蒼と紅のステージ
【SIDE: 伊達政宗】

 生放送の音楽番組は嫌いじゃない。
 人気バンドALASTORの伊達政宗は、そこにステージがあることを気に入っていた。

「生は嘘がつけない」

 それが信条である。
 けれど、今目の前のステージを睨み、彼は「ちっ」と舌打ちをしている。
 セットは赤と黒に染まり、その中で三人のユニットがダンスとボーカルを披露していた。
 メインを務めるのは赤い衣装に身を包んだ青年。
 最近活躍中のアイドル、天守閣。どうやら彼がユニットの顔(メイン)、らしい。

 ――口パクじゃねぇのは認めるが…………

「おい、小十郎」

「はっ」

「不愉快だ」

 バックセットで司会者の後ろに陣取り、そう漏らすと、隣で片倉小十郎が、首を傾げた。

「は?」

 あれだ、と指すと、

「ご自重なさいませ、政宗様。ガモーズがスタートなのは番組の鉄則です」

 そう返してくる。
 恐らく小十郎は順番に文句を付けたものと思いこんでるのだろう。

 ――だが、違う。
 その間も政宗の視線はステージに向かっていた。視線は一人に固定されていた。

「……真田、幸村ね」

 周囲の会話から拾った名前を呟く。
 アップテンポのダンスの隙間、ふと視線が交錯し、ゆっくりと反らされる。
 また、舌打ちをしそうになって、政宗は寸前で止める。
 漏らしたら最後、小十郎に行儀が悪いと窘められるだろう。

 ――でも……


「耳障りだ」

 呟かずには入られなかった。
 とにかく幸村は声がでかい。
 強くて、どこまでも届く声はかすれる己のものとは打って変わった熱を持っている。
 太くて、爽やかで、妙な色気を持っていて……何もかも己と違う。それでいて、いいか悪いか問えば、全くもって悪くない。

 ――ただ、ねれてねぇ。

 だからこそ、トレーニング足らずの感がしゃくに障る。

 ――本気でやってみろよ?

 強く思う。
 出番までまだ間があるのに、妙に張りつめた空気がでてくる。感じたのだろうか。気配を感じて、そちらを向けば、端っこの席、ドラムの鬼庭がこちらを静かに見つめていた。

「――らしくねぇな」

 本番前は、今日のPARTYで頭がいっぱいであっても、どこか予定調和だった。なのに、今日はどうだ?
 これは高揚か。彼らを、幸村をみていてどうしようもなく胸がざわめく。


「アイドルのわりに結構歌えるじゃん」


「…………」

 ――そういうことかよ。

 左隣からのぞき込んで、ギターの成美があっさりと口にしてくれるものだから自覚してしまった。
 無邪気に笑うこの従兄弟が憎い。
 つまるところは、幸村が、それなりのボーカルなのが気に食わない。

「くちぱくで有名なガモーズが珍しいじゃねぇか」

 憎まれ口をたたくのも、どこか楽しみだからだ。


「だが、」

 ぎらりと、眼帯をつけていない左の目が光る。


「本物をみせてやろうぜ」


 地獄の刑執行官・ゼウスの異名。一見してビジュアルだけで売れそうなボーカルを要するバンドだが、インディーズからいくつものライブを制して此処にいる。
 正当派ロックバンドのサウンドは、こんな半端なもんじゃない。
 ALASTORは奏でるサウンドに絶対の自信を持っている。
 人なつっこい瞳の奥に、ぎらりと剣呑なものを覗かせて、成美が頷き、鬼庭が笑わぬ目で嘲う。
 売り上げはイーブン。天守閣の名前自体は気にしていた。ジャンルが違うからと今までスルーしていただけだ。これで目的ははっきりした。
 ボーカルとして、パフォーマンスアーティストとして上をいく。
 伊達政宗の中に真田幸村が刻まれたその日。
 
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【SIDE 幸村】

 納得のいくダンスと歌、そう思えていた。
 がらがらとそんな基準が崩れる音を、幸村は聞いた。

「慶次、あれは、何というバンドだ?」

 正義心のような、ファン感覚とは違う。彼の音をきいて、初めて幸村は悔しいと思った。
 これは敵だ。
 好きではなく、敵。

 自分の手に入れられない、相反する声で、彼は軽々と男の惚れる旋律を奏でる。
 女性のファンはもちろん多い。黄色い悲鳴が熱狂的に取り巻いているが、そんなの聞かずと知っている。

 ――けれど、これは、この重厚感は――。

 男性ファンこそを寄せ付ける青く冷たい横顔。本人いわく「最高にCoolなステージ」は、さぞかし青少年のあこがれられることだろう。。

「あー、ALASTORね。格好いいよ!このバンド」

「インディーズ時代から引く手あまたのツワモノ。実質レコード業界を征するのはうち以外では奥州プロのこのバンド、と聞く」

 意味ありげに言う慶次。横で、元就が珍しく饒舌に説明している。けれど自ら尋ねた幸村はどこかうつろだった。

「すごい……」

 音に釘付けだ。
 バンドの奏でるサウンドの波に、さらわれないように、ただ真ん中に立つ派手な眼帯を見続けている。

「すごいのだ……」

 ギターの軽快な音、ドラム・ベースの重奏に、楽器のような声が走り、一気に高見へ。
 ものの二分。あっと言う間の演奏が終わっても、興奮は冷めやらない。

*      *      *      *      *
「どうした?」
「あ、ああ」
 楽屋に戻っても落ち着かない気分のまま、ペットボトルを手にする。
 何でだろう。競ってもいないのに、なぜか負けた気がして仕方ない。
 最後の最後、あの独眼がこちらにむいてきらりと光ったせいだろうか。

「あれ?先に帰るのか?」

「いや、――練習をしに……」

「今から???」

 業界的には早めの時間とはいえ、レッスンには遅い22時。幸村は昔から、やると決めたら突然始めるタイプではあったが、さすがに慶次も吃驚して、止める。

「今でなければ駄目だ。負ける――」

「待て」

 気おされたように眼を見開く慶次の代わりに、今度は毛利が止めた。

「トレーニングは無暗にやるものではない。分かるであろう」

 人一倍細くて体力がなかった元就がこっそりダンス練習を積んで、力をつけたことは知っている。だからこそ、彼の言い分の正しさも幸村には呑み込めた。

 ――でもどうしても、今……

 揉めている場合ではなく、今歌いたい、それだけなのだ。

「分かって下され」

「ダメだ」

「頼む」

「だーめ」

 大した騒ぎではないが、楽屋がざわつくなど珍しいからだろうか。
 

「何やってんだ,Ah〜Ha?」


 すれ違いざま、止まる蒼い衣装のチーム。
 先頭を歩くのは間違えなく、幸村に火をつけた男、ALASTORの伊達政宗。
「――ああ」と、元就が納得したように道を避けた。
 まっすぐ、向かい合う蒼い四人組。近距離で会うのは初めてだが、最初から浮かぶ笑みが気に喰わない。

「悪くはねぇが、声が出てねぇな。あれじゃボーカルとは言えないぜ?」

「くっ」

 だが、それ以上に、言い返せない自分が許し難い。
 これが、幸村に火をつけ、ついでに何故だか、佐助や慶次をも巻き込んで、ややこしい関係へ誘っていくのだが今はまだ知らない。
 そんな歌手、幸村としてのきっかけの一日。

たぶん 蒼紅(CP的な意味で) じゃないんだ、たぶん。