青の書 【忘却の伊達者】 2、繋がれる絆   >小十郎・政宗・慶次・長宗我部・佐助

【前田慶次 SIDE】

「へえ、政宗、バイクの免許とりたいんだ」

慶次が隣の教室を尋ねると、政宗は免許を取ってるやつを知らないかと開口一番頼んできた。

「それで、バイト紹介しろっていってたわけね」

「お、猿も来てたのか」

「佐助って呼んでよ。で、竜の旦那は、もう目標金額は溜まったって?」

「てめぇこそ、意味のわかんねーあだ名つけないで、どっちかにしろよ。伊達か政宗か」

「はいはい、で、どうなんだよ」

「ちっ。教習を受けるほど貯めるにゃまだかかるだろ。――だから、免許センターで直接試験を受けようと思ってんだよ」

「ああ、それで俺に?」

 合点が言ったように慶次がうなる。
 政宗はやたらと人に慕われているが、人脈が広いというより勝手についてこられてるだけ、である。よって気軽に頼めるような、しかも免許をもってる(年上)はいない。
 で、周りは?と見れば、佐助――人脈は広いようだがいまいち謎。親戚なのか何なのか分からないが仲の良い幸村の兄なら、みんな見たことがあるのだが、到底持っているように思えず……アウト。
 確実に年上の知り合いが一人いるのは元親だが、それも【あの】二年の毛利先輩と来ては、厳しいだろう予測がつく。

――なんせ、あの日輪の人だし。

慶次がそんなことを考えてるうちに、あっさりと元親は、慶次自身も実はちょっと抱いてた疑問をぶつけていた。

「ならお前んとこの父ちゃんに教えてもらえばいいじゃん。たしかお前んとこ父ちゃん元――」

族、である。
元親が思わず口にしたのは、一人旅好きな慶次が元親を連れてふらふら旅行していた夏に招かれて寄った政宗の実家のことがあってだろう。
仙台の屋敷(としか言えない)には、なぜかいかにも元族な方々が遊びに来ていて、彼らに頭を深く下げられて登場したのは、渋みの利いた美形――政宗の父、輝宗だった。
あの衝撃が残っているのは慶次も同じだ。もしや、前世でも親子であったのでは?と思うほど、威圧感のある大人の男だったが、明らかに「元ヤン」……というより、「元ヘッド」であった。
バイクの一つや二つ軽く乗りこなすだろう。

「Don't Say,別に影響受けてじゃねーし、親に教わるのが格好悪ぃともいわねーが、仙台までわざわざ通えってか?その方がよっぽど金がかかんだろ」

ちなみに今政宗が住んでいるのは、父の湘南のオフィスだが、父が来るのは月に数度で、あとは訪ねてくるのは代理の、秘書、鬼庭だということだ。

「それにおやじ。バイク乗ってねーし、今どきはやらねーって笑ってたからな。あんま過去のこと言わないで欲しいようだから、黙ってやるのが孝行ってもんだろ」

「まあな。違ぇねえ」

「……で?俺の周りで誰かいないかってことは利の付近を期待してるってことだよなぁ」

「お前んとこの幼馴染に期待しちゃいねーよ」

「ですよねー。ま、秀吉とか半兵衛は取ってないって、さすがに」

 と、いいながらも一瞬、半兵衛(しかも昔の格好の)がバイクにまたがっている姿を想像して吹き出しそうになって、「んだよ?」と怪訝な目をされた。

「てか、佐助、取ってなかったの?」

「あー。乗れるけど」

「あー……」

 無免許ですか、そうですか。
 何となく通じるものがあって黙る。忍びだけに黙ってのってるのか。物騒なのでそのうちちゃんと取ってほしいものである。
 周りも何となく状況を察したのか、気を取り直した元親が今度は訪ねた。

「で、いんのか?お前んとこの周りに」

「うーん……通学がバイクなやつってことなら……織田先輩とか、たまに妹乗っけてきてるけど流石に伝説の先輩に面識はないし、利は機械系とか車あんま興味ないんだよなぁ」

「おれ、知ってるぜ。実は上杉先輩が乗ってるとこみたことある」 

 なるほどわざわざ元親が聞いてきたのは、一応知り合いがいるからだったらしい。

「でも、上杉先輩って知ってんの?」

 ふと疑問を抱いたのは、そうだとしたらまたも何故この時代で〜という思いがあるからなのだが、元親はどこまでも単細胞だ。というわけで、答えは、

「しらねー」

 ダメじゃん。
 みんなの顔に書いてある。政宗が慶次をあてにするのは至極正しい選択だ、と今ので知れただろう。

「ま、知ってるだけなんだが。あとよ、うちのクラスのかすがって確かバイク通学じゃねぇか?見たことあるぜ」

 それは似合いそうだと思う。
 長身ですらりとしているかすがだ。見た目だけでいうなら絶品。単車にまたがる姿はさぞはえることだろう。
 加えて言えば、予定調和というか相変わらずというか「え?マジ?!」と、食いついたのは佐助だけ。
 政宗は、

