光と影と風の競演 〜うちの子が一番!〜

ある日、佐助は信玄に呼ばれた。
「こう見えて結構忙しいんで、手短にお願いしますよ?」
「まぁ、そこに座れ。佐助」
佐助は言われた通りに片膝を折って、話を聞く事にした。
どうやら、信玄は佐助に重要な任務を言い渡す様だ。
ひと通り話を聞くと、佐助はやや溜息交じりに尋ねた。
「…それって、ほんとに重要なんでしょうね?お館さま」
「この任務、お主でなければ任せられぬ。頼んだぞ」
そう言われたら、引き受けるしかない。
佐助は旅支度を整えると、周辺で情報収集を開始した。

一方、春日山城では、謙信がかすがを呼んだ。
かすがはうっとりしながら、謙信の話に耳を傾けていたが
それに気づいた謙信が、たしなめる様にこう言った。
「いいですか、つるぎ。これはとても、たいせつなにんむですよ?」
「は、はい!謙信様。必ずや、成功させてみせます」
かすがは深々とお辞儀をすると、颯爽と出かけていった。
「あのお方の為に、私が剣になろう!」
気合を入れ直すと、かすがは軽々と木々を飛び越えて行った。

更に小田原城では、氏政が小太郎を呼んだ。
「風魔、風魔、どこに居るのぢゃ?」
「……(ここに居るっつーの)」
小太郎が部屋の外で、腕を組みながら立っていた。
氏政は小太郎に、ある任務を依頼した。
「よいか風魔、武田や上杉の忍に後れを取るでないぞ!」
「……(お前が言うなw)」
小太郎は氏政から小遣いをもらうと、足早に去って行った。
小太郎が視界から消えるまで見ていた氏政は、満面の笑みを浮かべた。
「いかなる忍も、風魔に敵うはずが無いわ…」
そう言うと、盆栽の手入れを始めた。

数日後。
真っ先に密偵に出かけた佐助は、ある領内へ侵入した。
「警備が手薄だねぇ…」
あまりにも楽に侵入出来たので、つい軽口を叩いた。
木々の間をすり抜けていくと、ようやく兵卒の姿を確認した。
兵の数はそれほどでもないが、油断は禁物だ。
「敵さんは十人前後…か。だったら余裕だな♪」
首尾よく回り込むと、一軒の屋敷の裏口にたどり着いた。
信玄より託された書には、この辺に重要な物が隠されているらしい。
「あっという間に、片付いちゃいそうだねぇ」
持っていた針金で屋敷の錠前をこじ開けると、屋敷の中へもぐり込んだが
まだ昼だというのに、まるで真夜中の様に暗い。
「…何か、やばい予感がするな」
佐助が一旦屋敷から出ようとすると、奥でぼそぼそと声がした。
「あなた、ここへ死にに来たのね…?うふふふ…あははは…!」
「ちょっ、何でここに魔王の妹が居る訳?!」
黒髪の憂いを帯びた目をしたこの少女は、魔王信長の妹・市だった。
身の危険を感じた佐助は、急いで脱出を試みた。
「市の代わりに、苦しんでね…?」
そう言うと、市は大きな黒い手を召喚した。
佐助は持ち前の素早さで回避したが、それでも市は手を引っ込めない。
「市、昨日の夜から何も食べてないの…だから、ね…?」
市は何らかの理由で、ここに閉じ込められているらしい。
「冗談?!俺様、あんたの食糧じゃねぇって!」
佐助は市が自分と同じ属性だという事を、薄々感じ取った。
市はゆっくり起き上がると、薙刀を振り回し始めた。
「落ち着けって。閉じ込められてるんなら、助けてやってもいいし…」
佐助がなだめる様に言い聞かせると、ようやく市は薙刀を引っ込めた。
「お願い、市を長政さまの元へ連れて行って欲しいの…」
そう言うと、市は今にも泣きそうな顔になった。
佐助は困惑しつつも、市を連れて屋敷から抜け出した。
「どうでもいいけど…あんた、随分と足遅いね?」
「ごめんなさい…これでも一生懸命、走ってるつもり…」
市は全力で走っていたが、駿足の佐助には遅く感じられた。

