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「一目ぼれや」
唐突に相方が壊れたのは放課後のこと。 「は?」
思わず唸ったのも無理もない。
最近試合以外じゃ少なくなってきた口癖まで飛び出す始末で、でもいつもやる気のない忍足の爽やかな笑顔――チャー○ーグリーンやぽっ〇ー(?)のCMにでも出られそうだと岳人は思った――に何とか反応する。 「めばちこ?」 そういえば格好つけてそんなこといってたなぁと思考がとびそうになるガックン(多分十五歳)。 「ちゃう!!一目ぼれ。男女が人目で恋に落ちることや」 「堕ちたのか?」
お前に。 「つまりな、俺が生徒会室で王子様を見たっちゅうわけや」 「王子様?」 わけがわからない。 「まさか侑士………男にまで……」
手をだしたか。 「生徒会室?」
場所に違和感を覚えて、聞き返す。 「でも王子って」 呟きかけた途端、岳人の様子など放って、語り続ける忍足(たしかやる気のない低血圧男だったはずの十五歳)の言葉が耳に飛び込んでぎょっとする。 「えらい格好ええねん!あれは理想やで。もう跡部がかすんで見えるんや。すごいやろ?」
「跡部がかすんでって……相手女だよな?」 「当然やろ。綺麗やったなぁ。脚なんかすっとしてて(ここ重要!と突っ込みが入るが、岳人は圧倒されて聞いちゃいない)高飛車なんやけど、もっと上品な感じで、周囲の女子がきゃあきゃあ言ってるんやけど眼中にあらへん。せやかて、跡部と違うて、こう、なんていうんやろ、愛想があるんや。素っ気無いわりにしっかり相手にしとるんや。……まあ、顔あわせられへんくて俺、さっさと逃げ出してきてもうたけど……ああ!!勿体無いことしてもうた!」
このどこがクールで大人? 「で?誰だって?」 と、取りあえず名前を聞いた。 「」 答えは本人ではなく、その本人に「馬鹿が。勝手にでてくんじゃねー」とラケットで突っ込みを入れた帝王跡部景吾であった。 「あっ、跡部様。すまへん。許してや」 何やらあやしげな誤り方の忍足に跡部が一歩退いた。 「なんや、親しげやったよな?」 「あ、ああ」 「なんでもええ。情報くれへん?」 「あーん?」
岳人はそこにきて――人の会話はさておき、ようやく誰だか納得がいった。 「お願いや」
真剣そのもの。 「まあ……」
同じなのだろうか。 「あいつとは初等部からの付き合いだからな」
初等部のときはいなかった(IN関西)忍足である。 「ずるいやん!」
拗ねだす忍足は一気に子供化していて、実際おいおい……と真剣に思うのだが、ひとまず無視。 「まあ言うなれば俺様の女版だろう。いや、女くさくねぇし、空気が読める同士だな」
珍しい褒め言葉に驚いたのは忍足も同じようで、特有の嫉妬の(女か?と思わせるような執念深げな)まなざしで続きを待っている。 「部活は?」 とうとうメモを取り出した忍足は「誕生日」「身長」などの公式データと(何故跡部が知ってるのか疑問だが、たずねればお互いに勝手にライバルにされたのにやさぐれて意気投合してるようで、公式は適当に作ったらしい。……とあとで、真実は岳人だけが聞いた)他に、いくつか有名なことを聞き始めた。 「「無所属」」 声がかぶる。 「これは有名だから俺でも知ってるぜ」 何故?と言われる前に岳人が言う。 「なんで俺、あないに綺麗な方をしらなかったんやろ。様はほんま普通であらへんで」 「あれだけ目立ってたのにわからねーなんてお前くらいだろ」 「だよなー跡部」 「その論理で言うと、俺様をしらねー「たらし女」も向こうにいるかもな」 あくまで俺様に言ってみせる跡部に、忍足なみに男ハンターがいたら分かるだろうとつっこみかけるが、その女たらしの欠片も見えなくなった忍足の目は飛んでいる。 「せやったらなんで有名なん?」
