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■ 味見ですむなら食ったりしない(バレンタイン前倒しSS) 「気が早いのはいいことだと最近俺は思うわけよ?」 どう、南? 問いかけに奴は答えた。 「可哀想だな」 「誰が?」 「お前が」 「……言うなよ」 ****************************** 「優紀ちゃん、お待たせ」
最近の日課。 「お買い物行こう」 押しかけ付き添いで買い物にならしょっちゅう行ったけど、真面目に待ち合わせて「お買い物」堪能できるのも最近の特権。
しかもあっくんには秘密。 ラッキー。 「いい買い物できたね。キヨ君、もってくれてありがとう」 「ううん。……あっ!危ないっ」
車が横をすぎていく。
あちゃー 「それで、今日の狙いは?」
凹んでもしょうがない。 「ずばりクッキーよ」 「オーソドックスでいいじゃん」
でも俺、思うわけよ。 ******************************
台所は戦場だ。と誰かが言っていた。 「納得できる」
唸る。 「失敗しちゃった」 「(小声)……俺のは出来たけど?」
不器用なのか?何なのか? ****************************** 「はい、今日はここまで!」
毎日毎日俺と優紀ちゃんが何をやっているかというと、モンブランを作るべく、お菓子勉強中なのだ。
俺は彼女からの義理狙い(言ってて空しい)。
利害の一致だ。 「失敗ばっかりだなー……もうちょっと美味しく作りたい」 「難しいもんばっかだし、プロ級と張り合わなければいいと思うよ?」
うん、でも確かに焦げてるね。
義理……もらえるのかな、前日までに。 ****************************** 「完成!!」
声が上がったのはバレンタインの前日。 「ありがとう、キヨ君!」 「ううん、ラッキー」
本当幸運だよ。 でもって……。 「もらってないじゃん、俺……」
一日早く貰う予定の義理はなかった。 「気が早かったな」
と、南に突っ込まれた。 「南君、最近きつい。地味返上計画でも練ってんの?」 ぽかっ。 殴られた。 ******************************
そして、バレンタイン当日。
俺は取り敢えずあっくんの周りを張ることにした。 「あーっくん」 「ウゼェ」 「冷たいこというなよ。俺、今日はあっくんのお供すんだから」
さっさと帰らせてね、と実は優紀ちゃんに頼まれたし。 「優紀ちゃん命令なんだよ?」 微妙な攻撃と、それから妥協を促して言ったら、 「…ちっ……」
ほらな。
いい息子てこういう奴のことを言うのかも。 「いい子がいて、羨ましいよ。優紀ちゃんは」
その点俺なんか母泣かせかもしんない。 「ア?ババァ狙いかよ」
ババァは狙ってねーよ。 「今日はむしろ戦果報告されに」
お前の好きな最終兵器モンブランを確認に。
はしゃぎながらもちょっぴり切ない心持で、俺はあっくんの家まで押しかけた。 ******************************
そうそう。 「仁、喜んでくれるかな?」 俺は答えた。 「平気だよ。俺なら嬉しいから」 結構真面目になって、鼻の奥がつんとしたから、「らっきー」のお守りにキス……はまずいので、その細い手をぺんっと人差し指で叩いて、 「なに?」 「願掛け。ラッキーになるから」 ――で、今再び戻ってきてるのがその台所なんですが……。 「んでこいつがいんだよ」 と不機嫌なあっくんと、 「そんなこと言っちゃ駄目よ。キヨ君にはいつもお世話になってるでしょ?」 お茶のポットを持ちながらにこやかに言う彼女。 「ババァ、てめぇがだろ」 うんうん、仁に関しちゃ世話どころか邪魔しかしてないもんな俺。 「はいはい」
受け流すのか。さすが。 「バレンタイン。収穫あったって、どうせ報告してくれないんだよね?仁は」 これは私から――。
そういって、出てきた箱の包みは可愛いピンクで、本命用にしか見えなかった。 「あ?」
怒った声が震えんのはなんでだよ? 「あっくん、顔赤い」 「ウルセー」
今日はこれで我慢。 「さて、用もすんだし、俺帰るねー」
義理の催促は格好悪いし、よく考えれば靴箱のチョコ全部南に任せて放置してきたんだった。 なんて考えながら、さっさとたって、玄関に行き、靴を履いて…… 「ちょっと待って!」 女神の一声に現金なまでに顔をほころばせた。 ****************************** 「千石清純、義理をしっかりゲットいたしました!」
新たに作り直したらしい。
うわーくそ嬉しい。 「ああ、十五日はまずいっすね(ね)」
とかえってきて泣けた。
それでも今日もらえたから、こうして屋上にいる。 「は?じゃ、お前、それ亜久津から受け取ったのか?」 「ええ。しかも登校中、めちゃくちゃ目立つ場所で」 「あいつが?」 「……写真とかからかったことへの仕返しかと……」
朝から流れる流れる変な噂。
それより何より、直接手渡しじゃないのが泣きそうだ。 「しかも?なんで?なんで?オソロイ……???」
受け取った紙袋。
内側はあっくんと同じ箱で、中身は……モンブラン。 でもさ……。 「納得がいかないって顔に書いてあるぞ?」
屋上、南、ときて、ここで「南の(耳に痛い)つっこみ」がないわけがなかった。 「味見ですむなら食ったりしないって」
味見ですむなら、その程度の想いならさっさと捨てるよ。 「?」
作り直されたモンブランは失敗作で。 「何か問題でも?」 「俺の教えた≪集大成≫やられた。全部食べちゃったよ、もう。泣きながらばりばり?と……」
上にのっけるように作ったデコレーションのチョコレート文字。 【DEAR MY SON】 とあった。 「…………」 「いっそのこと、スペルミスして、【DEAR MY SUNv】とかだったらよかったのに」
南は「運命だろ」と遠くを見つめた。 ああ、今日からまた不毛な日常が始まる。
誕生日はオソロイにできないからなー。 E N D ****************************** 謎・長文・更にまたしても仁出番少なーっ…… ……でお送りいたしました。(申し訳ないです) ヒカリノコ様、キリリクありがとうございました!(and相互) ■ BACK ■ |