佐助達が小谷城へ向かっていると、その様子を見ていた者が居た。
「あれは佐助と、魔王の妹?」
白い大鳥にぶら下がりながら、かすがは怪訝そうな顔をした。
何故、佐助が魔王の妹なんかと行動を共にしているのだろうと。
「私には関係無い。それよりも早く…」
かすがは方向変換すると、別の方角へ飛んで行ったが
途中で旋回すると、再び佐助を追跡する事にした。
「姉川へ行くのか?しばらく、後をつけてみよう…」
かすがは大鳥から降りると、木々を伝って追いかける事にした。
途中で市がもう走れないと言うので、仕方なく休む事にした。
市が水を飲んでいると、佐助が尋ねた。
「あんたさぁ…一体、誰に捕まってたんだい?」
「長政さまが、竹中さまの策に…」
佐助は納得したかの様にうなずいた。
あの性格の長政なら、挑発されたらどうなるか容易に想像がつく。
半兵衛の策に引っかかって、分断されてしまったのだろう。
「でもさ、嫁さん置いてくなんてひどい男だねぇ…」
「止めて!長政さまの悪口、言わないで…!」
市が少し怒った口調でやり返すと、驚いた佐助が謝った。
かすがは二人のやり取りを、少し離れた場所で見ていたが
これ以上追跡しても、何の得にもならないと思った。
「私とした事が、無駄足を運んでしまった」
かすがが再び、大鳥を呼ぼうとした時だった。
「お城まで送り届けてくれたら、忍さんにいい物あげるわ…」
「いい物って言っても、ピンからキリまであるっしょ?」
佐助が茶化していると、市がひそひそ声で言った。
「浅井家に代々伝わる、とても価値のある物よ…」
それ以上は、城に着くまでは教えられないと言う。
そう聞かされた以上は、送り届けない訳にはいかない。
二人が再び動き出すと、かすがも気づかれない様に後を追った。

その後、佐助は市を小谷城まで送り届けた。
長政は礼にと、豪華な布に包まれた箱を手渡した。
「よいか忍、絶対に盗まれるんじゃないぞ?」
「へいへい」
佐助は礼を言うと、大急ぎで駆け出した。
本当は今すぐにでも、箱の中身を確認したかったが
この辺は物騒なので、もう少し進んでから開ける事にした。
「もしこれが、お館さまの言う物だったらいいんだけど…」
任務が早く終われば終わるほど、空き時間は好きに使える。
佐助が颯爽と走っていると、上空からかすがが舞い降りてきた。
「佐助、その箱は私がもらった!」
「かすが!まさかお前、ずっと…」
あとちょっと駆ければ、甲斐国へたどり着けるのに…
とんだ邪魔が入ってしまったと、佐助は思った。
「駄目駄目!こればっかりは、お前にも譲れないよ」
佐助がかすがを追い払おうとすると、かすがも負けじと応戦した。
どちらも、互いの腕前はよく分かっている。
こんなところで、無駄な消耗戦をしたくないのも同じだ。
「なぁかすが、軍神から何頼まれたんだ?」
「お前などに、教えるものか!」
相変わらずな会話を続けていると、横から何者かが侵入した。
そして佐助に体当たりすると、あっという間に箱を奪って逃走した。
「こら、盗人!!それは俺様の…」
佐助は巨大手裏剣をしまうと、大急ぎで後を追った。
ただの盗人にしては、相当手際もよければ足が速い。
「何だよ、次から次へと…ついてねぇなぁ」
佐助が舌打ちしていると、後ろからかすがが追いかけてきた。
「何をしている!さっさと止めないか!」
ここで盗人を取り逃がしては、今までの苦労が報われない。
仕方なく、二人して捕まえる事にした。
「足引っ張んなよ?」
「うるさい!」
佐助が手裏剣を投げると、かすがも上空から苦無を投げて援護した。
運よく、苦無の一本が盗人の足に当たった。

「盗人、正体を明かせ!」
かすがが怒鳴りつけたが、盗人は何も言葉を発さない。
「かすが、気をつけろよ?こいつ、只者じゃなさそうだ…」
盗人は箱を置くと、かぶっていた布を取っ払った。
「まさか、お前…」
盗人はかの伝説の忍、風魔小太郎だった。
いくら腕の立つ佐助とかすがでも、小太郎が相手では少々分が悪い。
「怖気づくな!こっちは二人だぞ!」
そう言うかすがも、かすかに足元が震えていた。
佐助とかすがは、一歩ずつ歩み寄る小太郎に恐れをなした。
「佐助、どうする?」
「どーもこーも、やるっきゃないっしょ?」
佐助とかすがは左右に分かれると、忍らしく構えた。
じわじわと間合いを詰めていくと、かすがが分身を作り出した。
「佐助、早く出せ!」
「分かってるよ!そっちこそ、抜かれんなよ?」
「……(で、あんたら結局、仲いいの?どうなの?)」
小太郎は半分呆れ気味に、その様子を見ていた。
佐助とかすがの分身が小太郎を取り囲んだが、小太郎は難無くかわした。
二人はまさかという顔をしながら、分身を引っ込めた。
小太郎が背中に背負った鞘に手を伸ばすと、両手に短刀を構えた。
「かすが、俺が食い止めるから、それ持って逃げろ!」
切羽詰った佐助は、かすがだけでも逃そうとした。
「この期に及んで、かっこつけるな!」
かすがも佐助を置いて、逃げるつもりなど無かった。
二人が言い合っていると、小太郎が間合いを詰めてきた。
佐助は閃光弾を放つと、かすがに向かって箱を投げた。
「今だ、逃げろ!」
託されたかすがは泣きそうになったが、ぎりぎりのところで耐えた。
「くっ、仕方ない…!」
かすがは箱を抱えて、大鳥に乗って逃げた。
その後も佐助は小太郎と何度か斬り合ったが、勝負がつかない。
「さすがに、これはまずいな…」
息が上がってきた佐助は、木を支えにして呼吸を整えた。
小太郎も予想以上に佐助が持ちこたえているので、少々驚いていた。
引き続き二人が対峙していると、次第に日が暮れてきた。
「風魔さんよ、そろそろ諦めてくんないかな〜?」
「……(嫌だねったら、嫌だね♪)」
こういう時、何も言わない方が有利に見える。
佐助は余計に焦りを感じた。

