六苦蛮怒
【SIDE 政宗】

「……で、今日は?」

げんなりした顔で政宗が尋ねる。
答えれば答えたで不機嫌になることがわかる小十郎は口を開きかけて、一瞬止まった。
それを引き継いで、ドラムセットを前に、楽譜を眺めていた鬼庭綱元こと、綱が、

「雑誌三件。いっそまとめてしまった方がいいから、その前にプロモーションの打ち合わせをしようって最上社長が。自らくるって」

「そりゃいい……」

言った後、ぼそぼそと英語でぼやいているあたり、機嫌はよくない。スラングが豊富なのは英語、日本語は上品すぎる。
あまりほめられたことではないが、とがめる者もいなかった。綱元がマネージャーから受けた提案は非常に魅力的で、そちらに気を取られていたからだろう。

「あー……そりゃいいや。昨日の取材、3つともかなり時間かかったし」

「成実、お前のせいもあるだろうが」

「……うん。小十郎もだな。全体にぐだぐだだった」

「綱、てめぇもCoolなのはいいがもうちょっと喋れよ。無口なタイプなんて今時はやらねー……俺が認めない」

「殿が暑苦しい方がお好みだとは知らなかった」

「殿ってのも、やめとけよ」

「もう無駄だと思うよ。あの記者、めちゃくちゃくいついてたし」

「だろうね。……で、そういった失言はとにかく、ここから取材が立て込むからアウトラインを雑誌側に送りたいんだって。そこで、バンドコンセプトとかそういうのを決めたいって」

「だから、ミーティングか」

バンドはインディーズから急にメジャーデビューが決まったが、タイアップででかでかと売り出さずと、既にダウンロード数なら第一位。戦略もいらない好成績と、確実な客をひっさげている。
そんなわけで、「メディア戦略」なんて事務所側の首脳陣すら話し合う必要がないと考えていたのだが……

「おかしな時代になったもんだぜ」

「そうそう、売り込ませてくれってこっちがいうんじゃなくて、あっちから取材がくんだもんなー。コンセプトはどんなですか?とか、どう売り出す方針ですかとか、雑誌側から宣伝戦略きいてくるとか……どんだけ記事がないんだか」

「特例だろう。異例のことだときいたぞ……」

「で、それはいいとして、その言いだしたやつは何時くるんだ?」

もしもミーティングだとすれば、練習場をわざわざ指定してる時点で相当時間がせっぱ詰まっているのだろう。
もういてもいいはずの人間である。
政宗は、不審に思って聞いた。
と……

PIPIPIPIPIPIPIPIPIPI♪

「誰だよ、音楽、天守閣のにしてるやつ」

「あ、俺!ごめん、こないだ慶次にもらった新曲がすごくよくて」

「Aha?相手は誰だ」

尋ねる横で既に成実は、電話にでていた。
着信をぎりぎりでのぞき込んだ綱元が、正体をばらす。

「噂をすれば影みたいだ」

*      *      *      *
「社長様は来られないと」

嫌みとはっきりわかるように言えば、「いなくても問題ないじゃん」とあっさり従兄弟は返した。

「まあ……」

そうだが、釈然としないのは――

「それとも殿、おじさんこなくて寂しい?」

「あんなの叔父さんじゃねぇ」

「実の叔父貴殿でしょうが」

「…………」

確かにそのせいもあるかしれない。
デビューはコネではなく、まごうことなく実力によるものだったが(何せ相手はスカウトしたバンドのボーカルに甥がいるときいて、「やめときゃよかった」とまでもらしてた)叔父の戦略自体は嫌いではない。むしろ信頼している。
だからこそ、敢えてほかの仕事をとられるとそれはそれで他意を感じてしまう。

――なんかたくらんでるような気がしてならねぇ。

そうでなくとも、元々微妙な人間関係だ。
一時期政宗が引きこもった原因――母との大がかりな諍いも、元をただせばあの叔父にあった。
不信感が募りに募っているところにきて、その事務所でのデビュー。小十郎や綱元などは未だ気を使っているし、今だってどこか不安を覚えているだろう。

――ここで俺が焦ってる場合じゃないな。

切り替えて、成実に、何か指示がないのか訪ねる。

「んー。FAXで相当練ってくれた企画書おくってくれるって……別に放っておくつもりもないって」

「そうか」

「政宗、俺らは売れる売り物だ。あの人が手を離すはずがないだろ?」

血のなせる技だろう。
成実はあっけらかんと一番信じられるフレーズを選んだ。
実力重視、売り上げ第一――叔父らしい方針だ。
ちょうどそのとき、

PI−−ga−

不可思議な音がして、FAXが受信を始めた。

「な。信頼ならば興行成績で作れる、実績がものをいう世界であればこそ、あの人たちほど信じられる人はいないよ」

「はっ。違ぇねーな」

一見いい話ふうに、締め切った伊達二人組だが、用紙を取り出した綱元が「そう簡単にいかないあたりがさすが最上」

「Ah?」

紙をぴらぴら降りながら「売り出し方は俺らで考えた方がいいかもしれないな」と、冷静なのかそうじゃないのかわからない顔で言う。

「まあまあ」

みればわかるから。
渡された紙をみて、先に凍り付いたのは政宗だった。
一見して、こった企画書の体裁。
表紙からして立派な広告代理店のようなものなのだが、中身が問題だった。

