■  屁理屈の境目――毎度同じパターンで――




そう、俺はあいつが心配なんだよ。
それだけだ。
…ったく……。

*  *  *  *  *  *
「南、今日も元気?」

「……何が言いたいんだ、千石」

 また厄介ごとを背負ってきたに違いない千石にため息をつく。
 コイツの空元気の原因はそもそもモラルの低下から来るものだ。
 南は真面目にそう思っていたが、相手はモラルなんて言葉自体信用しちゃいなかった。
 いわく、一時間目の合間にサボって女を食ってた(IN保健室)。
 聞く気もない喘ぎ声を聞かされた地味の代表格(自分以外)が文句をいっていたから、裏は取れている。
 二時間目は多分告白されてた。(IN屋上)。
 体育館裏と並んで告白の聖地だし、喜んで戻ってきたクラスの少女を見ているから間違いない。
 一ヶ月せずに泣く候補がまた一人増えたのだろう。
 コイツのせいで……。

「何って、南君。元気なさそーだし」

 軽く言う千石清純に「お前のせいだろ」とずばり切り返すも、相手は懲りた様子がない。

「なに?なに?俺のせいだったりする?」

 ふざけた調子で笑うと、ぺこりと手元のペットボトルを曲げた。

「ゴミ箱に捨てとけよ」

「そうする」

 バシュっ 

 放り込んだペットボトルは宙に放物線。
 お前はバスケ部か?
 ……なんて、突っ込む間もなく、次の話題。
 乾いたコンクリートに垂れた滲みが妙に汚く感じるが、千石は案の定気にしてなかった。
 この辺が俺らの違いなのかもしれない。

「今度の子、可愛いデショ?」

「誰だか見てない」

 不快だが、コイツには段々慣らされてきてる。
 俺はそうとだけ告げると、覗き込む千石の頭を遠ざけた。
 うっとおしい。
 ……ここで「そうだな」とは頷けないぞ?
 俺はモラリストだ。
 少なくともこいつの前じゃ。

「そろそろ加減しろよ。女の子が傷つくだろ?」

 言葉が嫌になるほど浮いて、慌てたけれど、平然と俺はフェミニストになった。
 付き合ってステータスにされてたり、彼氏に焼かせるためだったり……相手もろくでもなくなってきているのを……本当は分かってんだ。
 だから、

「そう?」

 わかってるくせに?と顔に書いたコイツに、何もこたえられなくなるんだ。
 コイツがとっくに気づいてる現実に彼女たちは気がつけない。 

「で今日はなんだ?」

 目を逸らせて聞く。
 屋上からは意外と広い校舎と、テニスコートが見えた。

「ナイショ」

 いつものパターンだ。

「ああ、予想はつくけどな」

 どうせあの人のせいだろう。
 それが悪いとは思わない。
 少年期の憧れ。
 恋。
 ……でも、他の子食うなよ。
 やっぱりモラルが欠けてるのだと思った。

 男なんて所詮――わかっちゃいるけど、コイツのせいでまとめられるのはいかがなもんかね。
 そこでようやく気がついた。

 ……で?俺はなんでこいつを止めなきゃなんないんだ?

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 一日千石を無視しよう。(物理的でなく、その倫理観を無視してしたいようにさせてやろう)
 そう思ったのは昨日のこと。
 普通に会話はする。

「オハヨ。南」

「ああ、おはよう。千石、どうしたんだ?そのアザ」

 右の首筋にアザ。
 いつものアレじゃない。
 俺も恥じらいがなくなったもんだよなぁとか思うが、判別できるほど酷いアザだったから仕方ない。
 立派な内出血。
 これは運動に影響するぞ。
 
「名誉の負傷」

「カノジョの男か?」

「……あー…そうだったらよけたんだけど」

「つまり敢えて食らったと?」

「そゆこと」

 会話終了。
 コイツはそういうやつだ。
 いらないと思ったらもう話を止める。
 でも、笑った顔が「ナイショ」とつげるいつもとは違って、少し辛そうだったから呆れた顔も出来なかった。
 だけどな、千石。
 今日は止めないからな?

