売れないモデルと売れっ子アイドルの想い出1(SIDE元親)   >元親・元就
【SIDE 元親】


「今日は大丈夫だろうな?」

「知らぬ」

 おそるおそるポストに手を突っ込んだ元親に対して、元就はふんっと目を反らしてくれる。

「好き好んで、仕掛けを用意するよう、ファンに投げかけた覚えはない」

「つってもなぁ」

 毎度仕掛けられるのは悪質ないたずら――ファン精神が招いたとはいえ、迷惑行為としかいえないものだ。

「恨みを買うにもほどがあるぞ。カミソリレターに塗りつぶされた写真あたりまでは、まあ・・・・・・業界的にあることなんだろうけどよ」

 元親は記憶をひもときながら、げんなりする。
 当人――人気絶頂のガモーズ事務所アイドル様の方といえば、

「売れないモデルにはないことだろうが」

 だなんて、軽口をたたいてくれている(実際売れてないので反論できないのが痛いところだ)
 けれど、口ではそんなことをいいながら、わざわざ元親に確かめさせているあたり、精神的に大分キてるのだろう。

「んなこといってると、もう確認しねーぞ」

 ――【我ほど有名だと仕方ないのか】だのバカなことを言えてるだけマシってか?……そうでもねーな。

「誰が住まわせてやってると思っている」

「へいへい」

 元親は、なおも高飛車にしている元就に、肩をすくめた。
 自称だけでなく他称も、しっかりアイドル、毛利元就の肩はかすかに震えて降り、ろくに寝ていないことを示すように顔色もあまりよくなかった。


*      *      *      *
 ことの起こりは先月の頭。
 元親がモデル事務所から撮影でかえってきたときのこと。

「お?レッスン終わったのか?」

 いや、今日は撮影だったか?
 珍しく明かりがついてるので、鍵の閉まっていないドアに感嘆しながら足を踏み入れる。

「つけっぱなしで出ちまったか」

 また節電だなんだ、騒がれる様子が浮かんで頭を抱えた。
 今でこそ二人で借りてるマンションではあるが、元をただせば同居人毛利元就の家だった。
 東京に出てくる際、ちょっとしたどじをやらかした元親は幼馴染で先に東京で生活を始めていた彼のところに転がりこんだのだ。最初はマンションのお値段もあって、代金折半でも払えないという体たらく。そんないきさつもあって彼には頭が上がらない。
 うなりながら、いつもどおり冷蔵庫のペットボトルを取り出す。

「は、うめぇ」

 一気にあおる。
 撮影が長いうえ、暑かったこともあって大分のどが渇いていたらしい。

「で、あいつ、いつ帰ってくるんだ?」

 そのまま冷蔵庫にペットボトルをしまいながら、ついでにマグネットではりつけたホワイトボードを見る。
 二人のスケジュール帳だ。
 元親の方はまだまだ仕事がようやく入るようになった駆け出しだが、元就は違う。残念ながら元親の三倍は忙しい。ゆえに、帰宅が深夜になることも多く、お互いに不便が生じるから、と日程の共有をするようにしたのだ。
 本日も、しっかりと【収録】の文字とともに、「汐留AM3」の文字がある。
 ちなみにこれが、「迎えにこい」という無言のメッセージであることを元親は看破していた。
 というか慣れ切っているので、呆れる気にもならない。

 ――まだ、家賃はらえてねーしな。
 押しかけた強引さとは裏腹に、せめて足にくらいなってやらなくては、と思う律儀さをもつ男、長宗我部元親。

 元就の車のキーを片手に再びジャケットを取る。
 ちなみに、その車。所有者は、毛利だが、運転はもっぱら元親となっている。迎えに行くさまは、まるっきりマネージャーだが、実際のマネージャー
の送迎を律儀に断っているのは毛利だというから、わけがわからない。
 元親は「ま、あれで、人見知りだしな」と無理やり納得することにした。
 
「てか、おかしくねー?あいつ、買うときゃさんざんもめといて、結局運転するのは俺なんだぜ」

 金かけてもこれがいいとごねて、決められた車(外車)。運転するには右ハンドルだと主張できた自分をよくぞやったと誉めたたえたい。
 一人ごと多いなぁと自分でも思うが、そうでもしなければやってけねーんだ。
 元親は、「よし」と今一度気合いをいれながら部屋を後にした。

つづく

続きは今日中  のつもりだったんですが今から仕事なので数日中にあっぷします。他のと一緒に。