□  クリスマスと彼(チケット準備--おねだり?--編)  □


「……は?」

 朝練の終わった更衣室で跡部が跡部らしからぬ声を上げた。
 横並びで着替えていたメンバーは「何事だ?」と思わず振り向いてしまった。

「せやから、跡部やったら何とかできるやろ?」

「だから、何のことをいってやがる?」

 跡部は忍足と押し問答を繰り広げているようだった。
 ほぼ着替え終わった滝だけが、事情に気づいたらしく、


「そうか、やるねー……」

 テニスバッグを片手に呟いた。

「んだ?」

 ついでタオルを頭にのっけたまま宍戸が長太郎と滝の方を見たが、長太郎はわかっているのか分かっていないのか曖昧な笑みをたたえ、滝にいたっては自己完結していて、教えそうにもなかった。
 その隣、岳人が何かに気づいた様子で、ぽんっと手を打っている。

「せやから!」

 結局、回答を与えたのは本人だった。

「氷帝の帝王やったら、きとるんやろ?姫宮のクリスマスコンのチケ!」

「「「…………」」」

 「ああ」と、まあ……
 思わず納得のため息が零れそうな数瞬であった。
 奥にいた日吉が本気で呆れた表情を見せた。

 ――暗黙の了解。

 沈黙の理由は忍足のここのところの豹変振りにあった。
 「忍足」と書いて「オッカケ」と読むようになった数ヶ月だ。
 姉妹校(これが上で忍足が叫んだ「姫女」こと姫宮女子学園だ)との合同生徒会に、跡部に連れ出されて以降、少々可笑しくなった彼の事情は知られてのとおりだ。

「ああ、アイツのか」

 跡部は「アイツのことだから送ってくんだろ」と答えた。
 アイツとは忍足の「オッカケ」の対象、姫宮女子学園の「王子様」のことである。
 女子校の王子、という時点で何かを感じられるだろうが、ようするは女版跡部である。氷帝に跡部がいれば姫宮には彼女がいる、とまあ、双璧をなすお人だ。

「まあ確かに格好いいけどね」

 滝の呟きに幾人かが頷いた。
『だからってアレはねーだろ?』とは皆して飲み込んだ、正直な感想である。
 ようするに今の忍足――格好いい王子(性別;女)に憧れて目を潤ませる忍足は非常にきもきもしかった。

「ほんまに格好ええんやで?……ああ!今年はロミジュリ言うてたんや……コンサート言うから、舞台系は期待せぇへんかったっちゅーに……!!」

 テンションはオトコマエに高い。
 無駄に高い。
 跡部にものすごい勢いで迫る形相もいつになく必死なものだった。
 だが……

「あれがオトコの中のオトコや!」

『その直後、うる目で言われるとな……』
 やっぱり全会一致。
 心からのボヤキである。
 
「……………それ、どこにつっこんでいいか分からねーよ」

 宍戸が正直に声に出すと、一種尊敬の眼差しが彼に対して注がれた。
 言っても無駄が痛切に身にしみている面子である。
 事実、あの跡部様@帝王ですら、乙女泣きに泣きながらいう忍足に押されながら「い、一応かけておくぜ」とのたまってしまっていたほどだ。
 加えて言えばよっぽど怖かったらしく、目が泳いでいた。
 忍足は言うだけ言うと気が納まったのか、勝利(?)を確信したのか、

「絶対やで!!!!専用掲示板で5万はくだらへんのや!」

 捨て台詞(?)をはいて、走り去っていった。

「「「「「…………」」」」」

 またも沈黙が走る。

「なあ、滝、侑士のやつ、一時間目って……?」

「……サボりだねー……。本当は生物だし」

 遥か彼方、彼が消えていった方向は間違えなくコンピュータルームであった。
 滝は諦めた顔で、「じゃ、理科棟だから」と部屋を出て行く。
 他のメンバーも動き出そうとした。

 そのとき――

 がさごそっ。 
 不意にソファの横で何かがうごめいた。

「おはよー……うるさいから目ぇ冷めちゃった……」

「おう、ジロ」

 岳人が起き上がった物体A イコール 芥川慈郎に声をかけて手を差し出す。
 「んあしょ」と可愛いんだかおっさんくさいんだか分からない掛け声でジロは跳ね起きた。

「あとべ〜。忍足(あれ)、王子様本人に何とかしてもらえないの?」

 寝ぼけたまんまの眼差しで跡部に聞く。

「んで俺がお膳立てしなきゃいけねーんだよ。そもそもとはそういったことは話さねーんだ……」

「へー」

「意外だな」

 とは岳人、宍戸の感想である。

「もっと見栄っ張りかと思ってた」

 確かに派手である。

「ファンとかいったら片っ端から食ってそうじゃね?」

 恐らく「跡部みたいに」がつく。
 所詮は同類なのだ。
 だが、だからこそ、分かることが跡部にはあった。

「俺もそう言われてんだろ?」

「「「あー!」」」

 しかし実際は違う。
 そりゃ好きなタイプは捕まえるが節操がないわけでも、だれかれ構わずでも、よりどりみどりでもない。
 そもそも紹介されるのが嫌いだというのに、紹介するはずも――

「だから、いーんだよ」

 跡部の言葉に、なるほどなぁと一同は頷いた。 
 だが、「あのままの忍足じゃやっぱ困るよなー」と頭を抱えるのだ。
 それは跡部も同じで……

「さ、戸締りするぜ?」

 皆を追い出して、一人残った部室でこっそり

「……ま、一応チケットの手配くらいしてやるか」

 携帯のナンバーをおす。
 短縮でいれざるをえなくなった相手には数コールで届き、軽くチケットの枚数をかさまししてもらったあと、

「あとよ……たまには野郎のファンにもサービスしてやれ。うぜぇ女(ファン)が減るぜ?」

 どっちに対する忠告だか、協力だか分からないような台詞を付け足すのだった。
 これで、せめて「忍足」がまともにならんことを〜と祈って。
 結局クリスマス当日、オッカケに狂った忍足に、またも迷惑を被るだけなのだが。
 そう。何せはあくまで王子で……跡部同様態度を器用に変えるなどということはできない体質だった。「それなり以上のファンは試合でもないのにウザイ」と思いながらも無駄にサービスしてしまうのだ。


 END

BACK