03.繋  

「手を?」

 聞き返したのはわざわざコイツが馬鹿なことを聞くからだ――と、ベッドの上で跡部景吾は真剣に思った。
 彼の義妹,は突拍子もないことを言い出す達人だ。
 起き掛けに、下をむくと膝の上に乗り出した彼女が見えて、「駄目かぴょ?」なんて強請っていた。
 ――自覚ねーんだよな……。
 それが恐ろしい。
 夜中に話し込んでそのまま寝てしまった彼女も、やっぱり起きぬけで、目が潤んでる。
 かゆいのか眠たいのか、量目を盛大にごしごし擦っているものだから、心配で、思わず止めてしまったのだがそれがまずかったのだろうか。
 腫れた目を大きく見開いて、こちらをみて――の一言である。

「跡部の手大っきいぴょ」

 そのままにっこり笑って、腕を伸ばす姿ははっきり言って犯罪級に可愛い。
 まだ獲っても居ない指先がじりりと痛んで、景吾は顔をゆがませた。
 ――たちが悪い。 
 彼女はそのまま指をちょこんと遠慮がちに触り、「まるでETみてぇだな」と思いながらも兄貴は振り払うことも絡ませることもできずにいた。
 ほんの一瞬だったせいもある。
 妙に温かかくて、戸惑ったせいも……。

「お前、どうしてこんなこ……」

 理由を聞こうとして、凍ったのには理由がある。
 ――そうか……。
 風邪のとき、手をりんごをむいてやった記憶が蘇る。
 あのときはまだ彼女にはあの小生意気な彼――幼馴染の世話役がいて、林檎をむくまで側についていた。(そのあと、景吾と入れ替わったのは言うまでもない)
 確かに彼は跡部家専属の医者でもあったが……。
 ――……面白くねーな……
 ぎこちなく、手を伸ばすにぼやくが、胸の奥がつきんとした。
 それはある意味で、彼らを景吾自身が修行に放り出してしまったからで……彼女から引き離したからで……。
 ――罪悪感かよ……
 どうしようもない独占欲との戦いはそんなことでは癒えなかったどころか、あらたなライバル(ラッキーなオレンジ頭)まで引き出してしまったのに、

「仕方ねーな」

 指を絡ませて、笑う少女には何も言えず、「これでよかったんだ」と無理にしまい込む。

「……の手、あったかかったぴょ……」

「アーン?」

 出てきたのが誰の名前か分かっていながら、無視をして……
 ――他の男のことなんて言ってんじゃねーってんだ。
 出来るだけ優しく、しかし少女にすら通じてしまう程度に絡ませた指を蠢かして――熱を増すように……

「っ」

 意図に気づいた少女を抱き寄せ、自分の上に乗っけてしまうと、

「指(これ)が欲しいんだろ?」

 繋ぎ直した手の、人差し指だけ唇に導いて――

「っ」

 そのまま中に含んだ。
 慌てて少女が起き上がろうとするが、抱き寄せてしまう。
 何が起こるか警戒する義妹(前科ありなので文句は言えない)に、「安心しろ」と言葉の代わりに髪を撫で、指先の代わりに次は唇を舐めた。

「――……俺は繋ぐだけじゃたりねーんだよ……」

 すべてが繋がってしまっても足りないのだ。
 いつになったら足りるのか。安心を得られるのか、分かるはずもない。
 首をかしげる少女と指は絡めたまま……困ったように寝てしまうまで抱かれている義妹を、景吾は決して足りてはいないのに充実した気持ちで受け止めていた。


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