一方、かすがは甲斐国へたどり着いた。
「そなたは、上杉の…!」
武田軍名物「熱血稽古」を単独で行っていた幸村が驚いた。
「佐助が危ない、助けに行ってくれ!」
「お館さむぁぁっ!佐助の一大事でございまするー!」
幸村が信玄の私室へ駆け込むと、信玄は謙信と氏政に茶を振舞っていた。
「とらのわこはあいかわらず、げんきがいいですね」
「なんぢゃ、騒々しいのう」
後から来たかすがは、この三人がやけに冷静なので不思議に思った。
「謙信様、任務半ばに戻って来てしまい、申し訳ございません!
恐れながら、今はそれどころではなくなってしまい…」
かすがが懸命に謝っていると、謙信はそっと茶碗を置いた。
「いいでしょう、みなでいくとしましょう」
三人は武器を持って立ち上がると、馬にまたがって走り出した。
少し離れた場所で、かすがと幸村が馬を走らせていた。
「かすが殿、佐助は誰と戦っておる?」
「風魔だ。あれは、ただの忍じゃない…」
いつも勝気なかすがが、かなり気落ちしているのを見て
幸村はいてもたってもいられなくなり、馬に鞭を当てた。
かすがに言われた場所へ着くと、幸村は馬から飛び降りた。
「佐助ぇぇぇっ!無事かー?」
幸村の視界に、佐助と小太郎の姿が見えてきた。
佐助は聞き慣れた主の声を聞いて、慌てて叫んだ。
「ダンナ!こっち来ちゃ駄目だ!」
「何を言うか佐助!今、助けに参る!」
幸村は二槍を構え直すと、全速力で駆け出した。
かすがもついて行こうとしたが、謙信に止められた。
「な、何故ですか…?」
「しんぱいはむようですよ、つるぎ」
かすがが首を傾げていると、信玄が大きな声を出した。
「そこまでぇ!!」
二人が構えを解除すると、信玄を先頭に謙信と氏政もやって来た。
「お館さま!これは、一体…?」
幸村が訳も分からずにいると、ようやく真相が明かされた。
甲斐・相模・越後の忍の中で、誰が一番かを競わせたかったという。
もちろん、任務というのも口実だ。
「それで、結局は誰が一番でございますか?」
幸村が尋ねると、信玄はこう言った。
「錦に包まれた箱を持っている者こそ、勝利者である」
それを聞いた途端、佐助がしまったという顔をした。
逆にかすがは、小躍りしながら謙信の元へひざまずいた。
「謙信様、確かに…」
かすがは腰に下げていた包みを差し出すと、謙信が微笑んだ。
「ほうびとして、つるぎにあげましょう」
落ち込んでいる佐助と喜んでいるかすがを尻目に、小太郎は溜息をついた。
「……(で?っていう)」
氏政がぽんと小太郎の肩を叩いた。
「帰ったら、たんと“こためし”を振舞ってやるぞい」
その言葉を聞いた小太郎が、珍しく口元を綻ばせた。

それぞれ本拠地へ戻ると、かすがはわくわくしながら箱を開けた。
きっと、素晴らしい物が入っていると信じて…
ところが、中に入っていたのは料理本一式だった。

「謙信さまぁぁぁっ!!!!(泣)」

謙信がかすがの料理の腕前を知らないのは、言うまでも無い。

<終>

平成21年、MAYMOONさまのお誕生日に寄せて。

うわーーーーいもらいもの!!! というわけで、素晴らしいしのびーず物語です。ありがとう、C様!! やばい やばいよ かすが!可愛いよ! 大喜びで飾らせていただきますー。