騎士精神
「懲りないなぁ」
ははは。
楽しそうな千石に対して、跡部は必死の形相で、相手の手を払っていた。
しつこく追いすがるのはリズムのエース。
それだけに反応速度はピカイチで、練習が休みとなると否や朝からずっと跡部の後についてきて、ただ一つの願いを繰り返しているのである。
「でもさぁ大人気ないと思わないの?いいじゃん、交際たってアキラが勝手にいってるだけで、意味わかってないんだし。しつこいって嘆くくらいなら適当にOKだしてから対処考えればいいっていうか……(ぶつぶつ)」
さり気なく突っ込む伊武も一睨みで黙り込む。
そう跡部様は機嫌がすこぶる悪かった。
それもこれも全て神尾アキラのこの一言のせい。
「お義兄さん、を俺にください。絶対幸せにしてみせますから、頼むからと会わせてくださいよー」
完璧に別人格入っている。
だが、これが続いたのも流石に三日間(長すぎ・笑)。
三日後、神尾は静かに悟って、親友にこう告げたのである。
「跡部のやつ、やっぱ、むかつくぜ」
そして、その後の標的は千石清純に切り替えたのである。
なぜなら跡部邸に出入り自由を(何故か、と神尾は不思議に思った。なぜならこの二人も仲良いのか悪いのかよくわからなかったうえ、跡部はが懐くからという理由で樺地にまですら出入りを制限しているようなのである)OKされているためである。
そうでもないと、一生に会えそうになかった。
神尾アキラの惚れてしまった(としかもう考えられないほど、ともかく庇護欲を書き立てられ、また話したいと思っている)少女というのは、その跡部の妹で、よりによって兄貴によって厳重に保護されているのだ。
「跡部がシスコンとは……」
と、後に橘さんをうならせる(?)ことに(あるいはもしかしたら自分と同類かと納得・感動したのかもしれないが)なる神尾の推測はすでに始まっていた。
そして、いよいよ神尾は清純のところに行ったわけだが。
「お願いです。千石さん。ここに出入りできる許可をください」
満を持して告げた一言はわりとあっさり
「いいよ」
許可された。
……と思われた。
「てか、ほら来るし、持ってちゃえばいいじゃん?」
わざわざ跡部なんかに断るなと清純は笑って済ませた。
きっとこちらを跡部が睨んだ気がするが、神尾は凍った。
「俺ならそうするけどなぁ」
さり気なく怖い人だったのかもしれない。
なんだかんだ、神尾は多分この中では一番「いい人」の部類に入った。
ちなみに良識在る人は伊武一人。
「この間の試合のことはなしにしてくださいよ。冗談じゃなくて……」
「ん?本気だけど?」
あ、この人駄目だ。
頭壊れてる。
と思う神尾である。
だが、にこにこ笑っていた清純がそのままの表情で、
「あ、でも、そばにほら、ナイトがくっついてるからどの道無理かな?」
指差した。
その先には千石自身と……
「へ?」
どう考えても跡部景吾(というより神尾にとっては「ぴよこの兄貴」)にしか見えない人がいて。
「千石さんもを?」
と、少々驚いて言うと、
「ん。でも俺よりあっちのが強敵だと思うよ」
と声が戻った。
「そうか、お兄ちゃんだしな」
納得しかけた神尾に、駄目押しが入る。
「義理の、ね。……知ってる?ナイトは姫を助けだす役目。でもって守った姫は自分のものになるわけ。だから攫ったもんがち。でも守るのもナイトだからうまくやれなきゃ負けだよ」
騎士?
誰が誰の……?
騎士精神って…??
オーバーロードした神尾が固まったのは直後。
「あっ、」
「きよ、来てたのぴょ?」
「うん。で、『跡部』ならあっちだよ」
「ぴょ」
なんだか、意味ありげにも見えるやり取りが展開されていたが、それにも気づかず(それはのみを観察してきた神尾に、千石の「跡部」の呼び方の差など気づけるわけもないのであるが)ただ、の極上の笑みと、見守る保父のような「大人な」姿勢にびっくりして。
「お前ってなんで敵の多い相手、選ぶの?だから杏ちゃんときだって……」
親友のぼやきにがっくり、そのとおりだと肩を落としたのだった。
だが、そのきっかり三日後。
「諦めた!」
と例の宣言の元、今度は千石の元に現れた神尾が、
「俺も騎士団に入ります!」
と言い切って、爆笑されたのは言うまでもない。
「ねえ。ほんっと、神尾君て可笑しいよね」
「神尾よ、それでいいのか?」
跡部に呆れられ、けんかになりながら、こうして「ブラックナイトフッド」は結成されていったという。