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今日が特別な日になるとは思ってもみなかった。少なくとも朝のうちは。 * * * * 「おはよう」 「おはよう、。挨拶はいいとして、爽やかにしてる場合でもないでしょ?答辞は?原稿つくったの昨日PCでながしておいたけど」 「ああ、しっかり暗記した。それに――考えてあったからな」 「そう。ならいいわ、そっちでやって」 「うまく取り込ませてもらったさ」 「あ、そう」 今日でこんなやり取りも最後になるのか。なんて思いながら、会場へ向かう。 「さあ、行こう。私の姫君」 「そのあだ名で呼ばれるのも最後ね」 「どうだろう?……あんまり変わらないと思うぞ」 「下級生に目をつけられることはなくなるわ」 「いい意味でならいいじゃないか」 「よくない」 ていうか面倒。 「……なあ、」 「ん?」 「賭けをしようか」 ふと、遠い目をしていたら、横からが珍しく提案してきた。なんか嫌な予感。 「で?」 「いいのか?」 「のらないといっても聞かないくせによく言うわ」 「そうだな。でも先に好きな方を選んでいいぞ」 「当然でしょ」 他愛ないやりとりの隙間に思うのは中学の卒業式でのハプニングだ。 「?おい、きいてるのか」 「あ、うん。ごめん、ちょっとトリップしてた」 「卒業、だからな――」 「思い出すようなことないわよ」 高校生活どころか、その前まで記憶がふっとんでました、とはさすがにいえない。 「それより賭けって何?」 「卒業、だろう?……前はやられたからな。今度は不意打ちなしでこっちから、逆にそれが起こるかきこうとおもって」 「?」 「のナイトが迎えにくるかどうか」 「っ……」 「やっぱり思い出してんだろう?」 ――……。 「ナイトってたまじゃないわ」 口ではそう毒をはいたものの、思い出してたことに否定はできない。 「いい、岳人。絶対秘密にするってきめたからには守ってよ?」 「ああ、卒業までは少なくともしゃべんねーって……てか、俺ら親に言うのとか今更、ほら、な」 「あー…」 あの頃はそこまで考えるはずもないのに、なぜか岳人は一生付き合う前提ではなしてくるし、別れた後のきまずさとか一切考えていないようだった。 「中学卒業までは秘密ね」 というもの。 * * * * * 「あの時はすごかったな、女子校の礼拝堂の前に花嫁奪還よろしく、大きな花束かかえて女かおまけの可愛い子がくるんだから……。私も一瞬、私のファンかとおもったよ」 つけくわえて意地悪くいう。 「今回はこないわよ。もう……あの件のせいで、薔薇の連中にもばれるし、先生にもばれるし、挙句に跡部にまで伝わっちゃったんだから……」 「それも、これも、>があのおしゃべりそうな彼氏に、我慢をしいていたからだろ?」 いろいろと。 「この、礼拝堂も最後なのね」 「ああ、三年前ナイト君が迎えにきた、な」 「絡むわね。そっちこそ、常にオッカケられてた頃が懐かしいの?……しらずにとはいえ、大分薔薇には有名だったみたいよ。あの眼鏡」 「そうか?……ま、過ぎた事はふりかえらないたちなんでな。でも。お前はふりかえってもいいと思うぞ」 「……なにそれ」 「幼馴染で、ずっと一緒にいるのも……時につらくおもえるかもしれないが」 「>?」 「お前と向日には、大切な時間があったんだろう?」 「……そりゃ」 「秘密にしてる間も、それ以外も。高校でも」 「ナイト君が迎えにくるかどうか」 「岳人はそこまで感傷的じゃ――」 「ないか?」 「……」 いいきれない。 「氷帝にはいるのよ?大学は。私も」 「関係ないんじゃないか?嬉しがって会いにくる方に賭けるな。あるいは――」 【何か別の約束でもひっさげて】 * * * * 「なんで来てるのよ?!」 「約束。今日までだろ?」 「あのね、こんな目立つところじゃ、皆に……」 「ばらしてもいいって言った」 「……う」 「がいったんだぜ?」 「で、でも……」 「わーったって。そっと顔見て、これ渡して――それから、こういって帰る気だったし」 もう用事は済んだから。 「おめでとう」 そう耳元に残して、未練も見せずに去ろうとしたものだから。 「まっ……まってて。すぐ挨拶終えてくるから」 だから、引き止めたのは私の方。 「え?いいの?