インパクト、と銘打たれたページに並ぶ文字面。
バンドコンセプト以外に、個人へとあててかかれたページまでご丁寧についている企画書は、体裁からも本気が伺えた(更によくわからないマーケティング調査の報告までついている)
が…………


「嫌がらせ……か?」


そうとすらいいたくなるのが中身。
トップページに打たれた【スタイリッシュ、伊達ワルのワールド】に、めげそうになったのはほかのメンバーも同じだった。
そう、残念なことに……敏腕マネージャー兼奥州プロ社長、最上義光、唯一の弱点は、言葉選びに全く持ってセンスがないこと、であった。

*      *      *      *
気を取り直して、と、なぜかでてきたビール&つまみのスナック片手に、四人は思い思いの場所に椅子を移動させ、コピーした紙をぺらぺらとまくってはため息をついていた。

「もうミーティングって感じじゃないよね(@成実)」といった様相。普段はまじめにと言い出す小十郎も、靴を脱ぎかけて、くつろいでいる。
どういったことか。

「もういっそ、紙飛行機に書いて、一番とんだやつでよくない?」

「いや、全部作り直しだろ」

「これはこれである種の才能があると思うな」とは綱元の言葉。

「……」

――確かに。
政宗が思わず頷きそうになったのも無理はない。
なんせ、スタートからぶっ飛ばしてる。

「なにこれ、【蒼い獣はRockを喰らい尽くす】って。すっげーな。小十郎、どうよ?」

降られた小十郎は「イントロからが俺のザ・ワ^ルド」を指さして、

「俺はこの意味が分からない」

「ジョジョねた!???」と悲鳴を上げる成実を後目に、鬼庭が凍り付いている。

「ん?つな、どうしたの?」

「すごいのが来た」

「あ?個人コンセプト???」

手元のページをみると四区分。それぞれのキャッチコピーがつくられているらしい。

「政宗、すごいことになってんだけど……」

「Ah?」首を傾げながら差し出された自分のページをみると、

「【LADY!!俺のWar danceを魅せてやるぜ】?」

「……」

確かにすごいことになっていた。
従兄弟に読み上げられたキャッチコピーは、元ネタすら浮かばない。
政宗は唸った。

――おいおいおいおい……

叔父という人がわからなくなる一瞬。

「社長の中でどんなキャラクターを担っているのか、気にかかるところだよね」

えせ英語の外人?
容赦なく呟かれる綱元の感想。本人無意識なのがわかりきっている。
政宗は文句を言う気も起こらなかったが、周囲は笑いをこらえようと必死になりすぎて顔がすごいことになっている。

「はずれなし!だよな。この宣伝文句全般……」

「でも実際、こんなあおりをつけられた日には恥ずかしくて外にでられないぞ」

「てかさ、俺のどうなってんだ?」

「そういえば」

――俺のだけ笑われるのも癪だ。

言われて、そんなことを思い、成実のコピーをみる。

「……」

残念ながら意外と普通だった。
いやあくまで政宗と比べての話だが、比較とは恐ろしいもので、他のキャッチの破壊力になれた今これくらいものともしない。
そんな伊達成実、きになる彼のキャッチコピーは【もう振り返らない、誓ったその日に俺は戻った】
けれども、やっぱり意味はさっぱり分からない。

――俺のよりいいことはわかった。
たぶん先ほどまでの失笑も買わずにすむだろう。
癪にさわる。

「成実、お前のはこう変えるべきだろ」

「え?何何?」

さっぱりわからないと顔に書く従兄弟を後目に、一言付け足す。

「もう借金しない。誓った日から俺は戻った」

「「あー」」

小十郎と綱元が同時に頷く。

「え?納得すんのかよ、そこ」

「完璧だな」

「ああ、あのときは大変だったからな」

そう。ちょうど一年前、政宗のお金をちょこっと拝借して大変な騒ぎを起こしてくれたことがあるのだ。それで姿をくらまそうと、かえって借金を別に抱え、バンドの合間にひたすら稼いでいた成実の話はメンバーでは共通の「苦い思い出」だ。

