■ 味見ですむなら食ったりしない(バレンタイン前倒しSS)


「気が早いのはいいことだと最近俺は思うわけよ?」

 どう、南?

 問いかけに奴は答えた。

「可哀想だな」

「誰が?」

「お前が」

「……言うなよ」

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「優紀ちゃん、お待たせ」

 最近の日課。
 付け加わったことは彼女(*注意*恋人にあらず)との待ち合わせ。

「お買い物行こう」

 押しかけ付き添いで買い物にならしょっちゅう行ったけど、真面目に待ち合わせて「お買い物」堪能できるのも最近の特権。

 しかもあっくんには秘密。
 秘密っていい響きだよな。
 ああ、今、俺、自分がどれだけ夢見がちな目をしてるか想像できる。

 ラッキー。

「いい買い物できたね。キヨ君、もってくれてありがとう」

「ううん。……あっ!危ないっ」

 車が横をすぎていく。
 細い路地だからって安心してちゃマズイね。
 俺ははっとして、手を離した。
 重いビニール袋を三つ下げて、もう片方の手で彼女の手をそれとなく引いてた。

 あちゃー
 そのままでいればよかったのに。

「それで、今日の狙いは?」

 凹んでもしょうがない。
 あっくんが帰宅するまで時間はまだあるんだ。
 小麦粉、卵、バターにミルク、ジャムに片栗粉……。
 想像はついてたが、声を聞くために聞いた。

「ずばりクッキーよ」

「オーソドックスでいいじゃん」

 でも俺、思うわけよ。
 モンブランまでの道のりは結構遠いよ?

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 台所は戦場だ。と誰かが言っていた。
 家庭科の先生か俺の叔母さんか。
 そらへん。
 確かに……。

「納得できる」

 唸る。
 時間を計って、要領にさえ注意すればできるものなのに、目分量がすぎる彼女はわたわたしていた。
 普通に手料理は最高なのになぁ。
 お菓子を作ることだけは得意だというクラスメイト(女)の言い分では、「ありゃ料理であって料理じゃないのよ」とのこと。
 なるほど奥が深いのかも知れない。

「失敗しちゃった」

「(小声)……俺のは出来たけど?」

 不器用なのか?何なのか?
 まあ俺が出来ればそれでオーライだよな。
 一緒にいるんだったら。
 あーずっと一緒にいたい。……不毛な願い。

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「はい、今日はここまで!」

 毎日毎日俺と優紀ちゃんが何をやっているかというと、モンブランを作るべく、お菓子勉強中なのだ。
 二月になってから毎日毎日。
 んなに気合入れて誰の誕生日って思うかもしれないから、念のため断っておく。
 バレンタイン=二月十四日の為だよ。

 俺は彼女からの義理狙い(言ってて空しい)。
 彼女は本命(になるのか?)の息子への感謝をこめて。

 利害の一致だ。
 そばにいられるのは前日までで、味見までって分かってるあたり歩が悪いが。
 まあいいや。
 前日までに義理をせびろう。

  「失敗ばっかりだなー……もうちょっと美味しく作りたい」

「難しいもんばっかだし、プロ級と張り合わなければいいと思うよ?」

 うん、でも確かに焦げてるね。
   おとといは粉っぽかった。

   義理……もらえるのかな、前日までに。
 せめて量くらい読み間違えないよう、俺が見張ろう

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「完成!!」

 声が上がったのはバレンタインの前日。
 ふうよかった。

「ありがとう、キヨ君!」

「ううん、ラッキー」

 本当幸運だよ。
 何って、間違えたお陰で出来上がった産物なんだもん。
 ソレ。
 可愛い優紀ちゃんがたくさん見られたのでよしとしよう。
 あっくんが帰ってくる前に俺は学校に戻った。
 さすがに部活に顔出さなきゃ。

 でもって……。

「もらってないじゃん、俺……」

 一日早く貰う予定の義理はなかった。
 ……一日早かったせいなのかもしれない。
 アンラッキーだ。

「気が早かったな」

 と、南に突っ込まれた。
 痛いよ、それ。

  「南君、最近きつい。地味返上計画でも練ってんの?」

 ぽかっ。

 殴られた。

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 そして、バレンタイン当日。
 期待を裏切られたとはまだいえない。
 勝負はこれから。

 俺は取り敢えずあっくんの周りを張ることにした。
 いじきたねーって笑われるかもしんねーけど。

「あーっくん」

「ウゼェ」

「冷たいこというなよ。俺、今日はあっくんのお供すんだから」

 さっさと帰らせてね、と実は優紀ちゃんに頼まれたし。
 とはいえ、もう一週間前のことだから、彼女の方が忘れてる可能性高い。
 俺も今思い出した、【ダシ】を考えてて。

「優紀ちゃん命令なんだよ?」

 微妙な攻撃と、それから妥協を促して言ったら、

「…ちっ……」

 ほらな。
 やっぱりやつは黙って歩き始めた。
 直帰ルートだ。

 いい息子てこういう奴のことを言うのかも。
 ――俺がこういうこと言うのもなんか変?