「何だ、猿。あんなきつい女がいいのか」

 当たらずとも遠からずのことを言い当てて、興味なさそうにしている。

「ちげーよ。ちょっと意外っていうか。………まああの人がのるんならかすがものるんだろうけど」

 いいわけに走る猿飛をよそに、「あの女、きつすぎるだろうが。教えてもらうにゃ相手が悪ぃぜ」と元親に嫌味を言って、政宗はもう一度慶次の方を見た。

 ――そんなに期待されても……
 と、困りながらも、ふと、ぴかんと閃いたものがある。

「一人いるかも。確認してくる!」

 いうや否や教室を飛び出す。「誰だよ?」と叫ぶ声は聞こえるがそうだと分かってから喜ばせたいから、今は無視。
 昼休みなのをいいことに慶次は、すぐ利家の教室に向かった。

 *        *      *      *

「おう、利〜」

「慶次か、どうした。早く入ってこい」

「ん〜じゃお邪魔します」

教室に慣れ過ぎてる慶次も問題なのだが、利家も利家だった。
学年上の教室にすぐ招き入れると、早速といわんばかりに、隣の席を渡す。
隣のひとは、たしか本槍さんといったか。
なんとなく慶次も覚えがあるのだが、あだ名が【四】だの【風のひと】だのというのが珍しいだけで、気のせいかもしれない。
それはさておき、慶次が席につくと、後ろからまつが声をかけてきた。
様子からすると、移動教室にそなえてもうこのクラスをでるところだったらしい。

「昼ごはんは?慶次。まだならまつのおにぎりが少し残ってますよ。もうクラスに戻るけれど、食べるのなら置いて……」

「大丈夫、食べてきた」

「そうですか。では……まつはこれにて」

まつが退散する。利家は別段そちらを気にするそぶりもなく、こちらの様子を伺っていたので、慶次は「この二人はお互いをいつでも気にしなきゃいけない関係じゃないんだな」と妙に納得した。
ばかっぷるとして名をはせながらも、二人が男女ともに好かれるのはこのすっきりした付き合いのせいに違いない。

 ――それはさておきっと。

「ちょっと相談なんだけどさ」

「ん?なんだ?」

「……  って……バイクの免許持ってる?」




【伊達政宗 SIDE】

「遅くなりました」

「お、おうあんたか」

バイクを教えてくれる人がいると告げられたのは昨日。
いいからいいから、と連れられてきた政宗は待ち合わせ相手に気づいて、意外と驚かない自分にびっくりした。
混雑した店内だがすぐに分かった。
左奥の方に片倉小十郎がいた。

席に着く。
先日の辞書事件以降会っていないため、少々どうしていいか戸惑うところもなくはない。
だが、この人ならば先生に最適だという慶次の意見には同意できた。

「てか、相変わらずだな。敬語やめろっていったのはそっちだろうが。そっちもやめんじゃなかったのか」

「そ、そうだったな。……それより、前田に聞いたんだがいまいち状況が分からねぇ。その政宗さ――政宗の用事ってのは何だ?」

 なぜどもるのか分からないが、相手の中には相変わらず何やら葛藤があるらしい。
 
――ま、いいか。そのうち緊張も解けるだろう。
てか、この怖面相手じゃ普通はこっちががちがちになるところなんだろうが。

幸か不幸か政宗は自分の父に慣れ過ぎているのでこの程度ならば可愛いものだと思っている。
むしろ、何度も慶次の借りた辞書を届けるうちにわかったのだが、この片倉という人物は存外に大人しい性質らしい。
見た目に反して後輩に優しいらしく、何度か委員会でかかわったという同級のクラスメート(前期体育委員だったらしい)からも物凄く評判がよかった。というか、紳士的な態度に惹かれる女性も多くいるようで、意外なことにちょっとつきあってみた前の彼女も、その名前を出していたことに後からながら気づいた政宗である。

