短編兄馬鹿 その1 妹座談会
「跡部。神尾から聞いたが、妹がいるそうだな」
「あん?のことか。言っとくが、神尾にやる気はねぇぞ? あいつ、「お兄様」とかうぜぇこと言ってくるんだが、お前の監督不行き届きだろ?」
何となく部員全員の世話をしている(最早部長の域は超えていると思われる)橘相手に、ついつい生活指導の教員を浮かべる跡部景吾である。
だものだから、当然、200人の人生相談に乗れるはずもない彼としては、部長はそんな仕事までしなくてもよいとは理解しているが、つい文句つけたくもなるのだ。
「はっ。なかなか様になってるな。妹を案じる気持ちはよくわかる。だから、神尾に対しては退くなよ」
「そりゃちょっとうがった考え方じゃねぇのか、橘よ」
――がよりによって神尾なんかになびくわけねぇ。
問題は千石の方だと、思い返して……
ふと、橘がこちらを見る目に焦って突っ込みをいれる。
なんだか、あれはとっても「同士」じみた目だ。
(おい、おれはシスコンじゃ……)
これで極めて普通の神経をしている跡部には橘=少し変な人という悪寒が走った。
ある意味で正しい。
「いや、すまんな。うちも杏のやつには手を妬かされる」
真面目モードの大仏は何となく父の哀愁が漂っていて、流石に跡部も引いた。
自分はこうなる気は――と戦慄を覚える。
(おい、不動峰はなんでこれで、こいつを慕えるんだ?)
日常生活も依存するほどに。
おっかなびっくりしながら、相手の沈黙に耐えると、橘兄はますますエスカレートした。
「いつの頃か、お風呂も一緒に入ってくれなくなったし、夜中に誰かと電話しているようなんだ。だから俺は携帯なぞ買ってくれるなと意見したのだが」
「あの……な」
「なんだ?そうか、お前のところはまだ小さいらしいからな。羨ましいものだ。あの頃は膝に乗せてやって」
いや、お前、年齢差的にそれは無理だろう?とか思っていてもいえない跡部である。
「まあ、今でもそうしたいとは思うが、なかなか切り出せずにな。二人で過ごす日には――」
「おい」
「杏の声を――(以下自主規制)」
(お前はまずいんじゃねーの?)
とふと血のつながりとかモラルとかを考える跡部である。
義理の、だから、許されるわけでもないだろうが、「義理」が免罪符になっていた事実にようやく思い当たる。
最近忍足が話していたゲームソフトのときはまあゲームだからと聞き流していたが、よくよく考えたら健全たる兄妹というのはそこまで密接でいいのか?と真剣に考える。
「……あの髪の毛を梳いて……」
BGMの橘兄の猥談の域にまで達しそうな兄妹ノロケをうまくスルーしながら、跡部は「くっついてまわってると信じていた杏は実は兄貴につれて来られていたのでは?」という確信を持ち始めていた。
(義理、というのがいいシチュエーションってのはまじだな)
無駄に忍足の受け売り*にまで納得する始末の兄談義は橘兄をその妹が迎えにくるまで続いた。
一瞬、とんでもなく甘い顔をしたような気がしたが、すぐに格好いい兄貴顔に戻った橘にぎょっとしないようにしながら、退散を心から願った跡部はそれ以降、橘兄はともかく妹のそばにもよろうとしなかったという。
END
※シスプリ。やったことない身で言うのもなんだが、大量に妹が居て一体どうするというのだろう…