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「お兄さん、かっこいいよね。ね、よかったら遊ばない?」 わざわざ私服に着替えて出直してきた行動の理由は、ナンパなんていう安いもんじゃない。 (この身は既にあの人に捧げたもんやし) 忍足は反射で返す。 「うざい」
しかし馬鹿な女子学生は引き下がらず、腕を掴んでくる始末。 (まあ。それいうたら氷帝(うち)も同じようなもんやけどな) たちの悪い一部の跡部ファンを思い返しながら、静かに手を振り払ってなれた口調で告げる。 「あんた、【薔薇】やないんか?そろそろ散る時間やで。部外者ならさっさと消えんでええの?」 呟かれた台詞に相手が凍りつく。 「まさか、【薔薇】の知り合い?お姉さま方の……」 「そうや。わかったらさっさと行き」 「……貴族組の彼氏なの?」 「まさか」
薄く笑う。 「あいつらは男よりも惚れこんどる人がおるやろ?」 冷たい拒絶に今度こそ少女は走り去った。 忍足は後姿を見もせず、待ち続けていた。 そのときを…… ********************************** 数分後。 (あー綺麗やったあ。至福のときや……)
もう頭はめるひぇんにスイッチが切り替わっていた。 「出待ちご苦労さん」
女が近づいてきた。 「ああ。すまへんな。特例やいうても男なんかがおったら問題あるやろ」 「まあ工作は面倒だけど、あんたは特別だって。なんてったって、本気でほれ込んでる同士なんだし。あー、もうっ!!あんたが女だったら薔薇のトップ任せるところよ」 「嬉しいわぁ。でも俺は男やからあの方に惚れたんやで」 「それでもいいって。跡部派どころかそのおつきその2かと思ってたオッシーが、よもやマジにマニアだったとはねえ」 「そりゃ、男より――というか全人類見てもあんな理想おらへん。こう足がすらっとしてて、めっちゃ綺麗やん。踏みつけられたいとかは思わんけどそうされても本望や」 「病気だわ……でも分かる!!!さすがオッシー。男の中の男。跡部よりずっと男前だと思う!」 「おおきに。ところで、隊長さん、あれはどうした?」 「例のぶつね」
女子高生は怪しげな袋を取り出した。 「あー!!これめっちゃええ構図やねん。買ったと思ってたのに、コンプリできとらんかったか」 「それは姫女演劇部の前作よ。幻の一枚。……でもオッシーになら安く売ってあげてもいいわ。その代わり……」 「わかっとる。ぬかりない」
MYアルバム(小売用)と記されたアルバムを徐に取り出す忍足。 「私はいらないんだけどね」 「そらそうや。俺らはあくまで派やから」 「けど、これで買える秘密写真があるから仕方ないってもんよ」 「そういうことやな」 ぎっしり詰まっているのは忍足の部活の部長にして、旧友(かなり近しい友人、親友とすら呼んでいい)跡部景吾様の大量の写真であった。 (すまへん、跡部。せやかて背に腹は変えられへんのや)
友人をうってまでして、手に入れる根性、そしてでまち……そう忍足は筋金入りの「」派なのである。 (なのに、まだ変えてないアングルの写真があったなんて……)
しかも過去のぶつ。 「同士なんだから気にしないでいいのに」
と彼女は言ってくれるが、氷帝での風はまだ冷たい(特に友人達)。 「で、ところで、明日だけど天体観測日よ。来る?」 「あ、ああ!勿論いかせてもらうわ!」
必死に返事。 ********************************** 「跡部様ぁ〜〜〜〜〜〜〜」 「しつこい」
あっさり切り捨てる帝王に泣きつくのは忍足である。 「お願いや〜!!今日だけ!せめて一時間でええ。早めに部活切り上げてーな!」 「駄目だ。今日という今日は出てもらう。……っつーか、ネタは上がってんだぞ?」 「ん?ん?なんのことやろ」 (あかん、写真のことどっからもれたんやろ?) お冠としかいえない跡部の様子に、忍足は焦りながら原因を探すが、 「岳人、きちんとパートナーひきずってこいよ。それからお前はグランド二十周追加。ついでにマネージャーの手伝いな。売った写真の代金分こきつかってやるから有り難く思え」
