「千石君、ほんとにあたしのこと、好き?」

「うん、好きだよ」

 3番目でいいなら、ね――。

* * * * * * * *

っ」

「また来た。きよは懲りないぴょ」

 別にに会いたいわけじゃないくせに。
 はそういって、心底困った顔をする。
 義理の兄を呼びに行く気がなさそうなところを見ると、きっと「景吾」はいないのだろう。
 諌めるでもなくそう言って、諦めたようにため息をつく様子が可愛い。

(こんなに好きなのにね。なんでこれで伝わらないんだろ?)

 日ごろの行いのせいだってけなされるだろうけれど、この気持ちに嘘はない。

「かーわいいっ」

 無理やり抱きしめてしまうと、腕の中で小さい彼女はたじろいだ。
 身長さがなんともたまらない……とおやじのようなことを考える。

「やめるぴょ」

「はいはい」

 手を離しても、残った温かさは格別で、ちょこっと気分も上昇する。
 柔らかい黄色い髪にフリルのついたワンピースが格別に似合ってる。
 ちっちゃくて、生意気でプリティ……妹嗜好ならばたまらないのだろうけど、千石はこういう妹がいたら、とは考えない。
 やっぱり「女」として特別なのだ。

 女の子だけど――。

 でも、その「特別」も、密かに別と比べる。

(優紀ちゃんより体温たかー)

 ふと思い描くのはチームメイトの義母。
 恋愛感情なんて、持てるつもりもない、大人の「女性」。

はいーネ」

(「お兄ちゃん」は猫可愛がりしてないみたいだけど、宝石じゃないし、勿体ない)

 わしわし。
 ばたつく手足を封じて、ただ肩についた髪をすいてやると、相手は諦めたように力を抜いた。

(うーん、でも許してくれないんだよね)

 唇を寄せながら、思い切り避けられてパンチを喰らい、千石は苦笑いした。

「いいつけるぴょよ」

「でも言わないでくれるんデショ?ケーゴ君に」

「そのうち、跡部にも見放されるぴょ?」

「うーん。それはちょっと困る」

「そうぴょ」

 実のこと嫌いじゃない「彼」のことを持ち出されて、素直に応えられるのも相手が彼女だから。
 自分がどんな風に思われても無頓着なところに「特別」を見出したりしてる自分はマゾなのかもしれない。

(そりゃ好かれれば嬉しいけど)

 でも、これくらいの愛情も悪くない。

「でも、いーや。おれ、今日はに会いに来てるし」

「まっ……」

 唇じゃ嫌われそうだから、頬に軽く唇をおしつけて。
 千石はにやりと笑った。

(あーかわいーっ)

 は最高。
 他の女の子はどうしてこうできないのかな?とふと疑問がわく。
 と、同時に答え。
 ああ、向こうから来るからかな。

(そー言えば、今日の子の名前、聞き忘れちゃった?)

 ま、いーか。
 学校で会うし。

「きよはどうして軽いんだって、跡部が言ってたぴょ?もそう思うぴょ」

「んー女の子好きだよ」

 返答になってないかもしれない。
 でもそれは事実で、ぴよこも分かったのだろう。

「そういうもんかぴょ」

「そーゆーもんデス」

 腑に落ちない顔もできないくらいに「少女」だから、それ以上聞かず、またキスの反撃に一発打ってきた。

「酷いよー」

(頬柔らかかったからいっか)

 そ、そういうこと。
 女の子は素敵。
 好みはあるけど、ある程度可愛い子なら彼女にしても悪くない。

* * * * * * * *

「で?また殴られたんだろ?[彼女]に」

「そ、納得いかない。そっちはうまくいってるんデショ?どうしておれだけがこうも怒られなくちゃいけないんだよ」

 南に愚痴って、千石は頬をさすった。
 とは違う、本気の平手うちに、頬がひりひりする。

「なんでってそりゃ……」

 お人よしと名高いが、彼女はしっかりGETして、なおかつお人よしならではの巧みさでうんと長く続いてる南は言いよどんだ。
 目の前の少年のそういった観念が自分と著しく解離してるという自覚があったためだ。

「だって、女の子って勝手なんだモン。柔らかいしいい匂いするし気持ちーからいいけど、部活優先は基本デショ?あと、他の子に優しくしちゃ駄目、なんてワケわかんねーっての」

「あのな……」

 一部なんだか健全な学生じゃない言い回しもあったが、それは取りあえず無視して南が言う。

「カノジョってそういうもんじゃないのか?」

「そういうって?」

 わかんないなーと千石は首をかしげる。

「一人だけ、とか」

 千石にカノジョが「一人」いたためしはない。
 けど千石は常に一人と付き合ってると自認。
 実際は対外的に見れば複数の女が基本に見えても仕方ないのだが。

 二股とか三股の次元を超えてる。けど……、と南はふと思う。
 長く続いてる想い人ならいない気がしないわけでもない。
 彼は地味なだけに地味なことに敏感だった。
 だけど、率直に言ってそれを「恋」とみていいのかは非常に微妙な問題なのだ。
 何せ相手は……。
 明らかに好きといってる一人と、明らかに好きと言わない一人。 
 その相手二人を片方ならまだしも同時進行で、もし本気だったら危うすぎる。
 何せ一人はあの問題児の母君。もう一人は氷帝の帝王の義妹である。
 南はちょっと胃が痛くなってきた。
 できるだけ綺麗な答えを選ぶ。

