□ >おめでとうを君に。(ひまぷり 微妙関係編) □



 今日が特別な日になるとは思ってもみなかった。少なくとも朝のうちは。

 *        *      *      *

「おはよう」

「おはよう、。挨拶はいいとして、爽やかにしてる場合でもないでしょ?答辞は?原稿つくったの昨日PCでながしておいたけど」

「ああ、しっかり暗記した。それに――考えてあったからな」

「そう。ならいいわ、そっちでやって」

「うまく取り込ませてもらったさ」

「あ、そう」

 今日でこんなやり取りも最後になるのか。なんて思いながら、会場へ向かう。
 これから卒業式。
 それで全ては終わる

「さあ、行こう。私の姫君」

「そのあだ名で呼ばれるのも最後ね」

「どうだろう?……あんまり変わらないと思うぞ」

「下級生に目をつけられることはなくなるわ」

「いい意味でならいいじゃないか」

「よくない」

 ていうか面倒。
 ぴしゃりとつげて、足を早めた。
 三月の風は冷たくて、ふと中学のときのことを思い出させる。あの日も風が強かった。

「……なあ、

「ん?」

「賭けをしようか」

 ふと、遠い目をしていたら、横からが珍しく提案してきた。なんか嫌な予感。
 ――こういうのってあたるのよね。
 にやりと、悪戯に笑う顔はいつも以上に帝王跡部にそっくりで、既に勝ちを確信してるだろうあたりが気に入らない。

「で?」

「いいのか?」

「のらないといっても聞かないくせによく言うわ」

「そうだな。でも先に好きな方を選んでいいぞ」

「当然でしょ」

 他愛ないやりとりの隙間に思うのは中学の卒業式でのハプニングだ。
 たしか、あの頃、はまだ、あの駄目眼鏡とはそこまでうまくいってなくて、コッチの付き合いもには秘密だった。
 「黙ってて」っていったら、私のちっちゃな恋人(といったら殴られるけど)はむっとしながらも「秘密ってのもありだな」とか気楽にいってくれちゃって……。
 イザコザがあって、ようやくしがらみもとけた文化祭以降もには秘密にし続けたのだけれど……。
 それが……


?おい、きいてるのか」

「あ、うん。ごめん、ちょっとトリップしてた」

「卒業、だからな――」

「思い出すようなことないわよ」

 高校生活どころか、その前まで記憶がふっとんでました、とはさすがにいえない。
 ようやく落ち着いた高校生活を送っていたんだから。

「それより賭けって何?」

「卒業、だろう?……前はやられたからな。今度は不意打ちなしでこっちから、逆にそれが起こるかきこうとおもって」

「?」

のナイトが迎えにくるかどうか」

「っ……」

「やっぱり思い出してんだろう?」

 ――……。
 図星をさされると人間は黙り込むという。

「ナイトってたまじゃないわ」

 口ではそう毒をはいたものの、思い出してたことに否定はできない。
 *        *      *      *
 三年前――

「いい、岳人。絶対秘密にするってきめたからには守ってよ?」

「ああ、卒業までは少なくともしゃべんねーって……てか、俺ら親に言うのとか今更、ほら、な」

「あー…」

 あの頃はそこまで考えるはずもないのに、なぜか岳人は一生付き合う前提ではなしてくるし、別れた後のきまずさとか一切考えていないようだった。
 それで、うかれて言わないようにという意味もこめて(別れてきまずくならないようにって思ったのよ。だってやっぱり私は現実主義だったから……。岳人にいえば「ざけんな。ずっと一緒にきまってんだろ」とか怒られるところだけど)
約束をした。
 それが――

「中学卒業までは秘密ね」

 というもの。
 約束は確かに守られたのだ。
 だけれども……

 *        *      *      *  *

「あの時はすごかったな、女子校の礼拝堂の前に花嫁奪還よろしく、大きな花束かかえて女かおまけの可愛い子がくるんだから……。私も一瞬、私のファンかとおもったよ」
 面識がなければな。

