WHO BELONGS TO……?
「ねえ、【景吾君】」
「なら今日は来ねーぜ」
気持ち悪い呼び方すんな!と、清純こと千石清純の隣で、旧友跡部景吾は急に不機嫌になった。
少し前まで、休日テニスを満喫していたというのに偉い態度の違いだ。
「だって、ここ跡部邸デショ?なら、もいるはずじゃん。景吾の「妹」なんだからー」
わざとからかうように言うと、傷ついた表情まで見せる。
タオルをかぶってごまかそうとしてるあたり重症だ。
千石は仕方ないなぁとばかりに、フォローした。
「、『跡部ときよのテニス見に行きたいのに跡部は嫌がるぴょ』って文句言ってたよ?」
嘘ではない。
というのは、千石が目下ターゲットにしている、跡部景吾の義理の妹のことだが、千石は彼女とはちょっとした秘密があった。
付き合っているわけではない。
そんなことを考えるには早い(と千石は思っていないが、向こうが幼い考えなのだから仕方ない)彼女とは四つ以上年が離れているだのだから。
(でも「生意気」可愛いからそう年下にも思えないんだよねえ)
そして、彼女のもとに跡部邸の鍵を持っているのをいいことに時折忍び込んで話をしてくる千石なのである。夜中というより警備の手薄になる夕方。
数十分の逢瀬は「お兄様」の目を盗んでのことで、言ってしまえばちょっとしたロミオとジュリエットごっこだった。
「ちっ……」
「お兄様」役、跡部景吾はとっても「姫」に甘い。
のお願いときいて、ぐらぐらきているに違いなかった。
「いいデショ?」
(相変わらず扱いやすいなあ)
自分の計画通りすぎるのもつまらないと思う、我侭な千石である。
そこで、格好の「かも」に思いついてしまったのが今後の行方に大きく作用することになる。
「そうだ!じゃ、不安だっていうんならもう一人、に近づきそうにない人呼んで、監視させておけばいいじゃん。二人呼べば、おれの休憩のときも見張れるし、文句ないでしょ?」
「氷帝(うち)の連中に期待するんだったら間違いだぜ」
「なんで?樺地君は?ジロー君なんか悪くなかったじゃ…」
「ばーか。がなつきすぎるだろうが」
(なるほど)
そういうところでは利害の一致している二人である。
休憩中でもそちらにいかれて、こちらを省みられないのは少々面白くない。
「とはいえ、うちも無理だし」
「そりゃ、ジミーズじゃ手に終えねぇーよ。あと亜久津はやめとけ。あれじゃが泣く」
「はいはい」
(溺愛してるねえ)
少し感動した。
その後、千石は自分の目はまだまともに見えているようだと気づいて、苦笑する。
おぼれきってなくてよかったのかどうか。
千石の見立てだと、亜久津仁も十分の「お気に入り」のレベル内に納まるのだ。なぜって、彼はあれで「弱くみえるもの」を苦手としているのだから。
ならすぐにそれに気づくだろう。
(ま、気に入られちゃうとこっちとしてもやっぱり困るからいいけどね)
「そうか。なら別の本命がいればいいんデショ?」
「心当たりあるのか?」
心当たりはいくつかあったが、その中で引き受けさせられる可能性のある人間というと数が絞り込まれた。
「あっ!」
「ん?なんだ?」
五月蝿そうにラケットをとり、そろそろ……と立ち上がる跡部に千石は今日問題となる「提案」をした。
「神尾君とか?たしかオマケついてたでしょ?」
「あん?あれは男じゃねぇーの?」
「違くて、ほら。杏ちゃんだっけ?あれ?景吾も好きだったんだっけ?」
「ちげー。……からかっただけだ」
「じゃ、まあそーゆーことにしといてもいいや。でも、まあ片思いでも神尾君ってしつこそうだし。引きずりそうだよねえ」
