ベストオブ○○○

「視線、もう少し流してください」

頷いて少しだけ左上半身をずらす。
次は右、その後にゆっくりカメラを睨むように立つ。
政宗の撮影風景を見ながら、他の面々は首を傾げていた。
雑誌撮影のトップバッターがこれでは、カメラマンもさぞ調子に乗ることだろう。
ショットは一発でOK。

「パーフェクト!!」

政宗の発音をまねて、撮影スタッフが口笛を吹いた。

「次、片倉さん」

「交代の時間だってさ、小十郎」

隣の成実が気の毒そうに告げると、「ああ」と渋い声が返る。

「ハードル、あげやがって」

語調も荒く(珍しい)そう残して、彼、片倉小十郎はブースへ出ていった。

「殿、なんでそんなに撮られなれてんの?」

「Ah? 何が、だ? 普通だろ、別に……」

戻ってきた本人に、聞いたら聞いたで、当然のようにまたレベル設定をあげてくれる。

「あれが当然とか……。そりゃ大河んときも、取材あったけど、別に主役じゃないし、大勢だったよね。その前は俺らと一緒に撮影ってだけだったし」

「ボーカルは撮られやすいから」なんて、ドラム綱元のフォローも入るが、そういうことじゃないんだ。
成実は唸る。

「気にすんなよ。写真写りが悪いってんなら、てめぇだけじゃなくて小十郎もだろ?」

「あれは悪いんじゃなくて、極道すぎるってだけ」

すぐ前では、真剣な片倉小十郎が佇んでいる。

「いいねぇ、いいねぇ、その迫力。そのまま背中ごしに撮ってみようか」

「「…………」」

「あれ、どうした?ザネも殿も固まっちゃって。小十郎はあれでいいんだよ。そこが売りだから」

「いや、わかっているけど」

「てか一人だけニヒル路線っていうかダンディズムだろ」

「あー、LEONの表紙っぽい?」

「「それだ」」

綱元のつっこみに、声を合わせる従兄弟たち。
確かに撮影風景をみるに、音楽雑誌より、少し購買層が上めに想定された男性雑誌の表紙を飾れそうな調子だった。
そうこういううちに、小十郎の出番も終わり、ごねていた成実がよばれた。

「って、ザネ、出番だ。いってこい。つべこべいっててもしかたねーだろ」

「あー、わかりましたよ」

渋々、殿の言葉に従う成実だが、じっさいDVDや映像部門ではキャラどおりのいいポジションをかっさらっているのだ。
ならばなぜ、カメラが苦手かというと……

「ん? 成実のやつ、どうした?」

「小十郎は知らなかったっけ」

「何をだ?」

「ah、アイツ、笑えないんだよ、写真」

「あ? 前の撮影普通だったろ?」

「それは、みんな一緒だったから」

「集合じゃねぇと、無理ってことだ。あんだすたん?」

「……じゃあ、怒らせてみたらどうだ?」

「「――なるほど」」

ひきつった笑いはかわいそうなくらいだ。
これよりはずっといいだろう。
綱元と政宗は顔を見合わせる。
成実が怒りそうな、ちょっとしたコネタならいくらでもあった。


「とりあえず――」

口火を切ったのは綱元。

「借金魔、家出もうしちゃだめだよ」

「は?」

突然、トラウマを持ち出されて成実がぽかんとする。すかさずカメラマンのつっこみ。

「成実くん、口閉じて」

「ぐ……」

「お、おい、おまえ等」
あんまり傷をえぐってやんなよ。
そう、小十郎がいうももう遅く――

「おう、こないだ勝手に俺の雑誌コメント書き換えただろ。お返しに今度のメンズバッグでださ格好いいキャッチつけてもらっといたからな」

――ギンッ――

政宗が投下したネタに、ものすごい睨みが……
そしてその刹那、


パシャッ


まるで狙っていたかのように、シャッター音がなって……

「いいねぇ、いいよ。マジ路線。いつものヤンチャもいいけど、たまにはキッついところを見せちゃって」

見事に一枚目が撮られる。
すかさず、パシャパシャと連写音。

「え、ええ???」

本人がびっくりしてきょろきょろするより先に、撮影終了となった。
それでも絵になる容姿は、なかなかに上等なものなのだが、成実は気づいていない。
あっという間におわったことに不貞腐れて、ラストになる被写体――綱元の方を恨みがましく見た。

「綱元も、うまく写れると思うなよ」

ほとんど脅迫というか、子供の負け惜しみのノリである。
だが……ひょんなことを思い出したあたりから雲行きが怪しくなってくる。

「――てか、俺、よく考えたら綱の写真ってツーショしか持ってないかも」

「そりゃそうだろ。男が男の写真持ち歩くか?しかものりで撮ったやつならわかるが単品とか」

「いや、政宗様……むしろツーショットだけっていうか………(ぼそ)メンバーとの写真もあるんじゃねぇのか……」

暗に突っ込みを入れる小十郎を無視して、ザネと政宗がああでもないこうでもないと叫びあっている。(従兄弟喧嘩が激しい二人である)
こうなるともう話は逸れる一方だ。

が……

すたすたと、状況気にもせず小十郎の横を通り過ぎていく者が一人。
いうまでもなく綱元である。
この反応が出るあたり、彼はもう成実に巻き込まれなれているのだろう。
ブースに入り、すぐさま撮影が始まる。

そして、最初のショット。

「はい、一発OKです。――次、こっち視線ください」

「「「…………」」」

残り三人はあっけにとられて、ぽかんと口をあけた。

政宗ですら一応視線だの注文はうけられたのに、この早さ。完璧さ。
今回、撮影隊自体の規模もそれなりにある。
適当なスチル撮影でなく、かなりしっかりしたものであることはクルーの様子からも明らかだ。
が……

「あ、それならこっちの方が」

「へえ、綱元さん、すごいっすね」

「いや、普通に」


「「「………」」」

どのへんが? 何が普通? 
どう見ても、明らかに鬼庭は撮られることに慣れているようだった。
恐るべし、ベストオブ被写体、鬼庭綱元――


「……ねえ、何あれ?……」

「……成実、あいつ、バンドやる前、何やってたか知ってるか?」

「――いや。殿も知らないの? 小十郎も?」

頷く二人に、成実は頭を抱える。

「があああ……俺、ますますアイツのこと、分かんなくなってきた」

まあ残り二人からしても同じ感想なのだろうが。
しかし、成実は他の二人よりも綱元と仲がよいというか、ぴったり一緒にいるだけに……

「ああー」
「お前も大変だな」

肩をぽんっと、成実の肩を叩く政宗と小十郎だった。
ちなみに、

「元ヤンっていう噂もあるからね……」

ぽつりと成実が呟いた言葉は、恐ろしすぎてスル―されることとなる。

モブクローズアップしたいんじゃないんだ。殿と見せかけて実はちげーんだぜ、がポイント。だて格好いいは、ナチュラルではなく、格好よくしてるんです。