ってことは、山のあの派手なウェアとかザックとか着てるの?」

「当たり前じゃないか。あの派手な色は遭難したときなんかに……」

うんちくはどうでもいい。
うわああああああ!!!やっぱりか!やっぱりか!!この人が紫とかピンクとか蛍光とか着てるのか!!
わああああ!今私、すっげぇ心で大盛り上がり。

「なんだ、やっぱりは山に詳しいじゃないか」

はっ!?
しまった!?つい「実物は見たくない想像だけで悶えられる変なもの」への興味が勝って……つい!

「……別に山が好きなわけじゃないからね」

苦しい……この興味を持った目を前にして、再び居心地が……居心地が苦しい。
あ、夕立止みそう。帰ろう、チキショウ、帰ろう!さっさと!!
山トークなんぞ膨らまなくていい!



結果だけ言います。これをきっかけに手塚にちょっと一目置かれてしまいました。

ちくしょう。卒業近くて本当によかった。


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