 つけくわえて意地悪くいう
 これで大体賭けの内容はよめたようなものだ。

「今回はこないわよ。もう……あの件のせいで、薔薇の連中にもばれるし、先生にもばれるし、挙句に跡部にまで伝わっちゃったんだから……」

「それも、これも、>があのおしゃべりそうな彼氏に、我慢をしいていたからだろ?」

 いろいろと。
 ――と、これまた怪しげなニュアンスをふくませてるんじゃないわよ!もう。
 と、ふいっと視線を逃せばそこには見慣れたような、それにあのときと変わらないような、そんな建物の全貌。

「この、礼拝堂も最後なのね」

「ああ、三年前ナイト君が迎えにきた、な」

「絡むわね。そっちこそ、常にオッカケられてた頃が懐かしいの?……しらずにとはいえ、大分薔薇には有名だったみたいよ。あの眼鏡」

「そうか?……ま、過ぎた事はふりかえらないたちなんでな。でも。お前はふりかえってもいいと思うぞ」

「……なにそれ」

「幼馴染で、ずっと一緒にいるのも……時につらくおもえるかもしれないが」

>?」

「お前と向日には、大切な時間があったんだろう?」

「……そりゃ」

「秘密にしてる間も、それ以外も。高校でも」
 
 ないわけがないのだ。
 それどころか、あの騒動だって……は知らないかもしれないが。
 あれだけ色々なことがあって、もう駄目かもしれないと思ったし、知らないふりするには幼すぎて悩んだこともあったけれど……そういうのを乗り越えてる分、余計に時間は大切に積み重ねた宝物みたいなものになっていた。
 は「思い出を大切にしてる姫も悪くない」と気障なことを言った。
 
「……じゃあ賭けって、もしかしなくても――」

「ナイト君が迎えにくるかどうか」

「岳人はそこまで感傷的じゃ――」

「ないか?」

「……」

 いいきれない。
 でも今回は「約束」がないのだ。
 突発した行動は彼の専売特許だが、そこまでの無茶を何度もするわけではない。あのときは約束の時候というきっかけがあったが、ましてやこの先ずっと……

「氷帝にはいるのよ?大学は。私も」

「関係ないんじゃないか?嬉しがって会いにくる方に賭けるな。あるいは――」

 【何か別の約束でもひっさげて】
 刹那、の言葉が遠くに聞こえた。


 *        *      *      *
 そう、あれはあの中学の卒業式のあとのことで。

「なんで来てるのよ?!」

「約束。今日までだろ?」

「あのね、こんな目立つところじゃ、皆に……」

「ばらしてもいいって言った」

「……う」

がいったんだぜ?」

「で、でも……」

「わーったって。そっと顔見て、これ渡して――それから、こういって帰る気だったし」

 もう用事は済んだから。
 幼馴染は飛び跳ねてさっと体を離し、

「おめでとう」

 そう耳元に残して、未練も見せずに去ろうとしたものだから。
 それはこっちが怒ると思ってるからなんだろうけど……少し寂しいと思ってしまった。

「まっ……まってて。すぐ挨拶終えてくるから」

 だから、引き止めたのは私の方。

「え?いいの?……ん家いっても」

「……なんでそうなっちゃうのよ。今日はうち両親がいるの」

 いなければ、何に及ぶかなんて考えてしまうのも、あの初々しい年頃にどうかと思うが、一度ソレでもめた後ならば、簡単ではなくても『許した』こともあったもので――その分、警戒もあったかもしれない。 
 けれど、思いのほかに岳人が黙り込んでしまうものだから、

「でも……ま、一緒に帰ってもいいでしょ?方向はあってるんだし」
 わざわざきてくれたしね。
 フォローするように付け足す。
 すると、「ちぇっ、そろそろばらしてもいいのに」なんて言葉が返った。
 何事かと呆れた顔を見せれば、
「おじさんたちに挨拶するつもりで、きたのになぁ」とか、ぬかされて一層ビックリしたのを覚えてる。
 あんまりおどろいたものだから……