「それにてめぇ、俺らの心配をよそに結構楽しんでたしな」

「そんなことねーって!あんときは、本当バイト三本掛け持ちで、結構やばかったんだからな」

「ま、もうしないわな」

「ギャンプル関係いっさいやんなくなったし、煙草も酒も嗜む程度に切り替えたから、ああはなんねーよ」

「だといいが」

「勘弁してくれって。てか、小十郎もこんな調子?俺の予想だとすっげーごっつい言葉がでてきそう」

「ごっつい?」

「お控えなすってとか。喧嘩上等とか」

「おい、シゲ、お前んなかの俺がどんな印象かはよくわかった……」

「いやいや、冗談だって。けど気になる。綱もみたいっしょ」

「はいはい」と、つきあってあげる綱元の同意。
――またあまやかしてやがる……
思うが政宗とて、みてみたい。
ページをめくる。

「【Surviveを感じろ。俺の仁義は竜に有る】……?」

「うわー、予想通り」

「もうなんていうか……」

「好きにしてくれ」
やけになる小十郎の背中に哀愁。
仁義と言う言葉が妙にマッチしているのが笑える。

「てか、綱元はどうなんだよ。こうなったら、もう全員文みるしか――」

横からひったくるように持っていかれる企画書。
ぺらを見つめた成実の動きが止まった。確かめるようにみている。

「あ?何がかいてあんだ?」

「綱元なんて一番まっとうそうじゃねーか。起こらせると怖いとか、阿修羅とかせいぜいそんなもんじゃ」

「――殿」

「……いや、その、おじきの考えそうな路線だとな……」

「そういうことにしておきますか。で、シゲ――」

促されて、固まっている成実が、

「【お前は既に俺のモノ それだけが堕天の真理】……」


「「「「……」」」」

一瞬遅れて、わっとわくメンバー。

「ねーよ、何これ!てかお前って誰だよ!」

「It's Crazy」

「ちょ、ちょっと何これ。――って小十郎、大丈夫?」

涙目になって笑いながら、成実の声にそちらを伺えば、呼吸困難に陥りかけているのだろう。膝をおって、うめいてる小十郎。

「な、は、ふははははは」

そのとなり、綱元は小十郎とは対照的に普段から笑いのツボがわからないので有名。今回もひょうひょうと、「そっか、俺ってそうなんだ」だなんて呟いて、

「じゃ、ALASTORは俺のもの」

あっさり乗った。

「あ?」

「世界の理は俺のもの」

「規模がでかすぎてわかんねーよ」

「そう?なら、このビールは俺のもの」

ねらいはこれだったと言いたげに、テーブルの上の冷えた缶を浚う綱元。

「おい!それ最後の一本!」

ごくりとおもいっきり飲み込んでから、

「遅かったね」

満足げにしている。

「えー、ならこのナッツは俺のもの」

「シゲ、おまえまで乗るのかよ」

「あ、そうそう、ならさ。綱、これも俺のものってことで」

ずっと前からほしがっていた綱元のサングラスを指にひっかける成実。調子がいいのはいつものことなので、あわてるものはいない。
本人も焦った気配はなかった。
が、代わりに――周囲がぎょっとする間もなく、成実ごとサングラスを引き戻し、

「お前のものは俺のもの」

「はあ?どこのジャイ○ンだよ」

成実は動じず反撃しているが、抱き込まれたその体制で普通につっこみがでることが自体すごい――そう思う。
そのまま、「いや、だって、シゲ。お前のものは俺のもの、当然だろ?」とキャッチコピーまんまのことを繰り返し、綱元は更に言葉を続けた。

「成実は俺のものだから」

「「…………」」

――これ、つっこみまちか?

思う反面、もはやどうにもつっこみいれずらい空気。

――目が真剣だったよな?

その前に、ついつい「あいつら異常に仲いいよなー。割り込めない空気作ってるってーか」と少し前に、友人(慶次)とはなしたことが思い出された。
その瞬間、政宗と小十郎が決めたことはただ一つ。

≪触れないでおこう≫

――ま、むかしから綱元はどこまでが冗談かわかりづらかったしな。

おもしろいと思ったら、どこまでも真面目に嘘をつくタイプなのだ。
ちょっとだけ「あれ?こいつそっちの趣味あったか。俺らパンドラの箱あけかけたか」なんて思ったことを封印して、政宗は静かに頭をふった。
結局、ジョークの延長か、ことあるごとに――ライブでも、「成実はおれのもの」発言をし出す綱元を止めるものはなく(なんせ成実はさっぱり気にしていない)なんとなく「そういうキャラづけもありかもしれん」と思い出すのであった。


おまけ*      *      *      *

「【命を賭けろ。俺達にはその価値がある】……命かけちゃだめっしょ」

「だな。それよりはまだ、このあたりの方が言いそうだ」


【俺無しのRockシーンなんて俺がこの手で瓦解する】

【これまでのRock界を俺のDARKで瓦解させてやる】

「やべ、すげーのみっけた。殿、殿、これさ、殿反対にぜって――いわね――!!」

【付いて来たけりゃ好きにしな、お前にSWEETは似合わねぇ】

【セクシーなの?ワイルドなの?(パクリ)】

「俺としちゃこのあたりはもう頭が悪いとしか……」

【クレイジーなんてガキの玩具だ】

【俺のビートには上から乗れ】

「すべてが俺のもの」

「つな、やめとけ……本気で思ってるっておもわれるから」

「俺、無欲な方」

「でもねぇだろ」

「そうか?殿ほどじゃないと思う」

「……たまに俺はお前がわからなくなる」

「あー……」

また政宗がへんなことで考え込んでひきこもらないかなーと不安に思っている小十郎。横でどっちもどっちと平然と返している成実。
意味不明なミーティングは結局いつもの光景にもどっていた。

最終的に決まったコンセプトは 時間ぎれで成実がいたずらがきしていた「奥州六苦蛮怒 ALASTOR」だった。

ごめん またメン●クねた。