照れる  >濃姫・信長
【SIDE  信長】

「で、どうだ?」
 とすれ違いざま、呼び掛けてくる島津。
 あいも変わらず、にやついた顔に、信長は嫌な予感をひしひしと感じた。

「『どうだ』とは?」

 本当のところ、【彼女】のことを聞いているのだと分かってはいる。
 いるのだが、敢えて語りたくない理由がある。

「………」

 ――そもそも一方的に、はかされたとはいえ、島津の手を煩わせたような記憶はない……
 
 理不尽だ。
 そう思う。
 だが――

 ――引き下がってもらえるきがしない……

 なんせ、そんなことを考える間に、この鬼ときたら、自分の反対側に更にややこしい筋肉質の男(本願寺)を捕まえて、

「結局、くっついたんなら、感想くらいくれてもよか。じゃろ?」なんて、話しかけているのだ。
 
 放っておいてほしい、と本気で思う信長である。
 でも、そこに追い打ちをかけてくれるのが、【彼女】――帰蝶本人なのだからしかたない。

「信長先輩」

 二人きりのときはたまに、昔どおりに呼ぶとはいえ、学校では「先輩」で通すと決めたらしい濃姫こと齊藤帰蝶は近づいてきた。

 その警戒もなく、はからずタイミングの悪い登場に信長は頭を抱えた。
 こんなところにきたら、二人の餌食だ。

「ほう、早速見せつけるか」

 意地悪く顎で彼女を指す本願寺。
 「もうヤッたか」と下世話なことを言い出す島津。
 しっしっと追い払うのも面倒で、細い手を取り、足を速める。
 いつもの屋上を抜けて、下の階の踊り場まで逃げれば、前世からの因縁コンビはついて来なかった。

「上総之介様――」

「その名では呼ばないのではなかったか」

「いえ、だって、あれは――」

「覚えているか?」

「いいえ――」

「ならば気にしなくて良い」

 恐らくは「かつての自分たちをしるもの」と気づいたのだろう濃にそう言い含め、教室に入る。
 教室は休み時間ならではのにぎわいを見せていたが、さすがに三年がほとんどで……彼女はそわそわし始めた。

「気にするな」

「そう言われても……」

 このくらいで気恥ずかしがる女だとは思わなかったが、今の世での恥じらいとしては普通なのかもしれない。
 信長自身、そういったことには無頓着なままだったから、そういう部分については(ああいった、かつてのものに言われるのは煩わしいが)さして何も思わないが、彼女が嫌ならそれを押す気もない。

「抜けるか?」

「え…?」

「次の授業。別に受けずとこれくらい考える脳はある」

 さすは教科書の古文。耳慣れた和歌は古今和歌集のもの。自分たちの時代には既にあったものだ。
 彼女の方も、はからずも古文の授業ときいていたから(週末泊まったときに、古文の時間が一緒だとしった彼女が和歌を送りあいたいと戯れに口にしたからおぼえている)そう言ってみれば、その頬に朱がさした。

「でも――」

 いまだ戸惑う少女の頬に触りながら、問いかける。
 ずいぶん控え目になってしまった彼女は、きちんと探ってやらないと数歩後ろをついてきそうな空気がある。
 かつては、なんのかんの一歩後ろといいながら意見を述べてきた姫君だが、まだまだここでは出会って日が浅い。遠ざけてしまった日々が不安を与えていることも知っていた。

「時間が足りない」

 率直に欲求を述べれば、頬から手に熱が伝う。

 ――蝮の娘が、照らう、か。
 
 それもまた、今だからこそ。
 いや昔から、意外と可愛いところがあるのが濃だった。
 思い出し、また比較しながらも「今の彼女」を、いとしく思う。

 もう少し知りたい、と。
 思うのは、彼女だけではなく、やはり先ほど口にした望みは自分のものでもあるのだ。

 確認するように、唇を上に緩やかにカーブさせると、信長は周囲に気を払わず彼女の指を優しく食んだ。
 そもそも彼女が照れるから場所を変えるときめたことすら忘れて。

 魔王と貫禄ある姿を恐れられつつ、一目置かれている信長の言動。
 あげられぬ悲鳴を飲みこんでこらえながら、周囲は見守っている。

 窓ごしに、その光景をみて「これでからかわれるのが嫌な理由がわからん」と、野次馬コンビ(島津&本願寺)は呆れたため息をついていたが……信長はきづきもせず、ようやく手に入れた彼女の目ばかり覗きこんでいた。


なんか 甘い話になった。信長のてれる場所と、濃姫の照れる場所がちがうんだよ、おいって話。信長は天然デレだとおもうんだ。