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 三時間目、女の子(多分他校の子)と待ち合わせ、自習をサボる。
 昼休み、呼び出される。日常茶飯事、いつものこと。
 放課後、部活動。
 さぼり気味だからこれは連行。
 強制的にランニングから参加。
 うん、逆に上手く行き過ぎて怖いな。
 それで帰宅前。
 部室。

「で?怪我どうしたんだよ?」
 と、いつもなら聞くところだが、今日は聞かない。
 
「ん?ナイショ」
 と、いつもなら言うところだけれど、千石は先読みさえしなかった。
 かわりに、

「あのさぁ南、これからちょっとお出かけするから、俺先に帰るわ」

 そう言い出したので、

「行けば」

 切り替えした。
 今日の目標。
 あれ?っと千石は意外そうな顔。
 うん、成功だ。

 で、数分後………。
 …………。
 ……。

「なんでいかねーんだよ?」

 俺はまだいる千石にびびった。
 そんなアホな。

 止められなければこいつは行くだろうと思ってた。
 それでいいと思った。
 いつもの姑息な顔で、「止めないの?」なんて聞かれても、「だって適当なカノジョのうちの一人だろ?」って返して……。
 その二回目の返答に俺は黙りこむ。

「本気だからさ」

 千石は笑った。
 ちょっと焦ってんだとか言って。

 俺は止めた。
 やっぱり止めた。
 というか……多分はじめて真面目に止めなきゃならないと思った。

「……悪い、千石。それはやめとけ」

「えーなんで?」

「なんででもだ!」

「なんでだよ?南がいけっていったのに?」

「なんででも!」

 不毛そうに言い合ううちに気づいたんだが、俺が止めるのは女の子のためで……そう女の子のためで……あの人のためで……。
 あの人は……千石の本命の彼女は……。

「……わかってるよ」

 呆けた俺に千石は続けた。

「南は結局とめたいんじゃん?」

「何を?」

 千石はそれ以上答えなくて、でも帰らなかったから、一緒に途中まで行ったんだけど……俺はエライ後味が悪かった。
 理屈ばっかほざいてて、とりあえずくっつくのを止めたいだけじゃん?、ってアイツの目が見透かしてる。

「そうじゃない」

 俺はそんなつもりじゃ……
 そりゃモラルを……

「なんで?」

「モラル的にまずいだろ。……一応ひとづ……」

 人妻。

「別にいいじゃん?」

「だって……」

 亜久津の……。

「どうして気にすんの?俺、わかんなーい」

 怒らせる気でやってるんだろう。
 それだけがわかる。
 で?、だ……。――俺は本当に、なんでとめるんだ?

「いいじゃん?好きなんだから」

 駄目だというのも傲慢で、でも「道徳的にまずいだろ?いいのか?いやあくつの教育に……」と、いくら心が止めよう止めよう騒いでも、

「いいんだよ」

 ほら、コイツの一言にはかなわない。
 見透かされてる目には折れる他ない。
 だけどさ、千石。
 俺はそれでもお前が心配なんだよ。
 彼女が泣くのが心配なんだよ。
 よくわかんないけど……そういうことだ。

 俺は開き直ることにした。

「やっぱり、お前には監督が必要だな」

「え?伴爺?」

「違う。生活監督だ。清純なんて名前のくせに、お前はやることやること、酷すぎる。取りあえず、俺が請け負う……。というわけで、優紀ちゃんには近づくな」

「南の横暴。……てか、今優紀ちゃんって……」

「あの人、本人でそう呼べって言うんだから仕方ないだろ?」

 今まで呼んだことなんてなかったけどな。

「うわー、アックン!南が壊れた〜〜!」

「何言っても無駄だ。俺は……」

 そう、俺は……

「モラリストなんだ」

 ついでにいうと、部長だしな。
*  *  *  *  *  *

そう、俺はお前が心配なんだよ。
それだけだ。
…ったく……。

そう優紀ちゃんが……好きなわけじゃ……

俺は同じ穴の狢にはならない。


*******コメント************
すみません、なんか見る人が見ると、南ラブ千石デス汗。
また優紀ちゃん出てこないし。
趣味に走りすぎました。
……なんで、軽い調子になんないんだろうか。
ついに南まで一人称だし……。
次こそギャグを……(次があるのか?)