記憶にございません……
「ありゃりゃ?」
朝起きて、パニックになった千石清純である。
見覚えのある部屋だが、明らかに自分の家ではない。
高そうな趣味のよい調度品。
可愛いクリーム色のベッドは二人有に眠れるサイズで……そこににょきっと黄色い毛玉が覗いている。
(可愛い)
まだ寝ぼけてるのだろう。
手をはしっと掴んで「ぴょ」と寝言をいう少女はちょっとやそっとじゃこのへんに見かけられない愛らしさだ。
「でも、なんでおれがと寝てるわけ?」
取りあえず確かめたが着衣は……ない。
(やっぱ、これって……)
「記憶がないのが残念」
昨日もこの家にもぐりこんだことは遅ればせながら思い出した。
ついで、部活帰りだったからシャワーを借りたことも。
でもその後はすっかり覚えていないのである。
(まあおきてからにきけばいっか)
さりげなくさりげなく。
言い聞かせながら少女を起こそうとした瞬間。
ばたん!!!!
物凄い勢いで扉が開いた。
「おい、千石!!!!」
「やっほー。跡部君、どうしたの?」
反射でかえる返事が我ながらすばらしい。
(てことは、やっぱ、どこかで情報を掴んでたのかな?なら分かるかなあ?)
暢気に千石が考えているうちに、跡部はナイフでも取り出さんばかりにがばっと千石の頭を捕まえて、テニスボールとラケットを取り出し、
「痛いよぉ」
とぼける千石に
「何球くらいたいんだ?ああん?」
と尋ねた。
「いつもいつも朝だの夜だの、の部屋にお構いなしに現れ……て……?????」
様子が可笑しい。
千石は取りあえず聞いてみることにした。
「ねえ、俺、もしかしてヤッちゃった?」
顔色が変わる跡部景吾。
一応の(義理の)兄貴、十五歳。
彼も同じ可能性に思い当たったのはこの瞬間だったという。
「お、お、お、お前っ……」
「どーだろ?覚えてなーい。やり直してみれば分かるかな?」
「ふざけるな!!」
真剣に怒った跡部は殴りかかりながらもう何をしていいか分からずラケットを床に落としている。
「じゃ、やってみればって?」
ああ眠っ。
千石はそのまま布団におぼれた。
「おいおまっ!!」
「んー」
布団から連れ戻そうと必死になる旧友の手を払って、
「後はたのんだー。確認しといてよ……て…ああ?おれ、そーすると最悪、跡部君と兄弟になっちゃうのかーそれはびみょー……景吾の……きょー……」
寝付いてしまった。
後に残された跡部の運命はいかに。
取りあえず、を引っ張り出して、目をそらせつつ(意味ない)服を確認して、気が抜けるまでの数十分どぎまぎしていたという。