 ――にしても、あいつ説明もしねーで頼みやがったのかよ。

「ああ、その……アンタ、バイクの免許を持ってんだって?で、俺も免許センターでとろうと思ってるんで、ちょっと教えてくれねーかと思ってな」

「……ああ」

 合点が行ったのか、小十郎はならば〜と軽く腕を組んで唸っている。
 よくよく考えれば部活のことやバイトのことなんか、全くきいてなかったが、忙しくないのだろうか。
 目の前にいる人物が自分や元親ほどのんびり遊んでいるタイプとも思えず、不安がよぎった。

「アンタが忙しいってんなら諦めるが、」

 せめて筆記だけでもと続けようと思っていると、相手は「いや、そこは大丈夫だ」と気真面目に返してくれる。

「それより、どうやると効率がいいか考えてた」

 ――へえ。すげーな。
 政宗は感心した。
 言いながらも小十郎はすらすらと持ってきたメモに必要なことを書きつけている。
 ――いっそテストのたびに家庭教師にでも雇いたい。
 合間に何が苦手か何が得意か、勉強の教科も聞かれ(どうやら学科にかかりそうな時間をはかっているらしい)政宗は昨日返された答案を思い出した。
 別段悪くはないが流石に遊びがすぎたらしく、今回は現代文が壊滅的な出来だった。

「問題はひっかけが多いから、骨がおれるかもしれないな」

 そう結ぶと、これくらいだろう、と小十郎はテストまでの期間を断定した。

「一か月か。出来るか?」

 実技のセンスも、勉強の実際の得手不得手もまだ見聞しただけの段階で、「一か月」と断定されれば、さすがの政宗も尋ねたくなる。
 だが、小十郎はにやりと、笑って――

「やってみせるんだろう?」

 なぜこんなに挑発的なのかと思わなくもないが、愉しそうにしていた。
 そのさまが、なんとなく自分に似たものに思えて、一気に親近感がわく。
 考えてみれば最初あったときから、近くにいて空気が楽だったのだ。
 インスピレーションで、相手が自分にとって敵ではなく、親しくなれると感じていた。
 取りあえず、今日は顔合わせということだったが、お互いを知っていた方が上手くいきそうな予感があったから、後の予定もないし(佐助はバイトで、元親はどっかの部活の助っ人らしいし)少しくっちゃべっていくことにした。

「へえ、っていうと小十郎がバイクの免許を取った理由ってのは」

「ああ、恥ずかしながら」

 何でも馬が好きで乗馬をしたかったらしいが、その頃は手ごろに場所もなく、行きつく果てがバイクだったらしい。珍しい話もあったものだ。

「でもよ、うちの学校って馬術部なかったか?」

「……ああ。実はそんときには既にちょっと、バイクに、な」

「How nice!てーと、アンタは15んときからバイクで駆けだしてたってわけか」

 「古い歌みてぇじゃねーか」と政宗はしきりに感心したが、それも、小十郎が話せば話すほどあまりに優等生然としていて、どうしようかと思っていたからでもある。
 政宗の素行は自分でいうのもなんだがあまり褒められたものではなかったから、小十郎に何となく叱れるという意味のわからない強迫観念がどこかであったのかもしれない。
 そんな小十郎の意外な側面を見て、えらくほっとした自分がいる。

「まぁ、湘南で義姉貴が旅館を開いてるんだが、夏ごとにそこに泊まりに行っててな。いろいろ手伝ってたんだ。十二のとき、偶然思い出の地だからと、そこを訪ねてきたえらい美人を連れた人がいて……その人がハーレーに乗ってた」

「へえ。なんか聞いたような話だな」

「その男が何やら修理をしてたところ興味を持って眺めていたら、いじらせてくれたんだ」

「ふうん。じゃ乗り方もそのとき教わったってわけか?」

「まあな。――女の方はえらく不機嫌で怖かったが、男の方は、俺の親父よりちょっと若いくらいで……たぶんあれは族のヘッドかなんかだったのかもな。ふかしかたから教えられて、最初は相当困惑した。でも、俺と同じくらいの息子がいるがお忍びの旅行だったらしくて連れてこられなかったとかで、滞在してる間中、面倒を見てくれて……そればかりか俺の作った料理をえらく気にいってくれたんだ」