……ん家いっても」 「……なんでそうなっちゃうのよ。今日はうち両親がいるの」 いなければ、何に及ぶかなんて考えてしまうのも、あの初々しい年頃にどうかと思うが、一度ソレでもめた後ならば、簡単ではなくても『許した』こともあったもので――その分、警戒もあったかもしれない。 「でも……ま、一緒に帰ってもいいでしょ?方向はあってるんだし」 「だから――別れたら気まずいでしょ?親友同士なんだよ?うちの親とそっちの親は」 * * * * 「……堪忍してよ、何人の前でキスシーンをさらしたとおもってるの……」 「今回もそう来るんじゃないか?」 「『約束』はもうないもの」 懐かしさと、告げた言葉の思いもよらぬ深さに鼻がつんとした。 「本当に?」 横から意味ありげに>が言った。 礼拝堂での式はこれが最後だ。 手渡しで花と証書が送られ、答辞を読むが壇に進み出る。 「もう終わりか。寂しくなるな」 そうつぶやいた横顔に、思わず力強くうなづいてしまった。 「あれ」 涙が出た。 「……?」 覗きこむのをやめて、がきづいたように私を引き寄せ――かけてやっぱりその動作もストップした。 「え?」 「……終わったら、急いで顔を流した方がいいな」 「そうね」 このまま 挨拶するわけにいかない。 「なんで……」 そこに待っていたのは本当のラスト。 「おめでとう」 「あ……ありがとう」 「それから、」 直ぐ後ろにつけてきた、彼女に岳人がなぜか話しかける。 「【おめでとう】っていいたいとこだけど、侑士にとっといてやるから」 「ああ」 「だから、明日一番でこいつにいってやってくれよな」 「なるほど、そうきたか」 「予想ずみなんだろ?」 「な。何???」 二人の間で会話が通じてることじたいが、これもこの三年の進歩だ。 「駄目」 当然。 「くそくそ」 くやしがる岳人は放って、歩き出す。 「帰るんだろ」 「うん。途中まで一緒なんでしょ?」 これも同じだ。もう二度とない光景だとおもってた。 「あのな、。今日は途中までにさせないから」 「え?でもあのね、今日はうち……」 ――そういうことをしたくても出来ないわよ? なぜ頭をかきむしる? 「だから!……おじさんたち いるんだろ?」 「う、うん」 「だからだよ……約束」 「え?」 「はさせてくれなかった約束。俺はするから」 「どういう……?」 きく前にずんずんと手をとって、岳人は歩いていってしまう。 * * * * 「秘密にするっていった」 「それ、やぶって、大宣言かましてくれたのはどこの誰よ?」 「俺」 「しかも三年前よ?わかってる?」 「うん。だからさ、これからもう一個秘密をばらしにいこうとおもって」 言葉はわざとらしく、地元の駅まで吐かれなくて。 「ちょ、まっ」 ぴんぽーん 玄関のチャイムを鳴らす必要がない私のかわりに、なぜか岳人がチャイムをならして、止める間もなくドアをあける。 「お邪魔します」 「あらあら」といいながら出てくる母と、ビックリ顔の父にむかって…… 「とお付き合いさせてもらってます。もう三年も前から。……この先も別れる気はないので、うちの両親ともどもぞうろよろしくお願いします」 堂堂と秘密を暴いてくれた。 「え?!岳人君!!!!」 目を白黒させた、父に向かって 「叔父さん、すみません。隠しているつもりはなかったんです。でも、しっかりと認めてもらうには年月は必要だって思って」 「いや、それならいっそ、もう少ししてから許可をとりにきてくれても……」 とんでもないことを言い出した父と、ぼーっとしてる母だけじゃなく、私にまで―― 「絶対幸せにするから」 ――……って 君、いつまで私と一緒にいるきなの? 「……大学卒業まで一緒にいたら考えてあげる」 「俺が別れるわけねーじゃん」 「私の気持ちはどうなのよ?」 「あのなぁ……」 親のまえで何がかなしゅうてこんなやりとりを? 「心変わり?にそんなのさせるわけないだろ?」 自信満々にいいきって「どこの(跡部でも可)よ?」といいたいこっちを黙り込ませるように、 「本気なんだよ」 岳人らしく照れたよう言った。 ――これじゃ…… 「……馬鹿」 ――いわないわけにはいかないじゃない。 「なら、約束ね?」 これでまた一つ、卒業の約束が増えてしまった。 ――後四年間。もったなら…… そのときは、君にも、それから……私にも「おめでとう」を。 |