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【SIDE 長太郎@その発表のときのこと】
「おい」
唐突に声をかけられて、長太郎は振り向いた。
「日吉……。どうかした?」
「一つ聞きたいんだが……なんでお前が選ばれたんだ?」
「ああ」
何に、と聞かなくも何にだか、長太郎には事情が飲み込めた。
なぜなら渋い顔で唸る日吉の疑問は、自分にとっても「最大の謎」だったのだ。
裏から手を回した事実もなかった――むしろ目立たないようにしていたくらいなのだから。
――……となると、原因はあの人なのか?
「生徒会長に立候補した覚えでもあったのか?」
続けざま、勝手に納得した様子のこちらに、日吉が皮肉を投げかける。
「違うよ」
したくない、と本人――推薦してきた彼女と彼に、告げようと思っていたほどにそれは理解しがたい結果。
なぜか、次期生徒会長就任への下馬評ナンバーワンとして「鳳長太郎」はあげられており、更に分からないことに【姫CP(カップリング)イベント】なる生徒会企画の三人目に選ばれていたのだ。
三人……残りの二人はいわずもがな、あの方々だ。
――渓子さんと、跡部部長……
氷帝の姉妹校生徒会長(別名 王子)として君臨する、従姉と……やはり生徒会長である自分のところの部長、跡部景吾……
要するは人気ナンバーワンを争う、栄えある両学園の生徒会長なのだ。
「俺ごときが並べ立てるはずないって」
何故だか「下克上」をおくびにも出さず(流石にびっくりしたのだろう)じーっと答えを待つ日吉に、とんでもないイベントに巻き込まれかけていた長太郎は苦笑をもって応えた。
本当に分からないんだけれど……と、こっそり首をかしげながら。
* * * * * * *
さて、跡部と桐野当人たちも、(長太郎を)望んではいたが、結局、姫CPの挑戦者も、生徒会長後任も、全校生徒の手前投票によって選ばれることとなったわけだ。
……ともすれば、今回誰も裏工作をしていないというのに、なぜ(そこまで目立たないように、自らも徹していた)長太郎が選ばれてしまったのか……
それは、神のみぞ知る、偶然のなせる業だったりする。その理由を、少しだけ覗いてみるとしようか……
□ 特 別 で な い 三 人 目 の 理 由 □
【SIDE 桐野@さかのぼること少し…………姫CP手前にて】
「それで?……後はどうするつもりなんだ?」
約束するでもなく落ち合うなり、桐野は跡部に聞いた。
学園祭真っ只中の廊下の片隅、ひそひそと話し合うのは忍びない。
「後一つなんだが……まだ考えてねぇ」
人ごみを避けるように、一歩校舎側に近づいてから、跡部は唸っている。
案がない、というよりもなにやら別のことに時間をとられていたように思えるのは、さり気なく乱れている髪の毛や、なぜか左目に手にしている誰かからの没収品(眼鏡?)のせいだろうか。
桐野と、そんな跡部――お互い王子だの帝王だの、一般的でない名称で囁かれる二人――は事情により生徒会企画(カップリングイベント)より先に、目立つ催しをする羽目になった。だが、どうやら「イベントを決めておくから、好きに場所を選べ」と言い出した跡部の方が、イベント項目を考え損ねたらしい。
珍しいこともあったものだ。
桐野は首をかしげた。
――『百合には見つからないように』という注釈がものを言うのかもな。
いつもならばこの場を取り仕切るはずの姫君役(桐野の親友、生徒会副会長殿)には、今回ばかりは事情によりイベントの企画自体を話せないのである。
※理由は……本編にて。
……ともあれ、そんなこんなで中々自由が利かない企画には違いない。
とはいえ……
「仕方ない。私にもアイディアがないとは言わないが」
ある程度目立って百合に見つからないことならば、桐野にとって心当たりがあった。
百合の方は、彼女の部活展(天文部のプラネタリウム)の時間を見計らえばばれないですむし、何より桐野は、「自分の中でこっそりブームになっているあるもの」を試してみたいという野望があったのである。
「何だ?」
恐らく何か案は浮かんだのだろう表情ながら、跡部がきいてくる。
自分がしてこなかったことに関して発言権が無いと思ったのだろう。さりげなくレディーファーストなお方である。
「ファン○スティポ」
桐野はあっさりそんな単語を応えた。
非常に明白な答えだ。某ユニットの某曲……プロモーションビデオが某掲示板やらニュースサイト、ネットのみならず一般人にすら「神」扱いされているアレである。
確かにものすごく周囲の関心は引くことも違いあるまい。そうではあるが……
「…………悪くはねぇが、俺としては……」
言いよどんだような返答に、桐野は意外だと目を開いた。
他人ならまだしも跡部の思考回路は基本的に読めている。目立つものであれだけ面白いものなら、興味があると踏んでいたのだがそうでもなかったのか?
