籠の中の……
「なんでぴょ……」
か細い声が耳元に届く。
不自然なほど震えていた。
千石は目を瞑って、なだめるように肩を撫でた。
顔をうずめた背中はふわふわしていて、相変わらず高い体温が自分を誘う。
「なんでだろ。何となく。理由は無いよ」
つもりもないのに声は自嘲気味に響く。
いつもどおり跡部邸に紛れ込んで、いつものようにと話をした。
ほんの一瞬、なんでか思いついて、ドアのキーをかけた。
こんなことなかったのに。
(まあ、女相手にすんの、久々だし)
いっか。
その程度の気分でいたつもりが、急激に体温が上がっていく。
(うわ、おれ、まじ?)
少々驚きながらも、千石は告げる。
そのまんまな言葉。
あまりに無邪気な本音も、何もしらないお子様なには分かりやしないだろう。
「ずっとだけが欲しかったわけじゃないし。でも他の子じゃ駄目なんだ」
(単に景吾に先を越されたくなかっただけかもしれないけど)
付け足す言葉は流石に……と心に留め置くが。
「ずるいぴょ。そんな……」
いいじゃないか?
の一番は別なんだから。
段々わきあがる嫉妬に近い感情が、千石を追い立てた。
本当はそれこそ言ってしまいたいけれど、自身まだ気づいていないのかもしれない。
わざわざここで気づかせるなんて、お茶を濁すようなもの。
どうかと思って、やめておく。
「うん。ずるいかも」
ようやく向き合った瞳が「本気で嫌いになったことなんてなかった」と語る。
目が痛い。
「『跡部』はいないよ?」
囁けばまた怒ったようなきついまなざしに戻る。
(それでいいよ)
この目が好きで、本気で相手にされてると思えて、何度も意地悪を言った。
旧友の、親友の気持ちがなんとなく見て取れて、千石は笑った。
「きよ?」
が不思議そうに首をかしげる。
「まだ余裕があるんだ?」
「やだぴょ……」
手がするりと背中に滑る。
簡単にジッパーを外して、すぐにドレスを脱がせてしまう。
がんばってもがく、少女のてらい顔が可愛い。
酷いことをすればするほど、いとおしくなってしまう。
「やっ……」
指をすべらせた肌の滑らかさは紛れもなく、子供のものなのに、温かさも全て幼さを語るのに、加速させれば奥に奥に触れれば触れるほど返る反応はまるきり女だ。
(なんだ、結局他の女と同じ?)
期待はずれの感は否めない。
でも……。
胸元というのに、あまりに足りないそれをゆっくりとたどり、先を咥えて愛撫を咥えると声が漏れる。
「やめてぴょ!きよ、酷いぴょ!!本当に……やな…」
抵抗は薄くない。
本気だ。
軽く甘がみしてから、千石は脱がせかけのままのスカートに手をのばし、中の布を破いた。
(濡れてる……)
やはり他の女と同じなんだと休息に萎えるかと思いきや、そこは自分も男。
止めるどころかどこかで、狂おしく走る恋情の固まりにぎょっとする。
それはからかう程度で止めるなど最初から考えては無いが……。
(ここまでとは)
「まあ逆に愉しめるからいいけど。で、どうして欲しい?」
少年の顔を脱ぎ捨てて、ちょこっとだけ男の顔を見せる。
これだけで逃げそうに息を呑んだ少女に、みせつけるような口付けを送る。
噛まれるかと思ったが、思ったより抵抗が無い。
「つまんないよ?」
本当にやめてやるかと思いかけたとき、少女がびくんと跳ねた。
頬に涙が伝っている。
「へえ。も泣くんだ」
これは意外で……たちの悪いことに彼をまたその気にさせてしまった。
既に空気に晒されている入り口をくちゅりと掻き回し、乱暴に前の方をひっかくと少女の背がそらされる。
「ぁっ……」
抵抗とも快楽とも付かぬ声。
「もっと鳴けば?……どうせ今日は景吾、練習でかえってこないし」
指を奥に進めたまま、告げた声にいっそ大きい反応が戻り、千石はゾッとした。
「『跡部』はこないよ?助けに来られない。『跡部』はのこんな顔を見たくても見られない」
していることをやめる気が無い自分はもうとめどなく、だが、その中である可能性に気づいてしまったのだ。
胸に抱かれた初めて「別の男」を想った少女の幼い恋。
既に脱ぎ捨てた上着とズボン。
取り出して、押し当ててしまったそこが痛い。
「もっとリラックスしなきゃ入らないよ?」
その言葉に何を連想したか少女は涙ごと振るわせた。
覗きこむ顔が既に「知っている」ことに千石は気づく。
無理やり押入るのも悪くないが、そこまで酷い目にあわせなくてももう十分だろう。
後ろから抱きしめたまま、座った体制の少女の腰をゆっくり落とさせる。
「ぴょ……ょっ…やめるぴょ!……っ……!!」
何かが壊れる音すら聞こえなかった。
ただつながっただけ。
それも半分だけ。
「これじゃ入りきらないね?」
「ん……っ……」
ぐったりとした少女を幾度も突き上げて、試すが、無理はできないと判断して、一度速度を加速させきると、後はゆるゆるとする程度で止めた。
「泣くなよ」
(泣かないで……)
こんな風になっても、まだあの可愛いままでいてほしいなんて。
男は勝手だ。
(他の誰かにされたなんて考えもしないだなんて……)
「エゴイスト、ねえ」
さっきの部屋でかかっていた曲の歌詞を思い出し、千石は呟く。
ようやく満足した身体をうまく鎮め、後始末に入りながら。
面倒な処理をせず、さっさと帰る気だったが、それも最早うせた。
「……は、よかった?」
思い当たってしまった残酷な事実……
(残酷?どちらにとって?)
涙でぐしょぐしょになった少女の声はかえらない。
眠った天使の唇を濡らして、こぼれる笑いに千石は肩を震わせた。
「ねえ、誰の顔、思い浮かべたの?」
天使は寝たまま。
だから、何もなかったように、綺麗に片付けるほかなくて。
そうしないと、天使は戻ってこないから。
(ねえ、泣かないで)
「ごめんとはいえないからさ」
何もなかったように、明日も笑うだけ。
全てを掃除し終えて、千石は屋敷を飛び出した。
逃げたつもりも後悔も残念ながらなかった。
でもありがとうという自信もなかったけれど、ただ感謝はした。
「気持ちよかったし」
確認できた想いに、別の誰かへの罪悪を握って。