「だから――別れたら気まずいでしょ?親友同士なんだよ?うちの親とそっちの親は」
 
 思わず言ってしまったのだ。
 そうして、幼馴染の不機嫌を煽った挙句に、私は……
 そう公衆の面前で……

 *        *      *      *
「あのときは大惨事だったが、またやらかしてくれるんじゃないか?」

「……堪忍してよ、何人の前でキスシーンをさらしたとおもってるの……」

「今回もそう来るんじゃないか?」

「『約束』はもうないもの」

 懐かしさと、告げた言葉の思いもよらぬ深さに鼻がつんとした。
 放送がかかって数分が経過していた。
 礼拝堂はざわつくこともなく、静かだったから、との息を潜めるような会話がもれてしまうんじゃないかと心配になった。
 それでも大学までもちあがりの子が多いうちの女子校じゃ、そこまでの緊張感もない(が外に出るから、既に号泣してる子多数で、結果、空気は例年以上の高揚を見せているか)

「本当に?」

 横から意味ありげに>が言った。
 真面目な視線に気を取られるも、すぐに賛美歌がきこえ、柄にもない緊張にに、話ごとを中断せざるをえなくなる。

 礼拝堂での式はこれが最後だ。
 ここに岳人が迎えにきてから、三年。
 もう岳人は来ない。
 ――……ちがうわよ 別に岳人は関係ない。
 周りの子達を見る。
 みんな目が赤かった。 
 をみて、なみだぐんでるファンの子。
 大分世話になった薔薇の子たち。新聞部。
 大騒ぎを一緒になってするようなことはできなかったし、許されなったけれど……それでもそれなりに三年間溶け込めたのは、あのとんでもない事件のおかげだったりする。
 姫も普通の人なんていわれて、たたかれるとおもいきや……
 ――祝福されてるみたいだったもの……。
 そう、あれが結婚式だったかのように。

 手渡しで花と証書が送られ、答辞を読むが壇に進み出る。

「もう終わりか。寂しくなるな」

 そうつぶやいた横顔に、思わず力強くうなづいてしまった。
 これでこの先はみんな……
 本当に、道をばらばらに……。
 実はと同じく、私も外に出て、まだ微妙な腐れ縁が続く予定ではあるが、それとて学部は違う。
 気付けばが持ち出そうとしていた「賭け」のことは頭からサッパリ消えていた。
 戻ってくる王子様と同時に、最後の演奏が始まる。
 大地三唱は女性のみだったのだけれど、きてくれた先生方やら来賓の男声もくわわり、美しいコーラスが礼拝堂に響き渡った。
 感動のクライマックス。
 【今回】は、ここで完全に終わるんだ。
 そう思っていたら……

「あれ」

 涙が出た。

「……?」

 覗きこむのをやめて、がきづいたように私を引き寄せ――かけてやっぱりその動作もストップした。

「え?」

「……終わったら、急いで顔を流した方がいいな」

「そうね」

 このまま 挨拶するわけにいかない。
 ――姫なんだから。
 そう思って、実際音楽がやみ、退場になると同時、私はあらかじめきめられていた先頭集団について、慌てて外に出た。
 そして……


「なんで……」

 そこに待っていたのは本当のラスト。
 またデジャビュのように待ち受けていたのは、紛れもなく氷帝の制服だった。

「おめでとう」

「あ……ありがとう」

「それから、

 直ぐ後ろにつけてきた、彼女に岳人がなぜか話しかける。
 私の腕をひき寄せて、バランスを崩した体を抱くようにして。

「【おめでとう】っていいたいとこだけど、侑士にとっといてやるから」

「ああ」

「だから、明日一番でこいつにいってやってくれよな」

「なるほど、そうきたか」

「予想ずみなんだろ?」

「な。何???」

 二人の間で会話が通じてることじたいが、これもこの三年の進歩だ。
 岳人を知ってからからかうことしかなかったも、苦手としかしなかった岳人も。
 そして何故私がわからないでいるんだろう。
 不思議そうに岳人をのぞいたら、「キスしていい?」ときかれた。
 きかれただけマシだけど