「何言ってんだ?……ああ、桃城か」
ストリートテニスであった顔ぶれを思い出し、跡部は納得したように頷く。
きっと橘兄と自分の将来の境遇でもかさねて、凍ってるのだろうと千石は予想した。そうでなければこんなに顔がこわばるはずない。
「まあ、いいだろ。神尾なら今から樺地に捕獲に行かせる。伊武は女嫌いだそうだ。安心だな」
数十秒たっぷりおいて、跡部は答えを出した。
「ね?」
これでに白昼堂堂会える。
千石はとびきりくわせものな笑顔を向けた。
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《神尾サイド》
最近いいことないな。
神尾は拉致られながら思った。
男に横抱きにされるなんて、思ってみなかったことだ。
「お前のせいだから……」
ぶつぶつ呟いている親友が追い討ちをかけてくる。
「ウス」
追い討ちの返事はもう一つあったようだ。
神尾は目を瞑った。
(もうなるようになれ……)
と、樺地が急に立ち止まる。
「急に立ち止まったらどうなるかくらいわかるだろ。持ってるほうはいいけど、もたれてる方としてはたまんないんだよねぇ。全く嫌になるよ。……て、説明もなしだし」
親友こと伊武深司が愚痴っているが、取りあえず無視して、神尾は樺地の目の先を追った。
「かばだぴょ。かばじ、何もってるぴょ?重そうだぴょ」
残念ながら見えなかったが、幼い女の子の声が聞こえたのでびっくりする。
「ウス」
樺地はあっさり従ったのが、また衝撃だった。
(跡部以外の言うことも聞くんだ)
などとやってるうちに急におろされて、地面に落ちる。
「痛ぇっ」
「ウス」
「……たく、だからアキラのそばにいるといいことないんだよなぁ。て、むかつくよなぁ。で、今度は何?」
深司の言葉を聞きながら、ふと『そちら』を見た神尾の目は釘付けになった。
「誰だぴょ?」
目の前に黄色い毛玉が転がっていた。
覗きこんでいた少女は大きく見積もって十一、二歳にしか見えなかった。
ふわふわのお人形みたいな格好はエプロンに似たワンピース。
樺地を見てこわがらないところもみると、面識があるらしい(名前も呼んでいたし)
(やたらと可愛い子だなぁ)
としか、最初は思わなかったのだけれど。
「俺、神尾アキラ。こいつ(樺地)の知り合い?」
律儀に応えてしまう。
「人がよくて間抜け」といつも深司に言われる理由だ。
「って呼んでぴょ。樺地がのお兄ちゃんからつれて来いって言われたって言ってるぴょ。神尾と……?」
「伊武。伊武深司」
「深司ぴょ」
は礼儀正しく「はじめまして」とお辞儀。横で「なんで俺だけ名前」とまた文句いう深司に今度ばかりは何故か同意したくなっていた神尾はこの地点で道を誤っていたのかもしれない。
「握手」と差し出された手を一度だけ握るとほんのり温かくて、優しい気持ちになれたし。
「それじゃ、片思いのあげくに振られたぴょ?」
「そ。アキラはとろいし、杏ちゃんはレールが高かったね。橘さんの妹ってだけで条件は厳しいのに、本人もテニスできるし……。そういやお前より、きついところもあるかも。でも、橘さんに懐いてるあたり、やっぱ男兄弟のいる女の子ってそんなもの?」
数分後、すっかり仲良くなった三人とオブジェ化した樺地(何故かとはそれなりに意思の疎通が図れるらしい)はに案内されながら歩道を歩いていた。
「ひでーよ、深司」
「(ぼそっ)本当のことじゃん」
「、面白いぴょ。もっときかせるぴょ。それでストリートテニスで出てきたその男って神尾より面白いのかぴょ?」
「面白いだけでいいならアキラの方に歩があったのにね」
