□ 愛の挨拶 □

岳人SIDE
 朝起きたらこの時間。大慌てで準備をしたら、バッグ(ラケットいれてんだ、重ぇんだよ、意外と)を忘れた。
 ――運が悪ぃな。
 けど練習に響くのは問題だ。
 誕生日っていったって俺にとっちゃ一番はやっぱりテニスだし。跡部から小言言われたり宍戸に馬鹿にされんのも癪だろ。
 ――あー……
 面倒だとも思う。でも、寝起きのぼーっとした感覚はふっとび、徐々に焦りが生まれる。今日は監督がみていない。みていないとはいえ……
「せっかくの誕生日くらい……」
 ――ちょっとは格好つけたいじゃん。
 これでもレギュラーなのだ。それなりに人気もあったりする。可愛いだの、格好可愛いだの………………ちょこっと相棒やら部長やらとは違うもて方でも……。
 今日はギャラリーも他の面子のファンの子も、ある程度自分を気にしてくれるという気もする。
 来た道を走って戻る。
 まだ近くてよかった。
 レンガの見慣れた青い屋根を通り越し、いつも座ってる猫の前を跳び越し……
 息が切れる。
 視界がクリアになっていく。
 ――それに今日は……。
 朝練習はまだいい。問題は放課後なのだ。
 ――今日は……。
 きっと来てるだろう予想があった。
 定期会議だと言っていた。「また氷帝側までわざわざいくなんて……」とあの幼馴染は分かりにくい言い方をしていたが……あれは……
「来るってことだよな」
 それなら何が何でも格好つけさせてもらわないと。
『可愛くなんてないわ男前よ、むしろむかつくぐらい』
 憎まれ口を叩いても、なんだかんだと自分を好いてくれてる彼女の口調を思い出しながら、急いで家の前に……前に……
「え?」
 着くより先に、見慣れた顔が覗き込んで……
「忘れ物」
 わざわざ持ってきてあげたんだから受け取れば? 
 お馴染みのセーラーと、似合わないテニスバッグ。
「お、お前っ」
「偶然よ……。朝練でしょ?急がなくていいの?」
「あ、やべ、時間」
「7時半」
 ――スタート時間ぎりぎり……ってそうじゃなくて!
「偶然も何も……」
 「早く行って」と背中を押す彼女は、ここを通るはずもなく――
 でも、
「後は放課後きくから」
 ちゃんと後で会えると教えてくれたから……「おめでと」とそっぽむいてつけたしてくれるから……
「サンキュ、。朝一で会えてよかった」
 少しだけ素直にいって、怒ったふりの幼馴染の頭をぽすっと撫でて…… 
 また走り出す。
 とまらずに全速力で、公園の横を抜けて、全速力で。いつもは渡れない信号機も青だったからそのままずっと……
 だから、バックについてる「羽」のキーホルダーに気づいたのはバスに乗り込んでからのことだった。
 ――なんだ……。
 どこかの誰かさんの口癖ではないが、十分「ラッキー」じゃないか?
 「サンキュ」
 放課後は本気でいいところを見せてやろう。
 ――ついでに、朝はちゃんと適当でいいや。(ちゃんと適当は彼女の口癖。それ相応という意味だといっていた)
 ギャラリーの声援もプレゼントも、いらない。受け取れば認めないだろうが、あの子はこっそりむっとするから。
「さーてっと、今日も頑張るぜ」

**おまけ**部室にて。朝練習後。
忍「何や?えらいご機嫌やな」
岳「そうか?まーな」
忍「あれ?がっくん、そのキーホルダー……」
ジ「あー……ずっりぃ!おめぇ、これ、誰かにもらっただろ!」
忍「もしかして姫さんちゃう?」
岳「っ」
跡「今日の会議は短めだな(これでさっさと部活に出られる)」
岳「だー!うっせー。散れ散れ!(でもラッキーか…。……って跡部がさぼりたいだけじゃ……)」

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