「駄目」

 当然。

「くそくそ」

 くやしがる岳人は放って、歩き出す。
身長差が既に十五センチにもなってしまった幼馴染はにぃっとわらって、横に並んだ。

「帰るんだろ」

「うん。途中まで一緒なんでしょ?」

 これも同じだ。もう二度とない光景だとおもってた。
 ――今度はないって思っていたのに……
 ほっとしたのと、手がからめられたのとどちらのせいだろう。
 急激に鼓動が早くなった。
 心臓に悪い。

「あのな、。今日は途中までにさせないから」

「え?でもあのね、今日はうち……」

 ――そういうことをしたくても出来ないわよ?
 あの頃は一度で逃げてしまって、遠回りしたのだけれど、もうなれているから(行為自体にはなれないけれど)と、わりとすんなり口にできたのだが……

 なぜ頭をかきむしる?
 ため息をつかれなきゃならない?

「だから!……おじさんたち いるんだろ?」

「う、うん」

「だからだよ……約束」

「え?」

はさせてくれなかった約束。俺はするから」

「どういう……?」

 きく前にずんずんと手をとって、岳人は歩いていってしまう。
 ――はやいってば。
 それでも何か言い出せる雰囲気でなくて……一度だけかすめた唇に文句をいうまもなく、周囲の悲鳴に返答もできなううちにあっというまに見慣れた校舎を後にした。

 *        *      *      *
「それで?約束って……」

「秘密にするっていった」

「それ、やぶって、大宣言かましてくれたのはどこの誰よ?」

「俺」

「しかも三年前よ?わかってる?」

「うん。だからさ、これからもう一個秘密をばらしにいこうとおもって」

 言葉はわざとらしく、地元の駅まで吐かれなくて。
  いつのまにかたどり着いていたのは……

「ちょ、まっ」

 ぴんぽーん

 玄関のチャイムを鳴らす必要がない私のかわりに、なぜか岳人がチャイムをならして、止める間もなくドアをあける。

「お邪魔します」

「あらあら」といいながら出てくる母と、ビックリ顔の父にむかって……
 嫌な予感をあてるように、

とお付き合いさせてもらってます。もう三年も前から。……この先も別れる気はないので、うちの両親ともどもぞうろよろしくお願いします」

 堂堂と秘密を暴いてくれた。
 むちゃくちゃな言葉使いとはいえ、旧知の仲で、かつここまで真剣にいえば、それなりの家の出。
 岳人も格好よくみえた。
 みえたにはみえたけど……

「え?!岳人君!!!!」

 目を白黒させた、父に向かって

「叔父さん、すみません。隠しているつもりはなかったんです。でも、しっかりと認めてもらうには年月は必要だって思って」
 と駄目押しをしてくれるわけで……

「いや、それならいっそ、もう少ししてから許可をとりにきてくれても……」

 とんでもないことを言い出した父と、ぼーっとしてる母だけじゃなく、私にまで――

「絶対幸せにするから」

 ――……って 君、いつまで私と一緒にいるきなの?
 そりゃ、来年度から同じ学校で、同じ学部だったりはするけど、同棲をはじめるわけでもなし。
それでも、いつも以上に男前にみえてしまうのが悔しい。

「……大学卒業まで一緒にいたら考えてあげる」

「俺が別れるわけねーじゃん」

「私の気持ちはどうなのよ?」

「あのなぁ……」

 親のまえで何がかなしゅうてこんなやりとりを?
 ふと羞恥がよみがえりかけていたものの……岳人はそれを尻目に、

「心変わり?にそんなのさせるわけないだろ?」

 自信満々にいいきって「どこの(跡部でも可)よ?」といいたいこっちを黙り込ませるように、

「本気なんだよ」

 岳人らしく照れたよう言った。

 ――これじゃ……
「そうか、そうか……岳人君もこんなに大きくなって」だの「ってば、結局岳人君がすきなのよね」だのとかんきわまってる駄目な両親はほうっておくにせよ……

「……馬鹿」

 ――いわないわけにはいかないじゃない。
 ため息を諦めて、笑顔に変える。
 うまく笑えてるか分からないが、なんだか可笑しかったから平気だと思う。

「なら、約束ね?」

 これでまた一つ、卒業の約束が増えてしまった。

 ――後四年間。もったなら……

 そのときは、君にも、それから……私にも「おめでとう」を。

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