言葉は続いているが、これ以上続けられても困る。
神尾はからかわれて、さっぱり忘れていたが、また最初の疑問がよみがえり、二人の会話に横から入った。
「そういえばちゃんのお兄ちゃんって?」
「氷帝だろ?跡部さんじゃない?どうせこの人に命令してるあたり、その関係者以外考えられないし、後は……」
「ぴょ?」
聞き逃した深司までわざわざ聞きなおす少女の真剣さがなんだかおかしくて、神尾はそのまま謎にしておくことにした。
「ま、いいや。……で、なんで深司、ちゃんとは手つないでるんだよ!」
ふと思った疑問。
言う気もなかったが口をするりとついて出てきた。
「……(ぼそ)向こうが握ってくるから」
「え?」
「なんでアキラはそんなこと気にするの?」
爆弾投下。
考えるまでもなかった。
顔が熱くなる。
いや、こんな小さい子に?と思う。
でも……。
「熱でもあるのかぴょ?」
と、しゃがんでへんこでるところ、額に手を当てられては……。
「いいいいっ…やあ、別に。それより、ちゃんの家ってどこにあるの?住所あってるなら、この辺のはずだよね。ここ、お金持ちの邸宅街じゃ……」
「あそこのおっきな家だぴょ」
跡部邸。
神尾には哀しいことに標識は見えておらず、代わりにすっかり懐いて(正確には伊武に)笑顔を見せるのアップが映っていた。
合掌。
言わないだけで、大体の展開を読んでいる樺地は伊武とこっそり目をあわせて、一礼を返した。
伊武は親友のほれっぽさに同情されたとよんで、ぼーっとした反応ながら「ああ」と声を返した。
その真の意味を知るのはもう少し先のことになる。
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《千石清純サイド》
「ねえ、なかなか来ないんだけど。は?」
あれから十分。まだこないにごうを煮やした千石は文句を言った。
これなら大人しく待つのやめて、試合2セットにしとけばよかった。
そう考えてふと思う。
(って方向音痴じゃなかったっけ?)
そう、たとえばこのコートが分からなくて外に出ちゃうくらいの。
「馴れ馴れしいぜ、千石。お前、のことそんな風に呼ぶなよ」
跡部は分かっていないのか、会話をすすめる。
言うタイミングを逃していたとばかりに張り切っての注意だ。
「何?じゃ、「跡部」って呼びすてにすればいいの?……あ、でもそれもいやだなぁ。景吾の妹って言うより、何となく【夫婦】な感じになっちゃうし。それってサービスしすぎ」
「なっ……!!」
「だから、は」
「……勝手にしろ。――それにしても確かに遅いな」
「遅いね」
この数分後、目をハートにしたとしか思えない神尾と、何故かぴよこに懐かれた伊武(盲点)と、どうしていいかわからずに立たずむ樺地が、当の「」を伴って現れ、史上最悪の場外乱闘が始まるのだが、それは流石の千石も予想外のことで、跡部と思わず目を見合わせることになる。
なんだかんだ、仲のいい二人なのだ。
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そして、数分後。
「千石さん!えと、あの子、俺……」
きらきら目を輝かせたスピードのエースは何を勘違いしたのか、千石の方にいった。
「妹なんですよね?俺にください!」
ちなみに横で、呆れているのは伊武はというと、ぼやく暇すら与えられずにとびつかれうごうごしている。
少し面白い光景だと、千石は思わず唸った。
「うーん、景吾君に頼んだら?兄貴はあっちだよ?」
言ってから、固まる。
「あれ?????」
(もしかしてここにもライバル登場?)