いや、訂正。 「ああ、あそこ女子校だろ?所属なくて、助っ人って制度の方が多いんだよ」 「それか!」 「もっときかせてくれへん?」 「すまんが、いちいちの出てるもんまでは流石にチェックしてねー」 あいつも騒がれんの、疲れるときあるしなーと跡部が、むしろ重要事項もらしてるのに聞いていないファンとかしつつある忍足(むしろ初恋の女の子か?)に嘆息するかしないかのうちに「さらばだ」と走り去っていってしまった。 調べてにいったのだろうが。 「さらばだって……」 「ああ、あいつの影響だろ?」 最早聞くまでもなかった。 **********************************
その後の忍足の行動は最速を極めた。 「ああ、あの人はすごいですよ」
珍しく日吉が褒めたのでライバル視したくなったり。 「手合わせをもらいましたけど、あの人には完敗ですね」 「下剋上、せぇへんのか?」
女性にはしないのだろうか。 「演劇の最優秀賞とったらしいぜ?クラスの女が騒いでやがる。ロミオ役だったけな」
と、とんでもない衝撃の告白をうけて、忍足は眼をハートにして「王子様や……」とうごめいたりもした。 「ああ、ピアノコンクールも常連。あとは確かバレーボールと陸上だったけ?やるねー」 知っていると知って忍足は灰に――もといハイになった。 「あかんわ。これはまず全ての写真と情報の収集をはじめるところからや」 闘志の宿る瞳は誰にもとめられそうにもなく、結局岳人のところに戻ってくるなりそういって消えていった。 「なあ跡部」 「あーん?」 残された二人はぼーっとしていた。 「……俺、もう侑士がわかんねぇ」< 跡部は何も言わなかったが、気持ちが通じていると岳人は確信していた。 ********************************** 後日談(翌日の彼) 「……侑士?」
思わず聞き返したのはわけがある。 「おはようさん。なんや、岳人。辛気臭い顔しよって」 「お、お、お、おまえ……」 「ああ、似合うやろ?」
そういって指したのは新品のめがね。 「髪もかよ!!」 髪もさらさらの癖のない毛がいつのまにか髪質ごと?とでも聞きたいほど変化していた。 「元に戻しただけやねん」
かげりのある年上系、わけありクール男に仕立てあがった彼に理由をきいて、更に固まることになるのはその数秒後。 「あんなぁ、昨日きいたんや」 差し出された紙には「姫女校内新聞」という題名とともに、特集(トップ)記事、『王子様の私生活』と銘打たれた原稿と……インタビュー
『どんなタイプが好きですか? 髪の長めの子かな。癖がある髪なんてとかしてあげたいものさ 「これか……」
心のそこから罵倒したくなった岳人を、見ていた部員は皆(後で理由を知って)応援したのは言うまでもない話。 ********************************** おまけ。その放課後待ち合わせて帰ったがっくんと彼女(まだ秘密だが、姫女の生徒)の会話。 「生徒会お疲れ。断っといたくせに、また呼び出して悪かったな」 「いいわ。これくらい役得がなくちゃやってられないし、ちょうどよかったのよ」
生徒会の役員である彼女には前日、間違っても跡部に転ぶことはないだろうからと思って何もいわなかったが、一応、相方にほれるなと警報を出すべきだったかと思いなおした午後。 「侑士見たか?」 「顔はあわせなかったわ、残念ながら彼物凄いスピードで帰っていったから」 (やっぱり)と安心しながらふと思う。 「何かあったの?」 「あ、ああ……そっちの王子にあいつべたぼれになったみたいで人が変わってて怖い」 「に?そう」 もともと素っ気無い彼女は少しだけ意外そうにはしたが、すぐに「それだけ?」と目で問うてきた。 「まあお前に手出されなくてよかったけど」 「私が転ぶと思ってるの?」 「そりゃ……」
思わないと言い切れない交際期間数ヶ月。 「馬鹿ね。ありえないわよ。……岳人」 と、言葉とともに優しいキスが降って…… 「私との共通の趣味知ってる?」 「?」 「可愛いものが好きなの。それも格好よくてね」 「………」 「そういうことよ」 岳人は両方だもの、と駄目押しをされては負けたも同然。 「そうか。ならもう一度……」
格好つけないわけにはいかない。 |