「そんなことを言って……知らないんじゃないのか?」
からかい口調で真意を確かめてみようとまでする。だがどうやら跡部は跡部で本当に知っているらしく、「いや」と口ごもってから、
「部室で向日とジロが踊ってた」
とても有りそうなことをのたもうた。
「……そうか」
こっそり「みてみたい!」と思ったのは、桐野の秘密である。
でもそうなると、
――「知ってる」ならいいじゃないか?
そう思うのも当然のこと。
だが、桐野が少々遅れて口を開こうとしたとき、またもありえないことおきた。
王子の耳に振って沸いたその言葉は……。
「ノマノマ」
そう。跡部はそうぽつんと呟いたのだ。どうやら先ほどの歯切れの悪い答えの原因らしい。
止めとばかりに追加が来る。
「○イヤヒ〜だ」
「………あの振り付け、か」
「名案だろ?」
少しだけ逸ったその声に、桐野はそこはかとなく悦に浸っている跡部の様子をみてとる。一拍置いて、
――それなら、跡部の先ほどの反応も分からなくはない。
「ジロと岳人」が影響してか、今更自分の意見を翻す気は起きなかったが、妙に納得して、手を一打ち。
「でも跡部。そもそも、あれは三人だ。足りないだろ?」
「そういえば……」
ぽむ。
今度は跡部の方が、軽く手の平を叩いて「同意」。
かくして、話はつけられた……かに思われた。
が、桐野のあずかり知らぬところで事態は進行することになる……
そしてあの噂が出回るようになるのだ。
* * * * *
【SIDE@長太郎 その後のこと】
長太郎は、たまたまそんな跡部の側を通りかかった。
だから、跡部の第一声は唐突に思われたのだ。
「鳳……ノマノマやらないか?」
「は?」
単純に、その独特な命名(ネーミングセンス)のせいで意味が分からない、長太郎は、首をかしげ……
「いや、何でもない。忘れてくれ」
真剣に考え込んだ調子の部長に、そうとだけ言われた。
――忘れろっていわれても……。
長太郎もやはり部長には敬意を表している。ついでに、文化祭――交流試合の関連で跡部とは部のことを日吉ともども話す機会が普段より多かったのだ。
だものだから、何気ない部長の発言を気にしていた。
ゆえに、日吉に、軽い気持ちで、
「なあ、のまのまって分かる?やるらしいんだけど」
そうつげてみて、
「は?」
また同じ調子で聞き返され、一度は諦めた。
しかしながら、長太郎も長太郎でそれなりに探究心はある方だった。その後、クラスメートにも、もう一度だけトライしたのだ。
結果は空振りで、のまのまは分からないままだった。
が、しかし……これが後の悲劇を生む……。
* * * *
【SIDE 日吉@その後の噂現象】
日吉は突然の鳳長太郎の発言の意図をはかりかねたが、この種のことはわりとよくあった(日吉の中で長太郎はフィーリングで会話をするタイプに分類されている)ため、慣れっこになってもいた。
だから、彼自身があえて聞き返すということはしなかった。
――飲み会?……まあ跡部部長なら……
やることはなくても忍足辺りに何か吹き込まれて(無意識に)企画させられているのかもしれない。と、まあそんなことを思ったのだ。
そして、
「さっき、鳳、きてたけど何だって?」
聞いてくるクラスメートに、
「ああ、跡部部長と話をしたとかいってたが?………飲み会……?」
そんな具合で伝えた。
後半は不安だったため、きえ気味の声だったが、ここまでならば問題はなかった。
問題はこの後……人選と偶然によって引き起こされる。
【SIDE 生徒@既に流れる噂】
日吉にさきほど質問したクラスメートは噂好きな、お祭り男だった。