 だって、三股じゃないのか?いつも とは言えず……

「ちょっと思ったんだけど、同年代むかないんじゃないか?」

「ん?でもカノジョっていつも」

 千石は思い返す。
(あれ?どんな子がいたっけ?)
 忘れてた。
 結構そうかもしれない。
 確かに学校でつきあってた気がしたから同世代だろう。

「同級生か、前は先輩。今は後輩だったっけ?一番遊びみたいに見える」

「そうかな」

 意外だった。
 千石は返された、「ああ」という南の返事に、

「なるほど」

 軽い調子で、でも非常に深く納得してしまった。
 そして……。
 それが「今」の発端。

 * * * * * * * *

「いや、別にバレてもいいって思ってたんだよね。まあ、ちょっと特別な方面にはばれたくないなーって思ってるけどさ。その憂さ晴らしに他の子ってのも、向こうがその気で近づいてくるなら悪くないし」

 こんなぶっちゃけた性格になった。
 胃をますます悪くする南は千石の話から、その「特別な方面」について考える。
 この人は、本当に特別な女性(ひと)を自覚しているのか?
 それともそれに一番近い、あの可愛い少女に全てを籠めることで今は癒されてるのか?
 ふとおせっかいにも思う。
 千石の顔は綻んでた。
 よくないことを考えてる証だった。
 千石清純、職業学生。特技テニス。

「だからさ、決めたんだよ」

 千石は笑った。
 久々の食わせものらしい笑みだと自分で確信していた。
テニスと同じだろうな。 
 それは確信。

 * * * * * * *

 だが……。

「千石君、アタシと付き合ってください!」

「うん、いいよ」

 告白は止まずに続いた。
 千石は軽く引き受けた。

* * * * * * * *

「それで、なんでお前はいつもここに来るんだぴょ?」

 最近跡部の影響ですっかり口の悪くなった(元々悪いという説も在る)を横抱きにして、不服そうな少女の頬を突付きながら千石は告白していた。
 ……といっても愛の告白ではない。

(うーん、やわらかい)

 頬の感触に思わず、そのまま自分の頬を当ててやりたくなって、でも我慢する。
 最近はある程度制御を覚えた……というと、そういうわけでもない。
 ただ、殴られての「情操教育」の賜物である。

「んーなんでだろー」

 が好きだからだよ。
 告げた言葉は相変わらず軽い。
 でも本当なのに……。

「うそつき」

(嘘じゃない)

「きよはズルイぴょ」

「うん」

 それは認めてもいい。
 冷静に見て、実は……気づきはじめてる自分がいる。
 まだ確信はないけど。
 はちょっと特別。
 多分本当の意味で――。

「でも、もズルイ。扱いヒドすぎデショ?」

「そうかぴょ?」

「そーです」

 もうちょっとヤサシクして?
 千石は、本当のお兄ちゃんを意識してとは言わない。男としてともまだ言わない。
 でも――と拗ねて見せる。

「きよが優しいときは優しくしてあげてもいいぴょ。でも本当は跡部に会った方がいいと思うぴょ」

 景吾は厳しい。
 しかってくれる友達であると最近ようやくみとめ慣れた千石である。
 の言葉に頷いた。

(でもね、

「女の子が好きなんだ」


知ってるぴょ」

「あ、呆れられちゃった?」

 とっくにそうだと言われても、まあ相手が本気でないので傷つかない。

(これだからは手放せない。ゴメンネ)

 旧友に一応謝罪。
 あんまり悪いとは思わなくても。
 それでも、相変わらず「カノジョ」に対してはどうとも考えない。
 それで付き合ってしばらくして、ばれることはなく、うまくやって、相手が溝を感じたあたりに離れる。
 普通の交際期間。
 短きゃ一ヶ月。でも大体は三ヶ月かそこら。
 ただ、告白されたときの交際条件が加わった。
 決して千石は言わないから、相手にはわかってないのだけれど。

「やっぱ、はイイね」

「ふざけてないでさっさと帰れぴょ。カノジョに怒られるぞって跡部なら言うぴょ」

「うん。景吾ならそう言うね。でもカノジョなんていないし」

 景吾の言う意味では。
 ピュアな意味では。

(いても、あの「カノジョ」たちには怒れない。知りようもないし。それに自分の中の条件追加したし)

 好きですといわれて応える言葉は同じでも、思うことは別。

(付き合ってもいいじゃん、気持ちーし。可愛いし。女の子は)

 付け足した交際条件は……。

「三番目でいいなら、ね」

「?」

 横で首を傾げてるを抱きかかえて、もう一人「好き」にも入らない存在を数える。恋とは思えないけど、でもあっちもやっぱり大切で、この少女(こ)もすごく大切。
 だから、他のなんて、二の次、三の次。

* * * * *

 そして、告白(日常)は続く。

「好きです」

「んーいいよ」

 もしが本気で自分をすきになったらどうしよう?と思わないあたりが、千石が千石清純たる所以である。
 でも、特別はあるから。

「今度はどのくらい持つと思う?」

「さあ……。それにしても本当に他人事だな」

 南と屋上で話して。
 そんな日常ももう少し続くのだろう。


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