「へえ……料理?」

「ああ、これも趣味で。男だからって厨房にたてないのは恥ずかしいとおふくろと義理の姉がいうもんだから、がきのころからやってる」

「アンタもか」

「【も】ということは、もしや」

「俺も結構作れる方だぜ。美人だがおふくろは全くその手のことがダメな人でな。その分何とかしようとしたらこうなった」

「も、もしやその目……」

「あ、ちげー。虐待とかはうけてねぇ」

「そ、そうか……すまない。たちいったことをお聞きして」

「気にすんな」

 それより敬語戻ってるぜ、と言いかけたが、相手があまりに恐縮しているのでやめておくことにする。
 政宗は軽く事情を説明することにした。
 政宗は片目が悪い。見えなくはないが、すぐにものもらいにかかってしまうので、ねんがら眼帯生活である。それがひどく格好悪いのでどうしようかと思っていたら、元親が悪ふざけで眼帯をプレゼントしてくれた。
 ついでに、慶次のプレゼントも、まさかの眼帯だった。誕生日プレゼントに二つももらっちゃつけねーわけにはいかねーし、今日び洒落てるのでふざけてたまにつけているのだ。
 反対に元親も眼帯をよくつけているがあれは、喧嘩のせいだというのがもっぱらの噂だ。相手はよくセンスでひとを殴りつけてくるらしいが、まあそれはさておくとしておこう。
 今は、とりあえず母親の疑惑を晴らしておく。

「だから、ま、あんま仲が良くないのは事実で、そのあたりは慶次からきかされてるかもしれないが、アンタが心配するようなことはないぜ」

「失礼な心配だったな」

「いや、悪くねぇ」

 むしろ新鮮だ。と政宗は本心から言った。
 これも実は珍しいことだ。
 直進型で何でも思考回路垂れ流しに見えて、政宗は無理はしないが意外と愚痴も言わないし、自分のことも語らない。
 何せ面と向かっていろいろ心配される、ということ自体が、少なかった。
 佐助のような何となく距離を読んでのやり方ももちろんありがたいのだが、小十郎の心配は、直球で投げられるため、面映ゆいほどだ。

 ――だが、悪くねぇ。

 愚痴の相手を探してたわけでもなく、周囲に何か隠していることもないが、小十郎は話し相手としてもちょうどいい――そう思わせる何かがある。
 タイプは全く別で、やっぱり気真面目だなと感じるところがあっても、政宗はこの二時間ですっかり小十郎のことを気にいってしまった。

「よし、じゃ、これからよろしく頼むぜ」

「ああ。指南役だと思って気楽に使ってくれ」

「指南役とは時代がかった言い方だな。はは、ますます気に入った」

 携帯のナンバーとアドレスを交換し、何となくそうしたくなって握手を交わす。
 先生って呼ぶべきか?とからかえば、小十郎はあのなぁと、脱力したように言った。その姿は、たまに佐助が幸村相手に見せる脱力しきった状態に似ていてますます笑えた。
 そしてはからずも、思わず口がくさい言葉をつむいでいた。 

「なんか運命を感じるってのもおかしな話だが、あうべくしたあった気がするぜ」

 本人にもそうだが、話をきけばきくほどその小十郎にバイクを教えた男は自分の父親に思えてならなかったし、小十郎との料理の趣味が、好みの味付けも含めて一致してたのだから当然かもしれない。
 そうでなくとも、なんとなく馬があうというやつかもしれない。
 ただ言いたくなったので言った。
 が、小十郎はびくりとしていた。
 拒絶ではなく、本当に驚いたらしい。

「どうかしたか?」

 聞き返せば、嬉しそうに、本当にうれしそうに笑みを浮かべて、

「俺もそう思っていたころだ」

 だから驚いたと告げられる。

 ――楽しくなりそうだ。

 こりゃ、慶次に礼をいわねぇとな。
 足取りも軽く、喫茶店を出ると早速小十郎が取ってきたバイクにまたがっていた。

「送っていく」

 遠慮をする必要はないらしい。
 相当なれた腕前を見て取って――またこれが好みのフォームのバイクだったから、政宗は頷いた。メットを受け取って後ろに跨る。背中の広さに、へえと、これまた関心して、自分も少し鍛えるかと思うのだった。

「そういえば、部活はやってねーのか。アンタならどこでもHeroになれそうだぜ?」

「そっちこそな」

 走りだす前にそういうと、あとは無言で街を駆けた。
 メット越しでもその風を、政宗は気持ちよく心地よく感じていた。

何故ここから始めたし?な蒼主従。
赤とはちがって、蒼は記憶のない主人のまま平穏にいきます。てかまたのタイトルを小十郎の悲劇。がんばれ、小十郎。この時代になれるのぢゃ ということで。某イベで三冊だけ作っていった本から再録・50パーセント加筆修正。
基本をかいたら あとはだらだら馬鹿話です。