この学校では珍しいが居ないタイプでもない。……というか、各クラスに数名はいる。
ちなみに、この辺り学校の特色が現れているが、基本的にそこまでお祭り事態が好きという人種はこの平穏な一貫校にはいない。内容も例年繰り返しであきがきているのだ。
ただあの二人――跡部と桐野がからむと、何故だか物凄い勢いで盛り上がるのだ。格好よかったり素敵だったり褒め称えられてる一方で、彼らは微妙にお祭りの象徴…………要するに変わった方々……もっといえば、格好の「ネタ」でもあった。
さて、そんなお祭り男の一人だが、彼は耳が早い。
よって情報は収集していた。
誰かがいうことに、桐野と跡部――王子と帝王は、派手な催しを考えていらっしゃるらしい。
これはそう遅くない期間に、彼に限らず「姫には秘密に」を合言葉にまわされるのだが、大事なのはその前に彼がきき…………図らずも情報を改ざんしたことにある。
お祭り男はまず、日吉の出したキーワードとして、「鳳長太郎」「跡部部長」「のみ」を考えた。
また彼は頭が働くだけでなく、新聞部以上に情報網も広かったから、別の生徒から鳳とのやりとりをきけた。よって、日吉の「飲み会」発言のもとが、「のまのま」であることを突き止めたのである。
そうして、彼は一つの結論に至った。
すなわち、桐野渓子と跡部景吾のイベントとは、鳳長太郎を巻き込んで「のまのま」…………すなわち、マイ○ヒーを振り付け、完全フルコーラスで行うことだ、と。
【SIDE @再び桐野】
「そもそもそれじゃ宴会芸レベルだろ」
早く気づいてよかった、とばかりの跡部の意見に、桐野ははっとした。
言われてみれば、確かに……。
他の二つの催し――あれとかこれだがこれはゲーム本編をお楽しみに、で伏せておくことにする――に比べてインパクトはともかく、規模が小さい。
ましてや、一番適しているだろうダンス用の前庭舞台は百合にばれないようにしなくてはならないため使えないのだ。(プラネタリウムの位置からすると、前庭の特設舞台は覗き見えてしまう)
「人数以前の問題か……。残念だが諦めだな、ファンタスティ○も」
「ああ。……まあ、二つあれば十分じゃねーのか。アーン?」
「そうだな」
こうして、結局二人の論争には決着がつき、実際長太郎の出番もどうやってもなくなることになる。
* * * *
しかし…………
噂の周りは早い。
その頃、両校生徒間では……
「なあ、鳳って知ってるか?」
「あ?わかんねー」
「ああ、俺のクラスだっつーの」
「え?どれ?」
「あれあれ」
だの……
「鳳長太郎?へえ、アイツか。マイヤ○ーやんだろ?すげーよな。だってあの面子だぜ?めっちゃくちゃ目立つじゃん」
「てか、あの二人に囲まれるだけでやべーのによくやるよ……」
「ファンにころされねーかな?」
だの……
物凄い勢いで高まった話は、更に飛び火する。
それが新聞の行った、また実際生徒会が関与していると囁かれながら行われた調査投票――生徒会企画に参加してほしい生徒 及び 次期生徒会長になっても平気だと思われる人物への投票……の票である。
金持ちだの可笑しな人間の多い学校で、いくらテニス部とはいえ(無関心層が多いのがこの一貫校二つの特徴でもあるから)そこまでの名前は売れていなかった【鳳長太郎】の名前は、この一件で、他の生徒の何倍も広まることになり……
結果、栄えある投票第一位を獲得してしまったのだ。
そして、姫CPイベントの挑戦者 及び 次期生徒会長候補として(強制的に)名前を知らしめる……
そう、冒頭にあるよう、本人は知らないままに……。 |