――佐助の様子がおかしい。
久々のオフに、遊びに行けると浮かれていたことも忘れて、幸村は隣の様子ばかり気にしていた。
なんだか楽しそうなのだ。最初こそ久々のオフだからとおもったものの、不信が募る。
ビリヤード台の上やたらと本気でピンを狙う佐助は、いつも以上に絵になっている。こうすると二枚目の俳優として名がしれる理由も自然としれてこよう。
だが、どうしてか……
「佐助」
「なぁに、旦那」
違和感の方が強い。
真剣に狙ったと思えば、わざととしか思えないタイミングではずしたり、こちらを心底楽しそうにしたと思えば、また別の何かを考えているかのような心ここにあらずの微笑。
「何をニヤニヤしておる」
「ひっさびさの休みをアイドルと一緒とかいいなって思って。プレミア試写んとき以来じゃない?」
「そ、そうではあるが……その、何か其に隠してないか?」
「そんなことないよ」
何言ってんの、おかしな旦那。
ごく普通に接しているつもりなのだろう。そして幸村にもそうとしか思えない。
「うーむ……」
けれどやっぱり、「おかしい」のだ。
何というか自分の中の第六感がそう示してならないのだ。どうしようもないではないか。
「どうかした?」
うなり声が自然と漏れてしまっていたらしい。
佐助の意識がこちら側にくる。本気で心配されているらしい。飲むかと渡されたスポーツドリンクは受け取りながらも、
「いや、それは」
こっちのせりふだと口走りそうになる。
それでも、
「ま、いいけど。せっかくの休みなんだから、俺様、もっと満喫したいなーなんて」
こう言われてしまえば、確かにそのとおりで、はたと顔を見合わせた。
ばっと顔をあげる幸村に、佐助は少しだけ表情を和らげ、「どう?」と目だけで問うているよう。
――そうだ。
二人の休みが重なるときなど数えるほどしかないのだ。
大切にしたいという気持ちなら幸村とて同じ。
決まれば早い。さきほどまでの疑惑など吹っ飛んで、残りの時間をいかに楽しむことだけを考える。ビリヤード台に戻り、キューを磨く。
「よし!佐助。もう1ゲームだ。其にもうまく落とす方法を教えてくれ」
「はいはい。って教えてばっかいたら、あんま勝負にならないよ?てか、旦那、結構筋はいいと思うんだけど……」
「もっとこう、きれいに入れてみたいのだ。慶次もなりも結構うまいのだが、佐助のは魔法だ!どうやって打っているのかさっぱりわからん。なぜ外れない!」
「ちょっ、ちょっと何怒ってんの?」
「怒っとらん。はやく教えてほしいだけだ」
「わかったわかった。教えるから……。時間もゆっくりあるし、なんならうちに泊まってもいいからさ」
「おお」
お泊まり。
別段何があるわけじゃない。ないのだが、なかなか自由に身動きもとれなければ交友も狭い幸村としては、何とも心浮かれるイベントだ。
「さ、じゃ、まず構えて」
「ふむ」
「こうやってこうね。ここ、指を添えて……」
「なるほど」
「おい、そんな暴れないの。打ちにくいだろ。俺もちょっと本気で練習したいところだから、ちゃんと覚えてつきあってくださいね」
「おう!」
レッスンをかねたゲームが始まる。
初心者にもできる9ボール。
そうして夢中になってしまった幸村は見過ごしてしまう。佐助が隠しのけて見せた「何か」を。
【 数日前 @都内某所 】
「で、今回のコンセプトは友情とライバルって感じでぇ……」
大丈夫なんだろうか、こいつ。
ALASTORのメンバーは監督の話に思わず目を合わせた。
なんでも業界じゃ有名だという話だが……
「……そうは見えねぇな」
「そこ、何か質問かい?いいねぇいいねぇ、インスピレーションが他に沸いたんならそれも大歓迎だよ〜」
「「「「…………」」」」
ケラケラと笑い出す髭面の男に、若干退く。
ALASTORの面々は本日PV撮影の打ち合わせにきていた。
近く、出すことが決まっている新曲のPV。その演出を任せる監督を呼んで、数日後には早速撮影に入る予定だった。
「曲の方はもう聴かせてもらったよ。今回のナンバーはセクシーでいて、少しバブリーな香りがするね。格好つけるだけじゃなくて、やんちゃにゴージャス。いつもより遊び心があるイメージを目指ししてみます」
「……あ、ああ」
――さっぱりわからねぇ。
顔に書いたリーダー、殿こと政宗。
他のメンバーにいたっては返事すらしていない。
だが、一応この監督の作品は見てきたのだ。何とか言い聞かせて、出されたクリップボードを見つめた。
「へえ、セットは格好よさげじゃん。でも、俺、このクラブだったらバーコーナーも撮りたいかも。なんてか、格好いいバーテンがこっそり移ってるとかよくね?」
早速、反応したのはギターの成実。
政宗の従兄弟に当たるが、こういったところでやたらと柔軟性を発揮してくれる。実際、成実に言われて、先入観なしで見てみると、意外とステージ予想図は全うだった。
「なるほど。せっかくならば、外部の役者もありだな」
感心したように、成実に意見を足してくるのが鬼庭綱元。
メンバーの中で一番年上。小十郎に次いでおとなしい性質の持ち主で、普段は成実の押さえ役として寄与しているが今回は押さえる必要もなさそうだ。話に乗っている。
「だろ?だってさ、これ見るとストーリー仕立てみたいじゃん」
「正解!ストーリー調にしてるんだよ」
監督は成実にすっかり同調している。
口調も似せて、説明を続けた。
「で、まずは聞いてみてもらって、外部の役者使うか内部だけにするか決めてほしいし、君たちの意見ももっと出してほしいんだよね〜。……いいかな?」
「……」
ザッと。
その瞬間、みんなの視線が一人に集まった。
監督の言い分、成実の案には同意する様子だが、最後の決断はリーダーが下す。ALASTORのスタイルはそうして決まっていた。
チームであり、バンドであるが、頂点は一人。
「政宗様」
私生活でも癖づいてしまって、すっかり「様」づけをやめられない彼の世話役、ベースの小十郎が答えを促す。
リーダーはボーカル、伊達政宗。彼の決定が絶対ではない。ないが、基本的に全員が信頼を置いているため、必然的にバンドとしての「決定」になる。
それこそが、バンド内部はおろか、周りのスタッフからも「殿」とよばれる所以だ(もっとも最初は成実がつけたあだ名なのだが)
その政宗は少し考え込んだ様子を見せた後、にやりと唇の端を持ち上げた。
「OK、悪くねぇじゃねぇか」
その言葉が撮影開始の合図になった。
to be continued……
こんな感じで KGとかも出張ります。