「いい子がいて、羨ましいよ。優紀ちゃんは」

 その点俺なんか母泣かせかもしんない。
 て言いつつ……所業ばれなきゃありだろ?とか思ってるし。
 反省しないわ、俺。

「ア?ババァ狙いかよ」

 ババァは狙ってねーよ。
 俺の狙いは優紀ちゃん。
 なので、返事してみました。

「今日はむしろ戦果報告されに」

 お前の好きな最終兵器モンブランを確認に。
 ラッピングくらい拝ませてもらおう。
 ついでに、赤くなる(ぜってーあっくんってシャイだ)顔も見て、散々からかってやる。
 あとで壇君に教えてやるんだ。

 はしゃぎながらもちょっぴり切ない心持で、俺はあっくんの家まで押しかけた。
 久々だ。
 一日ぶりだけど。

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 そうそう。
 最後の日(13日。金曜だよ、嫌になんなぁ)、彼女は言った。

「仁、喜んでくれるかな?」

 俺は答えた。

「平気だよ。俺なら嬉しいから」

 結構真面目になって、鼻の奥がつんとしたから、「らっきー」のお守りにキス……はまずいので、その細い手をぺんっと人差し指で叩いて、

「なに?」

「願掛け。ラッキーになるから」

 ――で、今再び戻ってきてるのがその台所なんですが……。

「んでこいつがいんだよ」

 と不機嫌なあっくんと、

「そんなこと言っちゃ駄目よ。キヨ君にはいつもお世話になってるでしょ?」

 お茶のポットを持ちながらにこやかに言う彼女。

「ババァ、てめぇがだろ」

 うんうん、仁に関しちゃ世話どころか邪魔しかしてないもんな俺。

「はいはい」

 受け流すのか。さすが。
 ぶーたれたあっくん(がきくせー)の前に優紀ちゃんは箱を取り出す。

「バレンタイン。収穫あったって、どうせ報告してくれないんだよね?仁は」

 これは私から――。

 そういって、出てきた箱の包みは可愛いピンクで、本命用にしか見えなかった。
 遠めでみたら絶対バカップルな光景の横、俺はお茶を啜ってた。

  「あ?」

 怒った声が震えんのはなんでだよ?
 おい。

「あっくん、顔赤い」

「ウルセー」

 今日はこれで我慢。
 記念写真、と称して、許可なく携帯でベストショット。
 ツーじゃなくてスリーなのが玉に瑕(あとで仁のとこだけ、切り取ろっと)

「さて、用もすんだし、俺帰るねー」

 義理の催促は格好悪いし、よく考えれば靴箱のチョコ全部南に任せて放置してきたんだった。
 戻るかな。
 面倒だからいっか。

   なんて考えながら、さっさとたって、玄関に行き、靴を履いて……

「ちょっと待って!」

 女神の一声に現金なまでに顔をほころばせた。

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「千石清純、義理をしっかりゲットいたしました!」

 新たに作り直したらしい。
 ラッピングも凝ってた。
 クッキーかな?
 大きさから推定してた。

 うわーくそ嬉しい。
 しかし実はあの後、もらえなかった。
 もう一日待ってね、のお呼びがかかって、それであの日はお終い。
 もらえないよりいいので、クラスの女子(と室町君)に自慢したら、双方から

「ああ、十五日はまずいっすね(ね)」

 とかえってきて泣けた。
 なんでも嫌いな人にあげる日らしい。(なアホな!)

 それでも今日もらえたから、こうして屋上にいる。
 屋上で南に愚痴。
 ――またこのパターンかよ。

「は?じゃ、お前、それ亜久津から受け取ったのか?」

「ええ。しかも登校中、めちゃくちゃ目立つ場所で」

「あいつが?」

「……写真とかからかったことへの仕返しかと……」

 朝から流れる流れる変な噂。
 麻薬の取引に手を貸した覚えないよ、俺?
 ついでに両刀使いになった記憶もない。……女(の子)大好きだし。

 それより何より、直接手渡しじゃないのが泣きそうだ。
 ……あっくん経由はねーだろ……。

「しかも?なんで?なんで?オソロイ……???」

 受け取った紙袋。
 その中には箱があった。
 あければまた箱。(ロシアのなんとかって人形みたい)

 内側はあっくんと同じ箱で、中身は……モンブラン。
 まあ最終目標だと考えれば最高級に匹敵するはず。

 でもさ……。

「納得がいかないって顔に書いてあるぞ?」

   屋上、南、ときて、ここで「南の(耳に痛い)つっこみ」がないわけがなかった。
 俺はぽつりと告げる。

「味見ですむなら食ったりしないって」

 味見ですむなら、その程度の想いならさっさと捨てるよ。
 ……こんなに凹まないし。

「?」

 作り直されたモンブランは失敗作で。
 それはそれで一生懸命さが伝わるから嬉しがって食べるけど……

「何か問題でも?」

「俺の教えた≪集大成≫やられた。全部食べちゃったよ、もう。泣きながらばりばり?と……」

 上にのっけるように作ったデコレーションのチョコレート文字。
 それしか綺麗に書けるようにならなかったせいだろう。

【DEAR MY SON】

 とあった。

「…………」

「いっそのこと、スペルミスして、【DEAR MY SUNv】とかだったらよかったのに」

 南は「運命だろ」と遠くを見つめた。
 分かりやすい反応ありがとう、南君よ。

 ああ、今日からまた不毛な日常が始まる。

 誕生日はオソロイにできないからなー。
 狙うか?(無謀)

 E N D

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謎・長文・更にまたしても仁出番少なーっ……

……でお送りいたしました。(申し訳ないです)

ヒカリノコ様、キリリクありがとうございました!(and相互)
今後ともよろしくお願いしますね。
千優仁【うち的にはきよゆー(じん)・笑】広めましょう!

 

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