「どうでもいいけどさあ……なんで懐いてるの?………そんなに俺がいいっていうなら……あの人たちに言ってやらないわけ?……って…………ああ………そういうんじゃないんだよなぁ………めんどうくさ………あの人たちはわかってないし……」
「ぴょ?」
「………これだし」
ああ、めんどうくさい……。
アキラもかわいそうに、と軽く流す伊武である。
小さい子や女子ははっきり苦手だったが、最近、なんだか付きまとわれる機会が増えている気がする。
杏にしろ、ぴよこにしろ、兄と同列に扱うものだから対処に困る。
そこまで小さい子でもないし、"女"って対応もしてこない。
――が、杏はともかくは、兄がまずい。
彼女の兄――あの「跡部景吾」と同等に扱われるようになるなんて……面倒な輪の中に自ら飛び込んだも同然だ。
「……ねえ…………だっけ?……あのさあ、どうしてあいつらが仲悪いか……分かってる?」
「仲悪いのかぴょ?跡部はキヨと仲いいぴょよ?神尾とも……そのうちよくなるぴょ」
「…なるほど……」
ライバルの連帯感ってやつね。
伊武は呟いた。
(……抜け駆け禁止同盟ってとこ?確実にフライングしそうなのがいるけど……)
「……あーあ……なんで分かっちゃうんだろ、オレ……」
「仲良しぴょ。みんな、と遊んでくれるぴょ。とってもいい人ぴょ……意地悪もあるけど……」
落ち込んだのだろうか。
うわ……「女の子」……。
凶悪なまでの表情の変化に伊武は驚いた。
これに堕ちたのなら、馬鹿だがアキラには同情する。
変化に弱いのは何となく分かる。……男性心理的に。
「……でさぁ……は誰が好きなんだよ……?」
直球は自分の専売特許である。
しかし、は答えを返さない。
苛立ってそちらを見たら、それはそれで嫌な予感到来。
(おいおい……)
はっきりしろよ――。
言葉は飲み込まれる。
自ら沈黙を作るのには慣れても、予想だにしないタイミングに焦ると、今度はふと「見てはならないもの」に気づいてしまった。
キッと上を見上げたの、その襟足に覗く不自然なアザ。
(これって……)
知りたくない事実というものがある。
橘部長より先に気づいた杏の変化とか、桃城といるときの杏の表情とか……。
(……別にオレは好きじゃないからいいけどさぁ……)
――でもこれは流石に……。
予想外というか……常識を考えろよと、伊武は思う。
これで結構古風なところがあるのだろうか?
いや、彼はクールに「理解」はできる。とはいえ、心で了解する処理速度がそこまで速くはなれていないのである。
――自分も一応健全な青少年らしい。
動悸が上がった自分を分析して、伊武はそれとなく再びそちらに視線を流した。
相手が相手なだけに「ただの虫指され」かもしれない。
だが……。
(……これは…………なんていうかさぁ……)
幼く見える彼女ゆえに、純真に思える――きっとその通り心はまっさらなのだろう――彼女だから、どうしてこうなるのか分からなかった。
「分からないぴょ」
「………あ……?」
好きな奴か………。
は俯いている。
「本当に?」
「………」
なぜそこで黙り込むのか?
考えるところがあるのだろう、その「キズ」の理由とか。
――これだから女はずるい。
真剣に考える眼差しは下を向いていても分かる。
――これだから「お子様」はまずい。
現実を見れば、今言えるのは「その」相手が親友ではないということだった。
――多分、の相手も……。
「……あー……もうやなんだけど……(ブツブツ)」
必殺ぼやきが口を付いて出る。
「大人げないやつが多いよね……あんまり信頼しないほうがいい……と思う……懐きすぎるのも問題じゃないのか……?」
「深司もぴょ?」
一緒にされたくないよなー……
「さあ、それは――」
多分ないと思うけど。
「きっと平気ぴょ。優しくておにいちゃんみたいぴょ」
「二言目には……それだよな…は……。…ほんとの兄貴は「お兄ちゃん」じゃないの?」
表情の翳り。
一瞬で分かってしまった。
地雷を踏んだこと。
「跡部は……血がつながってないぴょ……」
「オレもだってーの……」
「跡部は……跡部は意地悪ぴょ……」
((ぼそっ)随分甘く見えるけど?)
まあ、今はそういうことにしといてやろう。
伊武はしゃがみこんだ。
既に混乱で、倒れそうな彼女のこわばった頬を撫でて、猫みたいに可愛がってやってから余計なとこ突付いたなあと考える。
「…………動物は比較的平気なんだよね……」
ひよこか何かかと考えればいいか。
他の連中よりよっぽど大人で、でも性別を意識させない存在。
当分、自分の辛さに気づかないだろう少女の体温は動物と同じで高かった。
END