犯人は楽に知れた。 「分かったな、侑士。諦めろ」 潔いまでの言いっぷり。 「俺をうったんやな〜」 「そりゃ当然のことだろ?お前、最近可笑しいって」
それはそうだ。 「おれ、あの人苦手だなぁ……跡部のが断然いいよ。うん」 滋朗の言葉が身にしみるテニス部レギュラーAND準レギュメンバーである。 「そうっすか?でも先輩自体はいい人ですよ」
これは長太郎。 「……んだよ?」 「お願いや、後生やから!!」 「で?今日はなんなんだ?写真の即売会か?オークションか?そういやこないだの最高値は俺様と張る1万5千円らしいな。まーにしても安いけど、お前工作したんだって?」 「(ぎくっ)」 「あっ、それともようやく思いが遂げられて、デートでも取り付けたか?」 「なわけないじゃん。な、侑士」
相方の正しいつっこっみが痛い。 「(ぼそっ)うるさいC」 「うえ〜〜〜〜〜〜〜ん」
あーあ。 「じゃ、後でな」 キンコンカンコーン
昼休み終了の鐘にそれぞれクラスに散らばっていく。 げしっ
まだいた岳人に蹴り倒された。 「おい、行くぜ」
まるで跡部様のようにのたまった。 「ありゃ、もう完璧に立場逆転してるな」
そう評し、周囲の(ばればれに違いない)状況を把握する人々がその言葉に大きくため息をついて答えた。 ********************************** 「……で?どこがいいの?」
間違えはジローの一言だった。 「まず、冷たい瞳やろ?それから真っ白な肌に綺麗な睫と髪。意地悪なとこも背高いとこも皆や!そう皆!」
あー 「あの、人を見下ろせる視線も、でもどこか格好ええ微笑みも。全部や〜!スカートの短さがたまらんていうやつもおるけどな、どっちかっていうと、運動してるときの姿の方が惚れるねん。跡部なんかより断然ええやん?なんでわからへんの?……(以下延々)たべごろやんな」 「……………」
シーン。 「なんや?綺麗やろ?俺の王子様」
語尾のハートマークは乙女のもの。 「……なあ、跡部。食べごろって……」 ジローでも聞き逃せなかった昔版忍足侑士(=現役たらし)の復活のような台詞に跡部はため息をついた。 「きくな。俺様はきこえてねぇんだよ」
複合されると正直キモい――嘆くわけにもいかない部長はだんまりを決め込むことにする。 「跡部、侑士のやつ、さっさと向こうにやっちまった方がよかったんじゃ……」
流石に岳人もひくほどだった。 ********************************** 「おそいじゃん。もう終わっちゃったよ」
がーーーーーーーーーーん。 「落ち込まないでよ。その分、いい情報仕入れたからさぁ」 「えっ!」 すぐにも乙女のようにもじもじ始める忍足は気持ち悪かろうが、周りに理解されなかろうが、なんだろうが幸せなのかもしれない。 「今日、ネット【裏】オークションにかの君の生写真とりたてが出品。出所は珍しくも白百合の君」
白百合の君――天文部の部長にして、かの君こと、憧れのの幼馴染。 「落とす!」 「残り十時間!!!頑張ってね。私は財力的に及ばないから」 「バイトならまかしとき」 「…………あんた生活費もけずってるもんね」
それでも幸せそうにへこんで泣いているのだから……この先もきっと忍足のおっかけ人生は続く……。 「岳人〜武士の情けや。昼めしわけてくれへん?」 「やだ。お前、どうせ金全部写真につかったんだろ?」 「これで三日めしぬきやぁ」 こんな事態をむかえ、あまつさえ、 「練習にも来いよ。今日は監督がチェックにくるんだぜ?」
と、運の悪いスケジュールになやまされたとしても……。 *いつ会うんだろう |