「……アキラって杏ちゃんのこと好きだったんじゃないの?てか、朝それで桃城の文句さんざんいってたし、俺以上にぼやいてるからほんっとに頭にきてたのにさぁ。それでいいわけ?実は軽いやつだったとかいうおち?……ま、いいけど。テニスはスピードで勝てたからって」
のタックルから抜け出せないまま伊武がこっちに向かって言う。
だが、神尾は聞いちゃいなかった。
逆に千石はばっちり聞いて、だいたいの状況を把握していた。
神尾はに懐かれているわけではなさそうだ。
(なら、いいか)
「いや、その……。すると、ちゃんは跡部さんの……」
「そ。景吾の妹。それにしても神尾君て、面白いね。あ、でも、景吾に言っても無駄だと思うよ」
景吾はぴよこにぞっこんだしね。
千石がいうまでもなく、神尾はダッシュしていく。
(流石はスピードのエース。ま、どうせ、は俺のものなんだけどね)
「で、伊武君。あっちはどーでもいいにして。なんで、君、に抱きつかれてるわけ?」
「んなこと知らないですよ。ていうか、あんまりアキラのやつ、けしかけないでください、千石さん。流石にロリコンはまずいと思うし。……て、なんでそんなに不機嫌なんすか?もしかして千石さんも……」
「それ以上、言うと怒るよ。ただでさえ、なんだかとっても気分がよろしくない体制なんだよね、君の……」
「ぴょ?あ、きよも来てたのかぴょ」
が笑う。
あいかわらずくそむかつくほど可愛い笑顔だった。
千石はにっと応戦した。
(場所がよろしくないなぁ)
伊武の膝の上がの定位置と化している。
は気づかない。
「神尾ってへんだぴょ。りずむってなんだぴょ?」とか言っている。
「あーあ、拍車かけちゃったよ……でもうざいってほどじゃないし。どうでもいいけど、勝手に誤解とかされてたらいやだな……てきっともう誤解満載ですよね?あー」
伊武が頭を抱えていってくるが、千石には聞こえようが聞こえまいがもう関係なかった。
誤解じゃなくても頭にくるというものだ。
自分の警戒されっぷりを知ってるだけに、千石はにっこり微笑みながらここに一番の強敵の出現を思い知らされた。
景吾の方を盗み見ると、あっちはあっちで困惑している。
(そりゃそうだろー)
掌を打って返したように、きらきらと目から涙をながし、交際の許可を得ようとしている神尾は不届き者というより最早恐怖でしかない。
千石は同情した。あの神尾に巻き込まれた伊武に。(ちなみにその後、しつこく神尾がくいさがり、結局跡部と犬猿の仲に発展するまでにそう時間を要さなかった)
「ねえ、。その人、困ってるよ。いい加減こっちおいでよ」
俺でもいいじゃん?
微笑んで手を差し出しながら、伊武に「もういいよね?」とさり気なく危惧しながら言う。
「深司は困ってるぴょ?でもお兄ちゃんみたいなんだぴょ。跡部とかきよみたいに意地悪しないぴょ」
は手を取りながら、
「駄目ぴょ?」
あーあ。そんなお願いされたら、命ないよなぁ。 とか伊武が思っているだろうことは嫌そうな表情から明白。
許してやるかという気が起こっていた千石はさっさとを抱き上げた。
だが……。
はばたばたと足を動かして
「駄目かぴょ?」
伊武に涙ぐみながら言うと……。
「駄目ってことはないけど、千石さん機嫌わるくなるし。もしかしなくてもちゃんて跡部の「義理」の妹みたいだから俺困るんだけど?」
(んな返事したら――)
千石はまずいと思った。
今日始めての危惧だ。
案の定、駄目ってことはないの部分だけに反応したは居直る。
「なら――」
「だーめ!」
千石は伊武から引き剥がしながら思った。
(神尾君は面白いだけですむけど、こうなっちゃうともう彼にも同情の余地はないなぁ)
ばふっとを抱きしめてから、
「お願いだから、これ以上巻き込まれないでね?」
伊武にそういい、「悪いけど神尾君をなんとかしてくれないと、君が困るんだよねえ?」と凶悪な人相で(注意・からは見えない)告げる。
伊武は「なんで俺が……」とぼやきながら、神尾の方に行くが、拗ねて泣いているの頭を撫でてからの行動で……。
千石はしっかりナイトフッドとして、伊武をブラックリストの上位にのっけることにしたのである。
はたして数分後。
「なんて迷惑な……」
ぼやきを思わず数分に渡って続けてしまう伊武の姿と、それに同情しながらも跡部にへんな不安を抱かれて追い出された樺地の姿が跡部邸の入り口で見受けられたという。