ALASTOR 蒼のライブ
【SIDE: 幸村】

照明が黒からビロードの蒼を描く。
まるでカーテンの代わりのように、派手なスモークの奥から人影が徐々に覗く。
低音のギター。
ベースがそれだけでリズムをとり、追い掛けるかにしてドラムが入った。
合図になるのは絶妙のかすれ声だ。

「Start」

ただ呟くだけでなぜか空気は染まり、世界が変わる。
強いビートや悲鳴の渦にも負けないそれは、既に武器だ。

ごくりと。喉がなる。
隣からは吐息。
だが言葉は漏れない。
佐助は、漏らせずにいるのだろう。

目を見張る一瞬、シャウトともに、光源が強められ、始まりのメロディがサビヘ向かった。

 *        *      *      *

「やっべー、鳥肌立った。あのひとたちの中身しってんのに、俺様」

 アンコールまで終えて、佐助が叫んだ。
 そういう幸村ももう堪えることはできず、「ずるい」と呟いた。

 ――格好いい――

純粋に、音楽で勝負する、といつだか言っていたALASTORだが、この舞台は音だけではないと思う。
まだ興奮冷めやらぬ舞台では、メンバーが軽く手を振っている。そのちょっとした様までが、絵になるのだ。

「てか、あれ、いいの?」

「ああ、慶次殿か」

ノリにのっていた慶次は、観客として一緒に来たはずなのに(なんせ、慶次はインディーズ時代からのALASTORの常連客らしい)さっさとステージに駆けより、なぜだか舞台上の人になっている。

「アンコールで、一緒に歌っちゃうとか。事務所的にやばくない?」

本来、ガモーズルール的にはかなりアウトに近い。
だが、慶次だから許される、そんな予感がしたので、幸村は「たぶん大丈夫だ」と告げる。

「にしても、本当やっばいね。この曲、許可取って出せばいいのに……。即席コンビだからって一度きりじゃ勿体ないよ……って、ごめん……」

「いや。いいのだ」

佐助は、自分たち――天守閣以外に慶次の居所を指摘したことを謝っているのかもしれないが、実際に幸村もそう思う。
それくらいに、ALASTORのサウンド――伊達政宗の声と、慶次の声はあっていた。

「天守閣じゃ出来ないものがある。俺とて、聴いていて血が滾った」

「そっか……」

「ああ。――それはいいとして、佐助。何故教えてくれなかった?」

「え?」

幸村が面白くないと思ったのは別のことだった。
今日のライブに誘ってくれたのは佐助ではなく、実は慶次。佐助とは偶然こちらであって、並んで聞くことになったのだが面白くない。

「何がって、佐助、政宗殿と知り合いならば言ってくれればいいものを……」

「あは」

だって、旦那怒りそうだったんだもん、とは佐助の弁。
確かに、ちょっと前佐助にボイトレが足りない、と、愚痴ったのは認める。しかもそれをあの伊達政宗に馬鹿にされつつ指摘されたのだと。

「『俺とて未熟は知っているが、なぜああも鼻で笑われねばならぬのだ!』と叫んだのは事実だが……そこまで子供でもないぞ?」

「いやぁ、なんつーかあっちもあっちで変に煽る人だから、ほらなんつーか」

要するに面倒は回避したかったらしい。
何となく言いたいことが分かるのが癪に障る。

「大体、慶次殿も慶次殿だ」

「風来坊はほら、もともとあのひとらとは長い付き合いみたいだし、仕方ないんじゃない?それに、あの人は天守閣は天守閣で愛してるからさ」

余計な心配かけたくないのもあると思うよ?
そう気遣わしげに言われてしまえば「むむっ」と黙り込む他なくなる。

「それより、どう?初のALASTOR武道館ライブは?てか、俺様もはじめてくるんだけどねぇ」

幸村はびっくりして佐助の方を向き直った。

「はじめてなのか?」

「うん。なんせ呼ばれはしてたけどいく気がしなかった」

そんな告白に意外な気持ちになったのだ。
――天守閣の方はすぐにも来たのに?
という嬉しいようなこそばゆいような比較もある。がそれ以上に、そこまで政宗と佐助の仲がよくないようにも思えなかったためだ。それこそもう少し親しいと思っていた。

「いやいや、ないから。俺、先生役やったはずなのに、独眼流は気にもせず感性で持っていくからね。演技指導とはいえ、実質いらないも同然だったよ」

真面目な横顔に「俳優」佐助の素がでている。
幸村は、新たに知る政宗の才能を羨ましく思いながらも、そちらの方に気を取られていた。演技に対して本気な「猿飛佐助」は、やはり相変わらず幸村のヒーローなのだ。

「それよりさぁ」

「ん?なんだ?」

「おれ、片倉の旦那の見方変わっちゃうかも」

「あーあれか」

 ベースの片倉小十郎は渋い様相だったので、地味に格好いいタイプなのではないかと幸村も佐助も思っていた。

「それが、突然【今盛り上がってねぇやつ、前に出ろ、前だ!】だもんね。口あんぐり開けてみちゃったよ」

「むしろその後のファンの悲鳴が……凄かった。あれは元就殿よりも凄いのではないかと思う」

「あ、けどナリ様ファンとはベクトルは多少違いそうだね」

「そうかもしれん」

 でもなんのかんのいって一番人気はやはり伊達政宗なのだろう。
 幸村は、ジャンルが若干違うからといって、ますます彼をライバルとして見ないわけにはいかなくなってきた。
 舞台上でのパフォーマンス、客の煽り方……ALASTORのメンバーはみんな彼に影響を受けている、そうとしか思えない。

「鬼庭さんとか、ザネまで、なんのかんのセクシー路線っての?ビジュアル系じゃないといわれても、ありゃあねえ」

 見せるためにあるでしょ?

「破廉恥な」

 けど、佐助が言うのはもっともだ。
 みんながみんな、舞台の自分たちを見せることを真剣に考えているのだと思う。

「だから、慶次殿も、楽しそうに……」

「風来坊は天守閣でも楽しそうだよ?」

 ――いや、見せる計算をせずと慶次殿があれだけ盛り上がれるのはALASTORだからこそなのだ。
 言いたかったが言ったら負けな気がして、幸村はゆっくり目を閉じた。
 もうちょっと、せめてもう少し自分を見せることを――演じることを覚えたい。
 新たな目標が出来た。

「佐助!!」

「な、何よ?いきなり」

 でっかい声だすなって。
 ばれるよ?と言われて、あわてて声は小さくするが、

「演技をもう少し、勉強したいのだ」

 言うことは言う。
 次に上がるために、必須なものを、佐助ならば持っている――そんな確信があった。


「今度時間をいただきたい」


 正式に、ガモーズから依頼する。
 幸村は言い切った。社長がNOを言うとも思わないその傲慢さを、佐助は笑うだろうか。
 それとも――

「いいよ」

 案の定、彼は笑って引き受けた。
 忍び役者への願いは、実は、演技の指導ではなく……あることなのだが、まだ言わないでおく。

 ――撮影は、誰に頼もうか?

 幸村のたくらみ、それは映画と同時に売り出す予定の新曲――そのカップリング側も含めてのプロモーションビデオへの参加であった。


ゆっきー、佐助、 はじめて伊達バンド(ALASTOR)ライブを見る、の巻。気を抜くと成実との鬼庭だけで話が終わりそうになるので大幅にカットしてみた。